|
本日(3月31日)をもって2009会計年度(平成21会計年度)は終り、明日から2010年度(平成22年度)入りである。
すでに10年度予算は国会で成立し、この予算を執行する上で要(かなめ)の役割を担う「子ども手当」法案も成立、「高校授業料実質無料化」法案も本31日に成立する見込みである。その点で、新年度経済に大きな影響を与える政策装置は決定された。 新年度経済に大きな影響を与えるもう一つの要素である輸出は引き続き好調で、日本の景気回復を先導する役割を続けるであろう。 しかし鳩山内閣は依然として迷走中で、内閣支持率は低落を続けている。いったい政治は今後どのように展開し、日本経済にどのように影響するのだろうか。 10年度予算の特徴については 当「診断録」3月4日号でも論じたので、できるだけ詳論は避け、要点だけを述べておく。
この予算の規模は92兆2992億円で、09年度の当初予算の規模88兆5480億円に比べると4兆円近くの増加となり、当初予算としては過去最大である。しかし、09年度予算全体(第1次及び第2次補正予算を含む)の規模102兆5582億円と比べると、10兆2556億円、10.0%の減少である。予算の経済に与える影響を考えるには、前年度の当初予算とではなく、補正を含む予算総計と比較するのが当然であるが、10年度の場合にはその予算を09年度の当初予算だけと比較して予算膨張だとなげく議論が世間では圧倒的である。 これは、内閣、与党、野党、マスコミのほとんどすべてが財務省がホームページなどで公式に示す「平成22年度予算フレーム」(10年度予算を09年度当初予算と比較している)を鵜呑みにしている結果である。つまり、予算膨張を避けたい財務省の戦術に見事に引っかかっているわけだ。 財政の赤字と国債の新規発行額の捉え方についても類似のことが言える。10年度の一般会計赤字、したがって新規国債発行額は44兆3030億円で、09年度の33兆2940億円より約11兆円増えている。しかし、補正予算を含めた09年度の赤字額=新規国債発行額は53兆4550億円で、これと比べると10年度の国債発行額は前年度比で9兆円余も減るのである。
歳入面での国債への依存度の比較でも同様である。10年度の歳入のうち税収は37兆3960億円に対して国債発行額(借金)は44兆3030億円だから、たしかに税収より国債発行額の方が多い。だが補正を含む09年度予算でも、税収の36兆8610億円に対して、国債発行額は53兆4550億円であった。 したがって、歳入総額の国債発行額に対する依存度は、09年度の52.1%から10年度は48.0%へ、わずかながら低下する見込みである。その上、10年度は景気回復の進展で税収は予算における見込額よりかなり増えると予想できるから、実際には歳入の国債への依存度はもっと減るはずだ。 以上のように、10年度予算は総額及び国債発行額の大幅削減の予算なのである。このように、2010年あるいは10会計年度(暦年と異なる場合)において財政規模と赤字額を前年に比べて縮小した国、つまり財政面で景気刺激策からの「出口戦略」を導入した国はこれまでのところは日本だけではあるまいか。
このことは、いわゆる財政健全化への1歩であることはたしかだが、予算の経済成長に与える効果という点では、いうまでもなく、収縮的すなわちデフレ的である。わずかに、子ども手当など国民の所得への補給策や、いわゆるエコ商品購入に際する補助金支給の継続と追加(エコ住宅建築への補助)により、家計消費を刺激する効果を見込める程度である。 だから、(国内)民間経済に対する外的要因として下支え効果あるいは刺激効果を期待できるのは輸出だけである。ところが、その輸出が予想をはるかに超えて好調なのだ。 すなわち日本の輸出は、当「診断録」3月11日号でも見たように10年1月には前年同月比で増加(40.9%)に転じたが、2月にも45.3%という驚異的な増加率を記録した(財務省貿易統計)。
輸出先国・地域別に輸出の増加率を見ると、中国向けは09年11月から前年比でプラス(11月以降10年2月までの各月の増加率は、7.8、42.7、80.0、47.7%)、アジア向けも同じく09年11月からプラス(同様に、4.0,31.1,68.3,55.7%)となったのに続き、EU加盟国向けは09年12月からプラス(12月以降、1.4,11.2,19.7%)、米国向けは10年1月からプラス(24.2,50.4%)に転じた。 要するに、10年に入ってからはほとんどすべての国・地域向けに日本の輸出が前年比で増加となったわけだ。ただし、前年比で増加したとはいえ、輸出額の水準は、08年9月のリーマン・ショック後の急激な落ち込み前の水準の約7割程度である。しかし、いまの調子でいけば、以前の水準に戻り、それを越えることもそう先のことではなさそうだ。 つまり、新興経済圏(中国、インドなど)やアジア新工業国(韓国、台湾など)が先導して回復に転じた世界経済の波が先進工業国にも及び、こうして世界経済がいわば回り始めたと言えるだろう。
