文太郎の日記帳

景気、財政赤字、国際経済、政治・政局、世界情勢、日米関係など現代の諸問題を広い視野で解明します。

世界大不況

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 アメリカの連邦準備理事会(FRB、中央銀行理事会)が8月12日に開いた連邦公開市場委員会(連邦準備の政策決定会合)の後の声明で、「経済活動は下げ止まりつつある(Economic activity is leveling out)」と述べたことで、アメリカでは今回の景気後退もようやく終わったとの観測が市場で強まっている。
 FRBが同時に長期国債買い上げ措置をこの10月末で打ち切ると決定したことも、アメリカの政策当局が「景気後退の終了→出口戦略の実施へ」というコースへ入ったとの見方を生んでいるようである。  
 また、12日にはドイツとフランスの4〜6月期の実質GDPがわずかながらプラスに転じたことが明らかになった結果、ヨーロッパの後退も終局に近づいているとの観測が台頭している。
 さらに、日本でも近く公表される4〜6月期の実質GDPがプラスになるとの予想が強まっている。

 FRBが米国景気が下げ止まりつつあると判断した根拠はなにか。明示されていないが、おそらく根拠とした最近のものは、4〜6月期の実質GDPのマイナスが1%(年率換算)に縮小したこと(7月31日発表)、7月の失業率が9.4%と前月より0.1%ポイント低下したこと(同8月7日)ぐらいであろう。
 このうち7月の失業率については、前回の当「診断録」(8月9日号)で説明したように実質9.6%と考えられるし、今後についてはFRB自身が今後9.8%まで上昇すると予想している(NYタイムス電子版、8月13日)ような状況であるから、雇用を基準にして考えれば、現状はまだレベル・アウトの状態とはいえない。
 したがって、景気下げ止まり論のもっとも大きな根拠はGDP のマイナスが縮小し、7〜9月期には5四半期ぶりにプラスに転ずる可能性が大きいとの期待であろう。

 GDPは経済活動のもっとも包括的な指標であるから、それが今期(7〜9月期)にプラスに転じ、かつ、そうした傾向(プラス成長)がその後の各四半期にも続く(わずかずつでも)ようであれば、たしかに今期をもって景気は底をついたということになるであろう。私もその可能性はあると思う。4〜6月期に 企業業績がかなり好転したことなどは、そうした可能性の根拠となり得る。
 もっとも、上記のFRBの声明は意外に慎重で、「金融市場は最近数週間でさらに改善してきている」としながら、「家計支出は雇用減少、収入伸び悩み、住宅価格下落、貸し渋りの影響で抑えられたまま」であるし、「産業界では依然として設備投資や雇用が縮小している」と指摘している(日経、8月13日夕刊)。
 現実にも、13日に発表された7月の小売売上高は0.1%の減少(民間エコノミストの予想は0.7%の増加)だったし、新規失業保険申請件数は8月8日に終わる週には5万8000件で前週より4000件、エコノミスト予想よりは1万3000件多かった。

 それでも、FRBが「経済活動下げ止まり」を宣言したのは、長期国債買い上げを10月末で打ち切ることの根拠を示すためだったと考えられる。しかし、最大で3000億ドルということで今年3月に導入されたこの異例の措置は、そもそも9月で終了することになっていたのであり、したがって今回の決定はその終結時点を10月に延長したに過ぎない。
 それ以外の主要な金融政策については、低金利の維持、最大で1兆2500億ドルの住宅ローン担保証券の買い上げの継続などは変更されなかった。だから、今回の公開市場委員会の決定をもって、FRBが不況対策からの「出口戦略」に着手したと見ることはまだできない。もっとも、長期国債買い上げの追加をしなかった(予定通り終わらせることにした)こと自体、出口へ向かっての一歩といえないこともないが。

 FRBが長期国債買い上げの打ち切りを公表したのは、もちろん、この政策が政府の財政赤字の増大(それをファイナンスするための長期国債の発行)を容易にすると投資家(中国政府を含む)などにより批判されるからであり、そして大量の国債の発行が長期金利を上昇(国債相場を下落)させるからである。 
 では、今回の決定により長期金利の上昇が促進されるかというと、長期金利の低水準の維持には、金融政策としては長期国債買い上げよりも、継続を決定した住宅ローン担保証券の買い上げの方がより大きな影響を持っているという(NYタイムス、同)。 
 結局、今回の連邦準備公開市場委員会の決定は、FRBが景気下降の終結を期待しつつ、追加的な景気対策をとらずに「様子を見る」(wait-and-see)時期に入ったということであろう(同上)。 

 他方、ヨーロッパでは、EU(欧州連合)統計局13日の発表によると、EU加盟27カ国全体の今年4〜6月期の実質GDPは前期比でマイナス0.3%で、1〜3月期の同2.4%より改善、そのうちユーロ採用の16カ国合計ではマイナス0.1%(年率換算では0.4%)と前期のマイナス2.5%(年率約10%)より顕著に改善した。このユーロ圏のマイナス年率0.4%は、同じ時期のアメリカのGDPの年率マイナス1.0%よりも良好な結果といえるぐらいである。
 ヨーロッパのこのような景気下降の顕著なスローダウンは、予想外にドイツとフランスのGDPがそれぞれ0.3%のプラスに転じたことが大きく影響した。ドイツの場合にはエコカー購入に対する政府補助とアジア(とくに中国)への輸出増加が自動車生産を大きく押し上げた効果が大きい。

