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10月14日(水)に1年ぶりに10000台を回復したNY株式ダウ平均は、週末16日(金)に大手銀行バンク・オブ・アメリカ(BofA)の第3四半期の業績が10億ドルの赤字(3四半期ぶり)となったとの発表を受けて64.03ポイント(0.67%)下落し、あっさりと10000を割り込んで9995.91で取引を終えた。ダウ平均は、JPモルガン、ゴールドマン・サックスといった金融大手の好業績を主な材料につい先日に10000台乗せを実現したばかりだっただけに、市場の失望は大きかったようだ。この日のNY株式は、ついでゼネラル・エレクトリック社(GE)が44%の減益となったとの報で下落する株式の範囲が広がった。
16日にはヨーロッパの株式市場もBofA、GE の業績悪化などのニュースを受けて、FTSE100 (ロンドン)は0.7%、DAX(フランクフルト)は1.5%、CAC(パリ)は1.5%それぞれ下落した(NYタイムス電子版、17日)。
モルガンとゴールドマンは投資銀行であるだけに証券業務で大きな利益を上げたのだが、もともと商業銀行であるBofAは住宅抵当貸し付け(モーゲージ)とクレジット・カード金融での借り手の返済不能と返済延滞で大きな損失を出し、それが証券部門(08年8月に合併した証券大手メリルリンチの部門)があげた利益を上回った。15日に決算を発表したシティグループも、最終的には約1億ドルの利益を計上したが、クレジット・カード部門では80億ドルの損失を出した。
金融機関の決算で明瞭になった住宅金融とクレジット・カード(消費者信用)での損失は、失業率が上昇する中、広範なアメリカ国民が負っている債務の重圧、その結果としての消費の停滞というアメリカ経済が直面している問題をあらためて浮き彫りにしている。
折しも、米政府機関で民間住宅ローン(モーゲージ)の支払保証を提供している連邦住宅公社(Federal Housing Administration)の経営危機が浮かび上げっている。
政府系住宅金融会社では、2008年9月上旬にファニーメイ(Federal National Mortgage Association)とフレディマック(Federal Home Loan Mortgage Corporation)がモーゲージ関連資産の劣化により経営危機に陥り(両社とも法律により設立され後に民営化。主としてモーゲージ債権を買い取り、それを証券化して販売している)、実質的に国有化された上、政府による1000億ドルを上限とする資本注入により救済されている。なお、この両社の危機と救済劇は、直後のリーマン・ブラザーズ社破綻で一挙に表面化した金融危機の序幕となった。
この両社の危機の後、FHAによるモーゲージ の保証は、民間銀行によるサブプライム・ローン(低所得者向けの条件のゆるやかな住宅ローン)破綻後に住宅金融市場にできた空隙(とくに低所得者や初めての住宅購入者に対するローンの)を埋める、大きな役割を果たしてきたという(NYタイムス電子版、10月9日)。そのFHAのD.H.スティーブンス・コミッショナーは 10月8日の議会下院委員会での証言で、「同公社の問題に対処する措置はとられつつあり、政府による援助を必要とすることはないだろう」と述べた。しかし、「昨年FHAが保証したローンのうち20%、2007年からの保証ローンの24%が、抵当流れを含む深刻な問題に直面している」と認めた(NYタイムズ、同上)。
この問題について、ファニーメイの前役員であったE.ピントは、上述の議会公聴会に先立つ証言の中で、「FHAの損失は同公社の準備金を上回るようになり、24ないし36ヶ月のうちに政府援助に頼るようになるのは確実だ」と述べた(同)。
このように、FHAにせよ、BofAやシティにせよ、住宅金融やクレジット・カード信用に関与している金融機関、保証の提供機関は、昨年来の金融危機が一応鎮静した現在も依然として深刻な困難に直面しているのであり、そのことがアメリカ経済の前途にとっての重要なリスク要因となっている。
サマーズ米国家経済会議(NEC)委員長は10月12日に「債務や失業率が家計支出を圧迫する中、弱い需要が米経済成長への重しとなる」と述べ、さらに16日には「市場規律を機能させるために金融機関の秩序だった破綻を可能にすべきだ」と意味深長な見解を示している(ロイター、10月12日及び16日)。
NY株式が10000を割った16日にはロイター・ミシガン大学調査による10月の消費者信頼感指数が発表になり、同指数は9月の73.5から69.4へ低下し、また、エコノミストの予想73.5を大きく下回った。
他方で、同日発表された9月の米鉱工業生産指数(季節調整後)は 前月比で0.7%上昇し、3ヶ月連続の上昇となった。この指標などは、アメリカの経済のいくつかの分野で景気回復を示す動きが起きていることを物語る。
しかし、そうした動きが経済のより広い分野に広まり、かつそれが継続する(それが景気回復である)には、まだ上述したようなリスクや需要の弱さが横たわっていることを過少評価すべきではない。 (この項 終り)
(おことわり。私は前回10月10日号の「診断録」を執筆した後、関係する学会誌に07年以降の景気後退の特徴を分析する論文を執筆しており、そのためにこの「診断録」執筆までの間隔が長くなりました。)
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