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3月25日に開催されたユーロ圏16ヵ国の首脳会議は、来る4,5月に償還期限が到来する国債の支払(返済)困難に陥っている、ギリシャ(ユーロ圏)を支援するための融資の基本方針を決定した。それは、同国が自力で資金を調達できない場合の「最後の手段」(ultima ratio、首脳会議の声明)として、IMFからの融資とユーロ圏加盟各国からの2国間融資との組み合わせ(package 、同上)を用意する、というものである。
このパッケージ融資は、IMFによる融資の活用を主張するドイツと、ユーロ圏自身による融資を主張するフランスなど(当「診断録」3月22日号参照)との妥協の産物である。 しかし、ユーロ圏各国による融資を実行するためには全加盟16ヵ国一致の 決定が必要とされるので、ドイツ(圏内で最大の融資割合を分担する予定)がユーロ圏内融資についての拒否権を確保したことになる。 ドイツがユーロ加盟国による対ギリシャ融資に反対してきたのは、①それが加盟国による他の加盟国への資金援助を禁じたEU条約に違反し、②ドイツがユーロを採用するに際してEU条約の遵守をその条件としたドイツ国内法に抵触する、という点にあった(「診断録」、同上参照)。
しかし、対ギリシャ支援策がまとまらないことによるギリシャ国債相場の下落(逆に利回りの上昇)及びユーロ相場の下落から、なんらかの支援策を打ち出す必要に迫られ、以上のような制約条件に抵触しないIMF融資活用の案を打ち出すに至ったものである。 これに対してフランスなどは、IMFの利用はユーロ及びユーロ圏に対するIMF(ユーロ圏諸国もこれに加盟しているが、機関としてはユーロ圏及びEUの外部の存在)の干渉を招くとして反対してきた。 したがって、融資パッケージについてのユーロ圏首脳会議の合意は、「IMFの参加に反対してきたフランスなど数カ国及び欧州中央銀行(ECB)が部分的に譲歩したことを示しているが、それでも、ドイツがギリシャ支援についての詳細を決めることに抵抗してきたことからすると、新しい重要な工夫(ブレークスルー、breakthrough)が出来たことを示している」(NYタイムス電子版、3月25日)。FT紙(ファイナンシャル・タイムス)も、「この合意は、首脳会議の前に、当日フランスとドイツによって取り決められた支援策の原則についてのブレークスルーにしたがったもの」と報じた(同紙電子版、25日)。
なお、ECBも25日に、同行が中央銀行としての融資に際し域内銀行から受け入れる担保(国債など)の条件(格付け)を厳格化する当初の予定を、2011年まで留保すると発表し、(多額のギリシャ国債を保有している)ギリシャの銀行などを支援する方針を示した。 25日のユーロ圏諸国の首脳会議声明には支援の額は示されていないが、「ある外交官が匿名で語ったところによると、パッケージの総額は220億ユーロまで可能」だという(NYタイムス、同上)。 また、IMFとユーロ各国の融資割合について、サルコジ仏大統領はIMFが1/3、ユーロ圏が2/3と語っている(FT紙、同上)。しかし「ベルリンは首脳会議合意の中に、IMFの寄与は“十分に多額”(substantial)となるであろう、との文言を入れることに成功した」(同上)。 この点につき、首脳会議声明には、支援の「このメカニズムは、IMFの融資を補足する最後の手段(とくに市場からの調達が不足する場合の)と見なされるべきである」との文言がある。またフランクフルター・アルゲマイネ紙(FAZ)は、「IMFだけではギリシャの必要資金をカバーすることは不可能だろう」とし、ギリシャの4,5月における所要額160億ユーロに対し、IMFの寄与は推定100億ユーロを若干上回る程度だろうと述べている(同紙電子版、25日)。 要するに、両者の分担割合は未定ということだろう。 しかしながら、ユーロ加盟国による対ギリシャ融資に際しては、ドイツの決意を反映する厳格な条件と強い安全装置(safeguard)が必要とされている(FT紙、同上)。
すなわち首脳会議声明(EUホームページ)によると、「2国間融資上のいかなる支払も、厳しい条件により、また欧州理事会並びに欧州中央銀行による審査にもとづき、ユーロ圏参加国の全会一致(unanimity)によって決定されるであろう」。すなわち、ドイツ(融資の発動にもっとも厳しいが、最大の融資国となるはずの)を含むすべての加盟国に拒否権が認められるわけだ。 そして融資の利子率は、ギリシャによる「可能な限り速やかな市場からの資金調達が促進されるように、リスクに見合った水準に決定され」、それには「いかなる補助金的要素も含まれない」。 したがって、「この融資メカニズムにもとづく決定は、(EU)条約の枠組みと各国内法に完全に合致するかたちで行われるだろう」と。つまり、ここで声明は、ユーロ内資金援助を違法だと考えてきたドイツの主張に配慮していると言える。 ドイツはまた、「ギリシャ危機のようなものの再発を防ぐために、EUルールを強化するあらゆる選択肢(ユーロについての条約の改正をも含む)を今年末までにまとめ上げる、特別研究チーム(task force)を設置すべきだという要求についてもその実現を勝ち取った」。
