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ドル・円相場(東京市場終値)が6月23日以降継続的に1㌦=90円を割るようになり、最近(10月15日に終る週)では80円に接近しているため、わが国では過度のドル安・円高についての危機感がつのっているが、これは単に円の独歩高ではなく、その根底にあるのは世界各国通貨に対するドル安の進行であるとの認識が広まってきている。他方で、いま世界で進行しているのは自国の通貨の為替相場を引き下げようと互いに競う「世界通貨戦」(global currency battle)(例えば、Finacial Times、電子版、10月12日 )であるとの見方も国際的に出てきている。
そうした捉え方が横行する中では、9月15日に日本の通貨当局が実施したドル買い・円売りの市場介入も、そのような「通貨切り下げ戦」への参戦の一例として見られがちである。そのことは、以後の日本の市場介入を実施しにくくしているようだ。 しかし、冷静に見れば、現在自国通貨の為替相場を安くする(すくなくともそうした結果をもたらす)政策を推進しているのは米国で、円高などはその反射にほかならないし、日本としてはそうした過度なドル安を拒否しようとしているだけである。日本以外でもオーストラリア・ドル、ブラジル・レアル、台湾ドル、シンガポール・ドル、南アフリカ・ランドなどが円の場合と類似のドル安・自国通貨高に見舞われている(日経、10月15日、その他)。
これに対し、米国などから為替相場の切り上げを強く迫られている中国の人民元の場合は、基本的にはその為替相場システム、すなわち管理為替相場、言い替えれば為替相場の弾力阻止が問題とされているのであり(注)、日本やオーストラリアなどの場合とは事情を異にする。つまり、意識的に黒字国の為替相場全体の切り上げを狙った政策の一環が米国の人民元切り上げ要求ではない。米国としては、いま特に中国に対して人民元の切り上げを強く要求する根拠があるのだ。それは、米国の対中国貿易の巨大な赤字である。 (注)9月の「診断録」(23日号)に「かたつむり」さんから中国とインドの通貨の為替相場について(だと思われる)質問があったので、簡単に説明する。
中国の人民元は、これまでは人民銀行(中央銀行)の為替操作を通じて基本的にはドルにペッグ(釘付け)してきた、すなわちドルとほぼ一定の為替レート関係を保つようにしてきた(最近はやや弾力化しているが)。そのいずれにせよ、円と人民元との為替相場は、ドル・円相場とドル・人民元相場から換算される相場(クロス・レートという)が基準となる。そこで、元がドルに対して上昇すれば、円に対しても上昇することになる。 しかし、手っ取り早く具体的にその日の人民元・円相場を知るためには、例えば、「Yahoo! ファイナンス」から「外国為替」を開いて、「レート計算」の欄に、中国元と円を入力すればすぐに結果が得られる。例えば先週末10月15日の相場は1元=12.26円だった。 インド・ルピーの場合には、インド準備銀行(中央銀行)が必要に応じて1ユーロあたりと、1米ドルあたりの基準相場を決定し、それを基準に変動している。したがってインド・ルピー・円の相場はやはり上記二つの基準相場からのクロス・レートで計算されるが、手っ取り早くその日の相場を知るには、上の人民元の場合と同様に、Yahoo!ファイナンスの「レート計算」で、ルピーと円を入れれば結果が得られる。10月15日の相場は1インド・ルピー=1.85円だった。 米国の今年(10年)1月〜8月の商品貿易収支は合計で4173億ドルの赤字だったが、そのうち対中国の赤字は1734億ドルで、赤字全体の実に41.6%を占める(米商務省統計)。これは、OPEC(石油輸出国)諸国計に対する赤字658億ドル(全赤字の中での比率は15.8%)、対北米2ヵ国(カナダとメキシコ)の645億ドル(15.4%)、対EU(欧州連合)諸国計の529億ドル(12.7%)をはるかに上回る。
ちなみに対日赤字は374億ドル(9.0%)で、日本はいま米国にその黒字削減を求めて“狙い撃ち”される状況にはない。 このように巨額の米国の対中国貿易収支赤字の原因は、米国の上記期間における対中輸出が558億ドル(全輸出の7.1%)であるのに対して、中国からの輸入が2292億ドル(全体の18.5%で、米国の輸入先の国では第1位)に達しているからだ(ちなみに、米国の輸出先第1位の国はカナダで19.8%)。
このような結果を見れば、米上院のボーカス財政委員長(民主党)の以下のような主張、すなわち「エコノミストは中国の人民元が20〜40%過小評価されていると試算している」、「これを是正すれば米国で50万人の雇用が創出される」(北京市での10月13日の講演。日経、14日夕刊)との主張にも根拠があると言えるだろう。 米国では失業率が依然として9.6%(9月)に高止まりしている。これは先の景気後退下での失業率のピーク10.1%(09年10月)からわずか0.5ポイントの低下に過ぎず、10年1月の9.7%以後はほぼその近傍で横ばいである。 これは、米国の景気回復期としては異例の雇用回復の停滞であり、ここから、景気の失速を恐れる米国の今の景気対策の主要な二つが出てきている。その一つは、FRB(中央銀行である連邦準備制度の理事会)による金融の極端な緩和政策であり、もう一つは、人民元切り上げ、そのための為替相場の完全な弾力化に関する対中国の要求である。この後者は議会の与野党共通の要求である。
前者の金融政策は、結果としてドル安をもたらしているが、必ずしもドル安の推進とそれによる全般的な貿易収支の改善を主目的にしたものとは言い難い。 貿易収支の改善には、主として速効(雇用面でも)が期待できそうな対中国収支の改善、そのための人民元相場の上昇に期待しているのである。それが実現しない場合には中国に対して報復関税を課す構えで、すでに下院ではその法案を可決している(そうした動きの影響か、ごく最近元相場はかなり上昇している。) 以上のような主たる景気対策以外には、米国には目下のところ有効な景気対策はないようだ。特に、民主党政権としてはいわば得意の財政政策の追加的な出動がないことが目立つ。
