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標題の「上方修正」は内閣支持率とGDPの両方にかけている。すなわち、菅内閣になって内閣支持率が劇的に急回復したことと、今年1〜3月期の 日本のGDPが改定値で上方修正され、景気回復の進展が確認されたことを指す。
内閣支持率を見る前に、本日のホット・ニュースとして、亀井郵政・金融大臣の辞任問題についてコメントしておきたい。
この結論は、亀井大臣と国民新党が、国会の会期を延長して郵政改革法案を今国会中に成立させるべきだと主張したのに対し、民主党側が会期の延長に反対し、郵政改革法案の成立を参院選後の臨時国会に先送りしたいと主張して譲らなかったためだ。 民主党がこの法案の先送りに固執したのは、内閣支持率と民主党への支持率が高いうちになるべく早く参院選を迎えたいという選挙戦略と、かりに会期を延長しても、それが2週間程度ならこの法案を成立させること自体が困難だという国会対策からである。同法案を無理に参院で通そうとすると強行採決をしなければならない可能性が大きいが、現民主党首脳は鳩山・小沢時代の民主党がしばしばとったそういう国会運営は避けたいからだといわれる。この国会運営の方針は妥当だと思う。 他方で国民新党が郵政法案の今国会での成立にこだわったのは、建前としては「菅・亀井の政権合意」で「郵政改革法案の早期成立」が合意されたからだというが、しかしそれは今国会中での成立でなくてもいいはずである。にもかかわらず同党が「今国会中」にこだわったのは、やはりこの法案の成立を参院選の“手土産”にしたいという選挙戦略からだ。
こうして、二つの政権与党の選挙都合が衝突すれば、多数党の主張が通ることは当然だろう。そこで、亀井大臣は政権合意を守れなかった「責任をとって」辞任することになったが、連立は維持するという。これは、国民新党が政権与党でなくなれば、すでに政党としての影が薄くなっている同党の存立自体が危うくなるからだろう。 今朝(11日)のマスコミの多くは亀井大臣の辞任を「新政権にとっての打撃」と評しているが、これはいつもの決まり文句で、記者諸君の独自判断力の欠如を示すだけのものだ。
実態を考えれば、亀井氏の辞任はむしろ民主党にとってプラスだろう。なぜなら、亀井氏は政策主張の面で聞くべき見解を述べることもあったが、日本郵政株式会社の社長人事において独断で官僚出身者を起用するなど、連立内閣の首相を首相とも思わないわがままぶりを発揮してきているので、むしろこの連立内閣にとってはマイナス面が多かった。俗な表現を借りれば、それは「犬が尻尾を振る」のではなく、「尻尾が犬を振る」ような行動だった。 国民の多くはそうしたことを不愉快に思っていたから、今回の亀井辞任を多くの国民は支持すると思う。 さてその菅内閣の支持率だが、10日に共同通信(同社は自前の新聞を持たないから、ここでは配信先の東京新聞の紙面によって見る)、読売、毎日、日経がそれぞれの独自調査結果を一斉に報じた。それによる菅内閣支持率は、以下、東京(共同通信)、読売、毎日、日経の順に(単位は%) 61,64,66,68で、鳩山内閣末期の各調査での内閣支持率である20%前後から急回復した。
また政党支持率は、上記と同様の順で、民主が43.8(前回調査では36.1)、39(29)、34(28)、47(25)、自民が20.0(20.0)、14(18)、13(14)、20(17)と、民主が急上昇したのに対し、自民は低下ないし横ばいだった。一時躍進が話題となったみんなの党は、7.4(8.3)、4(読売報道では前回不明)、5(8)、7(9)で、支持率の低下が顕著だ。 このような内閣支持率と民主党の支持率の急回復は、多くの選挙民が実は昨年の総選挙での政党支持態度を基本的には維持していること、鳩山内閣時代における内閣支持率と民主党支持率の急速な低下は、同内閣への絶望の表現であるとともに、早く内閣交替をして本来の民主党が目指す政治に帰れとのメッセージであったと理解できる。
