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経済産業省9月30日の発表によると、09年8月の鉱工業生産は季節変動調整済み指数が84.1(2005年=100)で対前月比で1.8%上昇し、09年3月以降6ヶ月連続のプラスとなった。原指数(季節調整前)は77.6で前年同月比マイナス18.7%である(7月の前年同月比はマイナス22.7%)。
たしかに鉱工業生産は回復してきている。それは、これまでにとられた景気刺激策の効果と、対中国を主とする輸出の回復を主因とするものである。しかし、政策効果は時限的(基本的には今年度中)であり、また輸出(財務省、貿易統計)も季節調整値で見ると、09年4月以降の各月は(単位兆円)4.3512、4.3427、4.3950、4.3437、4.319とほぼ横ばいとなっている(7,8月はむしろ減少)。
そのような状況だから、消費、住宅建築、企業設備投資といった国内民間需要(内需あるいは民需)が回復してこなければ、景気全体が回復したとは言えないし、これまでの鉱工業生産の回復も長続きしないだろう。
その内需がまったく不振である。総務省9月29日発表の09年8月の消費者物価指数(変動の激しい生鮮食品を除く)は 前年同月比2.4%の下落で、4ヶ月連続の下落となった。また、8月の下落率は過去最大(現統計の開始以来)である。
消費者物価は消費そのものの統計ではないが、価格面で消費の強弱を映し出すものであり、その意味で最近の物価下落は消費不振、その土台の上での商品・サービスの供給過剰(すなわち需給ギャップ)と供給者間の販売競争の激化を反映している(一部技術進歩に基づくコスト低下によるものもあるが)。
前年比での物価下落は石油価格の下落による面もあるが、エネルギーと食料の価格を除いた8月の指数も前年同月比で0.9%下落している。
これは、当「診断録」でいままでしばしば警告してきた「ゆるやかなデフレーション」である。それはまた、アメリカなど外国の物価が上昇気味である状況の下では、為替相場での円高をもたらす基礎的な条件となる。
消費不振の根源は雇用不安と収入の減少である。厚生労働省が9月30日に発表した毎月勤労統計調査(従業員5人以上の企業)によると、8月の雇用者数は常用雇用者(正社員とパートタイマー)が前年同月比で0.1%の減少、正規と非正規を合わせた社員数は1.2%の減少で、6ヶ月連続のマイナスである。
また、残業などの所定外労働時間は8月は1人あたり平均8.8時間で前年同月比15.2%減少した。
収入面では、基本給に賞与などを合わせた8月の現金給与総額は1人あたり平均27万3360円で、前年同月比3.1%減少で15ヶ月連続の減少。そのうち、残業代など所定外給与は平均1万6259円で前年同月比13.4%の減少だった(この項、日経、30日夕刊)。
このような雇用・給料の減少が、鉱工業生産の回復の半面で進行しているのである。そうしたことが、先行きへの不安の心理の影響も含め、消費不振をもたらしているのだ。
家計による(消費と並ぶ)需要のもう一つの柱である住宅への需要は、やはり30日に発表された国土交通省調査の8月の住宅着工戸数で見ると減少を続けている。8月の着工総戸数は5万9749戸で前年同月比38.3%の減少で9ヶ月連続のマイナス。その季節調整後の戸数の年率換算値(同じ着工戸数が1年続くと仮定した場合の推定年間着工戸数)は67万6000戸で過去最低であった。
民間調査機関による事前予測では、8月の住宅着工戸数の予想中央値は前年同月比31.8%の減少、季節調整済み年率換算の着工戸数の予想中央値は75万1000戸だった(ロイター調査、30日電子版による)から、実績は予想を大きく下回ったわけである。いいかえれば、最近の民間調査機関(及び一部マスコミ)の景気判断は、鉱工業生産の回復や株価の回復の過大評価で、過度に楽観的になっていた、ということになる。
なお、持家、貸家、分譲住宅などの区分ごとの着工戸数を見ると、持家は前年同月比20.0%(11ヶ月連続)、貸家は42.2%(9ヶ月連続)、分譲住宅は53.5%(9ヶ月連続)のそれぞれ減少だった。
関連して、消費、住宅建築と並ぶ民間需要のもう一つの柱である企業設備投資にも触れておくと、その先行指標である機械受注実績(船舶・電力を除く民需、季節調整済み数値の対前期比)は、08年第2四半期(4〜6月期)以降の各期は、いずれもマイナスの 1.5%、8.9%、15.1%、9.9%、4.9%、8.6%(最後は09年7〜9月期。この期だけは実績ではなく見通し)である。マイナスは6四半期連続(1年半)で、09年7〜9月期の前年同期比は31.6%の減少、実績がわかっている最近月の7月の受注額(季節調整後)は過去最低である。
以上のような状況であるから、景気の先行きはまったく楽観を許さないわけだ。麻生内閣は今年4,5月頃から景気底つき説を流して、マスコミや市場をミス・リードしたが、鳩山内閣は現状の厳しさを認識し始めているようだ。
例えば、菅直人副総理・経済財政相は9月29日の閣議後の記者会見で、「物価下落が続くなら、デフレに逆戻りする懸念もある」と述べた(読売、29日夕刊)。いま、デフレの進行ではなく、「懸念」を述べているようでは遅きに失する感もあるが、物価下落を重視している点は評価できる。また古川元久内閣府副大臣は30日、「さまざまな景気下振れリスクが存在している。…雇用状勢が悪化すれば所得減少につながり、それがデフレ要因にもなる。さまざまな要因がデフレの方向にあることは認識している」とし、「こうした厳しい景気認識は菅副総理担当部局の政務3役会議でも共有された」と述べたという (ロイター電子版、30日)。
それにしては、今までのところ、新たな景気対策としては2010年度予算で具体化しようとしているだけで、政策のスピードに欠ける感がある。ただ、30日のテレビによると、亀井靜香金融相が09年度第2次補正予算の編成を提唱したようであり、その線で政府がまとまることを求めたい。
なお、前回の当「診断録」(9月27日号)へのコメントで、swimming さんは私の所論を要約するかたちで、「日本の内需振興策は民間需要だけでは不足するので、2次補正予算の導入を行う」と述べている。私の見解はむしろ、民間需要が弱いことがまさに問題であり、それを補充するように急いで財政で措置することが必要だという主張である。そのために、既定の09年度補正予算の一部カット分を埋めながら、さしあたりは民主党公約の子ども手当や高校授業料の無料化などを(部分的であっても)2次補正予算で計上して今年度から実施すれば、それが家計の所得を補填して消費を促進すると期待しているわけである。
そのような子育て支援は、永続的に実施すれば、(それだけで十分というわけではないが)長期的には出産と子育てについての不安を緩和して、人口減に歯止めをかける効果を生むと私は期待している。 (この項 終り)
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今日の診断録の最後のコメントを読んで、前回の先生が説明したかったことが、「民間需要が弱いことがまさに問題である」ことを再確認しました。私の理解が不十分だったと思いました。
それにしても、景気の先行きは厳しくなりそうですね。
今年就職戦線に直面している学生さんの一人でも多くの方が、希望の職種に就職でき、活躍できることを念願しています。
2009/10/1(木) 午後 8:57 [ ねずみ ]