文太郎の日記帳

景気、財政赤字、国際経済、政治・政局、世界情勢、日米関係など現代の諸問題を広い視野で解明します。

エコノミストの時評

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ギリシャ支援策の虚実

 本題に入る前に一つ訂正をしておきます。当「診断録」の前号(3月17日号)の「人民元切り上げ論争の行方」の中で、私は第4小節(段落)で、「政府が為替の「安定」が望ましいと考えると、政府(実際にはその代理である中央銀行=人民銀行)が為替市場から余剰のドルを買い上げ(ドル売り・元買いの介入操作)、ドル相場を支える(元相場の上昇を抑える)」と書きました。
 それに対して[まつぼっくり]さんから、「余剰のドル買い上げ…の部分が(ドル買い・元売り)のように思えるのですが」とのコメントをいただき、また[swimming]さんからも「私もまつぼっくりさんと同じように(ドル買い・元売り)が自然のように思いました」とのコメントがありました。これはご両人のご指摘通りで、私のまったくのケアレス・ミスです。「余剰のドルを買い上げ」と書いておきながら、それを「ドル売り」と言いなおしたわけですから、どうかしていましたね。ご指摘ありがとうございました。この「診断録」を掲載(アップ)したら、すぐに元の記事を訂正しておきます。
 
 さて、ギリシャの財政危機、具体的にはギリシャ国債償還の危機(償還不能=支払不能、すなわちデフォルトに陥る可能性の増大)に対して、EU(欧州連合)はギリシャに対して赤字削減の厳しい政策の実行(自助努力)を迫るとともに、もし実際にギリシャがデフォルトに陥りそうになった場合にはどのような支援が必要かつ可能かについて、過去1ヵ月来さまざまな議論を行ってきた。
 最近では、3月15日のユーロ圏16ヵ国の財務相会合で、ギリシャのデフォルト危機に備えた支援策を協議し、「必要な場合にはEUはギリシャを救済する用意がある」旨を言明したが、その具体的な内容については3月25,6日に開催されるEU首脳会議に決定がゆだねられた。
 その際、この財務相会合を主催したユンケル議長(ルクセンブルグ首相)は、「支援策としては個々のユーロ圏加盟各国からギリシャに対する2国間援助−ドイツとフランスがリードする−が含まれる」と語った。またオランダのイェーガー財務相は「すべてのユーロ圏加盟国政府はギリシャ支援に貢献するだろうが、その際には支援国はギリシャへのローンにプレミアムの(金利の)支払を要求するだろう」と述べた(ファイナンシャル・タイムス電子版、3月15日)。
 
 それ以来、予想される支援策の中身について、具体案がまとまったとか、いや、まだ加盟国間で意見の相違があるとか、あるいはユーロ内援助ではなくてIMF活用案が有力になったとか、さまざまな観測や報道が飛び交い、それによって世界各国の株式市場などは一喜一憂してきた。
 だが、これらの観測や報道を見ていると、問題の誤解、認識不足が目立つといわざるを得ない。そうした誤解の極めつけは日経新聞だろう。
 すなわち、3月15日のユーロ圏財務相会議の結論について、日経は「ギリシャ支援 基本合意」との大見出しの下で、「ユーロ圏各国は最大250億ユーロ(約3兆1000億円)と見られる支援の総額や方法などの詳細を詰め、…EU首脳会議で正式に決める見通しだ」と報じた(3月16日夕刊)。
 ところが、NYタイムスは、財務相会議の声明は「支援の金額や各国の寄与の割合についてはいかなる示唆(indication)も与えなかった」と伝えた(電子版、3月15日)。またファイナンシャル・タイムス(以下、FTと略す)も「財務相たちはギリシャに対する約束の特定の額については口をつぐんだ」と書いた(電子版、3月15日)。
 その後の経過を見れば、ギリシャ支援の方法も金額も未定であることは明らかだ。
 
