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4月27日に東京第5検察審査会(全国に165の審査会がある)は、小沢一郎・民主党幹事長の資金管理団体「陸山会」の政治資金規正法違反事件で刑事告発されながら不起訴(嫌疑不十分)となった小沢氏について、「起訴相当」とする議決を全員(11人)一致で行った。
他方、同日(欧米の現地時間)には、米国の格付け会社S&P(スタンダード・アンド・プーアズ)がギリシャとポルトガルの長期債務(国債)格付けを引き下げ、ギリシャについてはBBBクラスからBB+へ下げて“ジャンク債(junk bond 、不良債券)扱い”とした影響で、欧米市場で株式相場が大幅に下落、その波紋は28日の東京その他のアジア市場へも広がった。 このうち、ギリシャ問題については、要するにS&Pはギリシャにデフォルトの可能性があると言ったまでであり、ギリシャ状勢及び資金援助を予定しているEU(欧州連合)とIMFの側に関して新たな情報を提示したわけではないので、後日に取り上げることとしたい。 さて、全国紙5紙(読売、朝日、毎日、日経、産経)が28日に報じたところを総合すると、27日の検察審査会による小沢氏についての「起訴相当」議決には、二つの側面があると整理できる。その一つは法的側面、もう一つは政治的側面である。 まず問題の法的側面とは、この検察審査会による「起訴相当」議決のあと、東京地検特捜部が再度事件の捜査を行うわけだが、その先、事態はどう展開するかという問題である。 この点は、先に検察側(特捜部)が小沢氏を不起訴にした理由が「嫌疑不十分」であったことから見て、特捜部が捜査をし直しても起訴に持ち込むことは困難であるようだ。すなわち、当初に検察が不起訴とした際の理由が「起訴猶予」である場合は、起訴すべき「証拠はあるが起訴しない」ことを意味するのに対し、小沢ケースのように「嫌疑不十分」である場合には「証拠はない」ということなので、新たに証拠を発見しない限り、捜査のやり直しであらためて起訴に持ち込むことはまず不可能だという(朝日、毎日)。 しかし、検察による再捜査の結果も「不起訴」となった場合でも、検察審査会が再度審議をして、もう一度「起訴相当」 の議決を行うと、こんどは裁判所が検事役に選んだ弁護士が実際に小沢氏を起訴し、裁判が行われることになる。
仮に、検察の再捜査の結果で起訴という結論になった場合には、もちろん裁判が行われることになるが、もし再捜査の結論が不起訴となっても、検察審査会が二度目の審査でも起訴相当の結論を下す公算が大きいので、結局、事件が裁判に持ち込まれる公算が大きい。この意味では、小沢氏がいずれ「被告」となる公算は大きいと見るべきだろう。 だが、検察当局が二度にわたって不起訴とした場合には、それだけ小沢有罪の証拠集めが困難だったわけだから、裁判においても小沢氏を有罪とすることは容易ではないようだ。小沢氏が検察審査会の結論が出た日に、いち早く「自らやましいところはなにもない」と強気の発言をし、幹事長職を続投する決意を表明したのも、そうした無罪への自信があるからだろう。 では検察審査会は、裁判に持ち込めば有罪の判決が出ると予想(期待)しているのだろうか。それは、必ずしもそうではなく、審査会としては、なによりも裁判という公の場で事件が公明に審理されることを期待しているのである。この点は、今回の審査会の議決において、その結びの部分で、「被疑者を起訴して公開の場(裁判所)で真実の事実関係と責任の所在を明らかにすべきである。これこそが善良な市民としての感覚である」(読売、産経)と述べていることから明瞭だ。
この議決文は、今回の検察審査会の結論が持つ政治的側面、その重要性を浮かび上がらせている。すなわち、そもそも審査会のメンバーは、選挙人名簿(有権者)から、くじで(つまり無作為で)毎年約14,000人に一人の割合で、全国165の審査会に計約7300人が審査員に選ばれる(毎日紙)のだから、大まかに選挙民の意識を代表していると見ることができる。そうした審査員たちが小沢氏に関する捜査記録を調べた上で全員一致で起訴相当としたことは、その意味と世論に与える影響は極めて大きいと見るべきだ。 したがって、今回の審査会の議決は、今夏(7月)の参院選挙に大きく影響すると見ることができる。検察審査会の議決に基づく検察当局の再捜査は原則3ヵ月以内とされているので、おそらく参院選挙前までにその結論が出るのではないか。そうすると、その結果が起訴と出ればその時点で小沢氏はこの事件の被告となるし、不起訴となれば検察審査会が第2回目の審議を始めるが、この場合もその結論が起訴となるのはほぼ確実という展望になる。
