文太郎の日記帳

景気、財政赤字、国際経済、政治・政局、世界情勢、日米関係など現代の諸問題を広い視野で解明します。

エコノミストの時評

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 政府は10月26日に2010年度補正予算案を閣議決定(各紙、26日夕刊あるいは27日)、29日に国会へ提出した。ところが、急激なドル安・円高で輸出主導の景気回復に黄信号が点灯し、内需の振興が急務となっている時なのに、この補正予算はマスコミによっても市場によってもあまり注目されず、論議もされていない。
  ただ、自民党など野党が、小沢一郎前民主党代表の国会への喚問を政府与党が認めなければ補正予算審議に応じないと主張しているのが、すくなくとも国会においては補正予算をめぐるほとんど唯一の論議(いわば場外闘争)だと言っていいぐらいである。
 では、なぜ予算に対する注目や期待が低下したのか。それは、おそらく、財政赤字の累積で財政危機論が朝野で優勢になり、景気支持あるいは景気刺激については財政には頼れず、それは主として日本銀行の金融政策に頼らざるを得ないと考える傾向が支配的になっているからだと考えられる。
 しかし、そうした考え方は財政論としても金融論としても適切ではない。
 
 私見では、今回国会へ提出された10年度補正予算案は、財政健全化への要請に応えることを最優先し、景気回復を促進する役割については二次的に考えたものであると判断する。 
 ここでまず、10年度補正予算政府案の概要を見ておこう。歳入の補正は、税収の増加(主として景気回復による法人税収入の増加)が2兆2470億円、前年度剰余金の受入れが2兆2005億円、税外収入の減少が183億円で、差引4兆4292億円の増収である。この歳入増を歳出の増加に振り向けるわけだが、補正の財源として新規の国債の発行を見込んでいないことが今回の補正予算案の大きな特徴である。
 このように、新規国債の発行なしに補正予算を編成したのは1999年度以来11年ぶりのことで、その点で政府は財政健全化路線を堅持したと言えるだろう。
 他方、歳出の補正は、①「円高・デフレ対応のための緊急総合経済対策」に4兆8513億円、②その他の経費に1968億円、③国債整理基金特別会計への繰入が8123億円、④既定経費の減額(マイナス要因)が1兆4313億円で、差引4兆4292億円(歳入増加額と同額)である。
 
 この補正の結果の10年度予算を09年度の予算(1次、2次の補正後)及び10年度の当初予算と比較しておく。
 ▽予算規模(歳入、歳出は同額)は、09年度補正後予算、10年度当初予算、10年度補正後予算の順に
  102兆5582億円  92兆2992億円  96兆7284億円
 ▽国債発行額は、同じ順に
   53兆4550億円     44兆3030億円   44兆3030億円
  ▽歳入の国債への依存度は、同様に
  52.1%            48.0%            45.8%
 以上の通りである。
 
 民主党の鳩山由起夫内閣は09年度予算について第2次補正を行ったが、予算規模は自民党の麻生太郎内閣が編成した09年度第1次補正のそれをそのまま受け継いでおり、したがって鳩山内閣による2次補正後の09年度の予算規模は自民党政権による決定のものと同額である。ただし国債発行額は、09年度の進行中における不況の進行の影響で、当初の33兆2940億円が補正後には53兆4550億円へと大幅に膨らんだ。
 10年度予算は、鳩山内閣(当初予算)と菅直人内閣(補正予算)による編成である。これを見ると、民主党内閣は予算規模においても国債発行額においても(当初、補正後のいずれでも)、自民党内閣時代のそれを大きく減額していることがわかる。
 ところが、鳩山内閣による10年度予算の編成に際しては、自民党もマスコミも、それを09年度当初予算(予算規模は88兆5480億円、国債発行額は33兆2940億円)と比較し、あたかも鳩山内閣が放漫財政に走っているかのように非難したものである(当「診断録」10年3月4日号参照)。
 
 しかし実際には民主党政権は、財政健全化を求める自民党、経済界、マスコミの大合唱に押されて、財政について“よい子”になろうとし、景気回復の促進、デフレの克服のための方策については二の次になったのであり、その延長線上で10年参院選に際しての菅首相の消費税増税発言が出てきたと言える。
 上記のような10年度予算(当初)の編成について、私は当時「財政面で追加策がとられなければ、有効なデフレ対策とはなり得ない」と批判した(上記「診断録」)。今回の10年度補正予算の編成・提出は、こうした予想通りの結果であるが、この補正予算はなお財政健全化優先の編成であると思う。
 この補正予算の規模は、政府が9月10日に閣議決定した「円高やデフレへの緊急対応」における約2兆円の財政措置(予算予備費9182億円と国庫債務負担行為1兆円などによる)に比べると拡大しているが、10年度に入ってからの税収の増加(注)や前年度の剰余金が合わせて4.4兆円以上見込まれることが明らかとなった現在においては、この規模でも控えめ過ぎと言うべきであり、補正後でも10年度予算は09年度予算(補正後)の規模を下回っている。
 