 ユーロ圏諸国の、そしてEUのギリシャ支援策がなかなかまとまらないのは、端的にいえば、最大の(金額の)支援国として期待されているドイツが、EU条約及び国内法を盾にとって、頑強に加盟国によるギリシャへの直接支援を拒否しているからだ。この点で、なによりまず、ユーロ諸国内でまだ支援策の合意が出来ているとは言えないことを明確にしておきたい。
 ドイツの反対論拠は、第1に、EU条約法は「加盟各国に対しても、EU全体に対しても、特定加盟国の債務を引き受けることを禁ずる条項を含む」ということ(FT、同上)。第2に、「ユーロ圏からの(特定加盟国への)援助(bail out)は、いかなるかたちであれ、ドイツ憲法裁判所からの異議(challenge)に直面するだろう」ということ。なぜなら、「1998年にドイツが単一通貨(ユーロ)制度に参加した際に、ドイツ憲法裁判所は、ユーロ参加国の財政赤字と負債額の限度についての、並びにbail out 禁止についてのEUの安定ルールを厳格に遵守することを条件に、はじめて(ユーロ採用への)青信号を出した」からである(FT、18日)。
  だから、3月15日のユーロ圏財務相会議があいまいな形であれギリシャに対する支援の用意を表明した際に、ドイツの有力紙フランクフルター・アルゲマイネは「タブーは破られた」と書いた(同電子版、16日)。
 
 ドイツの以上のような考え方から、ギリシャ支援の残された可能な方法として、(EUの外の機関である)IMFの資金を活用する案が再浮上したわけである。再浮上というのは、もともとギリシャ側にIMFに支援を要請する動きがあったが、EU側が、それはユーロの発展とユーロ圏の統合を妨げるとして反対していたからである(当「診断録」2月11日号参照)。
 だが今では、「メルケル首相の法律アドバイザーは、これ以外(IMF資金の活用以外)のいかなる資金援助も、EU条約とドイツの憲法的法(ドイツは東西ドイツの成立以来、統一後も、正式憲法は未制定である―引用者注)の条項に照らして不可能だ、と頑固に主張している」(FT、18日)。
 従来は、ドイツでは主として財務省とブンデスバンク(ドイツの中央銀行)がユーロ圏への外部(IMFなど)からの干渉に強く反対してきた。また、欧州中央銀行(ECB)とEU理事会もギリシャ支援についてのIMF利用に抵抗してきた。そうした態度が変化しはじめたのは、最近ドイツ下院の有力議員二人が別々にギリシャはIMFへ援助を求めるべきだと示唆してからである(FT、同)。
 
 ユーロ圏内の国々でも、IMFによる介入への支持が増えている。すでにイタリー、オランダ、フィンランドが賛成を表明している。
 欧州理事会のバロッソ委員長は3月17日に、EU加盟国政府が25日の首脳会議でギリシャに対する資金援助の準備措置(standby facility)につき明確に合意すべきだと要請し、そうした支援案はユーロ加盟国政府のギリシャに対する直接のローンを含むべきだと述べたが、IMFも資金を提供すべきかどうかについては、回答を避けた。
 しかしバロッソ氏の発言は、IMFはギリシャの救援でどの程度の役割を負うべきかということをめぐる議論を全ヨーロッパで活発化させ、そこから、IMFプログラムとユーロ圏資金のある種の折衷案もありそうになってきた(FT、19日)。
 ただし、現在でもドイツ国内ではショイブレ財務相が、フランスではサルコジ大統領がIMFによる支援に反対ないし疑問を表明している(同上)。 
 
 以上の経過を見ると、これまでのユーロ圏財務相会議などによるギリシャ支援策の考え方に反対してきたドイツを含めてEUが合意に達するには、IMFの活用を考えるほかはないように思われるが、いずれにせよ、ユーロ圏諸国の一致した支援策をまとめることは依然として容易ではない。
 もちろん、EUが最優先で望むように、ギリシャ自身の財政赤字削減策が軌道に乗り、ギリシャが自力で期限が到来する債務を償還出来る(資本市場で借換債を発行できる)見通しが立てば、あえて議論の分かれる支援策をまとめる必要はなくなる。
 ギリシャはさしあたり4月、5月に計162億ユーロの償還資金を調達する必要がある(FT、18日)が、もしEUの支援策(IMFの活用を含め)がまとまらず、自力でその必要な資金を調達できなかった時にはどうなるか。ブンデスバンク理事のザラツィン氏はザルツブルグ新聞との会見で 次のように語った。「ギリシャはその時には、どの債務者でもすることをしなければならない―それは支払不能を通告することだ」と(フランクフルター・アルゲマイネ電子版、19日)。    (この項 終り)

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一国がデフォルト宣言をするということは、01年のアルゼンチン、08年のエクアドル以来のことのようですね。前者は宣言後IMF管理下に入り、06年には大統領が「我々はIMFにチャオを告げた」と宣言しましたが、まだまだ問題山積。ギリシアの場合、EUとの関連で、今後どのような方向性が考えられるのでしょうか。

2010/3/22(月) 午前 8:21 [ POCHIKO1BAN ]


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