 しかし、そのドイツをはじめ多くのヨーロッパ諸国では、不良資産の内包などで傷ついた銀行システムの修復がアメリカに比べてずっと遅れている(NYタイムス電子版、8月14日)。また、これまで失業の表面化を抑えてきた政府による企業への支援策が今後失効し始める結果、失業率(ユーロ圏で6月に9.4%)の上昇が避けられそうにない。 したがって、ヨーロッパでは今年末にかけて極めてゆるやかな景気回復が起きる可能性があるが、多くのエコノミストは2010年にはそうしたヨーロッパの回復がさらに鈍化ないし失速する可能性もあると見ている(同上)。 

 ひるがえって日本でも、来る17日に4〜6月期のGDP統計が公表される。それについての民間機関28社の事前予測の平均は、実質値で前期に比較して年率3.4%の増加(1〜3月期は14.2%のマイナス)で、5四半期ぶりにプラスに転ずるという(日経、14日)。
 需要項目別では、公共投資(対前期年率9.8%の増加)と輸出(同9.1%)のプラスが大きく、設備投資(マイナス5.8%)と住宅投資(マイナス9.2%)の不振が目立つ。個人消費は0.8%とごくわずかの増加と見込まれている。
 要するに、民間機関による予測では、4〜6月期の実質GDPはプラスに転ずるものの、それは景気対策予算の執行の効果と輸出の増加(とくに中国など新興国への)によるところが大きく、本来の民間需要の回復によるものではない。

 この民間予測でとくに注目されるのは、4〜6月期の名目GDPの対前期増加率が0.0% 、すなわちゼロ成長だという点にある。個人・企業・政府が受け取る収入は貨幣の名目額で示されるから、名目GDPがゼロ成長だとすると、計算上の実質GDPがプラスと出ても、景気の回復感は全くない、ということになるはずである。それは、たとえば店の販売数量(実質)は増えても売上金額(名目額)は増えない、というような状態である。
 とくに、上記機関のうち日経センターの予測では、4〜6月期の名目GDPは前期比0.6%(年率換算は不明)のマイナスで、その通りになるとすると、名目GDP のマイナスは08年4〜6月期以降5四半期続くことになる(日経センター、8月3日発表)。
 
 インフレーションの時期には、たとえ経済が名目値で成長しても、その相当部分は価格上昇の反映に過ぎないから、経済成長の実態は実質値で見る必要がある。ところがデフレーションの時期には、名目値で経済が横ばいないしマイナス成長でも、実質値を計算するとプラス成長になってしまい、経済の実態あるいは実感と大きく乖離(かいり)しやすいから、逆に名目値に注目する必要がある。 
 1929年に始まる昭和恐慌の時がまさにそうであった。名目の粗国民支出(GNE=GNPで、GDPに近い)は1929年(−1.3%)、30年(−9.9%)、31年(−9.3%)とマイナス成長が続いたが、実質では上記の各年はそれぞれ 0.5%、1.1%、0.4%のプラスであった(日本銀行百年史、第4巻)。つまり、昭和恐慌は物価の暴落という点に大きな特徴があったのだ。この実質値だけを見て、昭和恐慌といっても実際には不況は決して深刻ではなかった、と言う頓珍漢なエコノミストが最近いたものだ。
 だから、来る17日に内閣府から4〜6月期のGDPが発表された際には、実質値とともに名目値に注目すること、実質値についてはその需要項目ごと(公共投資、民間設備投資、住宅建築、消費、輸出)の動向に注目する必要がある。 

 以上、実質GDPの動きで見ると、アメリカ、ヨーロッパ、日本は今年4〜6月期に景気下降が顕著に減速するか、国によっては景気回復を思わせる結果が出たか、出そうである。しかし、かりに4〜6月期あるいは7〜9月期にGDPがプラスとなっても、各国それぞれに民間需要の弱さや、高い失業率などの問題を抱えているので、プラス成長の持続性はまだ不確かである。したがって、いま世界的に景気後退の終結を宣言するのは過早であるし、09年の後半に明確で順調な回復が起きる見通しはまだ乏しい。      (この項 終り)           

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今日の診断録のポイントは「インフレーションの時期には経済成長の実態は実質値で見る必要があり、デフレーションの時期には、名目値に注目する必要がある。」ことと「景気後退の終結を宣言するのは早すぎる」の2点と理解しました。

2009/8/15(土) 午前 8:26 [ ねずみ ]

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景気後退の終結が今出せるのなら、100年に一度のリセッションとは言わないでしょう。
まだまだ景気低迷は続くとみています。
失業率が問題でしょうね。
なるべく多くの人に仕事を!!!

2009/8/18(火) 午前 4:37 harrdway_tokyojapan


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