文太郎の日記帳

景気、財政赤字、国際経済、政治・政局、世界情勢、日米関係など現代の諸問題を広い視野で解明します。

エコノミストの時評

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 11月3日に行われた米国の中間選挙(注)の結果、民主党が大敗し、獲得議席数は下院では民主党がマイナス60、共和党がプラス60で、総議席数は民主186,共和239、未定10(4日、米東部標準時午前7:42時点の結果)となり、共和党が下院の過半数を制した。上院は民主がマイナス6、共和がプラス6で、総議席数は民主52、共和46、未定2となり、民主が辛うじて過半数を維持した。しかし、米議会は上下両院でいわゆる「ねじれ」現象が生じたわけで、オバマ民主党政権は今後大きくその行動を制約されることになる。
 オバマ大統領は2年後の大統領選挙での再選を期して巻き返しを図るわけだが、その見通しは明るくない。つまり2年後にはまた共和党大統領が生まれる公算が大きくなった。
  他方、わが国では菅直人内閣が今や四面楚歌の状態にあり、最近の世論調査では内閣支持率が下落して、不支持の率が支持率を上回るに至った。次の総選挙が何時になるかは未知数だが、次には民主党が大敗して政権を失うことはほぼ確実になってきた。
 ただ日本では、民主党が政権を失ったあとに自民党がまた政権に復帰するかどうかは全く疑問だ。むしろ今後は見せかけの2大政党制が崩壊するのではないか。
 
 (注)4年ごとの大統領選挙の中間の年の11月に行われる議会上下両院の議員選挙。下院の全議員435人と上院議員100人のうちの1/3が改選される。同時に任期満了の州知事の選挙なども実施される。
 
 今回の米国の中間選挙で民主党が敗北した基本的な原因は、①大規模な政府景気対策の下で米国経済が景気回復に入ったはずなのに、雇用の改善があまり進まず、失業率が依然として9.6%(2010年9月)という高水準に高止まりしていること、②景気対策のほか、医療保険の改革などで国民生活への政府の関与が強まっているという選挙民の認識とそれへの反感、すなわち「大きな政府」への反感である。そうした国民の感情は、ティー・パーティ(茶会)運動(注)に象徴的に示された。さらに、③オバマ氏へは初の黒人系大統領として期待が大きかっただけに失望も大きくなった、と言えるだろう。
 今後は、連邦財政の赤字が2年続きで1兆ドルを超える状況であることに加え、下院が「大きな政府」に反対する共和党に支配されるので、政府支出の増加を伴う追加的な景気対策を実施することが一層困難となった。そのため、2年後の大統領選挙時までに抜本的に雇用状勢を改善することもかなり困難である。
 
 (注)これは、独立前1773年の米国マサチューセッツ州で、宗主国英国による茶への課税に反対する運動が起き、過激派の市民が茶を積んだ英国船に乗り込んで茶をボストン湾に投げ込んで抗議した事件に因む。このボストン・ティー・パーティー運動は米国の独立運動ののろしとなり、その後広く米国における自由主義的運動のモデルとなった。
 最近では2009年初めに、オバマ政権による大規模な政府支出計画に反対する共和党系・保守派の国民の運動として始まり、全米に広まって、10年の中間選挙においてはティー・パーティー参加の共和党候補者が多数当選する結果となった。
 
 政府が景気と雇用の回復のために財政を出動させることが困難なため、Fed(連邦準備制度。米国の中央銀行システム)は11月2,3日のFOMC(連邦公開市場委員会。Fedの政策決定会合)で大規模な追加的金融緩和措置を決定、明年6月までにFedが米国債6000億ドル(1㌦=80円換算で48兆円相当)を買い入れることになった。これにより、民間金融の一層の緩和と長期金利の低下が見込まれている。
 しかし、今の日本と似て、米国経済においても景気回復力が弱いのは、民間の需要(消費、住宅建築、企業設備投資)が弱いためであるので、いくら多額に民間に資金を供給しても、それらの資金はなかなか実需を伴う支出(投資や住宅建築)には結びつかず、その多くは商品・証券などの市場へ投機的資金として流れることになるだろう。それは、資産バブルとインフレーションの昂進をもたらすリスクが大きい。
 
