文太郎の日記帳

景気、財政赤字、国際経済、政治・政局、世界情勢、日米関係など現代の諸問題を広い視野で解明します。

エコノミストの時評

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「普天間」迷走の根因

 鳩山由起夫首相の普天間基地移設構想は、結局、沖縄県内名護市辺野古への移設という自民党内閣時代に日・米・地元で合意した「現行計画」の一部を修正することと、基地機能の一部(ヘリコプター部隊)を鹿児島県の徳之島へ移すという案となり、移設先は「最低でも県外」といってきた首相の公約を放棄した。これでは、沖縄県民でなくとも、これまで「腹案がある」といってきた首相の案とはそんなものだったのか、とがっかりさせられるし、またその迷走ぶり(普天間問題に限らないが)にあきれてしまう。
 鳩山氏の普天間問題での迷走は、そもそも「普天間の基地は海外移転が望ましいが、最低でも県外移設」(09年8月、衆院選挙に臨む公開党首討論での発言)という問題の立て方自体にあった。それ以後、「できれば海外、最低でも県外」というのは、普天間問題についての政府・民主党、社民党、沖縄県民などのいわば共通スローガンとなった。しかし、あたかも修学旅行先を決める高校生の希望表明と選択のようなこの考え方は、普天間問題に当てはめると、まったく異質の二つの選択肢になるのだ。
 
 移設先は「県外」というときには、それは沖縄県以外であれば(論理的には日本国内の)何処でもよい、という意味になるが、「海外」あるいは「国外」といえば、それは結局は普天間基地の日本国内からの撤去ということになり、日本政府がその移設先を考えるという問題ではなく、もっぱら米国との交渉の問題ということになる。だから、その場合には、連立与党の社民党が今も主張する「グアム、テニアンが一番」(5月3日、憲法記念日における福島みずほ党首の演説、社会新報、5月12日)というような日本の「案」は無意味なのだ。
 しかも、基地の沖縄(日本)からの撤去の場合には、米軍の日本駐留を認めている安保条約第6条に抵触することになるから、結局は同条約の改定ないし解消(同条約第10条により、1年前の通告で条約の終了が可能)が必要になる。
 
 だが、鳩山内閣と民主党にはそこまでの構想と覚悟はなかった。また、昨年の総選挙でもそこまでは約束しなかった。実際には、「できれば海外、最低でも県外」というスローガンは、ただ単純に「沖縄県民の負担を軽減したい」という気持ち(それ自体は首肯できるが)からのレトリック(美辞、修辞)で 、日本の外交・防衛政策を検討した上でのものではなかったのだ。
 現に、いまになって鳩山首相は、「(昨年の衆院選の)当時は海兵隊が必ずしも抑止力(戦争の―引用者の注)として沖縄に存在しなければならないとは思っていなかった」と述べている(5月4日、名護市での記者会見。日経、5日)。ここで鳩山首相が「抑止力」で何を考えているかも疑問だが、すくなくとも、同首相は普天間問題を外交・防衛政策上の観点から検討してこなかったことを認めたわけだ。
  もし鳩山首相が普天間の移設先を国内にしぼり、早くからそのための努力(かりに機能の一部を徳之島へ移設する案にせよ)に集中していれば、いずれにせよ、方向・結論はもっと早く出せただろう。
 
 実際、米国は戦略的な必要から普天間の基地を国外へ移転させる意思はまったくもっていないのである。では、なぜ米国は普天間の代替基地を沖縄に求めるのか。
 実は、この点は、普天間移設の現行案(辺野古案)を是とする人たちにもよくはわかっていない。例えばあるマスコミは、その点を「日本に駐留している米軍は…日本を守る任務を担っている」(日経社説、5月5日)という一言で片付けている。
 だが、日本を守るのは基本的には日本の自衛隊である。その自衛力だけでは不十分であるために日本が防衛面で米国に依存しているのは、「核の抑止力」、いわゆる核の傘である。しかし、米海兵隊は核の傘ではないから、その意味での抑止力ではない。また、日本は非核3原則で核兵器の日本への持ち込みを認めていないから、一般に在日米軍基地が核のために必要だとの議論も成り立たない。
 では、沖縄の米海兵隊は何のために駐留しているのか。
 
 普天間基地とは「米軍海兵隊普天間飛行場」のことだが、その在沖縄海兵隊は「米軍の第3海兵遠征軍の中核。砲兵部隊を含む第3海兵師団、第1海兵航空団、第3海兵役務支援群などで構成、キャンプ・ハンセンには地上部隊が駐留し訓練場も備える。普天間飛行場には固定翼機16機、ヘリコプター36機を配備、朝鮮半島や台湾海峡での有事をにらみ、中東にも出動する」(産経ニュース、5月4日)という。
 つまり、沖縄の米海兵隊は、攻撃型の軍隊なのだ。そもそも米海兵隊は、陸海空の各軍及び沿岸警備隊と並ぶ米国の5軍の一つで、主として遠征、なかでも強襲敵前上陸を担う攻撃的軍隊で、俗称「殴り込み部隊」とも言われている。だから、沖縄の海兵隊が「日本を守る」ために駐留すると考えるのは全くの“安保ボケ”で、実際には上記産経が伝えているように(沖縄から)海外への出動を主任務としている。鳩山首相はそのような米海兵隊をどのような「抑止力」と思ったのだろうか。
 
