文太郎の日記帳

景気、財政赤字、国際経済、政治・政局、世界情勢、日米関係など現代の諸問題を広い視野で解明します。

エコノミストの時評

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 国債の返済困難化に陥りつつあったギリシャは4月23日にEU(欧州連合)及びIMFに対して正式に資金援助を要請した (各紙、24日)。これは、ほぼ当「診断録」の前号(4月22日号)で 予測したとおりの推移だが、同21日にアテネで始まったギリシャ政府とEU、IMFとの協議により融資条件などを詰めるとされた期限(5月15日)よりは援助要請が早まった。
 これは、市場でのギリシャ10年国債の利回りが22日終値(NY市場)で9%にまで上昇した(NYタイムス電子版、23日)ためである。すなわち、このような高金利でなければギリシャが自力で市場から返済資金を調達できないとなると、そのための利払い負担増で、既定の財政赤字削減計画自体が実行困難に陥るからである。
 このようなギリシャ国債の支払危機を契機に、もしギリシャが支払不能(デフォルトdefault)に陥ったとするとなにが起きるのか、あるいは一般に国家のデフォルトでなにが起きるのか、という問題への関心が高まっている。
 
 私は当「診断録」3月22日号の中で、仮にギリシャが外部から援助資金を得られず、また自力で市場から資金を調達できなかったとするとどうなるか、という問題についてのブンデスバンク(ドイツの中央銀行、つまりECB=欧州中央銀行の構成銀行)のザラツィン理事の発言を紹介したが、同氏は次のように語っていた。「ギリシャはその時には、どの債務者でもすることをしなければならない−それは支払不能(ドイツ語では insolvenz、英語のinsolvency と同義)を通告することだ」と(フランクフルター・アルゲマイネ電子版、3月19日号)。
 また、その「診断録」へのコメントで、[POCHIKO1BAN] さんは「一国がデフォルト宣言をすると言うことは……ギリシャの場合、EUとの関連でどのような方向が考えられるのでしょうか」と問うていた。
 たしかに、最近、国家のデフォルトとか、破綻といった言葉、さらには破産といった言葉さえ頻繁に聞かれるようになった。ほかならぬ日本が「破産」の危機に瀕しているとする発言も聞かれるから、このあたりでこれらの言葉の意味を明確にしておく必要があると思う。
 
 まずデフォルトの意味だが、COD(Compact Oxford English Dictionary)によると、「義務を果たせないこと、とくにローンの返済に失敗すること、または法廷への出廷義務を怠ること」である。経済的には、要するに、債務返済の不履行である。
 また、三省堂「大辞林」によると、デフォルトとは「債務不履行。債務者が契約上の給付義務を果たせない状態。債権者が債務不履行と判断し債務者、第三者に対して行う宣言をデフォルト宣言という。これにより債権者は返済期限が到来しなくても融資分の回収が出来る。発展途上国の累積債務返済危機にもいう」と、突っ込んだ説明を行っている。しかし、一般には、債務者が債務不履行を宣言することもデフォルト宣言と呼んでいる。
 では、いずれにせよ、債務者が債務を履行しない場合にはどうなるか。債務者が民間人(個人あるいは企業)である場合には、日本の民法では「債権者は、その強制履行を裁判所に請求することができる」(414条)。 
 
 債務の強制履行のもっとも厳しい方法が「破産」である。日本の破産法によると、この法は「債権者その他の利害関係人の利害及び債務者と債権者の間の権利関係を調整し、もって債務者の財産等の適切かつ公平な清算を図るとともに、債務者について経済生活の再生の機会の確保を図る」(第1条)ことが目的とされている。要するに債務者の財産を清算する法的手続きである。
 これをもう少し平たく言うと、破産とは「債務者がその債務を完済することができない状態に陥った場合に、総債権者に公平な弁済を受けさせようとする裁判上の手続き」(広辞苑)を言う。つまり、債務者の資産を処分して、債権者の間に公平に分配することである。端的に言うと、破産者はその債務を弁済するためにすべての財産を差し出さなければならない、ということだ。
 つまり、簡単に言えば、破産とは「家産を破り失うこと」(広辞苑)である。
 これでは、破産者が企業である場合には、当該企業の存立は不可能になる。そこで、可能な限りで債務を弁済しつつ、企業としての存立・再建を可能にする道を用意しようとの趣旨で制定されているのが、日本では民事再生法と会社更生法である。この場合には、裁判所が介在し、債権者の同意を受けて債務者の再生計画あるいは更生計画を立てるとともに、債権の一部を切り捨て、あるいは支払い延期などをして、企業再建に必要な最低の資産を残して債務者の再生あるいは会社更生を図ろうとするものである。
 
