文太郎の日記帳

景気、財政赤字、国際経済、政治・政局、世界情勢、日米関係など現代の諸問題を広い視野で解明します。

エコノミストの時評

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ユーロは防衛される

 ギリシャ国債の支払危機の問題は、ギリシャに対するユーロ圏加盟国とIMFによる救済融資が決まったにも関わらず、ポルトガル、スペインなど南欧のユーロ加盟国の国債支払不安へと波及し、さらには5月4日以降(東京は連休明けの6日から)、世界各地株式市場での株価の大幅下落を引き起こした。 NY市場のダウ平均は4日から連続4日間で771.4、6.9%下落(直前の5月3日終値に対し)、フランクフルト市場のDAX指数は同様に451.83、7.3%下落、東京市場の日経平均は6,7の2日間で692.81円、6.3%下落した。
 その結果、ギリシャに発した危機(いわゆるソブリン危機)は、ユーロの危機から、世界経済危機へ発展する気配を示すに至った。
 こうした危機に対処するため、ユーロ圏16ヵ国は5月7日に首脳会議を開き、ギリシャに対する支援の融資を正式決定するとともに、「ヨーロッパ安定メカニズム」の創設などの新たなユーロ防衛策を決定、またG7(先進7ヵ国)の財務相・中央銀行総裁も7日に緊急電話協議を行い、カナダ(7ヵ国にロシアを加えたG8の議長国)のフレアティ財務相によると、G7は「ギリシャの財政問題の影響を封じ込める必要があるという切迫感を共有」し、「明確な対応が必要との見解で一致」した(ブルームバーグ電子版、8日)。 
 
 顧みると、ギリシャ一国の財政危機の問題がユーロ危機へ発展したのは、
①ギリシャがユーロ圏に所属し、他の15ヵ国と共通の通貨ユーロを国の通貨としているために、ギリシャの財政危機→通貨危機は即ユーロ危機となったこと、②そのように、加盟一国の危機がユーロの危機となり得るにもかかわらず、ユーロを生み出した欧州通貨同盟(EU=欧州連合の条約に基づき、EUの内部に設立)は、加盟国の危機を他の加盟国によって、あるいは通貨同盟全体で救済するシステムをあえて用意しなかったこと、③ユーロ圏諸国は、通貨は共通でも、独立国として独自の財政を持つが、各国が財政規律(赤字はGDPの3%以内)を守るという1点で歩調を合わせる取り決めだったにもかかわらず、この規律が守られなかったこと、④規律をいちじるしく逸脱した国を通貨同盟から切り離す(排除する)規程を用意していなかったこと、などが影響している。
 
 上記のうちの②は、もしそのような救済を安易に行うことになると、救済を引き受けた国が共倒れになる危険性があるからであろう。そもそも、ユーロ圏に限らず、ある一国が他の国を支援することを義務づけられているような例はないのである。そして、欧州通貨同盟はもともと加盟国の相互援助組織でもなかった。
 また③と④は、規律に大幅に違反するような国がユーロ圏に加盟することを想定しなかったためと推定できる。逆にいうと、通貨同盟は加盟国を安易に増やし過ぎたともいえる。
 この②の点から、ドイツは対ギリシャ援助に厳しい条件(ギリシャ自身の厳格な財政改善措置の決定と実行など)を課そうとし、またその援助に個々の加盟国ではなく、IMF(世界大の国際組織)の出動を要求したのだった(当「診断録」3月22日号参照)。
 他方でフランスは、早くからユーロ圏自身によるギリシャ救済に熱心で、他面、IMF資金の活用に反対だった。これは、フランスにとっては「ユーロは米国の支配権に対するヨーロッパの挑戦の卓越したシンボル」であり、したがって「IMFのような多国的機関の介入は避けるべき」なのである(NYタイムス電子版、4月12日)。 
 
 このような加盟国間の考え方の相違があったから、ユーロ圏としての対ギリシャ援助方針の具体案が決まるまでに時間がかかったのであり、それをユーロ諸国は危機への対応が遅いと言って非難するのは無理である。まして、(在パリのある「政治科学者」が語ったそうだが)こうしたユーロ圏の対応を、2008年のリーマン危機に際しての米国当局の迅速な対処と比較して、「出来事の後を追いかけている」と批判するなど(NYタイムス電子版、5月7日)はお門違いである。今さらいうまでもないが、ユーロ圏そしてEUは、一つの国家・ヨーロッパ「合衆国」ではないのだ。
 他方でドイツもユーロの価値(為替相場)の下落を放置できない。日本的(あるいは日本の経済界的、マスコミ的)発想からすると、円安は輸出にプラスということでむしろ歓迎されるのだが、ドイツではユーロ安は輸入物価の高騰、外国旅行コストの上昇などの点で国民生活を直撃し、そうした結果をもたらした政府への国民の批判を高めることになる。要するに、政治が国民生活の方へ向かざるを得ないのだ。
 
