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参院選での大敗を受けて、菅直人首相はいち早く続投の意思を表明するとともに、「みんなの党」か公明党との連立、あるいは政策課題(議案)ごとの提携、いわゆる部分連合を模索中だ。しかし、その実現の見通しはほとんど立っていない。このままだと菅政権も民主党もジリ貧を辿るばかりだし、日本の政治は停滞を余儀なくされるだろう。
早くも、参院選後のマスコミによる世論調査の結果では、菅内閣の支持率は読売調査(7月12〜13日実施)では38%で前回調査(7月2〜4日実施)の45%からさらに急落(読売、14日)、共同通信社の同様調査でも36.3%で、やはり前回調査(7月7〜8日実施)の43.4%から急降下した(東京、14日)。 もし菅首相が党首改選が行われる9月(5日開催の案が有力)の民主党大会までに新たな連立政権樹立で他党と合意できなければ、同首相が党首選で落選するという見通しが強まってきた。 逆に、もし菅首相が新たな連立政権の組織に成功して与党が参院でも過半数を占めることが出来れば、政権は安定してその政策の実現は非常にスムースになるだろう。もちろん、新連立の場合には民主党は従来の政策をかなり修正する必要に迫られるだろうが、それはやむを得ないし、あるいは与党間の調整で元の政策がむしろ改善されることもあり得るだろう。
問題は、言うまでもなく、民主党との新しい連立に同意する政党があるかどうかだ。参院(総議席数242)で与党が過半数(122)を占めるためには、選挙後の民主党の議席数が106であるから、この条件を満たす党は公明党(19)か自民党(84)しかなく、みんな(11)との連立では過半数に達しない。 といっても、いまは民主・自民の「大連立」を組むべき状況ではないだろうから、民主党にとっての望ましい選択肢は実際には公明党との連立しかないはずだ。政策面でも、公明党は福祉重視などの点で民主党のそれと共通する面がすくなくない。 現に民主党内でも、「与党経験も長い公明党と組むことが、政権安定のためには『最も手っ取り早く、最も安定した組み合わせ』とする考え方」がある(読売、13日)。
だが当の公明党の山口那津男代表は12日の記者会見でも、「民主党政権にレッドカードを突きつけた。連携や連立を組む考えは持たない」とあらためて言い切っている(読売、同)。 しかし、“可能な限り連立に参加して自党の政策の実現を図る”という公明党の伝統的な方針を考慮すると、同党が政権党である民主党との連立を一切拒否するということは考えられない。私は、公明党が民主党との連立に同意するか否かは条件による、と理解する。 その条件とは、具体的な政策(例えば政治とカネの問題についてなど)での合意の可否ということもあるが、なによりも決定的なのは菅首相の退陣だろうと私は見る。それが山口代表が言う「レッドカード」の意味であろう。
実際、消費税問題をめぐっての菅首相の迷走ぶりを見ていると、連立の相手に擬せられた党としては、そうした首相の下で連立に参加することは危なっかしくて出来ない、と考えるだろうと私は推察する。 したがって、9月の党大会で、民主党がよりよい党首を選ぶことが出来るかどうかが、新連立政権樹立の成否を決することになると思われる。 では民主党の内部はどう動くだろうか。参院選での大敗の結果、同党内で菅首相に批判的な人たち、とくに小沢一郎前幹事長を支持するグループは、9月党大会で菅首相への対抗馬を擁立し、結束して(6月の代表選挙に際しての自主投票の様にではなく)本気で代表交代の実現を目指すだろう。
こうした考えと動きは、例えば松木謙公同党国対筆頭副委員長の次のような発言に明確に示されている。すなわち、「9月の民主党代表選は党員・サポーターを含めた選挙だから、この参院選の結果と関係なく、戦うべきだと思っている。小沢系のグループから小沢待望論が浮上していることは非常に嬉しいことだ。私は小沢氏に代表選に出てもらいたいが、……今の立場を含めて本人が判断されると思う」と(読売、13日)。 実際に小沢氏に自ら代表選に出る意思があるのかどうか、もしあるとすればそのことが民主党にとってプラスになるかどうか、などは疑問だが、なんらかのかたちで小沢氏がこの代表選でその影響力を行使することはたしかであろう。 その点から振り返ると、小沢氏が7月5日に検察審査会に対して、同氏の政治資金規正法違反事件につき、「秘書と共謀した事実はない」との上申書を提出したことは重要な意味を持っている。
小沢氏の作戦としては、検察審査会の審査で「不起訴」を勝ち取り、晴れて9月の代表選で、最低限でも同氏が推す代表候補を当選させるべく力を傾注し、平行して、政界における自らの人脈と影響力を使って、新連立政権樹立の工作を進める計画なのではないか。ヒョッとして、党大会までに「不起訴」の結論が出た場合には、小沢氏はほんとに自ら代表選に出る意思があるのかも知れない。 ただし、最新情報では、同審査会として小沢氏を起訴(同審査会としての2度目の起訴)すべきかどうかについての結論は、「1回目に起訴相当の議決をした11人のメンバーが全員入れ替わる8月以降に延期される模様だ」と伝えられる(asahi.com 15日早朝)。 もちろん、検察審査会が「起訴」の決定を下せば、上記のようなシナリオは成立しない。また、党大会までに審査会の結論が出ない場合にも、シナリオに狂いが生ずるだろう。だがその場合でも、小沢氏は菅氏の対抗馬を当選させるべく、一般党員やサポーターに対する影響力を行使すると予想される。
6月の代表選の場が両院議員総会だったのと比べ、一般党員やサポーターが参加する9月の選挙では、小沢氏の影響力はずっと強いと思われる。 おそらく小沢戦略は、党大会での代表交代を実現させ、新代表の首相就任と新連立政権の樹立を経て新政権の実績をあげ、その上で機を見て解散・総選挙を断行する、ということではないだろうか。 逆に菅首相としては、その9月党大会までに是が非でも他党との連立、すくなくとも連携の実績をあげて代表選を勝ち抜かなければ、政権維持は不可能になるわけだ。
もし、そうした実績無しに代表選に臨んだ場合には、菅首相はなんといっても民主党に大敗をもたらし、日本の政治を混迷させた“戦犯”なのだから、有力な対抗馬が出た場合には代表選で勝てる公算は極めて小さいと思う。 (この項 終り) |
エコノミストの時評
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非常に考察力がある、論文だと感心しました。政治の世界は多くの思或や駆け引きそして感情等が混在しているでしょう。興味深く読みました。
2010/7/29(木) 午後 6:00 [ 曳馬野旅人 ]