これは、財政の赤字が巨大化している(09年10月〜10年9月の10財政年度は1兆2940億ドルの赤字で、2年連続で1兆ドル超)ためだ。特に、共和党は今は赤字増となるような景気刺激策に反対であるので、11月の中間選挙で劣勢を予想されているオバマ民主党政権としては、そうした景気策追加には動きにくい。 その結果、当面、実行可能な景気対策としては金融政策と対中国貿易改善策ぐらいしかないわけだ。 ところで、本稿のはじめに引き合いに出したFinancial Times 紙は、米国の超金融緩和と低金利の政策は、ドルの供給増加とドル安を通じて、他国(国際収支の黒字国)の為替相場を上昇に導き、結局はそれら諸国を内需拡大による成長へ追い込むことを意図している、と論じている。それが米国主導の「通貨戦争」であり、米国はインフレを他国に“輸出”しようとしているのだと言う
だが、ドル安・自国通貨高に見舞われる国、例えばその典型である日本では、急激なドル安・円高は経済にデフレ的作用を及ぼしつつあり、まさにFinancial Times 紙の言うインフレとは逆の現象が起きつつある。だから、今のドル安はむしろ“デフレの輸出”になると言うべきだ。その米国自身は、バーナンキFRB議長が15日の講演で「デフレのリスクは妥当と言える水準を超えている」と述べた(Bloomberg電子版、16日)ように、米国は今はデフレへ落ち込むことを恐れており、その意味で外国への“インフレの輸出”などできない相談だ。 そもそも1930年代の大不況期における為替切り下げ競争も、「近隣窮乏化政策」、つまり“デフレ輸出政策”と見なされたのである。 米国としても、自身の金融緩和策とその結果としてのドル安が、日本などに(ひいては世界経済に)デフレ的なマイナス効果を及ぼすリスク(それは米国へもはね返る)は承知しているはずだ。だから、米国は日本の為替市場介入(それは円安政策ではなく、過度のドル安・円高の阻止である)には反対しなかったのだと私は見る。
現に、10月8日に開かれたG7(先進7ヵ国)の財務相・中央銀行総裁会議では、①新興黒字国は為替レートの柔軟性を向上させる改革を実施すること、②為替レートは経済の基礎的条件を反映すべきである、③為替レートの過度な変動は経済金融の安定にとって望ましくない、④G7は為替市場を注視して協力する、などを主な合意事項とした(日経その他、9日夕刊)。 つまり、事実上で中国(新興国と表現)の為替弾力化と人民元の上昇を求めつつ、一般的に為替相場については、過度の変動は望ましくないとして日本が行ったような為替市場介入を黙認したのであり、全般的な「通貨戦争」を仕掛けたとは言えない。 ただし、一層の金融緩和と金利低下で、企業やファンドは米国で低利資金を一層調達しやすくなり、そうした資金を、株価上昇を期待しやすい新興国に投入しているので、これらの国ではたしかにインフレが促進される恐れが生じている。その意味で、これら諸国が米国に過度の金融緩和の抑制を求めることにも根拠がある。
また日本も、世界第2位のドル保有国として、ドルの減価を抑えるよう米国に求める権利がある。その意味でも、なにも過度のドル安を防ぐ(円高阻止と言うよりは)為替介入の実施にビクビクする必要ははないのだ。その点で、日本はドル安・自国通貨高に見舞われている国々と協調することが可能(為替市場への協同介入まではいかなくても)であり、共同して米国とも協議すべきである。 いずれにせよ、為替相場の安定は世界経済の安定と成長のためには不可欠の要件であるが、最近それがいちじるしく不安定化している。その点につき、ブラジルのマンテガ財政相は8日、「変動相場制は最適な仕組みと考えられてきたが崩壊した。(日米欧が1985年にドル高是正で協調した)プラザ合意のような合意が必要だ」と述べた(読売、10日)ことには意味があり、新たな合意(為替相場についての大まかな合意を含む)が必要なことは疑い得ない。
さしあたり、それが今月22,3日のG20(主要20ヵ国)の財務相・中央銀行総裁会議、及び11月11,2日のG20首脳会議の課題である。 日本としては、そういった合意に向けてのイニシアティブを発揮すべきであるし、また、9月の市場介入の後でも再び生じている「過度の為替変動=ドル安・円高」に対しては、「必要なら断固たる措置をとる」と口先で繰り返すだけではなく、適時に介入を「不言実行」すべきである。(この項 終り)
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エコノミストの時評
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「日本としては、そういった合意に向けてのイニシアティブを発揮すべきであるし、また、9月の市場介入の後でも再び生じている「過度の為替変動=ドル安・円高」に対しては、「必要なら断固たる措置をとる」と口先で繰り返すだけではなく、適時に介入を「不言実行」すべきである。」
文太郎さん!
大賛成です。^^
中小製造業社は泣いてます・・・
このまま円高を放置すれば、
いずれ日本にも、大失業時代が訪れるでしょう。
収入が増えなければ、内需拡大なんて絵に描いた餅!
国民はさらなる貯蓄に向かうでしょう・・・・
まずは大量の貿易黒字を、企業は内部留保せずに、
従業員に還元するべきですね。
大企業は、海外で得た利益の半分を日本に持ち帰らずに、
現地での資源開発や企業の買収に使うべきと思います。
2010/10/17(日) 午後 0:20 [ ダイ ]