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民主党の代表選挙は9月1日告示、同14日投票(国会議員の場合。それ以外の有権者の投票は14日より前)で実施されるが、臨時国会の終了(8月6日)とともに、この代表選の選挙戦が事実上スタートした。
8月8日時点で代表候補として名乗りを上げているのは菅直人首相だけであり、ほかには菅首相に批判的な海江田万里衆議院議員(衆院財政金融委員長)が出馬の意向と伝えられているだけだ。しかし現実には、民主党内では菅首相に批判的な勢力、とくに小沢一郎元代表を支持する議員たちが菅氏への対抗馬を立てるために活発に動きつつあり、問題はそうした反菅グループとして誰を候補として推すかに絞られてきている。 見通しとしては、小沢派が小沢氏本人を候補として担ぐ場合と、小沢氏以外の候補を広く反菅グループから推す場合とがあるが、結局は小沢氏自身が出馬する公算が大きいと思う。 菅首相の代表としての続投については、岡田外相、前原国交相、野田財務相、蓮舫行政刷新相ら菅内閣閣僚の多くが支持を表明している。ただし、原口総務相らは態度を保留している。
これに対し、海江田議員(鳩山グループ)が8月3日に議員約50人を集めた講演会を主催し、周囲から代表選出場の準備かと見られたのに続いて、自ら出馬の意思がある旨を小沢氏と鳩山由起夫氏に伝えていたことが6日に明らかになった(産経、7日)。海江田氏は小沢、鳩山両グループからの支持を取り付けたいものと見られている。 他方、6日には、小沢氏に近い山岡賢次党副代表が呼びかけた「09政権マニフェストの原点に返り『国民の生活を守る』集い」に約150人が、また、やはり小沢氏に近い衆院1回生議員による「真の政治主導を考える会」(鳩山氏が講師として講演)に約100人が参加した(各紙、7日)。いずれの会合もキー・ワードは「衆院選マニフェストへの原点回帰」で、もちろんその内容は菅批判である。 山岡氏が呼びかけた会合には小沢、鳩山両グループと旧社会党系の議員が参加したと伝えられる。また鳩山氏は小沢氏に近い1回生議員の会で講演しており、このことも小沢・鳩山両グループの連携を思わせる。鳩山氏はこれまでのところは公(おおやけ)には菅氏の続投を支持しているが、6日の上記講演では「今こそ(マニフェストの)原点に返らなければならない」と訴えている(読売、7日)。
さらに、鳩山グループは19日に研修会を開くが、これに小沢氏と同氏を支持する一新会の議員を招待しており、この研修会が「菅首相批判の合唱の場になりかねない」(産経、7日)。 だが、「反菅」陣営の中心とされる小沢グループ内にも「衆目が一致する対抗馬がいない」との悩みがある(日経、7日)。
海江田氏は小沢、鳩山両グループの上記のような気運に乗ろうとしてると言えるし、また今年6月の民主党代表選(菅氏が代表に選ばれた際の選挙)に際し小沢氏から出馬を打診されたことを一つのよりどころとしているようだ。しかしこの点について小沢氏の側近議員は、「前回打診を受けたから、今回も支持してもらえると思ったら考えが甘い。小沢氏が出馬しない場合のワン・ノブ・ゼムに過ぎない」と手厳しい(読売、8日)。 結局、小沢陣営には小沢氏以外には皆が一致できる代表候補はいない、ということだろう。それは、実際に菅首相をしのぐ力を持っている政治家としては小沢氏しかいないと考えているためであり、また、小沢グループの議員には、小沢氏をさしおいて自ら代表選に名乗りを上げることは許されない、といった自己抑制が働くためであろう。 そうしてみると、たしかに上述のような議員の集会も、「小沢氏に近い議員が主導しているため、小沢氏が出馬する環境を整える狙いがある」(読売、7日)と見られるのも当然だ。そして、もし小沢氏が候補になれば、菅首相の参院選での失敗が明白なだけに、小沢氏が代表選で勝つ可能性は大きい。
小沢氏にとっての最大の問題は、いうまでもなく政治資金問題だが、小沢はその点に関して少なくとも検察庁の捜査では不起訴になっており、自らもこれまで「法に触れることはしていない」と主張してきていることからすれば、周囲から推されれば代表選に出馬することはまず確実だと思われる。 もちろん、検察審査会はなお小沢氏のケースを審議中であり、その議決(民主党代表選の後になると予想されている)で「起訴」とする可能性がある。もし小沢氏が首相になっていたと仮定した場合、この起訴決定が出た場合には同氏は窮地に陥るのではないかと思うのだが、法的には「国務大臣は、その在任中、内閣総理大臣の同意がなければ、訴追されない」(憲法第75条)から、小沢氏が自らにこの「特典」を適用すれば訴追を免れ得るようなのだ。 もちろん、仮に小沢氏が民主党の代表選を制して首相に選任されれば、多くの国民はそのことに拒否反応を示すだろうし、その後実際に「小沢首相」がめざましい政治成果をあげるのでなければ、内閣と民主党はさらに支持を減らすことになると思われるし、次の総選挙では敗北が濃厚だろう。
小沢派の諸氏もそうした不安を抱いているだろうが、菅内閣のままでは民主党はジリ貧だと考えれば、この際は小沢氏の“剛腕”を頼み、それによって生み出され得る成果に賭けるほかに方法はない、というところではないか。 ただし、もし小沢氏自身が出馬を辞退した場合、小沢派としては、他の派と協力して、別の候補を立てて菅首相と争う以外にはないが、その場合には反菅派の勝算はずっと小さくなると思われる(相手が小沢氏でなければ、なんといっても現職の首相は強い)。それでも反菅派が勝った場合、選ばれた新代表・新首相が極めて有能でなければ、民主党の退勢を食い止めることは容易ではないであろう。 他方で、菅首相の続投を支持する民主党の人たちは、小沢氏が代表選に出て来ることを恐れていると思われる。菅続投支持派とはその実態は反小沢派であるから、できることなら菅氏に代わる有力な候補、すなわち参院選挙の“戦犯”ではない非小沢系候補を擁立したいところであろう。しかし、菅氏が首相である限り、同氏以外の候補を立てることは事実上不可能である。
そうすると、あり得る展望としては、①菅対小沢の一騎打ちとなって小沢氏が選ばれるか、②小沢氏以外の候補が反菅派から出てきて運良く菅氏が再選されるか、③小沢氏以外の反菅派候補が勝つのいずれか、おそらく①か②であろう。 ただし、この②の場合には、すでに支持率を落としてきている菅内閣と民主党がさらにジリ貧をたどる可能性が大である。そのような展望の下では、小沢派が党を割り、政界の大再編成に打って出るのではないか。 以上のように見ると、9月の民主党代表選で小沢氏が選ばれようと、菅首相が再選されようと、はたまた第3者が選ばれようと、民主党には明るい展望が開けにくい、と考えざるを得ない。
つまり、菅対小沢の対決を軸とする民主党の党内闘争は、民主党にとっても、さらに日本の政治にとっても不毛だと思われる。この不毛の対決を避ける唯一の方法、それは菅首相も小沢氏も今回の代表選への不出馬を宣言することである。 そうすれば、いま菅首相の続投支持を表明している反小沢派の人々も、小沢氏以外の反菅派の人々も、すべて自由に(誰に遠慮することなしに)代表選に立候補することが可能になる。そのことは、民主党としての参院選敗北の総括になるし、広く民主党の人材を発掘する絶好の機会となり、民主党の活性化の可能性を開くものと思われる。 (この項 終り) |
エコノミストの時評
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