いずれにせよ、次の参院選に際しては、小沢氏が幹事長として続投していれば、民主党は刑事事件の被告である、あるいは被告となると予想されている幹事長の下で選挙戦を戦うことになるわけだ。しかも、民意の過半は、各種世論調査で示されているように、これまでも小沢氏は幹事長を降りるべきだと考えてきている。その小沢幹事長が刑事被告人となったとすると、あるいはなる見込みだとすると、そうした幹事長を降ろせない民主党が参院選で敗北することは必至だろう。 それに加えて、もし鳩山内閣が普天間問題で成果を出せないとなれば、民主党は小沢・鳩山問題でダブルパンチをこうむることになる。 今や民主党は従来の小沢頼みの矛盾に直面している。これまで同党の大勢が小沢氏の党指導にしたがってきたのは、氏の下では選挙に勝てる、という期待があったからこそである 。ところが今では、小沢氏の下では選挙に負けることが確実という状況になってきたのだ。ここから出て来る結論は、民主党が退勢を逆転するためは、遅まきながら小沢氏を幹事長職から解任する以外に道はない、ということだろう。
検察審査会の起訴相当の結論が出たその日に、小沢氏は間髪を置かず幹事長「続投」の宣言をしたが、本来は幹事長職への就任も続投も本人が決めるべきものではない。小沢氏は無視しているが、民主党の規約(党則)によれば、「幹事長は、国会議員の中から代表が選任し、党大会または両院議員総会の承認を得る」(第13条3項)こととされている。したがって、幹事長を続投すべきかどうかは、本来、まず党代表の判断を仰ぐべき問題なのだ。 ところが鳩山代表は28日午前には、はやばやと「小沢幹事長にはこのまま頑張っていただきたい」(各紙、28日夕刊)と続投を認めてしまった。鳩山首相は、ここでもまたマイナス点を稼いだわけだ。 では民主党の大勢はどうするのか。たまたま27日夜には、前原誠司国土交通相の「誕生会」が都内のホテルで開かれ、仙石由人国家戦略相や枝野幸男行政刷新相ら「前原グループを中心とする約50人」が集まった(朝日)が、枝野氏はその会合前に記者団に対し「数日のうちにいろんな動きがある」と述べている(同前)。これなど、小沢幹事長降ろしに向けた民主党内の動きの示唆と見ることもできる。
上述の民主党規約を解釈すれば、幹事長を解任するには「党大会または両院議員総会の承認」が必要だが、いまは党大会開催は無理として、両院議員総会は「代表あるいは常任幹事会の議決による要請」(第7条5項)によるか、「党所属国会議員の3分の1以上の要請があった場合」(同条5項)に開催される。ちなみに、現在の民主党議員は衆院308人、参院115人の計423人、その3分の1は141人である。 したがって、民主党が小沢降ろしを実現する正道は、それを是とする議員の賛同を求めて、中心メンバーがさしあたり両院議員総会開催要請の署名運動を進めることではないか。 これまでの民主党の習性では、党議員の多数は小沢氏あるいは小沢派の報復を恐れて、そうした党内での小沢批判の運動をほとんど行ってこなかった。 しかし、今や参院選直前である。民主党参院議員のうち53人は今夏の選挙での改選組である。この議員たちにしてみれば、いま小沢氏が退陣するか留任するかは、おそらく自身にとっての死活問題であろう。また、衆院議員のうちのいわゆる小沢チルドレンにしても、選挙に勝てるからこその小沢派であって、その小沢氏が選挙にマイナスに作用するとあれば、衆院選は3年先であるとはいえ、安閑としてはいられないはずだ。 では、仮に上述のような両院議員総会開催要請の賛同者が民主党内に増えてきたとして、そのことが実際に小沢解任に結びつくのだろうか。
私はその場合には、鳩山首相(党代表)自身が 両院議員総会の招集に動き、小沢解任の構えを見せる可能性があると思うし、小沢氏自身がそうした党内の動きを見て辞任を決意する可能性も大きいと見る。鳩山氏にすれば、党内の大きな潮流があれば、小沢氏への遠慮(恐れ?)も薄れるだろう。また、小沢氏は、意外に気が小さいようだから、党内の実質反小沢の動きが強まってきた場合には、それに耐えることが困難だと思う。 もちろん、5月末までに普天間問題を解決するという公約を守れなかった場合、鳩山首相自身が責任をとって辞任すれば、鳩山・小沢のダブル辞任もあり得るし、逆に民主党内の小沢解任の運動が盛り上がらない場合、ましてそれが表立って始まらない場合には、参院選で民主党が大敗することになろう。いずれにせよ、いよいよ政局緊迫の5月を迎える。 (この項 終り)
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エコノミストの時評
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