文太郎の日記帳

景気、財政赤字、国際経済、政治・政局、世界情勢、日米関係など現代の諸問題を広い視野で解明します。

エコノミストの時評

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G20慶州は成果なし

 10月22、3日に韓国慶州で開催されたG20(主要20ヵ国)の財務相・中央銀行総裁会議は、最近の世界的ないわゆる通貨安競争にどう歯止めをかけるかが主要な課題だったが、会議後の共同声明はその点について、「われわれは為替相場が一層よく市場で決定されるような為替レートシステムーそれは基礎にある経済の根本的条件(ファンダメンタルズ)を反映するーを目指し、そして通貨の競争的な切り下げを差し控える」との抽象論を述べるだけに終り、具体的な対応策を何一つ示さなかった。
 また会議では、米国が提案した「経常収支の不均衡を是正する数値目標(2010年までに赤字あるいは黒字の対GDP比率を4%以内に縮小する)の設定」について多くの議論が費やされたようだが、そのような数値の設定は見送られ、代わりに共同声明で、「過度な不均衡を削減して経常収支を持続可能な水準に維持することへ導くあらゆる政策を追求する」という決まりきった原則論を述べるにとどまった(声明の文言はG20 Information Centre 公表のコミュニケによる)。  
 
 共同声明が言う「為替相場が一層よく市場で決定されるような為替レートシステムを目指す」という部分が、人民元の為替相場を人為的にコントロールしている中国を目標としていることは明らかだが、おそらく中国はそれに対しては、“中国もすでに市場の実勢を為替相場に反映させるように相場の弾力化を進めている。ただし、そうした弾力化を急激に進めるのは好ましくない影響をもたらすので漸進的に進めているところだ”と弁明するだろう。その意味で今回のG20の合意も、中国に人民元の思い切った切り上げを迫る上での効果は弱い。
 そもそも人民元の切り上げを最も強く求めてきたのは米国(対中貿易収支の赤字が米国の全貿易赤字の40%を越す)だが、これまでの米国の直接的な対中切り上げ要求も大きな効果を上げてこなかった。そこで、米議会ではすでに下院が中国に相殺関税を課す(人民元安を一種の輸出補助金と見なして)法案を通しており、中間選挙後には上院も同様の法案を採択する見通しが有力だが、そうなった場合でも、実際にオバマ政権がそうした権限を発動するかどうかは不透明だと言われており、なにか米国が中国に対する強硬策をためらっているような印象を受ける。そうした点を念頭に置くと、今回のG20の声明は一層迫力不足に感じられる。
 
 経常収支の不均衡幅(対GDPの%)を2015年までに4%以内に縮小するというガイトナー米財務長官の提案も中国の大幅な経常黒字(IMFの推定で2010年には4.7%)を念頭に置いたものであることは明らかだが、この数値目標に対しては先進国の中からもドイツ、ロシア、イタリーが反対したとされる(NYTimes電子版、23日)。このうちドイツは10年の経常黒字が6.1%(IMF推定)で、仮にこのような数値目標が設定されれば、中国とともにその主要なターゲットとなるはずのものだった。
 ドイツの反対理由は明らかではないが、その一つは、4%という数値自体が恣意的なものだという批判からであろう。また同国は従来から(1960年代の頃から)、国際収支の不均衡を是正する責任を主として負うべきなのは、黒字国ではなく赤字国である、という主張をしてきている。今回も多分にそういう考えにもとづいての主張だったのではないか。
 
 ちなみに、米国の2010年の経常赤字比率は3.2%であったが、1982年以降は、91年を除いて、連続的に赤字であり、2006年にはこの比率は5.7%に達した。その後は、不況による輸入の減少が主因で赤字比率は09年には2.6%にまで低下している(Economic Indicators による)。
 このような慢性赤字国である米国は、これまでは赤字の削減策としてはほとんど黒字国に黒字の削減を求めるばかりであった。そのような米国が経常収支不均衡削減の数値目標を提案しても、他国に対する説得性がないのである。
 なお、日本の経常黒字の対GDP比は09年が3.3%、10年が3.1%(IMF推計)で、現在すでに4%未満である。 
 
 共同声明の「通貨の競争的な切り下げを差し控える」という部分にも説得性が乏しい。そもそも、最近の「通貨の競争的な切り下げ」を行っている国(あるいは国々)とはどこなのか。多くの国が念頭に置くのは一つは中国だが、「新興国の多くは、先進国の金融緩和で高成長の新興国に大量の投資資金が流入し、ドル安・自国通貨高を招いていると批判している」(日経、23日)。 
 その場合、指摘されている金融緩和を主導しているのは米国である。日本もそれに追随しているが、投機的資金の流入で自国通貨高に見舞われている点では日本も多くの新興国と同様である。
 この点につき、ドイツのライナー・ブリューデレ経済相は、「私の見解では、貨幣の恒久的な創造は為替レートの間接的な操作である」と述べ、「事実上、国際的に批判されている中国と同様に米国も通貨の弱化を引き起こしていると警告した」(NYTimes 同上)。
 このあとの記者会見でガイトナー米財務長官は、「米国の政策は強いドルをサポートすることだ」と述べたが(同前)、これは全くのとってつけの弁明であろう。米国は、意図的にドル安政策を実行しているとはいえないとしても、現在の(および近い将来の一層の)金融超緩和政策(金融偏重の景気支持策)とその結果としてのドル安を「差し控える」(G20声明)意図がないことは明らかである。
 
 結局、慶州でのG20財務相・中央銀行総裁会議は、これといえるような具体的な(抽象論ではない)国際合意を達成できなかった。したがって、これ以後に、通貨安競争のような傾向に大きな変化が出るとは期待できない。
 日本としては、米国がこのような(結果としての)ドル安政策を実行している限りは、「先進国は為替相場の過度の変動や無秩序な動きを監視する」とのG20声明に則り、かつは「強いドルをサポートする」というガイトナー財務長官の意図に沿って、過度のドル安・円高に対しては、ドル支持と過度の円高阻止のため、ドル買い・円売りの市場介入を遠慮せずに実行すべきである。
 そうしなければ、回復途中の日本の景気も腰砕けになる可能性がある。 (この項 終り)

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