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6月26〜27日にカナダ・トロントで開かれたG20(先進&新興20ヵ国)首脳会議が終った翌々日(29日)に、世界の株式市場で株価が急落した。 この日の株安は東京で日経平均が1.3%下落したのを皮切りに、時間を追って「伝染」(NYTimes電子版、29日)、上海総合指数が4.3%、ロンドンFTSE100が2.2%、フランクフルトDAXが3.3%、NYダウが2.7それぞれ下落した。株価の下落は30日の東京市場にも引き継がれた。
この一連の世界株安の直接の“犯人”はコンファランス・ボード(CB、米国の民間調査グループ)だった。まずCBは自らが2週間前に発表した中国の2010年4月の先行経済指数:1.7%のプラスを、計算間違いがあったとの理由で、0.3%のプラスに引き下げ、次いで、CB調査の6月の米消費者信頼感指数が52.9と、5月の62.7(下方修正)から10ポイント近く低下した(4ヵ月ぶりの低下)と発表した(NYTimes 、同上)。 このような株安は、①このところ米国で景気回復の足踏み状態を思わせる景気指標が続いていただけに、そうした米国景気指標の弱さにもとづく弱気観が加速されたものと言えるし、また②CBによる中国についての景気指標下方修正の影響は、中国の今日の世界経済における大きな比重を改めて強く印象づけることになったと言える。
米国の景気回復力の弱さは、簡単化して言えば、中国を中心とするアジア主導の現在の世界景気回復の恩恵を受ける度合いが日本などより少ないことが大きく影響している、と私は見ている。それだけに、人民元切り上げについての米国の要求が強いわけだ。この点については日を改めて論じたい。 その中国の景気上昇が腰折れにならないか、という点は極めて大きな問題だ。現在、中国は主として資産バブル抑えこみのための金融引き締めを行っているが、そうした引き締めが景気全体をスローダウンさせるかどうかについては、なお他の指標の動向を観察してみる必要があり、現時点では速断は出来ない。 最近の株安は、リスク資産への投資の回避ということから、「安全資産」への投資を促進しており、その中でも米国債と日本国債への需要を高めて、それらの利回り低下をもたらしている。
すなわち、米国の10年国債利回りは29日に2.97%と09年4月以来の3%割れとなり、10年もの日本国債利回りは30日には1.08%に低下している。 また、為替相場もそれに対応して、ドルはユーロなど欧州通貨に対してドル高、そのドルは円に対してはドル安となり、世界の中で円は独歩高となっている。つまり、現在は市場では円あるいは日本国債は世界一の安全資産と見なされているのである。 さて、次に今回のカナダでのG20の結果だが、その「宣言」は、「われわれは回復を持続し、雇用を創造し、より強力で一層持続可能なまたよりバランスのとれた成長を達成するために、協調して行動をとる約束をした」として、4項目の合意事項を明記した。
その第1項目で、宣言は、「先進諸国はその財政赤字を2013年までに最小限で半減させ、その政府債務の対GDP比率を2016年までに頭打ちとするか、低下させることを約束」した。しかし日本については、その「事情(circumstances)を認めて、日本政府が最近公表した成長戦略と財政再建計画を歓迎する」と付け加えた(G20 Information Center、ホームページ)。 これにより、日本は「財政赤字を2013年までに半減させる」との国際合意に拘束されないことになったわけだが、日本になぜこのような“例外”が認められたことについて、日本のマスコミは様々に解説したが、その多くはまたまた見当外れだった。 例外扱いの理由についての正解は、今回のG8およびG20のホスト国カナダのハーパー首相が明らかにしているが、それは日本の「借金の引き受け手を重視。国債の国内の買い手が5割弱の米独、3割のギリシャに比べ、日本は95%を国内で調達し、投げ売りによって金利が跳ね上がるリスクが少ない」ということにあった(asahi.com. 6月28日)。またNYTimes も、「G20の宣言は、国内からの借入に大きく依存している日本は、(この財政赤字半減の)目標を達成しなくてよいと明白に述べた」と報じた(同紙電子版、27日)。
