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7月13日から17日までの週に、アメリカ、ヨーロッパ、日本の株価はほぼいっせいに再反騰した。再反騰というのは、今年3月10日頃から反騰に転じていたこれら諸国の株価が6月15日から7月10日までの4週間にわたり下落基調をたどった(当「診断録」7月8日号参照)あと、同13日から(日本は14日から)再び上昇に転じたからである。
NY株式ダウ平均は13日から5日連続で597.42ポイント、7.3%上昇し、6月12日から7月10日までの下落分652.74ポイントの92%を回復した。ロンドンのFTSE100 は同じく5日連続で261.6ポイント、6.3%上昇、フランクフルトのDAX30は同じ期間に5日間連騰で402.09ポイント、8.8%上昇した。
日経平均(東京)は14日から4日連騰で345.0円、3.8%の上昇だった。
この再反騰の主因は、7月13日から始まったアメリカ主要企業の4〜6月期の決算発表で、ゴールドマン・サックス、JPモルガン・チェースなど金融大手を含む多くの主要企業が予想以上の好決算を発表したことだ。これらの好決算がNY株式を上昇させただけではなく、ヨーロッパ主要市場と東京市場での株価上昇の主因ともなった。
とくに、昨年来の金融危機の根源であり、公的資金の注入で辛うじて生きながらえた感のある金融大手企業の上記ゴールドマン、モルガンのほか、シティグループとBofA(バンク・オブ・アメリカ)が増益となったことが歓迎された。
非金融大手企業では、インターネット検索最大手のグーグルが前年同期比19%の増益で過去最高益を更新、IT大手のIBMも前年同期比12%増の純益を計上した。
しかしその反面で、一般事業・金融両面の大手企業であるGE(ゼネラル・エレクトリック)は前年同期比47%の減益で、減益は6四半期(1年半)連続となった。
問題はそうした増益決算の中身である。とくに、危機のまっただ中にあった金融大手企業が自力で利益を出せるようになったことは、それ自体としては景気好転の兆候と見ることができる。だが、同時に、そのような業績好転がアメリカの景気一般の好転を反映したものかどうかが吟味される必要がある。ところが、まさにそうした点で大きな弱点を含んだ決算なのだ。
たとえばモルガンは、「住宅ローンなど個人向け融資の最終利益が前年同期比97%減。クレジットカード部門は6億7000万ドルの赤字だった。対照的に、証券部門の最終利益は14億7000万ドルと前年同期の3.7倍に急増した」(日経、7月18日)。証券部門の業務は市場での証券売買と企業の資金調達が主なもので、今年4〜6月期は、ちょうど株式相場の反騰期で市場が活況を呈した時期であった。
また、ゴールドマンはその事業のほとんどが法人・市場部門であるために「収入・最終利益ともに過去最高。個人部門を持たないことが奏功」した(日経、同)。
他方、個人向け事業が主力のシティとBofA(ともにゴールドマンやモルガンと違い、まだ公的資金を返済していない)の利益は、住宅ローンやカードローンでの損失を資産売却などの一時的な利益でカバーした結果である。すなわちBofAは中国建設銀行の株式売却により、シティは合弁したスミス・バーニー部門の利益により黒字決算を確保した。
「このような1回限り(one-offs)の効果がなければ、この両行は数十億ドルの損失を出すことになったであろう」。「これまではアメリカの大銀行の苦境が多くの一般アメリカ人をトラブルに巻き込んだのだったが、今は一般アメリカ人の苦境が大銀行をトラブルに巻き込んでいる」(NYタイムス電子版、7月18日)。
要するに、すでに発表されたアメリカ金融大手企業の4〜6月期好決算は、主として金融取引(証券取引など)における収益に基づいたものであって、アメリカ経済の非金融部門の活動、すなわち個人消費や住宅建築、一般企業設備投資などの民間需要が回復した結果ではない、ということである。
また、非金融の大手企業についても、グーグルは「主力のネット広告収入が伸び悩んだが、人員削減などのリストラが奏功」したのだし、IBMは「全部門で売上高が減少したが、ソフト・サービス部門などを中心とした米国内の人員削減などで販管費を19%減らした」ことで増益をもたらした(日経、17日夕刊)。つまり、いわゆる後ろ向きの改善策によるところが大きいわけである。
GEは「不振の金融をはじめ全部門で減収」に陥り、「追加リストラ策を実施する方針を明らかにした」(日経、18日)。
このように見てくると、7月13日からの世界主要国での株価再反騰は、アメリカ主要企業の4〜6月期決算の好調さを材料としたものであったが、そのような増益決算は、まだ決してアメリカ景気全般の底入れと回復を反映したものではない、ということがわかる。むしろ、業績改善のためにリストラに努力する多くの企業の姿からは、今後における失業の増加などが予想される。
もっとも、なんであれ金融大手の業績が改善すれば、それにより対企業・個人貸し出しの積極化が期待できないわけではないし、また株価が上昇すれば、それによって個人のバランスシートも改善される(とくにアメリカの場合)から、景気にプラスの影響を持つことも否定できない。もちろん、株価の上昇と株式取引の活発化は、金融大手企業自身の収益増大に貢献することはいうまでもない。
しかし、新聞紙面に踊る「○○企業 予想上回る増益」といった見出しだけで、企業業績と景気の実態を早まって判断することは避けたいものだ。 (この項 終り)
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