文太郎の日記帳

景気、財政赤字、国際経済、政治・政局、世界情勢、日米関係など現代の諸問題を広い視野で解明します。

エコノミストの時評

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菅首相続投の前途は?

 民主党代表選の結果は、菅直人首相と小沢一郎前幹事長が獲得した党員・サポーター票の大差が大きくものをいい、総ポイント数で菅氏(721ポイント)が小沢氏(491ポイント)に圧勝した。国会議員票でも412対400ポイントで菅氏が上回ったことは小沢氏にとって痛い誤算であっただろう。
 党員・サポーター票が圧倒的に菅首相支持に回ったのは、マスコミ各社の世論調査で、菅首相の党代表としての再選を支持する意見が小沢氏の代表就任を支持する意見を大きく上回っていたことに強く影響されたものである。国会議員票も、そうした世論に相当程度影響されたことは疑いない。その意味では、菅首相の代表選勝利は「世論(ただしマスコミ調査による、という限定つきの)の勝利」と言えるだろう。
 ところが、そうした世論が菅再選を支持した理由は、「首相が短期間で代わるのはよくない」(読売、8月30日)、「小沢氏を支持できないから」(日経、同)というもので、菅首相の政治実績や指導力が支持されたわけではない(当「診断録」8月31日号参照)。
 この結果は、私見によれば、世論と民主党は「首相をコロコロ代える」ことを避け、「言うことがコロコロ変る首相」を支持したことを意味する。
 
 政策論についてはあとで述べるとして、新たな出発をする菅首相があらためて直面するのは「ねじれ国会」である。そこで、本当に政権の安定を図るために首相としてまず行うべきことは、参院でも与党で過半数を確保できるような新連立政権形成への努力である。
 民主党代表選が終わった直後の民主党内及びマスコミの主たる関心事は、おきまりの党役員人事と内閣改造である。菅首相は14日にはそれは「白紙」であると語っていたが、本来ならば、党三役人事だけを行った上で、まずもって新連立政権への交渉が他党との間で行われるべきであり、内閣改造にはその新連立の結果を反映させるべきなのである。それを、現連立政権の枠内で内閣改造を行ってしまえば、連立に伴う内閣の組み替えは行わないという意思表示になってしまう。
 予想された通りだと言ってしまえばそうだが、日本では政局安定のためのそうした努力はなおざりにされがちで(当「診断録」9月11日号参照)、マスコミもそれを当然のように考えている。
 
 菅首相は従来も連立の組み替えによる新たな多数派の形成には熱意(というより自信)がなく、政策ごとに野党との合意を図る「部分連合」でねじれ国会を乗り切る意向で、党代表に再選されたあとも同じ構えで臨むつもりのようだ。そうだとすると、菅内閣は今後たちまちそうした「部分連合」に関して難題に直面するだろう。
 例えば、こんどの代表選の過程で菅首相が急に叫びだした「法人税の引き下げ」案の扱いである。
  まず、この案についてすぐに思い起こすのは、同首相が参院選の過程で突然始めた消費税引き上げの論議である。この構想は、民主党が参院選で大敗したあと、そして民主党の代表選を前にしては、「社会保障と税制の一体的改革」という方向に軌道修正された。
 ところが今度は、経済界・労働界の代表や日銀総裁らをメンバーとする「新経済成長戦略会議」(議長は菅首相)の初会合を9月9日に開催した際には、「2011年度からの法人課税の実効税率引き下げを検討するよう指示」している(日経、9日夕刊)。
 
 首相が代表選の中で法人税に関して行った演説を聞くと、法人税引き下げで企業の海外移転を防ぐことが、雇用維持のキー・ポイントだという。だが同首相は、いま日本中が急激かつ過度の円高で企業の海外移転が促進されると憂えていることには一切触れない。これなども、菅首相の思いつきでの政策提案と、その朝令暮改ぶりをよく表していると言える。
 それはとにかく、経済産業省は11年度税制改正要望に法人実効税率の5%引き下げを盛り込んだが、そのためには「1兆円超の財源を探さなければならない」(日経、10日)。では、そのような財源をどこから見つけ、そして、それをどのように野党に承認させるのか。
 そうした話し合いを持ちかけられる野党が自民党であれば、同党はその条件として、「子ども手当」などの民主党マニフェスト予算の修正を持ち出すに違いない。あるいは、一挙に消費税の引き上げを交換条件として主張する可能性もある。いったい、菅首相はそうした野党の要求にどう対処するつもりなのだろうか。もし、そうした点で菅内閣が野党と「部分連合」を成立させようとすると、こんどは民主党内からの猛反発を喰うであろう。
 
 いま述べた子ども手当にしても、10年度と同じ内容の手当を11年度にも支給しようとするなら、予算案と平行して、予算案とは別に、あらためてその実施法案を成立させなければならない。
 10年度予算で子ども手当を実現させた際には、その法案には社民党(当時は連立与党)のほか、公明党と共産党が賛成した。だが、同じことを11年度にも続けようとしたとき、例えば公明党がすんなりとまた賛成するかどうかは疑問である。おそらく、公明党は同党なりの条件をつけてくるだろう。菅内閣はそれらを呑むのかどうか。
 さらに、菅内閣と与党が野党との部分連合を必要とするのは、予算関連の個々の法案だけではない。そもそも予算の赤字をまかなう特例国債を発行するための法案成立にも野党の協力を必要とするのだ。
 
