文太郎の日記帳

景気、財政赤字、国際経済、政治・政局、世界情勢、日米関係など現代の諸問題を広い視野で解明します。

エコノミストの時評

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 参院選挙が6月24日に公示され、選挙戦が始まった(7月11日投票)。こんどの参院選の焦点は、6月8日に成立したばかりの菅直人内閣の信任を問うことである。具体的には、民主党がこの選挙で60議席を得れば参院でも単独過半数(122)を得ることになるし、56議席獲得なら連立与党の国民新党の既存の(非改選の)議席3と与党系無所属議員の1議席を合わせ与党計で過半数を得ることになり、菅内閣は事実上信認されたことになる。
 逆に民主党の獲得議席が56より少なければ与党は参院で過半数割れになり、衆参両院での「ねじれ現象」が起きる。自民党はこの与党過半数割れを目標としており、谷垣禎一同党総裁はこの目標が達成されなければ責任をとって辞任すると公約している。
 実際に選挙戦がスタートしてもっとも目立つ現象は、菅首相が敢えて消費税増税の可否を選挙の主要な争点としたことであり、これに対しては民主党内部だけではなく、民主党支持層間でも戸惑いが生じている。端的に言って、菅首相のこうした財政再建重視の姿勢は保守層の対民主党警戒心を解こうとするものと理解される。だが、この戦略が民主党に吉と出るかどうかは疑わしい。
 
 菅首相は6月4日に民主党代表に選出されたときの挨拶では、「最大の課題の一つは、日本経済の再生と成長だ。総合的な政策実施でデフレ脱却」に取り組み、「強い経済を実現する」ことで「強い社会保障」を可能にするとともに、それを支える「持続可能な強い財政」の再建が課題だとした。そして、そうした財政の実現のためには、「歳出改革を進めるとともに、抜本的な税制改革を含めた歳入改革を真剣に検討し、国民に正直に提起する」と述べた(読売、4日夕刊)。
 また11日の国会での所信表明演説でも、菅首相は「新内閣は強い経済、強い財政、強い社会保障の一体的実現を、政治の強いリーダーシップで実現していく決意です」と述べた。つまり、財政再建はいわば総合的な経済・社会戦略の中で実現していく、という位置づけだった。
 
 ところが、16日に明らかになった民主党の「参院選マニフェスト」(公約)では、「財政健全化の必要を前面に打ち出し」、「消費税を含む税制の抜本改革に関する協議を超党派で開始」するとした(読売、17日)。これは、マニフェストの「検討段階で『衆院選後』としていた消費税上げの実施時期を改め、超党派で合意すれば、早期に税制改革に踏み切れる公約とした」ことを意味する(日経、17日)。
 さらに菅首相は17日に、このマニフェスト発表に際しての記者会見で、「2010年度内にあるべき税率や改革案のとりまとめを目指したい。当面の税率は、自民党が提案している10%を一つの参考にしたい」と述べ(読売、18日)、ここに俄(にわか)に「消費税の10%への引き上げ」が事実上で民主党の参院選公約に躍り出る結果となった。
 
 その後菅首相は、21日の記者会見で、自ら消費税率の10%への引き上げに言及したことについて、「参院選が終った段階から超党派で本格的な議論を始めたい。そのこと自体は公約と受けとめてもらって結構だ」としながら、消費税率の引き上げ時期は2,3年後になるとの見通しを示し、「大きな税制改正をやる時には、まとまった段階で国民に判断する機会を持ってもらう」と述べた(読売、22日)。これは、具体的な消費税引き上げで民意を問うのは衆院選後だとし、それが今回の参院選の争点ではないと断ったものだが、すでに自民党をはじめとする野党は消費税引き上げが参院選の最大の争点だと受け取り、それに対するキャンペーンを強めている。  
 また菅首相も、参院選公示日における街頭演説第1声(大阪での)で、財政の危機的状況を説きつつ、消費税引き上げの必要性を訴えていた。実際にはマニフェストの全体に触れながらの言及であったようだが、当日正午と午後7時のNHK・TVのニュースでは、同首相の消費税の必要に関する“絶叫”(というべき調子での演説)がクローズアップされ、聞く者はまさに今回の参院選が消費税可否をめぐる選挙であるとの印象を与えられた。
 
 菅首相は鳩山内閣の副総理兼国家戦略担当相であった昨年末までは、日本経済のデフレ傾向に強い危機感を持ち、その克服の必要を強調していた。ところが、今年1月に藤井財務相の辞任を受けて財務相に横滑りした頃から、次第に財政危機の問題に関心を強めていったと記憶する。
 とくに、今年2月5〜6日にカナダで開かれたG7(先進7ヵ国)の財務相・中央銀行総裁会議に初めて出席した際、会議での話題としてギリシャのソブリン危機(国家債務支払の困難化)が大きな比重を占めたことから強い衝撃を受けたと伝えられた(菅財務相はその時までギリシャ問題についての知識はほとんど持ち合わせていなかったらしい)。
 そのあとあたりから、菅氏から消費税検討の必要についての発言が出始めた。鳩山内閣の方針としては、次の総選挙までは消費税引き上げはしないと公約していたにもかかわらず、である。おそらく、菅氏は財務省の官僚に洗脳され、かつ、ギリシャ危機からの衝撃により、徐々に財政再建優先論に傾いていったのではないかと私は推察する。
 