そうしたあるべき民主党の姿への回帰は、鳩山氏の首相辞任及び小沢民主党幹事長の辞任、とくに後者で劇的に示されたと多くの国民は理解した。この点は、これらの世論調査で、菅首相が党・閣僚人事で「脱小沢」色を鮮明にしたことを評価する意見が、各調査それぞれ、80、76、75(毎日調査では枝野幹事長起用の評価)、63%で、日経の調査を除き、内閣支持率を上回ったことに示されている。 多くの国民の新内閣への期待がこのようであるから、自民党などが今なお菅内閣を「小沢・鳩山隠し」という一点で批判していることにはがっかりするほかはない。今や自民党は完全に後ろ向きの政党になってしまった感じだ。だから、自民党支持率が低迷するのだ。自民党の積極的主張は消費税引き上げとそれによる財政再建ぐらいのものだ。だが、国民は今や消費税引き上げはやむを得ないと考えるに至っていると理解されるが、それはむしろ民主党政権の下で妥当な時期、方法で実施してもらいたいと感じているのだと思う。
他方、菅内閣にとっても前途は必ずしも楽観できるものではない。とくに、当面する普天間問題をどう解決するつもりなのかが、これまでの菅首相の談話からは明らかになっていない。この点は、11日に予定されている菅首相の国会での所信表明演説を聞いた上で評価を行いたい。 次に今年1〜3月期のGDP成長率の上方修正について。内閣府10日の発表の同期成長率の改訂値によれば、実質で1.2%(速報値では1.2)、年率換算で5.0%(4.9)、名目値でそれぞれ1.3%(1.2)、5.4%(4.9)で、わずかながら上方修正された。
この結果だけでは驚くことはないが、注目点は、この改定値が民間エコノミストの事前予測を大きく上回ったという点である。すなわち、日経グループのQUICKがまとめた民間調査機関の事前予想では、1〜3月期のGDP実質成長率は年率で4.1%で、改定値では速報値の下方修正が行われるだろうと見ていたのである(日経、10日夕刊)。 このような結果について、日経電子版(10日)は「GDP上方修正 エコノミスト泣き、新政権にんまり」 という日経にしては気の利いた見出しを掲げていた。 要するに民間調査機関は、日本経済についていつまでも停滞のイメージを抱き続けており、中国などアジア諸国が主導する高成長と、その好影響を受けている日本経済の輸出主導型の景気回復の勢いを過小評価しているのである。また、いわゆるユーロ危機を過大評価しているのでろう。
日本経済の回復ぶりについての過小評価というか、むしろ無知といえる点では米国のそれがひどい。 例えば、先にハンガリーの財政悪化問題を取り上げたNYタイムスは、その記事の中で、「ユーロ圏の2010年第1四半期(1〜3月期)の成長率はわずか0.2%で、眠っているような(slumbering)日本にさえおくれをとっている」(電子版、6月6日)と書いた。上記のように、日本のこの期の実質成長率は速報値でも1.2%で、ユーロ圏だけではなく、米国の0.75%をも上回っているのに、である。 NYタイムスの報道には信頼できるものも多いが、日本についてのそれは非常に弱い。例えば、鳩山辞任のニュースは、第1報はNHK・TVによって速報していたが、それをフォローした記事はなんとソウル発で、まったくビックリした次第である。 そうした日本経済についての無知は米国の政府当局者も同様だ。先日釜山で開催されたG 20(主要20ヵ国)の財務相・中央銀行総裁会議への書簡で、ガイトナー米国財務長官は「予想されるヨーロッパと日本の内需の弱さを憂慮している」と述べた(NYタイムス、同上)。よくもその程度の認識で、米国の財務長官が世界経済を論じ、指導者のように振る舞えたものだとあきれた次第である。
どうも米国は、防衛だとか政治だとかの面では日本をよく研究しているようだが、経済に関しては依然として偏見に満ちているようだ。 他方で、いったい日本の駐米大使館はなにをしているのだろうか、とあらためて愕然とする。そういう大事な広報活動を怠っているとしか思えない。 対米対等化を標榜する民主党内閣には、このような米国の対日偏見を是正する努力も払うよう要望したい。 (この項 終り)
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