文太郎の日記帳

景気、財政赤字、国際経済、政治・政局、世界情勢、日米関係など現代の諸問題を広い視野で解明します。

世界大不況

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統計は騙すことも

 今週(10月5日〜)に入って先進主要国の株価は回復に転じ、週末の9日まで(ドイツ・フランクフルトは8日まで)上昇を続けた。NY市場ダウ平均の9日終値は9864.94で再反落前の9月22日の水準(9829.87、年初来高値)を越え、東京市場の日経平均は9日に7営業日ぶりに1万円を回復した(しかし8月26日の年初来高値には届かない)。当「診断録」はいつも株価のことを取り上げるわけではないが、前回に「株価再反落の意味」を論じたので、その後の株価の戻りに関連して、今回は前回のいわば続編を書くことにしたい。
 ただし、今回は細かい株価の推移とその原因、背景を逐一述べることはしない。ただ、今回も各国市場はNY市場の動きに大きく影響されていたこと、そのNYでの株価の戻りは、9月の非製造業景況感指数が予想を上回ったこと(5日)や、ドル安を背景に金、原油などの商品相場の上昇を受けて金鉱株やエネルギー株が上昇したこと(6日)、企業好決算への期待(9日)などが主として影響したことを指摘しておく。このほかオーストラリア準備銀行(中央銀行)が6日に政策金利を0.25%引き上げて年3.25%とする決定を行ったことが、各国市場で世界景気回復の兆候として受けとめられたことも株価の戻りに貢献したようである。

 株式市場は市場なりに各種の景気指標の意味を解釈して、景気にポジティブなものとネガティブなものを選り分けて株価の上昇あるいは下落として相場形成を行うわけだが、しばしば不可解な(あるいは不合理な)解釈をするものだ。
 ここではまず、8日のNYダウ平均の上昇(61.29ポイントの小幅だったが)に影響したとされる主なニュース、すなわち9月の米小売企業の既存店売上高が1年2ヶ月ぶりに前年同月比でプラスに転じたこと(トムソン・ロイター調査によれば0.6%増)について論評しておきたい。日経はこの増加(日経では0.1%増)を大きく取り上げ(9日夕刊、3面トップ)、その理由について、「例年より気温が低かったことで秋物衣料など季節商品の売れ行きが好調だった。株価の回復などが売り上げを後押ししたと見られる」と報じ、株価回復→消費回復という流れが生じていると示唆している。
 しかし、実は市場はこの小売業統計の結果に「騙され」ている(あるいは承知の上で騙されている?)。当「診断録」では以前に(7月5日号)、「統計はウソをつかないが嘘つきは統計を使う」という警句をご紹介したが、実は統計は人を騙すことがあるのだ(もっとも、大抵の場合にそうだが、騙される方が悪いとも言えるが)。

 その9月の米小売業主要社の既存店売上高の増加だが、この前年同月比(これは季節変動調整をしない原数値で比較する)というのが「くせもの」なのである。というのも、今年9月の販売額は「レイバー・デー(Labor Day)の暦(こよみ)上のシフトが有利に作用した」(NYタイムス電子版、10月9日)という事情があったからだ。それは以下のようなことであろう。
 レイバー・デーは毎年9月の第1月曜日である。したがって年によりその日にちが異なる。昨年はそれは9月1日だった。だが、今年は9月7日であった。
 そして、レイバー・デーの翌日から学校の新学年が始まる。そこで、アメリカではレイバー・デーを含む3連休は新学年前の(夏休みの)最後の休暇かつショッピング時期となる。この時期のショッピングの対象には、通常の商品のほかに、新学年開始に伴う学用品・衣服などが加わる(もちろんそうした買いものは新学年開始後にも続くが)。 
 ところが、昨年のレイバー・デーは9月1日だったから、レイバー・デー直前のショッピングによる売上げの大部分は8月の販売高に計上されたが、今年はそれがまるまる9月の売上高として計上されたわけである。こうした違いによるだけでも、今年9月の小売販売高は昨年同月を上回ることになるはずだ。

