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鳩山由紀夫首相が5月28日、米軍普天間飛行場移設問題で、政府の対処方針の閣議決定に反対した社民党党首の福島みずほ消費者・少子化担当相を罷免したことで、福島党首は「私を罷免することは沖縄を切り捨てると同時に、社民党を切り捨てるということだ」(各紙、29日夕刊)と批判、社民党として鳩山連立政権から離脱することを決意し、30日に全国幹事長会議と常任幹事会を開き、この方針を正式決定した(各紙電子版、30日)。
では、その場合に鳩山政権はどうなるのか。いくつかの新聞は、社民党の連立離脱という政権にとっての“激震”を受けた民主党内で「鳩山降ろしが始まった」と伝えている(産経、29日、30日など)が、報道にはその裏付けが乏しく、またその見通し(鳩山降ろしの成算)もあいまいだ。 当の社民党も、福島党首が30日夕の日本テレビに出演し、「野党になります」と明言した(読売電子版、30日)のは明快だが、他方で、「昨秋の三党連立合意に盛り込んだ政策や次期参院選での選挙協力については、今後も引き続き民主党や国民新党などと協議する」としている(毎日jp、30日)のは、なんともわかりにくい話だ。 ところで、鳩山連立政権成立の原点を考えれば、政策の対立で一党が連立を離脱するということは、すなわち政権基盤の崩壊を意味するはずだ。
顧みれば、鳩山政権は、①昨2009年8月30日の衆議院総選挙において民主党が圧勝したことを受けて、②同9月9日に行われた民主党、国民新党、社会民主党の党首会談において「三党連立政権合意書」が三党間党首により署名されたことにより、③同16日の国会において「鳩山首班」が選出されたのである。 民主党が衆議院で議席総数(480)の2/3に近い308議席を獲得しながら連立政権を求めたのは、いうまでもなく、参議院においては民主党単独では総議席の過半数には達しないからだ。 このように、鳩山首相は三党連立を前提として国会で(三党議員の賛成投票により)選出されたのであるから、政策対立により社民党が離脱して連立の一角が崩れたならば、鳩山内閣成立の前提が消滅したことになる。仮に鳩山首相がその後も政権を維持したいと考える場合でも、いったんは内閣総辞職をし、新連立政権であれ民主党単独政権であれ、新内閣を前提にあらためて国会で首班指名を受けた上で「第2次鳩山内閣」として出直すのが妥当だ。 ところが、社民党の連立離脱が現実化しても、これまでのところ与野党やマスコミから、こうした原点・原則論が聞こえてこない。
もっとも、連立三党の動きの深層を推測すれば、実際には各党とくに民主党内ではそうした原則論を念頭に置きつつも、当面、鳩山首相と党内の動きを見守っているということかもしれない。 仮に鳩山首相が、公約違反の責任に加え、連立の部分崩壊の責任を負って最終的に退陣すれば、新首相候補(民主党から)の下で、新連立政権が構想されることになるが、この新連立政権にはあらためて社民党も参加(復帰)する可能性もある。なぜなら、社民党としては、鳩山首相が退陣したということで、福島消費者・少子化相(党首)罷免の責任を同首相にとらせた、という大義名分を得ることが出来るからだ。また、普天間問題については、前政権の決定事項ということで、新政権にとっては与件として扱うことが可能になろう。 いまの与党三党には、いずれも、来るべき参議院選挙(現時点では7月11日の見込み)においてはこの三党間の選挙協力を必要とする強い理由がある。その意味では、社民党が参院選挙における成算なしに無条件で連立を離脱したとは考えにくい。
現に、上述のように、社民党は連立は離脱するが民主党・国民新党との選挙協力は続ける、という方針だ。また民主党の方でも、重野安正社民党幹事長が28日夜に小沢一郎民主党幹事長に電話して選挙協力の継続を要請したのに対し、小沢氏は「わかっている。選挙協力はする」と応じたという(毎日、30日)。しかし、政策で決裂して連立は離脱しても選挙は相互協力ということは、選挙民には分かり難い話だ。 そうすると、社民党のいまの動きも、あるいは、来るべき鳩山内閣の総辞職と新連立政権の組織という、上記のようなプロセスを経ての連立復帰を暗黙の前提としたものではないか、とも考えられる。 ここで興味深いのは、福島氏が罷免された28日に、小沢民主党幹事長が福島氏に電話をして、「あなたが正しい」と告げているとの報道だ(読売、30日)。たしかに福島氏の主張は1ヵ月前ぐらいまでの鳩山首相のそれと同じなのだから、小沢氏がそう言うことには一理があるが、鳩山内閣を支えるべき民主党の幹事長としては奇妙な対応だ。もともと小沢氏と福島氏とはよく意思を疎通している仲だといわれているので、小沢氏の単なるリップ・サービスとも考えられるが、小沢氏はすでに“鳩山切り”を内心決意して、そのように語ったのかも知れない。
また社民党の又市征治副党首は29日に宮崎市で講演し、福島罷免問題に関連して、「鳩山内閣はつぶれる。一昨日から民主党の中から鳩山降ろしがとうとう始まった。いまは水面下だが大きな動きになる」と述べ、参院選前の首相退陣は不可避との認識を示した(日経、29日夕刊)。又市氏は、重野幹事長とともに、社民党内では三党協力の継続に積極的な最高幹部の一人として知られているので、それだけに宮崎での奇妙に明快な発言は、上述のようなシナリオ(党レベルでの)を念頭に置いたものとも考えられる。 だが、これまでのところは、民主党内からの有力な首相退陣論が公然とは表面化してこないのだ。マスコミは民主党内の「鳩山降ろし」についていろいろ伝えているが、これまでは、それらは渡部恒三元衆議院副議長のいつもの(影響力に乏しい)鳩山(及び小沢)退陣論 や、何人かの閣僚による危機感表明 、それと出所(発言者)不明の鳩山辞任要求ぐらいであり、まだ公然とした、大きな動きは表面化はしていない。
民主党の最高実力者といわれている小沢一郎氏にしても、現時点でもし鳩山氏に首相退陣を迫った場合には、「では幹事長も一緒に退陣を」と反撃されることを警戒しているとの説もある。 こうした民主党内の微温的な態度は、鳩山降ろしの公然化の機をうかがっているためかも知れないし、あるいは、社民党が連立を離脱しても従来の与党間の選挙協力は継続するという、同党の中途半端な流れに安住しているためかも知れない。 しかし、国民世論がますます鳩山首相退陣論を強めていくことは間違いないだろう。 (この項 終り)
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エコノミストの時評
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