日本の輸入も10年1月から前年同月比でプラスとなり(1月は8.8%、2月は29.5%)、外部世界へプラスの影響力を戻しはじめた。 もちろん世界経済には、ギリシャの国債償還をめぐる不安などのいわゆるソブリン危機(sovereign=主権国家の支払不能発生の可能性)や、中国、インド、オーストラリアなど早期景気回復国における景気過熱傾向とそれを抑える軽度の金融引き締めの開始など、いくつかの不安要因がある。そうしたこともあってであろう、米英仏加韓の5ヵ国(注)の首脳が30日にG20(主要20ヵ国・地域)の首脳に書簡を送り、「初期段階にある(世界経済の)回復は依然として弱い」ので、「各国で新たなリスクへの対応や強固な景気回復、雇用創出などが重要になる」と表明した(日経その他、3月31日)。 (注)5ヵ国は、これまでにG20が開催された国(米英)とこれから開催される国(カナダ、韓国、フランス)だと説明されている。
日本の場合、四半期ごとのGDP(名目額)は09年10〜12月期に08年1〜3月期以来7四半期ぶりに前期比でプラス(0.1%)となり、ようやく景気底打ちが確認できたと判断できる。
なお、実質GDPの前期比は、09年4〜6月期にプラスとなった(1.5%)が、7〜9月期には再びマイナスとなり(0.1%)、10〜12月期にまたプラスに戻った(0.9%)。つまり、実質GDPで見ても10〜12月期に景気底打ちを確認できるに至ったと言えるだろう。 失業率は09年7月の5.7%が今回の不況下のピークで、以後はゆっくりと低下傾向を示し、10年1月と2月には4.9%と5%を切った。雇用環境は依然として極めて厳しいが、最悪期は脱したようである。 このように、日本の景気回復も始まったばかりであり、回復力はまだ外需頼りで力強さに欠け、デフレ状態は残るだろうが、いわゆる2番底に陥る危険はなくなったと思う。 以上のように、10年度予算は緊縮型であるにもかかわらず、輸出主導(それも予想よりずっと速いテンポでの)で 日本の景気は回復軌道に乗った。こうした傾向を反映して、日経平均株価は3月30日に11,097.14円と約1年半ぶりに(08年10月2日以来はじめて)11,000円台を回復 した。
さて、このような経済状況において、鳩山内閣と民主党は迷走しているわけだ。ここでその迷走ぶりをあらためて整理することは避けるが、まず一つ確実なことは、政治の迷走(不在?)にもかかわらず経済が回復しつつあるということ、したがって現状は、市場重視派の人たちの観点からは政府不在・民間主導の理想的な経済運営ということになりそうである。 しかも、財政を悪化させる政府と非難されながら、財務省が10年度予算に巧みに仕掛けた緊縮措置と経済回復の効果で、財政は10年度には予想以上の改善を示すことになろう。 これらのことは、民主党にとって、とくに今年7月の参院選挙において、思わぬ援軍となりそうである。 そのような援軍と合わせ、参院選挙で民主党に有利に働くのは、やはり「子ども手当」の執行だろう。自民党は、この手当を「天下の愚策」(谷垣総裁)と批判しているが、この法案は与党に加え公明党、共産党の賛成を得て成立している。その結果、選挙の重要な争点となるであろうこの政策で自民党は孤立し、「自民党が勝てば子ども手当がなくなる」という逆宣伝に見舞われそうだ。
自民党のお粗末さの一面は、子ども手当あるいは児童手当はヨーロッパの国々ではすでに常識となっているように、現代福祉国家の装置の一つになっていることを理解せず、自らを反福祉国家指向の政党としてしまっていることだろう。 もっとも、こうした有利な面があっても、こんご鳩山内閣及び民主党が失点を挽回できなければ、参院選挙で勝つことは困難だろう。とはいえ、たとえこの選挙で民主党が負けても、公明党を加えた連立内閣の再組織で、引き続き民主党中心の政府が続くということはほぼ確実だ。
ところが、自民党や反民主党派のマスコミなどは、短期決戦で民主党支配を覆せると錯覚し、長期戦をたたかう態勢をとっていない。それが鳩山・小沢体制を強気にさせているもう一つの原因であろう。 (この項 終り) |
エコノミストの時評
[ リスト ]



リーダーシップの無さがしばしば指摘される鳩山首相ですが、選挙で大勝し、衆参でねじれていた状況が解消された後に首相になったのは、ある意味で大変「強運」の持ち主のように見えます。主張がぶれることなく、目指す方向に邁進して欲しいと思います。
2010/4/1(木) 午前 6:55 [ ねずみ ]