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鳩山由起夫前首相を仲介者として進められてきた菅直人首相と小沢一郎民主党前幹事長の(民主党代表選における)「全面対決」回避の工作は、8月31日夕の短時間の菅・小沢会談で不調に終わった。そして、その直後に菅、小沢の両氏はあらためて9月1日告示の民主党代表選に立候補する意思を表明した。
この両者の妥協を目指す工作は、当「診断録」前号(8月31日午前1:32付)で指摘したように、「小沢氏を引かせることで代表選を無競争にしようとする」、「菅首相自身の利益のため」のものだったから、そもそもそこに無理があった。 その意味では、菅・小沢会談で妥協が成立しなかったことは意外なことではない。 この問題の核心は次の点にあった。すなわち、もし菅・小沢の激突を避けて民主党の代表選を無競争で決着させようとすれば、候補者を一人に絞る必要があるが、その場合になぜ小沢氏が立候補を辞退しなければならないと考えられたのか、ということである。すなわち、菅氏が辞退することも選択肢として考えてしかるべきではなかったか、ということだ。
その場合の小沢辞退論の主な論拠は、①菅氏は現職の首相であるから、国政の継続性を考えると、現職の菅氏を優先させることに理がある、②小沢氏には、同氏の政治団体の資金のあり方をめぐって、近く検察審査会から起訴相当という結論を下される可能性があり、そういう不透明な問題を抱えた政治家が首相に就任することは望ましくない、ということであろう。 しかし、菅氏には、首相としての最初の大仕事である参院選に臨んで(同首相はこの選挙で自らへの国民の信任を問うと述べた)、従来の民主党の方針を独断で変更して消費税の引き上げの方針を宣明し、それが主因で民主党を大敗北させた大きな責任があり、そのことだけでも引責辞任に値するとの批判がある。また、現在の円高問題への対処を含め、これまで菅内閣として有効な政策を打ってこなかったではないか、という批判もある。
他方、小沢氏は、その政治資金の問題に関しては、すでに検察庁からは2度にわたり不起訴の結論を得ているので、仮に検察審査会の結論で起訴されても、裁判で有罪とされる可能性はほとんど無いという弁明が可能だ。 こうした点を考慮すると、菅、小沢両氏は代表候補者としてはまったく資格が対等である。したがって、「党二分の争い」を避けようとした場合に、あたかも小沢氏が辞退するのが当然であるかのように前提することはできないはずのものである。 だが鳩山前首相は、それでも、現職首相を短期で辞めさせるのは好ましくないとの判断から、菅・鳩山・小沢の「トロイカ体制」(それに輿石東民主党参議院議員会長を加えたトロイカ・プラス・ワン)を復活させ、そのかたちの中で小沢氏を党と政権の中枢に復帰させる構想を描き、30日夜の菅・鳩山会談でこの構想を菅首相に承認させた。
小沢氏もこの構想に心を動かされたようだが、氏自身の言葉によれば、31日になって菅首相の方で前夜(30日)の考えを撤回したようなのだ。小沢氏は菅氏との会談のあとの記者会見で次のように述べている。すなわち、31日に鳩山前首相から聞いたところでは、菅首相は「昨晩は、鳩山前首相の提案に対して、大変自分もそのように思うということで話し合いを持つことに積極的であったということでございましたが、本日、一晩明けてから、ちょっと話し合いを持つことは、密室批判を受けかねないので、そういうことはやめたいと、やりたくないという趣旨の話だった」と(会見全文。読売電子版、31日)。推察するに、菅首相は同首相を支持する主要な人たちから「トロイカ体制」復活について強い反対を受けたのではないか。 以上のような経過で、小沢氏に代表選からの撤退を承諾させるための秘策も実現することなく消えたわけだ。しかし、すくなくとも小沢氏は仲介役の鳩山氏に対して、「トロイカ体制」の復活を条件に代表選から撤退する可能性を敢えて示したことで、「挙党態勢の構築」という鳩山氏および党内からの要請に応えたことになる。
では、9月1日に正式にスタートする民主党の代表選の帰趨はどうなるのだろうか。こればかりは、それを占うデータがあまりないから、五分五分と考えておくしかないだろう。 とは言え、菅首相の側には、新聞などの世論調査では同首相の再選を望ましいとする意見が断然多数を占めている、という利点がある。しかし菅再選が望ましいとする根拠は、これも「診断録」前号で述べたように、「首相が短期間で代わるのは良くない」とか、「小沢氏を支持できないから」といった消極的なものでしかない。
これに対し小沢氏には、その指導力への党内および党外支持者の期待と、党の議員や一般党員などを動かす得意の組織的選挙法がある。 そして、選挙運動が正式にスタートすると、両候補の政策についての論争が展開されるはずだが、その際には消費税増税の可否、民主党マニフェストの扱いなどが大きな論点となると予想されるが、これは実際の展開を見なくては評価を下し難い。 それでは、代表選の結果なにが起きるだろうか。菅首相が再選を果たした場合には、当然菅内閣が続く(改造はあるにしても)が、「ねじれ国会」へ対処する有効な策(参院での多数派を形成できる新連立政権の構築)を見出せないまま、予算関連法案も成立させられないで立ち往生する可能性がある。そのような際には、民主党内反対派が政界再編成へ動く可能性が大きい。
逆に小沢氏が民主党新代表に当選した場合には、(小沢氏の実力で)連立の組み替えなどで新たな多数派政権を形成する可能性が大きいが、小沢「新首相」自身が、その政治資金問題で国会において厳しい追及を受け、苦境に立つ可能性がある。 そういう意味では、菅、小沢両氏のいずれが代表選で勝っても、民主党中心の政権の前途は安穏なものではあり得ないだろう。 結局は、両候補が新代表となった場合に潜在するリスクを、民主党の議員、一般党員、サポーター達(すなわち代表選における有権者)がどう判断するかで選挙の帰趨が決まりそうである。。 いずれにせよ、日本の政治は、昨年の民主党政権の誕生、自民党政権の終焉に始まる動乱期の、第2幕に入ることになろう。これは、戦後政治が大転換を遂げる過程の動乱であり、ある意味で不可避のものと考えられる。
それを、多くのマスコミが好んで書くように、「国民不在の権力闘争」と嘆くのは、歴史的視点を持たない者の淺智恵(あさぢえ)でしかない。 (この項 終り) |
エコノミストの時評
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