 だが、国家が債務者である場合には、破産して、その国家の財産を債権者(とくに外国の)に差し出して債務を清算することなどはできない。また、そうした清算を強制できる国際機関があるわけではない。強いて債務不履行国にその履行を強制する方法をあげるとすれば、債権国が武力でもって債務国の財産を差し押さえ、取り上げることであろう。しかし、それでは戦争になる。
 また、一国内でのように、債権者(国)と債務者(国)の権利関係を調整して、債権のある部分を切り捨てて債務者(国)の再生を図るような、裁判所のような機関が国際間にあるわけではない。
 したがって、国家が債務不履行に陥った場合には、結局は債権国と債務国が協議して、実行可能な債務弁済計画(延納や長期分割支払いなど)をたて、実行する以外にはない。そうした場合には、裁判所ではないけれども、例えばIMFが債務国に融資を行いつつ、債務国の債務弁済と再建の計画を援助(指導)することができる。
 
 結局、デフォルトを宣言した国家は、その国家の資産を債権国に差し押さえられ、取り上げられることはないが、債権国の同意を得た上で、債務の繰り延べ支払を認めてもらう以外にはない。もし、延納であれ、債務について責任を負い、弁済する意思を持たないとすれば、その国家は以後は国際的な融資などを一切受けられなくなるだろう。
 かつて2001年12月にアルゼンチンが対外公的債務についてデフォルトを宣言した際も、債権国との協議を経て後に債務償還を再開している。過去において対外国家債務の支払が行われなかった例としては、ロシア革命(1917年)後の旧ロシア帝国の国債などがあるが、これなどは革命に伴う例外的なケースである。
 ただし、デフォルトに陥った国は過去の債務について支払(返済)ができなくなったのだから、当分は新規の国債発行や借入れによる資金を政府の財源とすることは困難になる。したがって、外国からの援助や国際機関からの融資でもない場合には、財政支出は租税などの収入の範囲で行わなければならなくなる。つまり、デフォルトの結果、急激な財政支出の削減や増税が必要となり、国民の負担が顕著に増加するわけだ。
 
 このように、国家がデフォルトを宣言した場合、それはさし当たり債務不履行を意味するが、しかし国家は決して「破産」はしない。ところが、財政赤字が増大したり、国債が累積したりすると、その“国家は破産する”といとも簡単にいう(脅かす)例が後を絶たない。
 最近でも、例えばギリシャ危機の問題を報じた4月24日の日経に、「日本経済の真実」と題する図書の全4段の大広告が掲載されていたが、その広告のうたい文句は「ある日、この国は破産します」というおどろおどろしいものだった。この程度の本が「日本経済の真実」を語ると称するのだから恐れ入る。
 それはとにかく、今回のギリシャの場合はデフォルトを宣言したわけではない。同国はユーロ諸国とIMFからの融資を受けて国債の返済と新規募集を続けると同時に、EUとIMFの管理下で財政の再建を進めることになる。この国際的管理の下では、ギリシャの財政赤字削減策は既定のものより厳しくならざるを得ないだろうが、ギリシャが危機から抜け出すにはその点で実績を上げる以外に道はない。
 
 ギリシャ危機との関連で、日本の財政赤字問題があらためて論じられる傾向が見られる。4月22日に開かれたG7(先進7ヵ国)の財務相・中央銀行総裁会議に出席した菅直人副総理兼財務相も、会議後の記者会見で次のように語っている。すなわち、G7では「ギリシャ問題が議論の相当部分を占めた。ギリシャを他山の石として(日本も財政再建を)しっかりやらなければならない」と(読売、23日夕刊)。また、24日午後7時のNHKニュースは、ギリシャ 問題の関連で主要国の政府債務残高の対GDP比を示し、日本のそれがGDPの2倍近くで世界最悪であると解説・警告していた。
 たしかにこれまでの実績はその通りで、これは歴代自民党政権が残した年々の財政赤字の“遺産”だ。しかし、2010年度の財政赤字の対GDP比の見通しは、日本は9.3%で09年度の11.3%よりも低下しているし、また英国(10.9%)、米国(10.6%)(注)よりも低い。ドイツはさすがに3.5%の見通し(予算。ただし09年の1.4%よりは悪化)である(財務省ホームページ)。
 こうした日本の財政改善は、私が繰り返し述べてきたように、財務省主導による他国に先駆けての“出口戦略”の導入の結果である。
 
 (注)米国の2010財政年度は09年10月〜10年9月で、日本、英国の同年度より半年先行している。米国の11年度(10年10月〜11年9月)の同比率は、予算教書によると、8.3%に改善する見通し。
 
 だから、日本の財政赤字が大きいことは事実だが、それを今なお世界最悪だと声高に叫ぶことは、早期に増税路線を引こうとしている財務省や自民党などの策謀に乗ることになるだけだ。      (この項 終り)

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今日の診断録を読んで、国家が債務不履行に陥った場合には、債権国と債務国が協議して、実行可能な債務弁済計画を立て実行するしかないことが分かりました。
ギリシャ政府は国民がどんなに反対しても、税収増と歳出削減により財政赤字削減策に努め債務弁済を行わなければなりません。
ギリシャと日本は財政赤字が大きいことは共通していますが、日本は他国に対して債務がある訳ではない点が違うことに留意したいと思います。

2010/4/26(月) 午前 6:57 [ ねずみ ]


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