文太郎の日記帳

景気、財政赤字、国際経済、政治・政局、世界情勢、日米関係など現代の諸問題を広い視野で解明します。

世界大不況

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円高の原因を探る

 このところ急ピッチでドル安(円高)が進んでいる。直近のドルの高値(対円)は先月8月7日の1ドル=97.49円(東京、終値)だったが、その後はジリ安で、9月11日の(東京市場終了後の)ニューヨーク市場では90.66〜90.68円にまで下落(円は上昇)した。
 こうした最近のドル安・円高の原因については、例えば11日のニューヨークの動向について、ロイターは「米株式や原油価格の下落を受けて安全資産として円が買われた」と報じた(電子版、ニューヨーク、11日)。
 また同じくロイター(東京、11日)は、「海外投資家が金利の安いドルを調達し他通貨に換えて投資するドル・キャリー・トレードを行っているから」だとし、日興シティグループ証券エコノミストの村嶋帰一氏の意見として、「米連邦準備理事会(FRB)が当分利上げできないとの見方もドル安の背景だ。この見方はしばらく続きそうであり、同時に円高もしつこく続く可能性がある」とのコメントを伝えている。

 上記の「安全資産としての円」ということは理解しにくい。推察すると、「高金利国の通貨に投資すると金利差を稼げるが、同時に当該国通貨の為替相場が下落するリスクもある(こういうケースをリスク通貨〈資産〉への投資という)が、円への投資は金利面では差益を得られない反面、為替下落のリスクがない(少ない)。その意味で安全資産だ」ということかも知れない。
 しかし、こうした説明は、事実上、円相場の安定ないしジリ高を前提している。つまり、安全資産としての円が買われるということは、「円高が見込めるからさらに円が買われる」というのと同じである。それはつまり円高を見込んだ投資(あるいは投機)にほかならない。そこには、ではなぜ円高見込みなのか、という肝腎の説明が欠けている。

 また、「アメリカのFRBが利上げをしそうにないことがドル安(円高)の背景だ」という見方は、利上げが行われれば、少なくとも金利差(アメリカの金利高)の面からドルへの需要が増え、ドル高になり得る、という意味だろう。しかし、この見方では、「金利差(日米間の)がなければドルより円が選好される」ということが前提されており、それはなぜなのか、という肝腎なことが説明されていない。
  あるいは、金利差を重視するこうした見方では、逆に、近い将来における日本の金利引き上げを予想しているのだろうか?だが、利上げの前提であるべき日本の景気回復がアメリカのそれより早そうだという予想は今の市場にはないはずだ。

 要するに、市場を取り巻くコメンテーターは、最近のドル安/円高の原因を説明できていないようだ。では、その原因は何なのか。私は日本の継続的な(緩やかだが)物価下落、すなわちマイルド・デフレーションが主要な原因ではないかと考える。
 すなわち、全国消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)の対前月比は、2008年10月から09年7月まで、09年3月と4月を除いて、各月1%未満ではあるが毎月下落している。また、同指数の対前年同月比は、09年に入って3月(−0.1%)、4月(−0.1%)、5月(−1.1%)、6月(−1.7%)、7月(−2.2%)と5ヶ月続けて下落、下落率は月を追って大きくなってきている。7月の下落率2.2%は、1949〜50年の戦後インフレ終息期を除いて、過去最大である。
 これに対し、アメリカの消費者物価指数(全都市消費者、食料とエネルギーを除く総合、季節調整済み、米労働省)の対前月比は、09年1月から7月まで、1%未満ながら毎月上昇、7月の指数(季節調整前)の対前年同月比は+1.5%だった。   
 物価は通貨価値(購買力)の逆数であり(物価が上がれば通貨の購買力は低下する)、また、為替相場は通貨の購買力の比によって影響されるところが大きいから、ドル/円の為替相場の変動も米日両国の物価変動の違いによるところが大きいと考えられる。したがって、09年の場合のようにアメリカの消費者物価がわずかながら上昇気味なのに対し、日本のそれが下落傾向をたどっていることは、他の要因(例えば金利差)によって相殺されない限り、ドル安/円高の基本的な要因として作用すると考えられる。
 
 類似のことが2000年以降の数年間にも起きている。すなわち、消費者物価指数(生鮮食品を除く総合、年平均)は2000年から05年まで6年連続で下落し、このため政府は01年3月に「日本経済はデフレーションの状態にある」と認定した。この間、ドル相場(対円)は2001年末の131.47円から04年末の103.78円まで毎年下落(円相場は上昇)した。
 こうしたデフレを食い止めるため、日本銀行は01年3月に「量的緩和政策」と称する通貨増発の政策を導入、消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)の対前年比が「安定的にゼロ以上になったと判断された2006年3月までの5年間にわたって」(白川方明『現代の金融政策』、日本経済新聞社)実施された。
 また、政府・日銀は、この間の円高を食い止めるために、しばしば為替市場でドル買い支え操作を実施した。とくに03年春から04年3月にかけては「未曾有の大量の円売り・ドル買い介入」(同上)が行われた。

 では、なぜ日本では2000年以降繰り返しデフレーションが起きるのだろうか。今回も前回も、そこに景気後退の影響があったことはいうまでもないが、同じ時期に他の国々の物価もやはり景気後退の影響を受けているのである。
 顧みると日本の消費者物価は、戦後の大インフレーションの克服後も、長期にわたってマイルド・インフレーションといわれるゆるやかな(ただし石油危機時の高い物価上昇は除く)慢性的上昇を続けてきたが、それも1995年頃にほぼ終息し、2000年頃からは逆にマイルド・デフレーションが忍び寄ってきた(景気上昇期の06年〜08年には物価は上昇したが)。現代ではこうしたデフレーションは日本に特有の現象だといってよい。
 私はかねてから、その基本的原因は少子化(やがて人口減をもたらす)による国内消費の漸減にあると考えてきた(拙稿「平成長期不況の歴史的位置」、2001年5月、『東京経大学会誌第225号所収』)。同様の理由による消費の減少は、景気後退下の供給過剰(需要不足)の影響に加えて、09年の現在も物価下落の一原因になっていると考える。

 そう考えると、現在の消費者物価下落も、その影響を多分に受けている円高(ドル安)も、かなり根強いものがあるといえるだろう。
 したがって、望ましくない物価下落と過度の円高を食い止めるためには、同方向の政策、すなわち有効需要政策、とくに人口減食い止めの策と結びついた政策が必要だ。私が民主党の政策のうち、少なくとも恒久的な子ども手当支給策などを評価・期待するのもそのためである。   (この項 終り)

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マイルド・デフレーションの原因が、少子化による国内消費の漸減だとすると、人口減食い止めの策を行っても効果が出るには時間がかかることは容易に想像できます。
恒久的な子ども手当支給策など経済的な政策と女性が子育をしやすい社会的な制度の充実の併用が不可欠だと思います。
今度の選挙で民主党は多くの女性議員を誕生させました。これらの議員の活躍に期待したいところです。

2009/9/16(水) 午前 8:06 [ ねずみ ]


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