文太郎の日記帳

景気、財政赤字、国際経済、政治・政局、世界情勢、日米関係など現代の諸問題を広い視野で解明します。

エコノミストの時評

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 ここで取り上げる「問題の社説」は、4月19日付読売の「IMFに頼る欧州の苦い決断」である。当「診断録」に掲載した「ギリシャ支援の虚実」(3月22日号)と「ドイツ次第のギリシャ支援」(3月27日号)を読んだ読者同人には、この読売社説の標題を見ただけで、その大きな間違いがおわかりと思うが、ギリシャ危機救済問題のその後の推移の考察を含めて、今回はこの社説の内容を紹介・検討しておきたい。
 
 読売社説は次のように言う。「アジア、中南米諸国などが米国主導のIMFから緊急支援を受ける例は珍しくない。だが、1999年のユーロ誕生以来、ユーロを導入している国がIMFから救済を受け入れれば初めてである。メンツ丸つぶれだが、背に腹は代えられぬというところだろう」と。
 要するに、ユーロ圏はギリシャ救済のための資金として圏内各国からの資金だけでは足りないので、IMFに頼らざるを得なくなった、という理解のようなのだ。
 だが、実際は、圏内からの資金供与を主張するフランスなどに対し、ドイツが“圏内各国から特定加盟国への救済資金を供与することはEU条約に抵触する”と主張して、代りにIMF資金の利用を要求したために、両者の妥協策として3月25日のユーロ圏16ヵ国首脳会議で、圏内各国による2国間資金とIMF資金の両方を活用するという「パッケージ」が決まったのである。
 
 このパッケージの中身の金額は、4月11日のユーロ圏諸国の財務相協議により、圏内資金が300億ユーロ、IMF資金が150億ユーロの計450億ユーロ、またユーロ圏からの資金の金利は約5%と決定された。
 圏内各国からの資金の分担額は、ECB(欧州中央銀行)への各国の出資比率に応じて決められ、ドイツが最大の84億ユーロ(28%)、ついでフランスが63億ユーロ(21%)などとなっている(フランクフルター・アルゲマイネ、FAZ、電子版、4月13日)。
 このパッケージそのものと分担割合は3月25日のユーロ圏首脳会議で決定ずみのものである。その後ドイツがこの合意に異論を唱えたことはない。それどころか、IMFの関与や、ギリシャへの融資は「最後の手段」とすることなど、むしろこの首脳会議での「ギリシャ支援策はドイツ主導で決定」されたと言われている(ロイター電子版、3月26日)ぐらいだ。
 
 ところが読売社説によると、「3月半ばには、ギリシャを支援する方針でユーロ15ヵ国がいったん合意したが、ドイツがその後、難色を示し、混迷が続いていた」ということになってしまう。
 以上を見ると、読売社説子は、ギリシャへの融資にIMF資金を利用するに至ったいきさつやドイツが演じた役割について、まったく無知であることが分かる。
 結局、「混迷」しているのは読売の社説であり、また見当違いのこうした社説の公表で、読売新聞こそが「メンツ丸つぶれ」となったのではないか。
 
 その後ギリシャへの資金供与が実行されていないのは、なによりもまず、当のギリシャがまだユーロ諸国ないし欧州委員会(EU=欧州連合の執行機関)及びIMFに対して正式に資金供与を要請していないからである。ギリシャとしては、可能な限り自力で市場から資金を調達したいだろうし、また、もし外部から資金供与を受けるとした場合に、その見返りにギリシャの財政建て直しのためにどのような追加的な条件(現に同国政府が実施中の緊縮措置に加えて)を課されるかがまだ不明であるためであろう。
 そのような不確実さから、ギリシャ国債の市場利回りは依然上昇しており、21日にはその10年国債の利回りは8%を越えた(ブルームバーグ電子版、21日)。
 これらの融資とその条件については、ギリシャ政府とIMF及び欧州委員会の協議で詰められる予定であり、その協議は21日にアテネで始まると伝えられる。協議は19日からの予定だったが、アイスランド火山の爆発によるヨーロッパ内航空の停止の影響で延期されたもの。
 ギリシャのパパコンスタンティヌ財務相によると、この協議には2週間を要し、5月15日までに共同文書で合意内容が明らかにされる(ロイター電子版、21日)。
 
