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中国の外貨準備高が09年6月末に2兆ドルを突破した(2兆1316億ドル)。ところが、09年1〜6月の中国の輸出は前年同期比で21.8%減少(過去最大の減少)、貿易黒字も1.3%減少している。また海外から中国への直接投資も同じ期間に17.9%減少した。
それなのに、なぜ外貨準備が増加しているのか?それを解く鍵は、中国への短期資金(株式投資なども実質的な短期資金と見て)の流入と、それによる人民元上昇への圧力を回避するための、通貨当局による外貨買い(人民元売り)の 市場介入以外にはあり得ない。
これらの短資が、中国株式などへの投資で利益を得ようとしているだけではなく、来るべき人民元切り上げを当てにした投機でもあることは明らかである。
そもそも中国での株価の上昇の仕方が異常だ。中国の代表的な株式市場である上海市場の総合指数は8月3日に年初来高値の3462.59をつけたが、これは08年12月31日の1820.81から約7ヶ月で90.2%の上昇である。これを単に、中国の早期の景気回復を囃した株価上昇、ということだけでは説明できないであろう。
もちろん、中国自身の金融緩和政策の影響もあるが、海外(日本を含む)からの投機的資金流入が大きく影響していることは間違いない。
中国紙の上海証券報によると、「海外の機関投資家に認められた対中投資枠を通じて流れ込んだ資金が4〜6月には1200億ドルに上り、四半期ベースで過去最高だった07年1〜3月期の732億ドルを大幅に上回った」(msn産経ニュース、8月4日)。
市場関係者は「中国の実体経済をかならずしも反映しない不気味な高騰と指摘」して警戒しているという(同上)。
これらの流入短期資金は、株価上昇の差益を期待しているだけではなく、人民元の切り上げに伴う為替差益を期待していることは間違いない。
すでにIMF(国際通貨基金)も09年7月22日に発表した対中国年次コンサルテーション報告の中で、為替相場決定における市場の役割重視に向けての中国の2005年以降における努力を評価しつつも、「何人かの(some)理事たちは人民元はいちじるしく(substantially)過少評価されているとの見方を支持した」と明言している(IMFホームページ)。
アメリカがかねてから人民元は過少評価されているとの見解をとり、陰に陽に中国に対してその切り上げを、直接的には為替相場の弾力化(自由化が目標)を求めてきたことは周知の事実である。
その米中両国は7月27〜28日にワシントンで「米中戦略・経済対話」を開催し、中国側が米国債の大量保有者の立場からアメリカ側に対して財政赤字削減の考えと見通しをただしたのに対して、人民元相場については、中国側出席者の一人である周小川中国人民銀行総裁によれば、「両国とも触れただけにとどまった」そうである(毎日JP、7月29日)。
29日付の中国新聞各紙は、アメリカが人民元問題を取り上げなかったことを大きく取り扱い、「米中の攻守が逆転した」といった論調が目立ったという(読売、30日)。 だが、そういう見方は皮相で甘い、というべきだろう。
そもそも、わざわざこの種の 「米中戦略・経済対話」を開催し、中国側からは王岐山副首相に周人民銀行総裁、アメリカ側からはガイトナー財務長官、バーナンキFRB議長(中央銀行トップ)、サマーズ 国家経済会議議長など、両国の財政・金融・通貨問題の責任者が揃って出席したのである。そうした席で、アメリカの財政問題とともに、極めて重要な人民元問題が出なかったなどとは信じられない。
人民元問題については深く議論しなかったという公式説明自体が、実は語られた問題の大きさを物語っていると思う。おそらく、適当な時期(たとえば景気回復の明確化後)における、適当な幅、方法での人民元の切り上げについて、協議が行われたものと私は推察する。
しかし、市場では両国当局の思惑を越えて、人民元切り上げに向けての投機が強まるであろう。現に、このところ人民元相場は、当局の為替管理下ではあるが、ジリ高をたどっている。そして、一般に通貨の過少評価が存在する状況において、そのような切り上げを見越した投機を防ぐことは極めて困難である。同じようなことは、すでに1960年代にドイツが、また70年代に日本が経験したことである(結局は自国通貨の切り上げに追い込まれた)。
ドル売り、人民元買いの投機に当局が立ち向えば、無際限にドル買いの資金を市場に放出することになり、極端なマネー過剰を産み出すであろう。かといって、そうした市場の過剰マネーを吸収しようとして別口で金融を引き締めれば、それは金利を引き上げて景気に水を差し、かつ、外国資金の流入を促進してしまうだろう。
これはまさにジレンマである。中国は、このジレンマにどのように立ち向かうつもりだろうか。
だが他方で、IMFの対中報告も触れていることだが、人民元の強化(切り上げ)は 家計の購買力を増やし、輸出以外の部門への投資を促進することによって、中国経済のバランス改善に貢献するという積極面を持っていることも忘れるべきではないであろう。 (この項 終り)
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