文太郎の日記帳

景気、財政赤字、国際経済、政治・政局、世界情勢、日米関係など現代の諸問題を広い視野で解明します。

エコノミストの時評

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国際孤立で中国軟化

 中国は尖閣諸島沖での故意衝突で中国漁船船長が日本に逮捕された(9月8日)ことへの報復の一環として、日本へのレアアースの輸出を事実上停止していたが、「日中の貿易関係者の話によると、28日にこの措置を取りやめた」。
 また、中国外務省は28日の記者会見で「日本側が誠実で実際の行動をとることが必要だ」と述べたが、船長の釈放後になお「日本に要求していた『謝罪と賠償』については言及を避け」た。さらに同外務省の幹部は、29日にNHKの取材に対し、「今のような状況を中国側は望んでいない。領土をめぐる話で両国関係に衝撃を与えることは避けてほしい」、「良好な関係こそが両国にとって利益になる」 と強調し始めた(以上、いずれもオン・ラインNHKニュース、29日18時57分)。
 中国船長の釈放後も対日強硬姿勢を変えなかった中国が、ここに来て急速に態度を軟化させたことは明らかだ。これは、米国政府が日本の措置を支持したほか、米国その他のマスコミが中国の威圧的な外交を強く批判したこと、今回の事件により、アジア諸国の間に対中国警戒感が一層強まったことなどが影響したためと考えられる。
 
 まず米国の反応だが、27日に記者会見したキャンベル国務次官補は、「アメリカは領土問題については一方の立場にくみしないというのが長くとってきた方針だ」とした上で、菅直人首相は「この難しい問題を(に?)国家の指導者にふさわしいやり方で対応したと思う。こうした問題に対応する際に、平和的な外交プロセスを行うことがどれだけ重要かを示すものだった」と評価した(同上、28日9時32分)。このキャンベル発言は、同時に、船長の釈放に反対した日本の野党などに対する批判でもあることは明らかだ。
 さらに同次官補は、中国の日本に対するレアアース輸出規制について、「いかなるそうした動きも緊張を高めることになり、関係国の利益に全くならない。そうした措置はやっかいだ」と不快感を示した(読売、28日夕刊)。
  またグレグソン米国防次官補は28日に東京の米国大使館で記者会見し、漁船衝突事件に関し、「日本の立場を全面的に支持する。日本政府は適切に行動した。これ以上の対応は必要ない」と述べた(毎日JP、29日)。
 
 マスコミでは、ワシントン・ポスト(27日)が、「ますます威嚇的な中国に直面するアジア」と題する社説を掲載、今回の尖閣事件は「中国が国家主義的で領土に不満を抱えた独裁国家のままであることを世界に思い出させた」とし、「こうした振る舞いは、国際的なシステムに溶け込もうという気のある、節度ある国のものではない」と批判した(読売、同上)。
 またNYタイムス(27日)も、「日本は事態が手に負えなくなることを防ぐために重要なことを行った」のに対し、「中国がこれ以上、何をほしがっているのか、我々にはわからない」と述べた(同上)。
 さらにワシントン・ポスト(電子版、28日)は北京発AP通信のリポートを掲載、「中国と日本は火曜日(28日)には、(尖閣)諸島の領有をめぐる抗争のレトリックをトーン・ダウンさせた。しかし事件への中国の最初の荒っぽい(harsh)反応の仕方は、中国が影響力のある経済的・政治的プレイヤーとしての自らの台頭を『平和的なもの』だと公言していることに対する、アジア諸国の疑問を一層強めた」 とし、ボストン大学トーマス・バーガー教授による、「北京はアジアで自らを孤立化させる新たな大きいステップを踏んだ」との批判を紹介している。
 
  このような米国及び(マスコミ報道を通してのものだが)アジア諸国の批判を前にしては、中国としてもこれまでのような対日強硬路線をとり続けることは困難になったものと思われる。
 たしかに、エスカレートする中国の報復措置に屈して日本が問題の船長を釈放したこと自体は、日本の対中国「降伏」として国内外から批判されたが、当「診断録」前号(9月26日号)で述べたように、わが国への一層のマイナスの影響を防ぐためには「隠忍自重」して選ばざるを得ない措置であったと私は判断した。
 ただ、事件の発端における、また問題の悪化の過程における政府の対応の仕方、及び「外交面にも配慮した」と那覇地検が明言した船長釈放の措置が、実質的には政府の責任で決めたものであるにもかかわらず、もっぱら検察庁の自主的判断だとして政府の責任を回避するような態度は、厳しく批判されなければならない。
 
 他方で、無分別な政治家、例えば自民党の麻生太郎元首相は、「尖閣のような、ふざけた話が起きたときは、『日本の国を売るようなことはやめるべきだ』と大きな声で批判すべき」と述べている(28日夜の「故中川一郎を偲ぶ会」での発言。msn産経ニュース、29日) 。この発言などは、戦前に軍部の独断的軍事行動を批判した政治家や言論人を「売国奴」と言って非難した、軍部及びそれに迎合した政治家を思い出させる。
 一般に、紛争、とくに国際紛争が起きたときには、強硬論を主張した者が人気を集め、妥協を模索する者は「弱腰」として非難されやすい。しかし、世の中には「負けるが勝ち」という場合がある。現に、今回の中国船長逮捕問題で日本は妥協し、「負けた」けれども、その後の展開は、国際政治の上ではむしろ中国が「負けた」結果になっている。
 
 もし、日本が今回船長の逮捕を解かず、さらには裁判にかけたとするとどういう結果になっただろうか。中国の強硬報復措置がエスカレートするとともに、国際的にも日本の態度は「紛争解決能力の欠如」として非難され、いずれの面でも大きく国益を損なう結果となったであろう。上述の麻生氏などは、政府にこういう向こう見ずな強硬態度を要求しているのだ。
 なお、菅首相は10月4,5日にブリュッセルで開催されるアジア欧州会議(ASEM)に出席し、日本の立場を国際社会に訴える予定である(各紙、28日)。だが、領土問題については局外の各国は中立を保つはずだから、尖閣諸島の帰属問題そのものを国際会議に持ち出すべきではない。もっぱら、問題の平和解決を望み、それに向けて努力する日本の方針と姿勢を周知する努力をすべきであろう。 (この項 終り)
 

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中国の大国主義的な態度には腹が立ちますが、そもそも当初の船長の逮捕、拘留が何の展望もなく、前原、岡田ラインの「最近の中国は気に食わない、なめられてたまるか」といった程度の認識で始まったのではないでしょうか。こういった空気は確かにかなりの日本人が近年抱いているものでしょうから、この事件で一気に日本人のナショナリズムに火がついたようです。先生は隠忍自重を説いておられますが、政治家こそ説くべきことですね。それなのに民主党の一部議員ですら尖閣列島に自衛隊を派遣しろなどと申し入れています。そうすれば中国はメンツ上同じようにするでしょう。まさに戦争ですね。彼らはそのことを覚悟しているのでしょうか。戦前も軍部だけでなく知識人や大衆のちょっとした勇ましい言論や行動の積み重ねがずるずると戦争に引きずり込んでいったことを忘れないでもらいたいです。

2010/9/30(木) 午後 10:34 [ arakan ]


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