文太郎の日記帳

景気、財政赤字、国際経済、政治・政局、世界情勢、日米関係など現代の諸問題を広い視野で解明します。

エコノミストの時評

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  円高・ドル安が進んでおり、8月11日の東京外国為替市場では一時1㌦=84円72銭、また同日(米東部現地時間)のNY市場でも一時1㌦=84円73銭と1995年7月以来の円高・ドル安となった。また、株式相場が世界的に大きく下げており、11日の日経平均は258.20円、2.7%、同日のNYダウ平均は265.42ポイント、2.5%下落した。12日の東京株式も大きく続落している(前場は187.65円安)。
 その結果、世界的に世界景気の先行きに対する不安が強まっており、日本ではそれに加えて円高・ドル安のもたらす景気へのマイナス効果が憂慮されている。
 こうした問題の核心は、米国景気の回復の弱さと、それに対する米国政策当局とくに米政府の無策にある。こういう状況では、日本の通貨当局は躊躇することなくドル安(円高)防止のための為替介入に踏み切るべきだ。
  
 最近の(円に対する)ドル安は、米国景気の先行きに対する不安と、それに対処しようとしている米連邦準備制度(Fed=Federal Reserve System、米国の中央銀行)の金融緩和政策が主因である。
 とくに11日(東京)以降の一段のドル安は、10日(米東部現地時間)に開かれたFedの公開市場委員会(FOMC、政策決定機関)が、①米国の生産と雇用の回復のペースが最近数ヶ月に鈍化したことを理由に、②Fed保有の住宅ローン担保証券などの元本償還金を原資として長期米国債を買い入れて緩和的金融政策を続け(長期金利の低下を促進)、政策的誘導金利であるFF(フェデラル・ファンド=銀行間の翌日物貸借資金)金利を引き続き0%〜0.25%に据え置く、との決定を行ったことが直接の理由である。
 
 Fedは数ヶ月前までは、米国景気の回復を理由に、金融政策の平常態勢への復帰を目指して、①08年の金融危機以来引き下げられてきた金利を引き上げ、また②2.3兆ドルにまで拡大したFedの信用供与残高を縮小するタイミングとそのやり方を模索していたから、10日のFOMCの決定はそうしたFedの最近までの政策スタンスを完全に転換したことを意味した(NYTimes電子版、10日)。
 まず10日のNY市場では、はじめFedがその景気判断を下方へ修正したことにショックを受けて株価が大幅に下落、次いでFedの政策が金融緩和の継続であることを評価して株価は回復したが、最終的にはその金融緩和の程度が限定的(長期金利を押し下げる効果はあるが、金融緩和の量としてはFedの回収資金を再投資するだけに近い)であることから株価は下落して引けたのだった。11日には、Fedのとった措置の効果が限定的であるとの見方が広がったのと、中国経済の減速(注)を示す指標が発表されたことなどから、NYダウは大幅続落となった。
 
 (注)中国国家統計局11日の発表によると、7月の鉱工業生産は前年同月比13.4%増で、6月の増加率より0.3ポイントの低下、また固定資産投資(都市部)の前年同期比増加率は1〜7月は24.9%で1〜6月の25.5%より0.6ポイントの低下だった(読売、12日)。これらは成長の減速といえば言えるが、依然として高い伸び率であることは否定できない。
 
 しかし、米国経済の減速については、すでにそのGDP成長率(実質、年率)が09年10〜12月期の5.0%から、10年1〜3月期の3.7%、4〜6月期の2.4% ヘとスローダウンしていること(7月30日に発表)、失業率が9.5%に高止まりしていること(6月および7月。09年10月のピークは10.1%)などからすでにすこし前から明白だった。
 またそうした状況を背景に、Fed理事会(FRB)のバーナンキ議長が7月21日における米上院での証言で、米国経済の先行きについて「異例なほど不確実」と述べたことから、Fedが景気の先行きについて非常に警戒的であったことも知られていた。その意味では10日に示されたFOMCの景気判断には特別に新しいものは何もない。
 したがって、このFOMCの決定の核心は、Fedの金融緩和策が極めて限定的なものであったことに尽きる、と言ってよいだろう。市場は主としてそのことに失望したのである。
 
