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7月11日に行われた参院選の結果、民主党が44議席しか獲得できず(改選議席数54)、逆に自民党が51議席を獲得して(改選数38)、今回の参院選における議席獲得数の第1党となった。私は当「診断録」の前号(7月8日号)で、マスコミの世論調査による民主党の獲得議席数予測の49〜51について、実際の獲得議席の「下限」と見たが、これは民主党に対して甘すぎる予想だった。逆に、自民党の復元力についての過小評価だった。
ただし、今回の選挙で議席増(改選数に対して)を達成したのは、自民党以外では「みんなの党」(改選0→獲得10)だけであって、公明(11→9)、共産(4→3)、国民(3→0)、改革(5→1)、社民(3→2)は議席を減らし、「たちあがれ日本」(1→1)は辛うじて議席1を維持した。 この結果を見れば、今回の参院選は自民と「みんな」が勝ち、それ以外の党は、「たちあがれ」を除いて、すべて敗北したのである。この点は、この参院選の意味を考える上で重要である。 今回の選挙の最大の争点が消費税引き上げ問題にあったことは明らかである。民主党の敗因は、鳩山内閣時代の「4年間(09年の総選挙による衆院議員の任期中)は消費税を上げない」という事実上の党公約(鳩山首相の約束だったが)を、菅直人首相が独断で変更したことにある。
菅首相は参院選後半には、「消費税引き上げを実施するのは次の総選挙の後」と弁明していたが、これは明らかに言い逃れである。なぜなら、民主党は参院選のマニフェスト原案には、「税制の抜本改革の実施の時期」を「衆院選後」としていたが、菅首相はこの「衆院選後という文言を削除するよう党幹部に指示し、実現した」のだった(読売、6月17日)。 そしてこのマニフェスト発表の同17日の記者会見で、消費税の増税を含む税制改革について「2010年度内に取りまとめたい」と述べ、当面の消費税率は「自民党が提案している10%を一つの参考にさせていただく」と表明した(日経、18日)。 さらに首相は、この消費税増税について「2010年度内に…超党派での幅広い合意をめざす」としつつ、「超党派での法案提出が困難な場合は民主党が中心になって取りまとめる」とまで言い切っている(読売、6月29日)。 これでは、消費税増税が参院選の中心イッシューとなったのは当然である。また、それが民主党の事実上の公約放棄であることも明白であった。
菅氏がこうまで消費税引き上げにこだわったのは、参院選敗戦後に語った言葉によれば、「首相就任直前まで財務大臣としてギリシャの財政危機に対する対応に当たっていた」際に、同氏が日本の財政について持った「危機感」が影響したものである(産経、7月12日)。同様のことは私もすでに当「診断録」6月26日号で推察、指摘した。 それにしても、党首で首相であるとはいえ、菅氏はどうしてこうも簡単に党の重要な公約を変更できたのか。それは、鳩山政権退陣後、各種世論調査で菅内閣の支持率がV字回復すると、「党内のムードががらりと」変わって、参院選では「消費税を掲げても十分に勝てる」との声も党内から漏れるようになったからだ(読売、6月17日)。要するに、支持率急回復から来る驕り(おごり)であり、また財政再建重視の姿勢で保守層の支持を得ようとする魂胆からだった。 それでも、もし菅首相あるいは民主党が消費税のあり方についてあらかじめ十分に研究していたのならまだしも、その後の経過から明らかなように、事実はまったく研究や準備が不十分なまま、その引き上げ必要論を打ち上げたのだった。このため、野党から首相の消費税引き上げ構想を批判されると、6月20日には生活必需品についての軽減税率や低所得者に対する税還付の案を持ち出すなど、行き当たりばったりぶりを露呈したのである。
こうした経緯から今日明らかになるのは、首相の「自民党が提案している10%を一つの参考にさせていただく」との発言は、実は自らには準備がないので、そうした自民党案を取り入れたいという意味だった、ということだ。 そうなると国民は、同じ消費税10%案なら、思いつきで迷走する民主党案ではなく、曲がりなりにも事前準備がある自民党案を信用しよう、となるのは当然ではないか。 ここで注目すべきは、今回の参院選では、消費税の10%への引き上げを公約とした自民党が勝ち、消費税引き上げ反対を主要公約とした共産、社民、国民、改革の諸党が敗北したことである。「みんな」は消費税引き上げ反対というよりは、増税の前に行政改革による無駄づかいを削減せよと主張して議席を増やしたのであり、その点ではそもそもの民主党の主張に通ずるものがあった。