付け加えると、当「診断録」6月22日号で書いたように、今回の「赤字半減の目標」は、ハーパー加首相がG20に先だって参加国首脳に送った書簡に中で示した目標数値の通りなのである。 この例外扱いの理由についての解説で噴飯ものは、日経の「日本、欧米から置き去り」との第1面4段見出しの記事(28日夕刊)だった。すなわち、「菅直人首相の説明が好意的に受け入れられたとはいえ、国際的に見て財政悪化の度合いが際立ち、健全化を急ぐ欧米から置き去りにされた恰好になった」と解説した。つまり、日本が国際的な“悪い子”扱いされなかったのは不面目だった、と言っているのだ。もし、日本の状態が悪すぎるぐらいなら、ギリシャのように、赤字削減該当国の筆頭にあげられるのが当然であろう。
毎日は、「日本を例外扱いしたのも協調の体裁をとりつくろうためだ」(同紙、29日)と、「宣言」と各国財政の突っ込んだ解明を避けた無意味な説明をしただけだ。 産経は、「宣言」は「各国の状況で財政健全化計画は異なるとして、先進国で最悪の財政状態にある日本に一定の配慮を示した」と、“お情け”論で解説した(同紙、29日)。こうした産経の解説に対しては、日経紙について述べた上述のような批判がそのまま当てはまる。 読売の場合は少しましで、次のように書いた。「菅首相がサミットで、基礎的財政収支の赤字を15年度までに対GDPで半減させることを盛り込んだ財政運営戦略を説明したことに加え、日本にさらなる財政再建を求めれば、景気を冷え込ませる懸念が強まり、世界経済にとってもマイナスとの判断があった」と(同紙、28日夕刊)。これは、日本国債の国内での消化比率の高さという本当の理由を見逃してはいるが、「日本例外扱い」についての経済的説明になっている。
その上で同紙は、菅首相は財政再建に加えて、「世界経済の先導役という、新たな課題を背負わされることになり、一段と難しい立場に立たされたと言える」と書いた。「先導役」というのは現時点では日本の過大評価だが、菅首相が負っている課題をキチッと指摘している点は評価できる。 なお、G20そのことについてではないが、日本の政府債務について、Financial Times 電子版が6月28日に「日本の年金基金トップ (政府)債務に楽観的」と題する興味ある記事を掲載していた。
すなわち、同紙は日本のGPIF(Government Pension Investment Fund 、年金積立金管理運用独立行政法人)(注)の三谷隆博理事長(元日銀理事)とのインタビューを掲載しており、その中で三谷理事長は、「法人と家計両部門の貯蓄水準が高い上、デフレ的な環境も影響して、日本の国債への需要が強いので、この2〜3年のうちに日本の債務危機が起こることは不可能だ」と述べている。 (注)1961年に「年金福祉事業団」として出発、86年から年金資金運用事業を開始、2006年に「年金積立金管理運用独立行政法人」に改組、厚生労働大臣から寄託されて年金積立金の管理・運用に当たっている。
上記FT紙は、このファンドは120兆円の資産を持つ世界最大の年金ファンドの一つだと紹介している。 要するに、われわれ日本国民としては、日本の財政赤字の実態(まさしく極めて大きい年々の赤字と債務残高)を正確に認識するとともに、現在その点に関してわが国にギリシャ並みの危機が到来しているわけではないことを冷静に理解する必要がある。その点で、経済界やマスコミ、さらには最近の菅首相が陥っているいわば財政赤字ヒステリーに惑わされないようにしたい。 (この項 終り)
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エコノミストの時評
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同感です。小生朝日と日経を見ていましたが、噴き出してしまいました。元マスコミにいた人間としてもほんとうに最近のマスコミはどうなっているのでしょうかと愚痴をこぼしたくなりますね。先生もおっしゃっているように、勿論日本の財政赤字が問題ないとは言いませんが、「やれギリシャより深刻だ」「財政再建待ったなしだ」のマスコミの合唱には困ったものです。
2010/7/2(金) 午後 7:27 [ arakan ]