  ところが、部分連合が可能で、ねじれ国会はそれで乗り切れるという根拠として、菅首相は今回の代表選の過程でたびたび1998年当時のねじれ国会の例を持ち出していた。
 この時は同年の参院選で自民党が惨敗してねじれ国会となった。そしてその年の通称「金融国会」では、小渕内閣が提出した「金融再生法案」が衆議院で可決されたが、参院では野党(民主党:菅代表)が反対、修正案を提示した。これを受けて、与党がそれをほとんど「丸呑み」して成立に漕ぎ着けた。菅首相は、自らが関わったこの野党による法案修正の例を誇らしげに語り、国家社会に必要な法案なら、この例のように与野党の合議が整うものだと説いているのである。
 
 この例示を聞いて私が直ちに思ったのは、菅首相は、政府提出の法案が衆議院で可決したあと参院で審議が難航しても、どうしてもその法案を成立させたいときには、野党が修正案を出せばそれを「丸呑み」することで成立させるつもりらしい、ということだ。つまり菅首相は、重要法案成立のためなら相当な妥協も辞さない、というつもりのようなのだ。
 そういう考えなら、たしかに部分連合はスムースにいくだろう。しかし、それは政治が完全に野党ベースで進むということ、すなわち民主党のいわば自殺行為である。果たして、そうしたやり方を民主党の大勢が容認するかどうかだが、おそらく容認しないだろう。
 
 菅内閣が直面する難題は国会乗りきりだけではない。いったい、普天間問題をどう解決するつもりなのかがまったく見えないのだ。
 菅首相はその就任以来、6月23日の沖縄の「慰霊の日」に現地を訪問して戦没者の慰霊を行ったが、それ以外には普天間問題で沖縄を訪問して現地の人たちに政府案を説明し、現地側の意見を聞くということを行っていない。要するに何もしていないのだ。わずかに仙石官房長官が東京で仲井真沖縄県知事に面会しているぐらいだ。
 そうこうするうちに、9月12日には名護市会議員選挙が行われて、その結果、市長支持派すなわち普天間基地の名護市辺野古への移設に反対する議員が27名の定員のうち16名を制することとなった。
 今後は、11月に沖縄知事選挙が行われるし、オバマ米国大統領の来日予定もある。目下のところ、それまでに普天間問題が解決される見通しはまったく立っていない。菅内閣は、この問題をめぐって立ち往生する可能性がある。
 
 以上のように見ると、菅首相はこんご政策実行で行き詰まる可能性が大である。すなわち、行き詰まって総辞職に追い込まれるか、仕方なしに衆議院解散をせざるを得なくなるかである。あるいは、法案成立のために野党に対し過大な妥協をして、党内から反撃を受ける可能性もすくなくない。
 民主党内の小沢派(菅首相批判派)は、今回の代表選で敗北したからといってすぐに党を割ることはしないだろうが(挙党態勢は代表選中の約束でもある)、菅首相が民主党の政策を大きく変えそうな場合になれば、それに真正面から反対するだろう。
 いずれにせよ、菅首相が順調にあと3年(すくなくとも次の民主党代表選が行われる2年後まで)その座を維持することは至難の業だ。したがって、「首相をコロコロ代える」ことに反対した人たちは、意に反して、似たりよったりの短命政権を作ることに手を貸した、ということになりそうだ。
 
 ところで小沢前幹事長だが、同氏が今回の代表選での大敗で大きな打撃を受けたことは明らかだ。それも、小沢氏の「政治とカネ」についての国民の疑問が敗北の主因となったことは特に痛手だと思われる。もし、検察審査会が近く「起訴相当」の議決をすることがあれば、同氏は当分は政治の表舞台から消えなければならないのではないか。
 しかし、もし起訴を免れれば、逆に小沢氏は息を吹き返し、引き続き民主党内で大きな影響力を発揮しそうである。
 また、これまでの小沢派の人たちは、小沢氏の今後に関わりなく、その主力は結束を保って党内発言力を保持していきそうである。もっとも、菅首相と反小沢派も小沢派分断のあの手この手を打つであろうが。
 いずれにせよ、民主党代表選で菅首相が大勝したけれども、これで民主党も政界も平穏化することはあり得ず、2010年から11年にかけて新たな政治動乱があると思われる。      (この項 終り)

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7月中旬からの政局批評は的確で新聞諸紙の論評よりも本質を突いていた。それも、「首相をコロコロ替える」代わりに「言うことがコロコロ変る首相」を支持したというように具体的に突く所がすごい。お疲れでしょうが、円高問題についても期待します。

2010/9/15(水) 午後 5:14 [ かたつむり ]


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