つまり、参院選に表れた民意は、必ずしも「消費税引き上げ反対」ではなかったと言える。ということは、民主党が敗北したのは消費税問題を持ち出したからだと単純には言えない、ということだ。 それよりも、鳩山内閣時代には消費税を上げないといい、菅内閣に変わると途端にその引き上げを提案する、といった民主党の「いい加減さ」が同党への信頼を失わせたということだと思う。 類似の民主党の「豹変ぶり」は、普天間問題についても言えないことはない。しかし、「国外、すくなくとも県外」と述べていた鳩山前首相の公約を菅内閣が変更しても、現在の極東情勢と日米関係を考えるとやむを得ないと多くの国民は了解しているのだと思う。
だが、消費税については国民は民主党にそのような了解を与えていないし、また了解できるような説明を同党から受けていなかった。だから、民主党支持者の多くは同党支持をやめ、あるいは「みんな」支持に変わり、あるいは自民党支持に回帰したのだろう。 要するに民主党には、近代政党らしい政策や党議決定の民主主義的な仕組み、ルールが出来ていないのだ。 こうした点は、鳩山首相・小沢幹事長の時期には、党の決定とは小沢幹事長の意思次第ということであったし、菅首相になってからは首相若しくは首相とそれを取り巻く少数首脳による独断というかたちに変わっただけである。
菅政権のそうした性格は、その発足の時点から表れていた。まだ記憶に新しいが、菅氏は民主党の代表に選出されるやいなや、仙石由人氏と枝野幸男氏を相談相手として、ほとんど密室で党と内閣の人事を決定していた。消費税引き上げ構想にしても、菅首相は仙石官房長官、枝野幹事長あたりとの相談だけで方向を決定したように見える。 要するに、民主党は近代政党としては未熟なのだ。それが昨年、自民党の失政に乗じて政権を手に出来たのであって、まだ政権党としては実力不足なのだ。鳩山・小沢退陣で民主党のそうした未熟さも克服されるかと一時思わせたが、その後の経過でそれが幻想だったことが明らかになった。その意味で、参院選における民主党の大敗は起こるべくして起こったというべきだろう。 では、参院選後の政治はどうなるのだろうか。私は「診断録」の前号(7月8日号)では、与党の過半数割れで菅首相の責任論は起きるだろうが、自民党の獲得議席数が民主党のそれを上回らなければ、首相はそれを乗り切るつもりになるだろうし、また新しい連立の形成でそれは可能ではないか、と予想した。しかし、現実に自民党が改選第1党になるほどの大敗を民主党が喫したとなると、菅首相の立場は格段に困難になる。
今後あるべき道としては内閣総辞職がある。菅内閣は解散・総選挙で国民の信を問うべきだという野党のこれまでの要求に対して、参院選が信を問う場だと首相が答えてきたことからすると、今回疑問の余地がないほど明瞭に事実上の内閣不信任を突きつけられたのだから、菅内閣は総辞職すべきだという議論が当然に成り立つ。そのことは、民主党内の小沢派からの批判の有無に関わりなく、内閣の責任論として考えるべきことだ。 この場合には、菅内閣総辞職→民主党大会(繰り上げ)での新代表の選出→新たな首班選挙→新内閣の組織 →若干の時期(すくなくとも新年度予算の編成などのための)を置いての衆院解散・総選挙(新内閣の信を問う)というのが、議会政治の筋道として妥当なのではないか。
ただし、新内閣の手によるものであれ、近い時期に総選挙をすれば、また民主党が敗北する公算が大きいから、民主党はその場合でも可能な限り直近の解散は避けようとすると思われる。 そうすると、民主党としては、菅内閣の継続、新内閣のいずれの場合でも、新しい連立政権の形成を目指すと思われる。ただし、今回ほどに選挙で大敗をした後では、他の党からは足元を見られて、連立のパートナーを得ることは容易ではない。 当面、連立の形成が不可能となれば、政策ごとのいわゆる「部分連合」を模索しつつ、新年度予算編成など当面最小限の政治責任を果たしながら、時間をかけて新連立の形成を図るか、それも見通しが立たない場合には、民主党単独政権で新年度予算を成立させるなど最低限の実績を上げて、成否は別として、結局解散・総選挙をするしか道はなくなるであろう。 とにかく、菅内閣と民主党はいまや追い詰められた立場に立たされたのであり、その結果として、日本の政治は当面はなはだ不安定な状態を続けることにならざるを得ないと思われる。 (この項 終り) |
エコノミストの時評
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今回の選挙結果は、先生とほぼ同じ予測でしたが見事に外れました。
先生のご指摘どおり、民主党は政党として未熟ですが反省すべきは大いに反省して大人の政党になることを期待します。得票率なら政党の中でトップですから、期待はまだまだあります。
2010/7/29(木) 午後 5:44 [ 曳馬野旅人 ]