 (注)留意すべきは、景気が回復すればそれに応じて税収が増加するものであるということ、したがって、差し当たっての財政赤字の拡大が見込まれても、それによって経済成長率が高まると、税収増により結果として予想された赤字が必ずしも現実化しない、ということである。
 10年度予算は景気回復の点で効果を上げたとは言えないが、新興国などの高成長とそれら諸国へのわが国の輸出増で、今年度の景気回復テンポはこれまでは当初の政府予想を上回ってきたのであり、税収増はその所産である。
 
 ここで、今回の補正予算による支出内訳を見ると、その主内容である「円高・デフレ対応のための緊急総合経済対策」の4兆8513億円の中身は、①「雇用・人材育成」に3199億円、②「新成長戦略の推進・加速」(レアアースの確保など)に3369億円、③「子育て、医療・介護・福祉等の強化による安心の確保」に1兆1239億円、④「地域活性化、社会資本整備、中小企業対策等」に3兆706億円(うち地方交付税交付金が1兆3126億円)となっている。
 この地方交付税交付金の増額1兆3126億円は国の税収の増加によって自動的に決まるものだが、「年度内に地方に配るのは3000億円で残りは11年度に繰り越す」見込みである(日経、27日)。また「子育て、医療・介護・福祉等の強化による安心の確保」の1兆1239億円のうちの「現行高齢者医療制度の負担軽減措置の継続」2807億円は現行施策の単なる継続である(日経、同)。
 したがって、「緊急総合経済対策」の新規支出分は正味では3.5兆円余である。しかも、それらの支出は分散していて、まとまった需要効果を期待できるものが乏しい。
 
 大きく内需を振興し、デフレ解消へ前進するためには、本当はまとまった、かつ景気刺激に象徴的な事業を推進する必要があると思う。私は地域の需要の実態についてはつまびらかではないが、あえて思いつきで例示すれば、地方で合意を見ている整備新幹線計画を大きく進めることが考えられる。それによって併せて新幹線技術の向上を図れば、その外国への輸出にも貢献できるはずだ。
  問題はそうした計画のための財源であるが、私は亀井静香金融相(当時)が10年度当初予算の審議に際して提唱したのと同様の方針、すなわち不足する政府資金は日本銀行による国債(私案では無利子・無期限)の直接引き受けによる調達が望ましいと考える(上述の「診断録」10年3月4日号参照)。
 この場合には、調達した資金は政府支出となって需要増に寄与する。これに対し、現在のように日銀が国債を民間(金融機関)から買い上げて資金を民間に供給する方法は、実質的には日銀による国債の引き受けにほかならないが、資金は民間の金融機関を通して金融的に(貸付等で)流れるために、往々にして実需に結びつかず(民間投資が不活発な場合には)、しばしば投機資金と化するのである。
 
 本稿では詳論は省略するが、現代の中央銀行は一国の資金の調達と使用に関して独占権を持つに至っているけれども、本来はそのような特権を持つ正当な根拠はないのである。現代の中央銀行券(管理通貨)、例えば日本銀行券は「日本銀行」という名を冠しているが、実質的には国家紙幣であり、本来は政府が発行と使用の権限を持つべきものである(詳細は当「診断録」09年3月4日号、同6日号参照)。 
 したがって、本来ならば、予算で決めた範囲で、政府が現金通貨を日銀に引き渡した際に(現在、日銀券は国立印刷局によって製造され、印刷費と引き換えに日銀に引き渡されている)、それと同額の政府預金を日銀の勘定に設定し(つまり政府が日銀券を日銀に有償で引き渡すことを意味する)、それを引き当てに政府が財政支出を行えばいいのである。 
 しかし、そのためには根本的な制度改革が必要なので、その代りの当面の便法として、私は国債の日銀引受けを活用(財政法上の特例で実行可能)するように主張しているのである。
 
 そうした制度改革論は措くとしても、とにかく現在のような経済の停滞とデフレを克服するためには、従来のような型にはまった財政規律論(単純な健全財政主義)と中央銀行への過度な期待・依存を打破する必要があるということだ。この点は日本以外の先進国にもおおむね妥当することである。 
  そうした政策のイノベーション(革新)ができなければ、新興国などの高成長経済による刺激、あるいは予想外の技術革新の発展がある場合を別とすれば、先進国が経済停滞から抜け出すのは困難であろう。
 
 はじめに戻って、今回の政府補正予算案があまり注目、論議されないのは、野党やマスコミ好みの「財政危機論」をあらためて叫ぶ余地が同予算案にあまりなかったことと、野党もマスコミも一層の景気刺激策を政府に求める論拠を持てなくなったためだと思う。
 もっとも、自民党の伊吹文明元幹事長は政府補正予算案の審議に際し、「バラマキの廃止」を唱え、「政府が子ども手当や高校授業料無償化などを廃止しなければ自民党は反対すべきだ」と主張している(産経、29日)。これなどは、相変わらずの財政規律優先論であり、また、補正予算審議の機会に民主党の基本的な政策方針まで否定しようとする無理を通そうという主張で、政策論としては意味をなさない。それは、現時点での財政論に関して方向を見出せなくなった議員達の無策を露呈した一例と言うべきであろう。
 
 このような混迷の中、政界、マスコミ、市場のいずれも、財政ではなく、ひたすら日本銀行や米国FRB(中央銀行に当たる連邦準備制度の理事会)の動向に注目し、一喜一憂しているのが現状である。(この項 終り)
 

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