文太郎の日記帳

景気、財政赤字、国際経済、政治・政局、世界情勢、日米関係など現代の諸問題を広い視野で解明します。

世界大不況

[ リスト ]

過度の楽観論へ痛撃

 この6月半ば頃から世界的に景気の楽観論が優勢になり、とくにわが国では政府および多くのマスコミの主導で盛んに景気底打ち論が唱えられてきた。そうした楽観論にとってのもっとも象徴的な根拠となったものは、今年3月以来の株価の世界的な回復と、原油など原料商品の価格上昇だった。 
 だが、皮肉なことに、その6月中旬以来、NY株式のダウ平均をはじめとして株価は世界的に(中国など新興諸国の1部を除いて)下落基調に転じた。東京株式の日経平均は6月12日(金)に1万円台乗せを囃したが、15日以降は下げ基調となった。
 そして、直近7月7日のNY株式ダウ平均は8163.6ポイントと4月28日以来10週間ぶりの安値、ドイツ・フランクフルト株式のDAX指数(Deutscher Aktienindex)は7日に4598.19ポイントと4月23日以来約11週間ぶりの安値をつけ、日経平均は8日には9420.75円と5月28日以来約6週間ぶりに9500円割れとなった。

 これら各市場の動きを少し詳しく見ると次のようであった。
 NYは最近の高値は6月12日の8799.26ポイントで、3月10日の底値(7054.98)から1744.28ポイント、24.7%の上昇となった。しかし、6月15日からは下げ基調となり、ダウは同日から7月7日までの16営業日のうち11営業日はマイナス、うち5営業日は2桁のマイナスであった。6月12日から7月7日までの累計下落幅は635.66ポイント、7.2%の下落で、3月底値から6月12日までの上昇分の1/3以上がが失われたことになる。 
 フランクフルトDAXの最近の高値は6月2日の5144.06で、以後12日まではほぼ連日(9日を除き)5000ポイント台を維持していたが、15日からは5000を割り込んで下げ基調となった。7月7日の 4598.19は6月2日の高値から10.6%の下げである。
  日経平均は6月12日の10135.82円が最近の高値で、その翌週6月15日から7月8日の終値9420.75円まで、715.07円、7.1%下落した。7月1日から8日までは連続7営業日の下落であった。

 NY原油先物相場も、6月11日の1バーレル73.23ドルが最近の高値で、以後は株式相場とほぼ歩調を合わせて下落傾向をたどり、7月に入ってからは5営業日連日の下げで、7日には62.35ドルと高値から10ドル以上の下落となった。
 石油などエネルギー企業の株式は、今年3月以来の株価上昇の中で先導的な役割を果たしてきた(W.S.J.ウォールストリート・ジャーナル電子版、7月8日)だけに、原油価格の下落はこれら企業の業績を大幅に悪化させるものと見られており、これから発表が始まるアメリカ企業の今年第2四半期(4月〜6月)の業績についての株式市場の警戒感を強めたようである。

 このような株価や原油価格の下落をもたらしたものは、「景気回復の見通しについての疑問」(WSJ、同)の台頭であり、「人びとは,マーケット(の見方)と現実(景気の実態)の間には乖離(かいり、disconnect)があったかも知れないと心配しはじめた」(NYタイムス電子版、7月8日)。
 人びとの過度の楽観論に冷水を浴びせた現実のデータとしては、ごく最近のものとしてはアメリカの6月の失業者数の増加が予想を大きく上回り、失業率が9.5%に上昇したこと(7月2日発表)、ユーロ圏16カ国の5月の失業率も9.5に上昇したこと(同3日)、などがあげられる。
 しかし、上で見たように、株価の下げ傾向は米欧日では期せずしてすでに6月15日に始まっていた。では、その頃にはなにが起きていたか。

 6月13日(土)には、イタリア・レッチェで開かれていたG8(主要8カ国)の財務相会合(これは7月8〜10日にイタリア・ラクイラで開かれるG8首脳会議の準備会合)の共同宣言が発表されている。
 宣言はその中で、一方では「世界経済には株式市場の回復、金利差(スプレッド)の縮小、景況感・消費意欲の改善など安定化を示す兆候がある」として、世界的に景気底つき論を促進する役割を果たした 。だがこの宣言は同時に、「経済危機のためにとった例外的な政策を景気回復時にどう元に戻すかが課題」として「出口戦略」の必要性を主張した(当「診断録」6月15日号参照)。
 この出口戦略論は、一面、景気楽観論の上に立ったものと解釈され得るが、景気底つきが確認されていない段階でのそのような政策への言及は、後で述べるように、それまでの景気刺激政策の欠陥と限界を告白したものであった。

 この6月中旬の時点で、以上のほかに注目すべき情報としては、世界銀行が同月11日に発表した見通しで、2009年の世界経済の成長率を従来予測での−1.75%から−3%に引き下げたことがあげられる(当「診断録」6月15日号および18日号参照)。だが、楽観論者はほとんどこの見通し発表の意義を無視した。
 また、6月5日には、アメリカの5月の失業率が9.4%と25年来の高水準に達したとの発表が行われていた。ところが、アメリカ政府も民間エコノミストも、同月のレイ・オフ(Lay off 一時解雇)の人数が34万5000人(その後32万2000人に改訂)で、1ヶ月の解雇人数としては08年9月以降では最低だったとの理由をあげて、このデータが持つ重大性を無視した。  
 
