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最近、主要諸国の間で、近い将来に景気回復が始まればこれまで経済危機に対して取られた例外的な緊急対策を元に戻す「出口戦略」(Exit Strategy)を取る必要がある、との新しい政策表明が相次いで行われている。つまり、有効需要創出のための大赤字財政や、金融危機解消のための超金融緩和政策を段階的に廃止(phase out;unwind)することが必要だ、というわけである。
そのような新しい政策―はっきり言って不況対策一本槍からの政策転換―は、G8(主要8カ国)財務相会合の共同声明(6月13日)、EU(ヨーロッパ連合)首脳会議(6月18日)の宣言、OECD(経済協力開発機構、いわゆる先進国クラブ)閣僚会議(6月25日)の宣言で示された。
こうした新政策を宣明するための前提として、上記の諸会合では、世界経済には景気底入れへの接近を示す兆候が現れているとの趣旨の現状判断が示されている。
だが他方で、こうした景気判断には、今後とも失業者が増え失業率が上昇する危険性も併せて指摘されている。たとえばOECDの Gurria 事務総長は、同機構による新しい経済見通しの発表(6月24日)に際して、失業率は2010年末までにヨーロッパでは12.3%(最近時点では9.2%)、アメリカでは10.1%(同、9.4%)、日本では5.8%(同、5%)にまで上昇するだろうと述べている(NYタイムズ、25日)。
実際には景気の底打ちとその回復がまだ確認されておらず、先行きになお景気後退の進行(たとえそのテンポが緩やかになるにしても)と失業率の上昇が危惧されている現時点で、なぜ早々と緊急対策からの「出口」の必要を宣言しなければならないのだろうか。
その直接の契機は、財政赤字の増大に伴う国債発行の大幅増加の影響で、各国で国債利回りと(それに引っ張られて)長期金利 が上昇し、それが設備投資、住宅建築や消費支出(そうした支出のための金融)を阻害する恐れが出てきたこと、超金融緩和政策による影響で創出された余剰資金が株式市場と商品市場に流入し、原油や他の原料商品の相場上昇をもたらし、それが企業の経理や家計の費用を押し上げる危険が生じたことによる(当「診断録」、6月6日号を参照)。
現実には、そうした出口戦略が宣言されただけで、商品相場は下落傾向を示しだした(日経、6月24日)。これは、いわゆる「口先(だけの)介入」の効果というべきか。
しかし、景気対策のための有効需要政策(フィスカル・ポリシー)とその為の国債増発(財政赤字増)は、その政策の効果をどこまで期待できるかという問題とともに、副作用として金利の上昇をもたらすこと、また、金融の大幅緩和政策が過剰流動性(余剰マネー)を作り出すこと、この両者の合体がインフレを発生させる危険をはらむことは、これまでの経験から十分に予想されたことである。
だが、およそ1990年代から今回の世界不況に至る時期には、経済思想において世界的にいわゆる市場原理主義(簡単化すると、市場の自動調節作用にゆだねれば経済の諸問題は解決されるという考え方)が支配的であった。そのために、今回の大きな不況に際しては、そうした市場原理主義への反動として、政府による不況対策に過度の期待がかけられる傾向が生じた。
そうした傾向は米英日の諸国でとくに顕著だった。2009年初頭に就任したオバマ米大統領もそのような期待を背に、「グリーン・ニュー・ディール」の旗を掲げて、経済危機(とくに金融危機)の早期解決と雇用の創出を約束したのだった。
だが、現実においては、政府や中央銀行が景気底打ちの接近を宣伝している最近時点に至る間でも、アメリカでもEU諸国でも日本でも、景気対策は雇用面ではほとんど改善効果を上げるには至っていないのである。
大赤字財政と異例の(非伝統的と表現されている)大金融緩和政策がこれまでに効果を発揮したのは、アメリカの場合のように、破綻しかかっていた大金融機関や大企業への救済資金の注入あるいは融資ぐらいではなかったか。
おそらく、雇用の速効的な改善のためには、ワーク・シェアリングや公共機関・事業による直接雇用などのような、それこそ非伝統的な(民間企業による雇用拡大を待つだけではない)対策がより有効だと考えられる。たとえば、EU加盟国の今年4月の失業率が8.6%であり、スペインは18.1%に上っているのに対し、多様なワーク・シェアリングをすすめているオランダはEU諸国では最低の3.0%である(日経、6月25日)。
以上のような不況対策の実績から、オバマ大統領は「彼の経済政策の有効性について弁明する必要に迫られるだろう」し、きびしい失業が2010年の中間選挙の時期まで続くとすると、「そのことはオバマ大統領と議会民主党にとって高いハードルとなるだろう」(ワシントン・ポスト、6月22日)。(なお、この記事は、在ワシントンD.C.の私の友人であるMr.I.Nishimura―在米50余年で米市民権所持の識者―が当「診断録」のためにEメールで送ってくれたもの )
結局、G8をはじめとする欧米日の諸国は、雇用状勢の改善を見ないまま、不況対策の副作用に直面しはじめた結果、状況の改善をもっぱらこれまでの対策の効果の今後における発現(および不況そのものが持つ調節作用)に期待することになったものと理解される。
こんごは、またこんご各国が新たな景気対策を追加する必要に迫られた場合には、中長期における財政・金融の健全化との整合性をよりきびしく追及することが求められるであろう。そうした政策方向は、不況対策のための財政・金融政策の総動員をうたった、今年4月におけるG20(主要20カ国)金融サミットでの政策ト−ンからの基本的な転換である。
最後に付け加えておくが、上記のOECDの経済見通しにおいて、日本は不況がとくにきびしく、今後はインフレの危険ではなく、デフレーションの危険があると指摘されている。この点については、あらためて別の機会に取り上げることとしたい。 (この項、終り)
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2009/6/28(日) 午後 11:28
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2009/7/1(水) 午前 0:09 [ suffett ]