文太郎の日記帳

景気、財政赤字、国際経済、政治・政局、世界情勢、日米関係など現代の諸問題を広い視野で解明します。

エコノミストの時評

[ リスト ]

 6月4日の衆参両院の首班選挙で、新しい首相に民主党新代表(4日の民主党両院議員総会で選ばれたばかりの)菅直人氏が決定した。
 さかのぼって、同2日に鳩山由紀夫首相と小沢一郎民主党幹事長が辞任を決めた直後には、新聞社の世論調査では世論は両氏の辞任を肯定的に評価し、民主党への政党支持率も回復した。その点で、菅新首相は恵まれた環境で選ばれ、スタートした(正式の首相就任は認証式後の8日だが)といえる。
 しかし、新首相は普天間問題の解決という難題を鳩山内閣から引き継いでいる上、民主党内では幹事長を退任した小沢氏が新政権のことを「選挙管理内閣」と呼んで、9月の民主党代表の任期切れ(代表としての菅氏の任期は鳩山前代表の残任期間)をにらんで、早くも反攻の構えを見せている。そうした点で、新政権の前途は安穏なものとはいえない。
 
 まず世論調査。読売が「鳩山首相が退陣を表明した2日から3日にかけて緊急全国世論調査(電話方式)を実施した」結果(同紙、4日)の要点は次の通りだった。
 ①鳩山首相の退陣を「当然」と答えた人の割合は66%、小沢幹事長の辞任を「当然」と答えた人は87%、②政党支持率は民主党29%(前回5月の調査では20%)、自民党18%(前回は20%)。
 また朝日新聞の同様調査(同紙、4日)でも、①鳩山首相の辞任を「よかった」と答えた人は62%、小沢幹事長の辞任を「よかった」とする人は85%、②政党支持率は民主党27%(前回5月には21%)、自民党16%(前回は15%)だった。
 したがって、かねて鳩山、小沢両氏の辞任を求めていた世論は、その現実化に対し賛意を表し、それを実現させた民主党への支持率をかなり回復させたわけである。その点、自民党や公明党などが今回の首相交代を「表紙を替えただけ」と評し(各紙、4日夕刊)、自らも求めていた鳩山・小沢の辞任をまったく評価しない狭量さ・無節操ぶりを示したのと好対照だ。
 
 さて、政治とカネの問題をめぐる違いは別として、鳩山首相から菅新首相への交替を政治家のタイプの違いとしてどう見るかだが、私は端的に言えば「空想的政治家」から「現実主義的政治家」への交替と見る。付言すると、この点でも単なる民主党の「表紙替え」ではない。
 鳩山由起夫氏については、彼が民主党代表に選ばれた昨年5月に、私は「感覚(ピント)がずれた政治家だ」と批評した(当「診断録」09年5月16日号)。この評はかなりの程度に当たっていたと思っていたが、さらによく考えると、「空想政治家」と見る方がより適切だと思うようになった。すなわち、彼は自らの政治の理想を語るが、それと現実とをつなぐ道筋を考えないのだ。だから、現実の政治課題に対して指導性を発揮できないわけである。
 
 それに対して、菅氏は現実政治の課題にまともに向き合おうとする。その点での現実感覚はあると思うが、逆に彼にははっきりした理想や理論が不足しているように思われる。
 だから、簡単に世の議論に流される。例えば彼は財務相であった時、野党やマスコミが一斉に財政健全化と消費税引き上げを求めると、しっかりした財政分析や財政方針を抜きに簡単に消費税引き上げの検討を主張する、といった具合だ。
 また、4日に国会で新首相に指名されたあとの記者会見で普天間問題について語ったとき、「いま『琉球処分』(注)という本を読んで勉強している」という趣旨のことを述べていたが、この問題で悪戦苦闘していた鳩山内閣の副総理だったのに“そういうことも今までは勉強していなかったのか”と驚かされた次第である。その程度の準備と心構えで普天間の難問を解くことが出来るだろうか。
 
(注)ここで菅氏があげた本がどれを指すかは不明だが、琉球処分そのものは次のことを指す。すなわちかつて存在していた琉球王国(1429〜1879)を、明治政府が明治4年(1871年)にこれを鹿児島県の管轄下に置き、同5年にはこれを琉球藩とし、さらに同12年(1879年)には武力による威圧の下でそれを沖縄県として日本本土に編入した過程。この琉球処分に当った松田道之処分官(内務大丞)がその過程での文書などを記録・編纂した「琉球処分」という本(全3冊、明治12年刊)がある。

 その菅新首相は新内閣と民主党の人事につき、4日の時点では、官房長官に仙石由人国家戦略相、民主党幹事長に枝野幸男行政刷新相(二人ともこれまでは小沢批判の急先鋒だった)をあてる意向と伝えられたが、「それでは余りにも反小沢色が強すぎる」との民主党内、とくに小沢派の批判にあい、再検討しているという(各紙、5日)。
 菅氏としては、反小沢の世論の厳しさを考慮して、新政権から出来るだけ小沢氏の影響を排除しようとしたのだろうが、その考えがたちまち揺らぐという点に、彼のよく言えば柔軟さ、厳しくいえば深慮と信念の足りなさが表れているように思える。
 このような反小沢派の動きを背景に、当の小沢氏は4日夜に開かれた小沢グループの会合で、菅氏が選出された同日の民主党代表選につき、「今回は自分が表にたてなくて申し訳なかった。しかし、本番は9月だ」と述べ、菅氏の任期満了(上述)に伴う9月の党代表選で、独自候補擁立を目指す考えを示した(読売電子版、5日)。
 