 だが、そもそも現時点で景気対策として金融政策に頼るべきものは何もないはずだ。いま、米国で金融の逼迫や高金利が景気回復を阻害しているわけではない。回復を弱めているのは、厳しかった07〜09年不況の後遺症(とくに住宅市場の不振と消費者の景気への信頼感の喪失)であり、そのことから来る需要の弱さである。
 しかも米国の場合には、日本やドイツと違って、これまでは輸出はカナダ、メキシコなどアメリカ大陸諸国向けが中心で、現在高成長を続けている中国を中心とするアジア市場への輸出があまり伸びていない点に大きな弱点がある(当「診断録」7月4日号、8月4日号参照)。
 このような状況においては、米国景気にテコ入れするためには、政府が財政面からの刺激策を追加する以外にはない。
 
 ところが、ギリシャのソブリン債危機をはじめとする欧州諸国の財政危機の問題化で、先進諸国の間で財政赤字の克服が最近の経済政策の重点項目となった(6月にカナダで開かれたG7,G20で取り上げられたように)。このため、米国政府はなかなか思い切った景気刺激策を追加できないでいる(財政赤字の拡大を嫌う野党・共和党の反対もある)。
 実際、米政府行政管理予算局が7月23日に発表した推定によると、10会計年度(09年10月〜10年9月)の連邦政府財政赤字は、過去最大の1兆4710億ドル(1㌦=90円の換算で132.4兆円)、対GDP比で10.0%となる見通しだ(日経、7月24日)。この財政赤字の対GDP比率は日本の9.3%(10年、予算ベース。財務省)をも上回るもので、たしかにこれ以上赤字を増やすことは難しいだろう。
 しかし、政府長期債務残高(地方の債務を含まない)の対GDP比は、日本の146.5%(10年度、予算)に対して米国は09年度実績で69.7%であった(財務省)。その点からすれば、米国には赤字を増やして財政支出を追加する余地がまだあると言える。
 
 それにもかかわらず、オバマ政権は景気のスローダウン化、失業率の高止まりに対して、これといった対策をとろうとしていない。たしかに政府は失業保険の給付期間を延長する法案を議会で成立させたり(7月22日)、州政府に対する支援を盛り込んだ法案を議会に提出したりしているが、米国の国民と経済界を納得させるほどのものにはなっていない。
 そのようないわば手詰まりの中で、今回Fedが金融緩和に動いたわけだ。しかし、先に述べたように、こうした金融緩和では景気に対する効果はあまりない。その半面で、Fedによる長期国債の買い入れによる長期金利押し下げの影響により、ドルが円(現時点での国際的な最安定通貨)に対して下落するのである。
 もし、米政府が財政支出の拡大で景気刺激を行えば、需要追加の効果がある半面、国債発行額の増加により金利は上昇し、ドルの下落(円の上昇)を防げる。
 
 現在日本の経済は、アジア諸国向けを中心とする輸出の増加で景気回復が進んでいる。この輸出増は、政府支出の増加による需要の追加の肩代わりの役割をしているわけだ。そうした日本の景気回復は、逆に日本の輸入増を通して、アジアおよびその他諸国の成長に貢献していると言える。
 そうした状況において、米国の金融政策(それも景気対策としてはあまり効果がない)の影響で、ドルが下落する結果として円高となり、それが日本の輸出に打撃を与えることは好ましいことではない。
 実際、ドルの下落は世界経済にとっての大きな不安定要素である。最近、中国政府が日本の国債を多額に購入している(10年1〜6月で1兆7326億円の買い越し)が、これなども一種のドルからの逃避で、そのこと自体もまたドル安・円高を促進することになっている。
 
 こういう局面においては、躊躇することなく過大な円高の阻止、というよりはドル下落の阻止のために、日本の通貨当局は妥当な一定の為替変動幅を想定して為替市場に介入すべきである。
 おそらく、そうした介入に対しては、米国当局は“為替相場は市場の動きに委ねるべきだ”として反対するだろう。しかし、為替は現に各国当局の金融政策などによっても大きく影響されており、「為替相場は(もっぱら)市場で決まる」という決まり文句は神話に過ぎない。
 仮に米国が日本の為替市場介入に異議を唱えるようならば、日本政府は為替安定のための国際協議(G7など)を呼びかけ、交換提案として米国に財政支出の追加と金利引き上げを求めるべきだ。
 
 それを、政府や日銀のように円相場の成り行きを「注意深く見守る」と言うだけでは、為替政策についての無策を告白している以外の何ものでもない。 また、Fedに対抗して日銀に一層の金融緩和策を求めることも賛成しがたい。すでに日本の金融も総体的には十分に緩和されている。
 日本政府も経済界も、これまで米国の顔色をうかがって独自の政策を主張できないできたが、いまや経済政策の面でも日本独自の主張を持つべきである。     (この項 終り)

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