 ところで、G8財務相会合が「出口戦略」を取り上げた(その後、ほかの国際機関の会合などでも言及されるようになった)のは、次のような理由からであった。すなわち、米欧日の各国が08年以降に取ってきた財政金融両面からの景気刺激策の結果として、大量の国債発行の影響による長期金利の上昇や、過剰マネーの原油市場などへの投機的流入とそれによる原油価格などの高騰が発生して、そのらのことが景気の回復にマイナスに作用する恐れが生じたのである(当「診断録」6月28日号参照)。
 だから、主要諸国は出口戦略を用意していることを表明して、金融市場や商品市場の緊張を緩和する必要があった。そのことは、意思表明だけによっても、原油価格の反落など、それなりの効果を生んだ(それはそれで、株価下落の一原因ともなったが)。
 しかし、この政策転換は、以後、主要諸国は財政・金融の健全化達成を目指した政策との整合性を抜きにしては、安易に追加的な景気刺激策をとることが困難になったことを意味した。つまり、端的にいって、以後は景気の好転は、主として、それまでに取った政策の効果と、景気の自動調節作用の結果に待つしかなくなったわけである。

 以上のような状況を背景として、主要国での株価は6月15日以降は反転、下降基調に転じたのだった。
 そして7月2日に、アメリカの6月の失業率が9.5%に上昇、月間の雇用減少数も46万7000人と5月の減少数を大きく上回ったことが発表され、これがアメリカ経済への過度の楽観論にいわば止めの一撃を加えるかたちになった。この報を受け、2日のNY株価は223.32ポイントの急落となった。また、それまで楽観論を唱えてきたオバマ大統領も、雇用悪化の現実を前に、「経済が好転するには、数ヶ月以上かかるだろうと述べ、米景気の底打ちにはもう少し時間が必要との認識を示した」(共同、2日―北海道新聞による)。
 さらに7日には、米政府の経済再生諮問会議のメンバーであるローラ・ダンドリア・タイソンが、すでに決定された米政府の7870億ドルの景気刺激措置は効果を上げているが、効果発揮のタイミングが遅れていること、経済が政府予想よりもずっと悪い状況にあったことなどを上げて、「米国は景気刺激策の第2弾を予備的に計画すべきだ」との見解を示した(ロイター電子版、7日)。これはこれで、予想以上の景気実態悪を認知したものとして、7日のNY株価の161.27ポイント下落の重要原因となった。

 このように、6月15日以降は株価の基調が下落に転ずるなど、市場ではそれまでの景気についての過度の楽観論の是正が進行しつつあった。
 それにもかかわらず、わが国では政府、日銀及び民間エコノミストの多数は、相変わらずの景気底打ち説を唱え続けてきた。
 たとえば日銀の白川総裁は7月6日の日銀支店長会議での挨拶で、「世界経済は…最近では、金融・実体経済の両面で悪化テンポの鈍化あるいは下げ止まりの動きが見られる。わが国の景気については、大幅に悪化したあと、下げ止まりつつある」と述べ、そうした景気好転論の根拠としては、「輸出や生産は、大幅に落ち込んだあと、持ち直しに転じつつある。この間、公共投資は増加している」ことを上げた(日銀ホームページ)。 
 ところが、その直後の8日朝に財務省が発表した5月の国際収支速報によると、5月の輸出は3兆7601億円で、前年同月に比べて42.2%の減少(4月の対前年同月比は40.6%の減少)、前月に比べて4.0%の減少(4月の対前月比は0.4%に減少)となり、対前年同月比でも対前月比でも日本の輸出は4月も5月も続けて減少していたことが明らかになった。
 日銀がこうした情報を知らなかったとは言えないはずだ。なぜなら、国際収支統計は財務省の委託を受けて日銀が作成しているのだから。

 過度の楽観論の最近の極めつけの誤算は、機械受注統計についての民間経済調査機関の予想である。
 すなわち、8日に内閣府が発表することになっていた5月の機械受注統計に関し、「日経グループのQUICKが民間調査機関30社に予測を聞いたところ、民間設備投資の先行指標になる『船舶・電力を除く民需』は平均で前月比2.1%の増加だった。予測通りならば、2月以来3ヶ月ぶりにプラスに転じる。輸出や生産の持ち直しから小幅改善するとの見方が優勢」とのことであった(日経、7月7日)。
 ところが8日の内閣府発表によると、5月の機械受注統計の「船舶・電力を除く民需」(季節調整値)は6682億円で前月比3.0%の減少(3ヶ月連続の減少)で 、この受注額は「比較可能なデータがある1987年4月以降での最低」であった(日経ほか、8日夕刊)。これは、民間調査機関のまことにお粗末な(というよりは余計な)予測とその破綻の好例というべきであろう。  
 
 なぜ、政府や日銀それに民間調査機関の多くは景気底つき宣言を無理に急ぐのか。政府は政権を維持するために自らの実績(それほど上がっていないのに)を誇示したいのであろうし、日銀や民間調査機関は民間の不安を抑えて民需の喚起や、株価の上昇を促したいのであろう。
 だが、私が見るところ、そういった過度の楽観論者は、「百年に一度の危機」と口では枕詞のように言いながら、実際には、今回の不況が産業と国民に与えた深刻な打撃(実態的にも心理的にも)と、伝統的な景気政策の限界とジレンマを十分には考慮していないのである。 (この項、終り)

閉じる コメント(1)

顔アイコン

なかなか良い状況にならないのが理解できました

2009/7/11(土) 午後 9:11 [ Greenstar ]


よしもとブログランキング

もっと見る

[PR]お得情報

数量限定!イオンおまとめ企画
「無料お試しクーポン」か
「値引きクーポン」が必ず当たる!
CMで話題のふるさと納税サイトさとふる
毎日お礼品ランキング更新中!
2019年のふるさと納税は≪12/31まで≫

その他のキャンペーン


プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事