  だから、ユーロ防衛という点ではフランスもドイツも他のユーロ圏諸国も一致できる。したがって、時間はかかったが、3月25日にはユーロ圏16ヵ国の首脳会議でギリシャへの資金支援の「パッケージ」(圏内各国からの融資とIMFの融資)がとりまとめられた。
 そして4月21日にはその援助の具体的条件(ギリシャ政府による追加的財政緊縮措置の決定など)を取り決めるための協議が、ギリシャ政府とEU及びIMFとの間でアテネにおいて開始され、またギリシャ政府も同23日(金)にEUとIMFに対して正式に援助要請を行った。
 こうして、ギリシャ国内で政府の緊縮政策への強い反対運動があったものの、事態がギリシャのデフォルト(支払不能)回避へと具体的に動き始めた矢先の同27日(週明けの火曜日)に、米国の格付け会社S&P(スタンダード・プアーズ)が突如ギリシャとポルトガルの長期国債格付けの引き下げを発表、ギリシャ国債についてはこれをジャンク債(不良債券)扱いとして、事実上でギリシャがデフォルトに追い込まれるとの見通しを示し、市場にショックを与えたのだった。 
 
 まさにその影響で4月27日には欧米の市場で株式相場が大幅に下落(時差のため東京は28日から)、その後5月7日(金)に至る今回の株、為替、国債の各市場での動揺と相場下落基調(為替ではユーロ、国債ではギリシャ、ポルトガルなどの)が始まったのだった。格付け会社の“指揮”の下、ヘッジファンドなどの投機筋が一斉に走り出した感がある。
 5月7日のユーロ圏首脳会議後の記者会見でサルコジ仏大統領は次のように激しく投機業者を攻撃した。ユーロ諸国は「投機者には無慈悲に立ち向かう」し、「彼ら(投機者)は間もなく、彼らに何が待ち受けているかをはっきりと知るだろう」と(NYタイムス電子版、5月7日)。
 私は、この点ではサルコジ氏の見解に同感である。
 
 たしかに、危機がギリシャからポルトガルやスペインなど財政面で問題を抱えるユーロ圏の他の国に“飛び火”する危険性はある。しかしそれは、07年〜08年に発生した、米国の住宅バブルの崩壊からサブプライム・ローンやそれを担保にした証券などの、いわゆるデリバティブが次々と連鎖的に破綻して大きな金融危機が起きたのとは状況が大きく異なる。ギリシャ危機とポルトガルなどの財政危機は根が同じだとはいえるが、連鎖で直接につながってはいない。
  仮に、ユーロ諸国とIMFがギリシャへの支援融資をキッチリと、かつ徹底的に行い、同国をデフォルトから防げば、危機が他の国へ飛び火することも防げる。その意味で、問題の核心は依然としてギリシャである。
 
 そのギリシャでは、国民の緊縮政策への反対は相当に強烈だが、とにかく政府は5月6日に新たな緊縮措置を盛り込んだ法案を議会で成立させ、一歩踏み出すことに成功した。またギリシャを支援する側では、7日にはフランス、そして最もギリシャ支援に慎重だったドイツでも、議会が支援に必要な措置を承認した。
 こうして、直接の当事者によるギリシャ支援の態勢は整った。また、ユーロ諸国は、「ヨーロッパ安定メカニズム」など、ユーロ防衛の新しい手段を導入することとし、その細目を9日に開かれるEU財務相会合で決定する予定である。
 さらに、G7は7日の電話協議、及びオバマ米大統領とメルケル独首相との電話会談を経て 、ユーロ諸国のギリシャ支援を支持・支援する方針で合意した。ユーロ危機が米国の株式相場の4日続落へと波及するに及んで、米国もユーロ危機を“対岸の火災”視していることができなくなった。
 
 こうして、“ギリシャ城”をめぐって 、それを守るギリシャ政府・EU・G7(英独仏伊の欧州4ヵ国のほかは米加日の3ヵ国)の連合軍と、攻め方(売り方)であるヘッジファンドなどとの攻防戦が展開されるわけだ。兵法の常道からすれば、質・量の兵力で圧倒的に優勢な連合軍の勝利は確実であろう。
 もちろん、問題の根底にあるのはギリシャ及びその他ユーロ加盟国の財政危機である。これら諸国が、またユーロ圏全体として、その財政の立て直しに成功することが不可欠である。
 日本もまた財政建て直しの課題に直面しているが、当「診断録」前号(5月5日号)で見たように、いま焦眉の危機に直面しているわけではない。今回のユーロ危機に際しても、円と日本の国債は、ドルと米国債とともに「安全資産」として市場で選好されている。この点は、日本国債危機説を強調して止まない一部マスコミにとっては当て外れだろうが、日本としては慌てることなくじっくりと財政建て直しの最善策を模索すべきであろう。 (この項 終り)
 
 (追記) 当「診断録」前号へのコメントでswimming さんが、財政改善措置を推進するには「箱物」などのかたちでの公共投資を見直すことが必要と述べていたが、別にそれに異存はない。むしろ、鳩山内閣が「コンクリートから人へ」というスローガンの下、公共投資をかなり削減していることは周知のことと思う。また、私が財政改善に向けての政府の意思という場合、それはいまの鳩山内閣に限らず、将来にわたっての日本政府の意思という意味であることを付け加えておく。

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