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この数日のうちに発表された重要な景気指標には景気の弱さを示すものが目立つが、なぜか今週の東京株式相場は上げ続けてきた。
9月8日財務省発表の09年7月の国際収支統計によると、輸出は前年同月に比べて37.6%減少し、6月の37.0%減よりわずかだが悪化した(詳細は下記に)。
また10日内閣府発表の7月の機械受注統計によると、設備投資の先行指標である「船舶・電力をのぞく民需」(季節変動調整)は前月比マイナス9.3%(6月はプラス9.7%)、前年同月比マイナス34.8%(6月はマイナス29.7%)で、7月の受注額(6647億円)はこれまでの最低であった。すでに(8月に)発表されている 7〜9月期の受注見通しは、前期(4〜6月期)に対し8.6%減(6四半期連続の減少)となる見込みである。この実績と見通しに基づくと、今年内に民間企業の設備投資が回復する見込みはないだろう。
このほか、10日日銀発表の8月の企業物価指数は前年同月比で8.5%の下落となった。これは1960年の同統計開始以来最大の下落率で、昨年暴騰した石油価格の下落が響いている点は割引くとしても、日本経済にデフレ色が濃くなっていることを示す。
この春以来の日本の輸出の回復、とくに中国に対するその回復は、景気刺激策による公共投資と一部消費の回復と並んで、麻生自民党政府が「景気の底打ち」を宣言する根拠となったものである。しかし月ごとの輸出の推移を調べると、対中国輸出は今年4月以降はその回復も足踏み状態になっていることがわかる。
表 09年各月の輸出額(円表示)の対前年同月比(%)
1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月
総額 −46.3 −50.5 −46.6 −40.6 −42.2 −37.0 −37.6
対米国 −52.9 −58.4 −51.4 −45.1 −45.4 −37.6 −39.5
対中国 −45.2 −39.7 −31.0 −25.9 −29.7 −23.7 −26.5
さらに、同じく財務省9月8日発表の09年8月上中旬の輸出額(総額、速報)の対前年同月比はマイナス37.1%で、マイナス幅は6月、7月のそれ(上表)とほぼ同じである。
このように見てくると、対中国輸出の回復がいわゆる「景気底打ち」をもたらした主要因のひとつであるという通説は、せいぜい今年4月頃までしか妥当しないことがわかる(9月以降はもちろんまだ不明)。
その中国自身の輸出は、09年7月は前年同月比23.0%減で6月の21.4%減より拡大、9ヶ月連続のマイナスとなっている(8月11日発表)。こうした状況を背景に中国国家発展改革委員会(NDRC)の張平主任は、中国の景気回復は「輸出に対する弱い需要など多大な困難に引き続き直面している」との認識を示している(ロイター、8月25日)。そうしてみると、伝えられる中国の景気回復も、主として景気対策に基づく公共投資及び一部消費の増加によるものであることが推察できる。
要するに、世界各国で景気の底への接近を示す(いくつかの国の政府あるいは中央銀行は景気は底をついたと主張している)いくつかの指標が出てきていることは事実であるが、それをもたらしているのは主に各国政府の景気刺激策に基づく公共支出の増加及び一部消費の回復(エコ自動車に対する購入補助などによる)である。
大抵の国では民間企業投資や民間消費(自力の)といった主エンジンはまだ回復へ始動するに至っていないし、輸出が増加した場合も、その国と関係が深い外国の景気刺激策の影響によるところが大きい。
だから、9月5日に開かれたG20も、その共同声明で「景気回復が確実になるまでは 財政拡大や金融緩和を継続すべきだ」とうたったわけである(当「診断録」9月6日号参照)。
さてわが国の場合、民間消費が極めて弱いことはこれまでにも確認されている上、本稿始めに述べたように民間設備投資に回復の兆候がまだ見えず、加えて、ひと時喧伝された輸出回復もこのところ頭打ち状態である。失業率は上昇を続けているし、物価はデフレ傾向を示している。
したがって、来るべき鳩山新内閣は、マニフェストで示した「子ども手当」などにとどまらず、より総合的な成長戦略を立案、実行すべきであろう。
それにしては、繰り返すが、東京株式市場は極めて楽観的で、9月7日に始まる今週には月〜木の4日のうちの3日間の上げで日経平均は差引き326.56円、3.2%上昇し、8日発表の輸出のマイナス拡大も、10日発表の機械受注の減少も意に介さない勢いだった。
その理由は、このところ「株式市場は基本的に海外市場の動向(欧米での株高−加筆)など外部環境要因で左右される展開」だったためとされる(ロイター、10日)。しかし、証券会社の株式トレーダーは「今後景気がテーマになるのではないか」と述べているという(同)。ということは、このところの東京株式市場は日本の景気とほとんど無関係に動いていたということになるわけで、まことに市場らしからぬ市場だというべきだろう。
そうした「外部環境要因」の一つは海外筋からの投資のようであるが、そこには円の先高を見込んだ為替投機の要素が含まれているように思われる。 (この項 終り)
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