さらにメルケル独首相は、「ルールを破るような国を今後はユーロ圏から排除できるように条約を改正すべきだと示唆した」(NYタイムス、同上)。 とにかく、以上のように、ギリシャ支援についてのユーロ加盟国の枠組みは決まった。ただし、ギリシャはまだユーロ諸国に具体的な支援を求めていない。同国はいざの場合の支援策をバックに、こんご極力自力で国の信用回復(緊縮措置の実行による)を図り、市場からの(国債償還に必要な)資金調達に努めるであろう。今回の首脳会議の合意が、さしあたりギリシャが市場から調達する際の金利の引き下げ及びユーロの相場回復に役立つことが期待されている。
実際、3月26日のNY外国為替市場では、ユーロは1%高の1.3268ドルをつけた。しかし、ギリシャの「財政問題をめぐる不透明感は完全には解消されていない」ことや、「ギリシャのほかポルトガルやスペインなど財政問題を抱えている国に対する長期的な懸念が払拭されていないこと」から、「ユーロの上値は限られた」という(ロイター電子版、26日)。 ところで、このようなギリシャ支援をめぐるユーロ諸国首脳会議の結論についての日本の新聞の報道を見ると、そのいい加減さにまったくあきれる。
日経は、「会議前の各国の立場は大きく異なっていた」、「特に早期合意を目指すフランスなどと、安易な支援実施を警戒するドイツとの溝が目立っていた」(26日夕刊)と書き、フランスがユーロ加盟国による融資、ドイツがIMFの活用を主張していたという両国の立場の相違と、そうした考え方が出て来る背景を無視した。さらに、会議の「直前までドイツがギリシャの『自力再建』を頑強に主張し、一時は会議の開催すら危ぶまれた」と、事実をゆがめた記事を書いた(27日)。 読売は、「ユーロ圏単独での支援では、市場からの信用回復に限界が指摘されていたため、浮上したのがIMF支援だった」と解説した(27日)。IMF支援が考えられたのは、ユーロ圏内救済策は条約違反だとするドイツの立場から出てきたもので、読売の記事はまったく事実無根のものである。 朝日の報道は、「(3月)15日のユーロ圏財務相会議では、欧州による自力支援を準備することで合意した。それが一転、IMF支援に傾いた。流れを変えたのは、ドイツが自力支援に抵抗姿勢を示したことだ」というもの(27日)。 ここでは、ドイツが以前から、条約と国内法に違反すると考えてユーロ加盟国による融資に難色を示していたことなどまったく見逃されている。
毎日は、「メルケル独首相が『ユーロ圏離脱条項』の盛り込みを求めた背景には、…『赤字隠し』を続けてきたギリシャへの反発がある」とし、「結局、孤立を深めたドイツが折れるかたちで支援が決まった」という(27日)。ここでは、ドイツは単純な反ギリシャの国だとされてしまっている。
総じて、最近の日本の新聞は、事実経過を正確にフォローし、正しく評価する能力に欠けているが、今回のギリシャ危機とギリシャへの支援策に関する報道では、ドイツをユーロ圏内のいわば「悪者」と捉える見方と、ユーロとユーロ圏を見下す姿勢が目立っている。それも多くは事実誤認あるいは無知にもとづくものである点が情けない。
新聞のいい加減な報道に呼応するように、日本の市場関係者の見方もいい加減だ。ここでは一つだけ例を挙げておく。シティ銀行の尾川真樹シニア・マーケットアナリストは次のように述べている。「必要であればギリシャを支援するということは分かったが、ギリシャのような経済規模の小さい国についてもユーロ域内で救えなかったということで考えれば、いい話とは言い難いところがある」と(ブルームバーグ電子版、26日)。これは上記の読売(27日付だが)の誤解とほぼ同じものだ。 私はむしろ、同じ第2次大戦の敗戦国でありながら、アジアで孤立(これまで)している日本と、ヨーロッパで大きな存在感を示しているドイツの違いはいかにして生じたか、という点に非常な興味と問題点を痛感する。この点については、後日に論じてみたい。 (この項 終り)
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エコノミストの時評
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物事の経緯、大切だと思います。今回、EUの状況について、よくわかりました。各国の主張(法律や自国間調整)に相違点があることを含め、国益を主張するだけでなく、どう解決策を見つけ出して行くのか、という点が興味深いです。
日本とドイツの違いが如何にして生じたか、早く読みたいです!。
2010/3/28(日) 午後 3:21