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民主党代表選の立候補届け日の9月1日を目前にした8月30日夜、鳩山由起夫前総理と菅直人首相の会談が行われた結果、両氏は代表選における菅首相と小沢一郎前幹事長の 「全面的な対決を避けるため、菅・鳩山両氏に小沢前幹事長を含めたいわゆるトロイカ体制を大事にしていくことで一致」した(NHK・TV・30日午後9時のニュースおよびNHKオンライン)。
私もこのニュース(鳩山・菅両氏へのインタビューを含む)を視聴したが、鳩山氏は上記のように会談結果を説明し、また菅首相も「トロイカ体制に輿石東参院議員会長を加えてしっかりやっていこうというお話を(鳩山氏から)いただき、基本的にまったく異存はない」(この部分はasahi.com 30日による)と述べた。 鳩山氏は31日にこの会談結果を小沢氏に伝え、同氏が了承すれば、菅・鳩山・小沢3氏の、場合によっては輿石氏を加えた会談を持ちたいという。以上の動きは、いうまでもなく、民主党の代表選を無競争で菅首相の再選へもっていこうとする方策である。 この一連の動きの起点となったのは菅首相で、同首相が小沢氏との会談の斡旋を鳩山氏に依頼したことで実現した。民主党内でも、“菅・小沢の対決の結果、両氏のいずれが勝っても、民主党が分裂するのではないか”という危惧が急速に台頭したこともあって、「挙党一致態勢の構築」を主張する鳩山氏が両者の調停に乗り出したものである。
しかし、話を持ち出したのが菅首相であることを見れば明らかなように、こうした動きは、畢竟(ひっきょう)するに 、小沢氏に代表選の立候補を思いとどまらせるためのものである。もし、民主党の分裂を憂い、それを避けようとするのが本当の趣旨であるならば、“両者のどちらが勝っても党を割らない”という申し合わせを公開ですればいいのである。それを、小沢氏を引かせることで代表選を無競争にしようとするのは、まさに菅首相自身の利益のためであろう。 菅首相は25日に鳩山氏と会談した際には、鳩山氏が「小沢氏を含めた挙党体制の構築を求めた」のに対し、「菅氏は難色を示した」(読売、26日)のであり、それを受けて小沢氏は最終的に立候補を決意し、鳩山氏も小沢支持に回ったのだった。この結果、菅首相の再選を目指す人たちは、「小沢氏の出馬表明だけでなく、…鳩山氏が『小沢支持』に転換した『ダブルショック』」を受けたのだった(読売、26日夕刊)。その結果が30日の再度の菅・鳩山会談の実現である。
だが、トロイカ体制の尊重、その原点への復帰ということになると、それは「脱小沢」体制の転換であるとともに、政策的には昨年の総選挙における民主党マニフェストへの回帰ということであり、小沢氏がこれまで主張してきたところのものである。したがって、そのことは鳩山政権の「任期中は消費税を上げない」という公約を参院選に際して否定した菅首相の路線や、マニフェストの大幅修正を考える菅内閣の政策の修正を迫るはずのものである。 菅首相は「トロイカ体制」への復帰・維持ということで、そこまで受け入れたのだろうか。私には疑問だ。 菅首相は、いまは方便で「トロイカ体制」の尊重を言っているだけのように思える。もし、同首相が無事再選を果たせば、政府・党の人事を若干手直ししても、徐徐にか急速にか、政府・党の運営面でも、政策面でもその「トロイカ体制 」から離れていくのではないか。
そのように見通せるから、小沢氏がこの菅・鳩山提案をすんなり受け入れるとは考えにくい。もし、それを受け入れたと仮定すると、それは小沢氏が代表選における劣勢、さらには代表選後における党内孤立化を恐れたから、ということになりそうだ。 だが、たとえ小沢氏が以上のような経過で今回の代表選から降りても、人事面での処遇だけではなく、菅、小沢両氏の路線の違いが克服されなければ、民主党内の両氏・両派の対立は残り、将来それがまた火を吹くことは避けられそうにない。 それに、そもそも代表選で複数候補が争うこと、とくに二者が争うことを忌避する民主党内部の動きが間違っている。そうした競争(闘争)を嫌うのなら、中国や北朝鮮のように、また企業内のように、指導者を選ぶに当たっての選挙制をやめればいいのだ。
日本のマスコミもいわゆる世論も、遺憾ながら、そうした指導者選出の選挙戦を忌避する傾向が強い。また、“短期間に首相を代えるのはよくない”といった、議院内閣制を否定するような意見が横行している。 それに関することだが、30日には多くの新聞に民主党代表選についての世論調査結果が報じられたが、それについての新聞の大見出しと記事の内容の分裂ぶりには驚いた。
例えば読売は1面トップで「民主代表『ふさわしい』」(横見出し)、「菅氏67% 小沢氏14%」(縦4段見出し)、日経は1面第2トップで「首相にふさわしいのは」(横見出し)、「菅氏73% 小沢氏17%」(縦4段見出し)と伝え、世論の圧倒的な菅再選支持を強調した。 では、菅支持の理由はというと、読売の場合は、「首相が短期間で代わるのは良くない」が65%を占め、対して小沢支持の理由は「指導力がある」が40%でトップを占めている。また日経では、菅支持の理由は「小沢氏を支持できないから」が70%、小沢支持の理由は「指導力がある」が67%である。 要するに、菅首相はその指導力がまったく評価されていないのに対し、小沢氏は、その政治資金に関わる問題にも関わらず、まさにその指導力が支持者からは評価されているのである。 また、日経による菅内閣の実績・政策の評価では、「菅内閣の仕事ぶりを」評価するは31%、評価しないが49%、「政府の経済対策や円高への対応を」評価するは10%、評価しないは74%である。わずかに、「消費税引き上げに」ついては賛成45%、反対46%と拮抗している。
結局、上記のような新聞調査の内容の詳細によると、世論は菅内閣の実績をほとんど評価していないし、また菅首相の指導力もほとんど評価していないのである。それなのに、民主党代表として、あるいは首相としては、菅氏が小沢氏よりはるかに支持率が高いという。それは、「首相が短期間で代わるのは良くない」、あるいは「小沢氏を支持できないから」という理由(本当は理由にはならないもの)からだけだ。 それを大新聞は、あたかも世論が本当に菅氏が首相にふさわしい人物と評価しているかのように伝えている。そのようにして、民主党内の意見を菅支持に傾けさせようとしているわけである。 たしかに、いったん選ばれた首相は、なるべくじっくりと国政に専念できることが望ましい。しかしながら、もし失政、あるいはそれに類することがあれば、その首相は早急に除かれる方が望ましい。
菅首相は、党の公約を無視したあげくに参院選挙に大敗し、いわゆる「ねじれ国会」という政治不安定化を招いたのだから、その責任は重い。その結果をどう総括するか、それこそが今回の民主党代表選の最大の課題であるはずなのに、「首相が短期間で代わるのは良くない」とか、「二人の領袖が対決するのは好ましくない」といった理由(実は屁理屈)で、大事な代表選に“談合”を持ち込もうというのはまさに問題外だ。 その意味でも、31日の鳩山・小沢会談で、どういう結論が出るか、注目したい。 (この項 終り) |
エコノミストの時評
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