 この在沖縄米海兵隊の任務について、毎日新聞(4月1日)は以下のような情報を伝えている。
すなわち、2月17日、東京の米国大使館で、日米防衛当局幹部による会合がひそかに開かれた。呼びかけたのは、来日中の米太平洋海兵隊(司令部ハワイ)のキース・スタルダー司令官(アジア太平洋に展開する海兵隊の最高指揮官)で、日本側からは番匠幸一郎防衛省陸上幕僚監部防衛部長らが参加。
 司令官は普天間飛行場移設問題について、現行計画への理解を求める「公式見解」を述べたが、会合の最後になって日本側の出席者の一人が「そういう説明ばかりだから海兵隊は沖縄に必要ないと言われるのです」と反論した。
 司令官はしばし考えたあと、次のように本音を明かした。「実は沖縄の海兵隊の対象は北朝鮮だ。もはや南北の衝突より金正日体制の崩壊の可能性の方が高い。その時、北朝鮮の核兵器を速やかに除去するのが最重要任務だ」と。
 この米司令官の説明は、なにか映画の筋書きのようで、にわかには信じ難いが、しかし在沖縄海兵隊の攻撃的性格を例示したものとしては聞き逃せないものがある。
 
 上記の毎日紙は続けて述べている。「米軍は沖縄駐留の意義を『北朝鮮の脅威』、『中国の軍拡』への抑止力や『災害救援』と説明してきた。しかし、司令官の口から出たのは、『抑止力』よりは『朝鮮有事対処』。…初めて本音を明かした瞬間だった」と。
 この毎日紙の記事を私に知らせてくれた友人のS.T.氏は、こうした米国の本音を読めば、「佐世保と大村地域に海兵隊を置くのが正解」だと主張していた。大村(長崎県)とは、海上自衛隊大村航空基地(軍民共用の長崎空港のA滑走路の部分)のことで、北朝鮮に非常に近いし、佐世保基地(米軍、海上自衛隊、陸上自衛隊の3者の施設群)にも比較的近く(同一県内)、その佐世保は米海兵隊が使用する強襲揚陸艦の母港でもある。   
 実はこの案は、普天間の代替施設を検討する過程で防衛省によって出されたものだが、「海兵隊の訓練に適した地域が近隣に所在しないために見送られた」との説がある(Wikipedia)。
 
 それに、米国としては沖縄から離れた(大村のような)地域に普天間の代替基地を設置することには賛成できないのだと私は思う。それは、沖縄は米軍にとって北朝鮮での有事に対処するとともに、中国本土と台湾を監視・牽制するのにも必要な「前線基地」だからだ。
 特に最近、米国では東・南シナ海やフィリッピン海、太平洋における中国海軍の活動強化に対する警戒感が強まっている。米国国防省筋と軍事アナリストによると、「中国軍はその海軍力を中国沿岸をはるかに超えて、中東の石油積出港から、米国海軍が長らく支配してきた太平洋の海上輸送レーンにまで拡大しようと努めている」(NYタイムス電子版、4月23日)。 
 また、このNYタイムスによると、中国は「数年内に空母艦隊を展開すると公式に確認」、さらに「戦略的地域で衝突が勃発した場合に、その水域に入ろうとする外国の船舶を防ぐことができる高度な潜水艦艦隊を開発中」である。
 そうした動きに対応し、米国防省は「最近その潜水艦を大西洋から太平洋へ移し、核装備の攻撃型潜水艦の大部分を太平洋に配備」、「ローテーションを組んでグアムから展開し始めた」という(同)。
 
 沖縄は、このような役割(だけではないが)のグアムと結ぶ、太平洋西辺における米軍の前線拠点としての位置を占めている。米国が簡単には沖縄を手放さないわけである。したがって、普天間基地を移設するとしても、米国は可能な限りその代替地は沖縄の内部に求めようとするのであろう。
 だから、普天間移設の「現行案」の代案は、同基地の完全撤去と返還を要求するのでない限りは、そもそも極めて限られた範囲のものでしかあり得なかった。そのことを念頭に置くと、「できれば海外、最低でも県外」という鳩山首相の約束の幼稚さ、軽さ、そらぞらしさが一層はっきりしてくる。
 このように、鳩山首相は重要な外交上・防衛上の問題の処理にほとんど無知で当った無責任さ、「最低でも県外」と約束した上で沖縄県民を裏切った罪、自ら普天間問題の決着は5月末までと約束しながらそれを破った罪により、首相を辞任(内閣が総辞職)するのが当然だと思う。   (この項 終り)

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全国民が「我が事」として認識出来るか否か!

2010/5/14(金) 午前 4:36 1082001(紫音)

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今日の診断録を読んで、米軍が、沖縄の基地の主目的を北朝鮮での有事に対処することや、中国本土と台湾を監視・牽制する前線基地として位置ずけていることを国民全体が認識した時、世論は「沖縄から基地を撤去し、国内移設も認めない」でまとまるように思いました。
その場合には、安保条約の改定が議論されることになりますが、米国は、安保条約が片務契約であることを主張し、日本側にプラスになるばかりの改定にはならないと思われます。この案件は色々なことが複雑に絡んで単純ではないことは良く分かりました。

2010/5/15(土) 午前 6:59 [ ねずみ ]


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