 さらに、菅氏が首相に選出された6月4日頃には、ハンガリー(EU加盟国だがユーロ圏には未加入)の財政危機が表面化した。そのことが、ギリシャ、スペインなどでクローズアップされた一連のユーロ圏危機と相まって(市場の一部ではハンガリーをユーロ圏の国と誤解した面もあったが)、世界的に株式市場に新たな衝撃を与え、NY市場の株価は6月4日(現地時間)には323.31ポイント、3.15%の急落を記録、週明け7日の東京市場でも日経平均が380.39円、3.8%の急落(09年3月30日以来の大きな下落率)を演じた。
 こうした欧州のソブリン危機は、日本の財政についての国内での危機感(経済界やマスコミの)を一段と強める結果をもたらした。
 
 菅首相は、当「診断録」でも前に(10年6月5日号)触れたが、もともと明確な理論の持主ではないから、財務相から首相への歩みの中でのこうした経験に強く影響されて、消費税の早期具体化への信念を固めていったのであろう。
 また、選挙戦術として、消費税の10%引き上げを打ち出すことによって、消費税引き上げで財政健全化路線をアピールしている自民党のお株を奪い、その影を薄くしようと考えた可能性が大きい。 
 さらに、これまで民主党の政策を「バラマキ財政」として批判してきた経済界やマスコミの反民主党の立場を緩和したいとの思惑も働いたと私は推定する。
 
 これは、要するに菅民主党の“ウイングを右に広げる”(端的に言えば、右の勢力を抱き込む)戦略である。だが、それは自らの“右翼化”、保守化につながる。
 たしかに、菅民主党に対しては、鳩山・小沢時代の民主党には極めて批判的(時には敵対的)だったマスコミ(とくに産経、読売、日経)のスタンスも少なくとも中立的なものに変わってきたように思える。 
  他方、自民党はすぐさま菅首相の消費税10%案を谷垣総裁が「自民党の丸写し」と真っ向から批判 (読売、21日)、むしろ民主党への反撃の元気を取り戻した感がある。その点では、菅首相の戦術は逆効果だった。
 
 しかし最も重要な点は、消費税の引き上げを選挙の争点にした菅首相の作戦は、結果として民主党の“民主党らしさ”を薄めてしまったことにある。 実際、普天間問題では大筋で旧来の自民党政府が敷いた路線を踏襲し、消費税問題では現に自民党が売り物にしているプランに同調するというのでは、民主党と自民党のどこが違うのかわからなくなる。
 これに比べ、鳩山・小沢主導の民主党の政策には理念先行・具体策欠落という欠点があったものの、例えば昨年の総選挙のスローガンには「国民生活が第一」という単純明快なものを掲げるなど、なにか国民の心に訴えるものがあった。
 だから、今のままの菅民主党の戦略では、なによりもこれまでの民主党支持層のかなりの部分が同党から離れることになるので、民主党はこんどの参院選挙では勝てない(連立与党でも過半数をとれない)と思う。
 
 現に参院選告示後の日経の世論調査(日経、26日)では、菅内閣の支持率は50%で前回の6月8〜9日調査の68%から18ポイントも低下、民主党支持率も前回の47%から42%へ低下している。対する自民党の支持率は20%から23%へ上昇している。このことは、「消費税10%、自民党案を一つの参考に」という菅首相の作戦が、完全に裏目に出ていることを示している。
 とくに、「内閣支持率を年代別にみるとすべての層で支持が不支持を上回っているものの、20歳代と70歳以上では支持率が50%を割った」こと、不支持率が「20歳代では40%に達した」(不支持率は全年齢層では33%)ことが注目される(日経、同上)。
 
 もっとも、機を見るに敏な(オポチュニスト的)菅首相のことだから、こうした世論の動向を見て、いまの路線の軌道修正を試みる可能性はある。
 また、財政重視優先のようないまの菅首相の政策指向では、今回のG20(主要20ヵ国)サミット参加国首脳に景気支持策の必要性を事前に書簡で訴えたオバマ米大統領の立場(当「診断録」6月22日号参照)と食い違う。したがって、菅首相が今回のG8とG20でオバマ大統領から個人的にも景気支持策の必要性を説かれたら、たちまち今の政策スタンスを変える可能性もあると思う。
 
 しかし現時点では、世論調査の結果が示すように、菅民主党の“保守化”志向は民主党にマイナスに作用していることは明らかだろう。     (この項 終り)

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