 もちろん、菅新首相が9月までに首相・党代表として十分な実績を上げれば問題はないが、仮に政策実行や党掌握でもたついたり躓いたりすれば、実際なにが起きるか予断を許さない。
 さて、ここで問題なのは、もし9月の代表選(菅氏側は無投票再選を目指しているが)で菅氏が敗れた場合には、現行の慣行では総理大臣も辞さなければならなくなる、という点である。しかし、そういうやり方は、国会よりも党の決定を上に置く議会制否定のものではないか。過去の自民党政権の下でも、そのときどきの首相はしばしば党大会における総裁選挙のことに気をもまなければならなかった。
  そうした矛盾を避けようと、過去にはときどき「総総分離論」(自民党総裁と総理大臣を分けるやり方)が論じられたと記憶する。
 
  国会よりも党を上に置くそういう傾向は、現在の民主党において一段と強まっているように思われる。
 例えば、鳩山首相が辞意を表明したのは6月2日の臨時民主党両院議員総会においてであり、しかも彼はその時「身を引く」といっただけで、党代表から引くとか、総理大臣を辞任するとは一言も言っていない。しかし、実質的には「党代表の辞任イコール総理大臣の辞任」という意味だった。聞く方は、マスコミも含めて誰もがそう理解した。その辞意を、国会において、あるいは新聞記者会見において(メディアを通して間接的に国民に対して)表明するのではなく、まず党に対して表明するということに、私はなにか違和感を感じたものだ。
 さらに、鳩山氏は首相としての辞任を最後まで国会で報告してはいないし、正式に記者会見を開いて説明もしていない。
 
 ところが、鳩山氏の辞任を認めた(それも両院議員総会における辞意表明の鳩山挨拶に対する拍手によってだけ)民主党は、山岡国会対策委員長らがさっさと4日の党代表選挙と同日における国会での後継首相選挙という日程を決めて発表し、党と国会をその決定に従わせてしまっている。
 本来のあり方としては、鳩山首相の辞意を国会に伝え、それに伴う後継首相選出の手順などは国会の決定にゆだねるべきだろう。ところが、衆議院で単独過半数を制する民主党は、自党の決定を即国会の決定と考える傾向があるようだ。
 そうした点で、野党から民主党横暴の批判が出るのも当然だ。先日も郵政関連法案をわずか一日の審議で衆議院で可決したことなどもその典型だろう。
 
 そもそも今回の鳩山辞任の過程も党優先だった。すなわち、世論が首相辞任を求める中、世論の逆風に耐えきれなくなった民主党議員(とくに参院議員)の要望にもとづき、小沢幹事長と輿石党参院議員会長とが鳩山氏に面談して首相辞任を求めたのに対し、鳩山氏はずっとそれを拒否していたようなのだ。
 そうした鳩山氏の首相続投姿勢について党内の反発を抑えられないと判断した小沢氏は、6月1日夜に鳩山氏に電話をして、「両院議員総会で代表の解任動議が出てもいいんですか」と脅し、それに対して鳩山氏は「わかりました。では、幹事長も引いてください」と応じたとされる(日経、3日)。
 以上の経過は、わが国政界では、国会ではなく党の会議で、随時に首相を辞任に追い込める慣行になっている、ということを端的に示している。そうした慣行は、不人気や無能な首相を任期の(議員の任期による)途中で辞めさせるには便利な面もあるが、議会制のあり方としては疑問である。
 
 菅新首相には、自らの進退に直接関わる厄介な問題であるが、首相の地位についての国会と党の決定権の関係をどう考えるのか、また民主党の国会運営はこれまでのやり方を是正するのか、といった問題についても明確な態度を示してもらいたい。
 もし、国会優先という考えに立てば、仮に来る9月の民主党大会で代表に選出されなかったとしても、利己的な考えによってではなく(実際にはそれは困難だが)、首相は続けるという選択も出来るのではないか。その場合には、今後における党内での小沢派の反攻を恐れる必要もなくなるだろう。
 ただし、小沢氏の場合には、自ら率いるグループを率いて党を出るという強硬手段もとりかねないが、ようやく政権党となった民主党の議員に、リーダーに従って敢えて党を出る決心がつくかどうかは疑問だ。    (この項 終り)

閉じる コメント(1)

顔アイコン

緊急世論調査の結果報道を見ると、管新首相の支持率は6割前後と、V字型の回復を示しています。もう一度民主党にかけてみようと思っている国民が多いということかと思いますが、普天間基地の移転問題の解決は難しそうで、対応を誤るとまた支持率が急降下しそうです。
今日の診断録を読んで、管氏が現実政治の課題にまともに向き合おうとする現実感覚はあるが、はっきりとした理想や理論が不足しているように思われるという指摘に留意しながら、今後の新内閣の政策を見ていきたいと思いました。
また、国会よりも党を上に置こうとする傾向は、与党で過半数の議席を確保していれば採決すれば勝てるということから発生する考えなのでしょうが、確かに議会制を否定することに繋がっていくように思いました。

2010/6/7(月) 午前 6:16 [ ねずみ ]


よしもとブログランキング

もっと見る

[PR]お得情報

ふるさと納税サイト≪さとふる≫
実質2000円で好きなお礼品を選べる
毎日人気ランキング更新中!
数量限定!イオンおまとめ企画
「無料お試しクーポン」か
「値引きクーポン」が必ず当たる!

その他のキャンペーン


プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事