 この点を考慮すると、前年比1%未満の増加というのは、むしろ実質的には減少ではないか。
 しかし、とにかく、8日のNY株式市場は「週間の新規失業保険申請件数が予想より少なかったことに加え、小売各社の9月の既存店売上高が予想に反して増加したことで投資家心理が改善した」ために上昇した(日経ネット、9日)。また9日の東京市場でも、この小売売上げ増が示すように「米国消費が粘りを見せていることでクリスマス商戦への期待が強まっている」(ロイター電子版、9日)と伝えられた。
 要するに、株式市場は「レイバー・デーの暦上のシフト」の影響は眼に入らなかったようで、その意味で騙されたわけである(あるいは、あえてそんな詮索はしたくなかったのか?)。

 他方で、上記で見たような「ドル安→商品相場高→株高」という 市場心理も理解が難しい。ドル安見込みが生まれるのは、FRB(連邦準備制度理事会)が低金利維持の政策を表明しているからであるが、低金利政策は景気が未回復であるとの判断があるからこそとられているわけだ(デフレ警戒)。
 ところが低金利・金融緩和の継続は、アメリカのインフレへの不安、及びそれとともに進行するであろうドル弱化への見通しを強める。しかし、そうしたインフレ警戒も、金や原油などの取引がドル建て(ドル表示)であるために「国際商品相場高→鉱山・エネルギー関連株式の相場上昇→株価全体への波及」という結果をもたらしている。
 しかし、景気未回復の段階でのエネルギー・原料相場の上昇は、回復そのものへ悪影響を及ぼすはずだ。だが、いまの株式市場はそうしたマイナスの可能性は見ないようだ。 要するに、これらは“情報の不完全性”がもたらす結果ではなく、情報の不完全理解(意図的であるか、理解不足によるか)にもとづく結果である。

 では、株式市場の動向に見られる市場の動きは、一般的に景気のシグナルとしては不完全なのだろうか。それは、その通りだと言える。なぜなら、株式市場でも先進主要国のそれだけではなく、ブラジルや中国などの株式市場のように、先進国のそれとはかなり違った動きをしている市場が存在しているからだ。
 それは、つまり、市場(それは実は市場への参加者で構成されている)とは先進国の株式市場だけではない、ということを意味する。実際、先進諸国の国民にも新興国の株式や投資信託へ投資(それらの市場へ参加)しているものが少なくない。

 さらに、市場への参加者は株式市場への参加者がすべてではない、という事実も見落としてはならないだろう。彼らの多くは原油などの商品市場へ、あるいは金へ投資している。最近では、外国為替市場での(外貨への)投資者(投機者)も増えている。
 商品市場への参加者は、新興国からの石油・原料商品への需要増加を見込んでいるだけではなく、金融緩和下での相場の投機的(バブル的)上昇をも予想している。
 金相場の上昇(1オンス=1000ドルを越す水準が続いている)は、基本的にはドル安やインフレ懸念による金選好にもとづくと考えられるが、それに加えて「中国政府が金準備を積み増す可能性が高い」(ロイター電子版、8日)ほか、中国では「景気の先行きには不透明さが残っており、投資先として金を選好する動きが根強い」(同上)という事情も影響しているようだ。
 この、景気先行きの不透明を理由とする金選好には理屈として理解困難な点があるが、とにかく「金はインフレとデフレの両方に対するヘッジ(保険−加筆)として選好されている」面が現にあるという(NYタイムス電子版、9月20日)。

 要するに、株式市場(新興国などの市場を含め)だけではなく、原油・金・その他商品などの市場、さらに外国為替市場等のすべてを含んだものが市場であり、その意味で株式市場は、重要でポピュラーではあるが、部分的で不完全な市場(とくに情報消化・発信源としては)だということである。
 株式市場では目下、主として景気回復期待が先走っているが、世界市場全体を見回すと、世界は先進主要国での実体経済の弱さと世界的な過剰流動性(カネ余り)の間、そしてデフレ懸念(いわゆる2番底懸念)とインフレ懸念の間を揺れ動いているようである。    (この項 終り)

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今日の診断録のポイントは、「統計は人を騙すことがある」と「情報の不完全理解にもとづく結果」と理解しました。
統計資料を見るときはデータの背景まで調べる必要がありそうです。

2009/10/11(日) 午前 10:11 [ ねずみ ]


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