 ギリシャ支援についてのもう一つの不確定要素と見られているものは、3月25日にユーロ圏首脳会議で援助パッケージが決定された際、圏内各国からの資金供与を実行するに当たっては、「ユーロ圏参加国すべての合意が必要」という条件がつけられたこと、すなわち加盟国のすべてに拒否権が認められた点である。そのため、圏内からの資金供与に慎重なドイツが土壇場で拒否権を発動する(IMFからの資金供与だけを認める)のではないか、という疑念が生じた。
 実際、4月11日に融資金額が決定された際に、ドイツ政府のスポークスマン代理は、「この決定はその融資が自動的に実行されることを意味しない。それはあたかも、消火器を壁に掛けても、実際にそれが使われるかどうかはわからないのと同じだ」と語っている(FAZ、同上)。
 
 このようにドイツがなお対ギリシャ融資に慎重なのは、ドイツが①融資は「最後の手段」(3月25日のユーロ圏首脳会議の声明)であるべきこと、すなわちギリシャ政府が財政再建と市場からの資金調達にギリギリの努力をした上でのことだと厳格に考えているためと、②融資内容にいささかも補助金的要素(市場より低い利子率のかたちなどでの)が入ってはならないと、当初から考えているため、そうした条件が満たされたかどうかを見極めようとしているからであろう。
 しかし最近、ドイツのショイブレ財務相は、ギリシャからの「支援要請があれば速やかに承認するよう議会に対して準備を要請」したと伝えられる(ロイター電子版、21日)。その点から判断すると、ドイツ政府も「最後の手段」を発動する時期が近づいていると考えているようである。
 
 ドイツ政府が自国資金による対ギリシャ融資に慎重なもう一つの理由は、政治的なものである。というのは、「ドイツ国民の多くはギリシャ支援に反対」であるため、メルケル首相にとっては「5月9日のノルトライン・ウェストファーレン州議会選挙前に支援実施を認めることがリスクである」(ロイター電子版、4月13日)からだ。
 この意味を理解するには、ドイツ議会のあり方を知っておく必要がある。ドイツ議会は下院に当たる連邦議会(Bundestag、ブンデスターク)と上院に当たる連邦参議院(Bundesrat、ブンデスラート)から成るが、後者の議員は選挙民の選挙によって選ばれるのではなく、州(Land、ラント)政府の代表によって構成されるのである。そして、その州政府は州議会によって任命されるから、州議会選挙は同時に州政府を決定する選挙であり、したがって参議院(ブンデスラート)への州代表を決定する選挙でもあるわけだ。  
 州議会議員と州政府はすべて政党所属だから、州議会選挙は中央の(連邦の)国会のあり方に直接に影響する。
 
 そのブンデスラートにおいては、各州の議席数というものは決められていないが、その代りに州ごとの表決権数が決められている。すなわち、実際の州代表は(人数も含め)その時に審議される議案の内容により適宜に決めればよい(たとえば環境問題なら州の環境大臣を中心に代表を構成する)。ただし、投票権はすべて州一体で行使する。
 各州(全部で16州)のブンデスラートにおける表決権数(総数69)のうちで、最も多い6票を持っているのは、ノルトライン・ウェストファーレン、ニーダーザクセン、バイエルン、バーデン=ヴュルテンベルクの4州である。つまり5月9日に選挙が行われる ノルトライン・ウェストファーレン州は、その意味で政治的に大きな州である。しかも、もし同州議会の選挙で現在の政府与党(CDU/CSU=キリスト教民主・社会同盟と自由民主党の連立)が敗北すると、政府与党は連邦参議院において少数派に転落する。
 メルケル首相がこの州議会選挙を前に、対ギリシャ援助にとくに慎重になっていると見られる所以(ゆえん)である。
 
 上で見たように、ギリシャ政府と欧州委員会及びIMFとの協議に今後2週間かかり、5月15日までにその合意内容が共同文書で発表されるということも、ドイツの州議会選挙をにらんでのことではないか、と考え得る。したがって、市場の疑心暗鬼とギリシャ国債の利回りの動揺はまだしばらく続きそうだ。  (この項 終り)

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4月23日の読売新聞朝刊に、「ギリシャ財政赤字13.6%政府予想を上回る」という記事が掲載されていました。
欧州連合統計局が発表したもので、ギリシャ政府が公表していた見込み数字12.7%より大幅に悪化していたことから、財政再建計画の見直しの必要性が出てきたうえに、政府統計の信頼性も揺らいできたことから、ギリシャ国債の流通利回りが年8.7%に急騰したとのことです。
ギリシャが、支援要請する可能性が高まってきたことを感じさせる記事でした。

2010/4/24(土) 午後 9:21 [ ねずみ ]


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