 Fedによる金融緩和と低金利の推進は、またドル価値の低落、その為替相場のさらなる下落を引き起こすリスクがある。
 現に、FOMCの決定後の3日のNY為替市場では、「ドルは主要通貨の大半に対して下落」、ユーロに対しては「一時は1月26日以来の安値となる1ユーロ=1.4179㌦」へ1.1%下げた(Bloomberg電子版、3日)。
 しかし、「ドルは対円で0.7%上昇し、1㌦=81円20銭をつけた」ほか、「円はすべての主要通貨に対して下落」したという(同上)。この点は予想外のことで、ブルームバーグは「FRB(Fedの理事会)の政策で高利回り資産の需要が高まるとの思惑が働いた」(同上)と解釈していたが、目下のところ実相は不明である。 
 
 その点はとにかくとして、当「診断録」の前号(10月30日号)でも述べたように、今や先進国はもっぱら金融政策頼みでは景気対策・雇用対策で大きな効果を上げるとは期待しにくい。したがって、米国経済がこんご新興国主導の世界経済成長から好影響を受けるなどにより、より確かな成長軌道に乗るのでなければ、オバマ政権が国民の支持を回復し、オバマ氏が大統領に再選されることは難しい。
 かつて1994年の中間選挙においては、第1期の任期中にあったクリントン大統領の民主党は上下両院で大敗し、両院とも共和党が過半数を制することになったが、以後クリントン氏は共和党と妥協しての議会対策に努め、96年の選挙で大統領に再選された。
 オバマ大統領はこのクリントン氏の例にならおうとするだろうが、経済問題でも、外交問題(アフガン問題や対中国政策を含む)でも、当時よりも多くの難題が山積しているだけに、支持の回復は容易ではないだろう。
 
 ひるがえって、日本の民主党と菅内閣の今後をどう見るか。最近では尖閣列島問題をめぐって中国との関係が悪化し、加えてメドベージェフ・ロシア大統領の国後島訪問で対露関係がギクシャクし始めた。
 また対外経済面では、急速なドル安・円高に対して、財務省が一度は市場介入をしたけれども、基本的には放任・無策である。
 内政面では、2010年度の補正予算案を閣議決定して国会に提出したものの、野党から小沢一郎前民主党代表の国会への招致を補正予算審議の条件として求められたために、審議入りが遅れた。結局、岡田克也民主党幹事長が「この国会で(招致を)実現するよう努力したい」と野党各派幹事長に約束することでようやく11月2日から審議入りした。小沢氏自身は、「司法で取り上げるものを立法府で議論するのはあまり妥当ではないし、必要もないのではないか」と語り、国会で自ら説明はしないとの意向を表明した(読売、4日)。おそらく、この問題は国会開会中蒸し返され、政府・与党を悩ませることになりそうである。そういうことにも影響されて、補正予算成立の見通しは立っていない。
 
 それやあれやの難問に追われる中、世論調査における菅内閣への支持率が急落している。
 日本経済新聞社とテレビ東京が10月29〜31日に実施した世論調査では、菅内閣の支持率は40%で、9月調査における71%から31ポイントの急落となり、不支持率の48%(前回は24%)が支持率を上回るに至った。不支持率が支持率を上回ったのは6月の菅内閣補足後はじめてである(日経、11月1日)。
 また産経新聞社とFNN(フジニュースネットワーク)が10月30,31日に実施した調査では、菅内閣支持率は36.4%(前回9月調査では48.5%)、不支持率は46.6%(前回は34.8%)で、やはり不支持率が支持率を上回った。
 このほか、10月24日に行われた北海道第5区の衆院補欠選挙(7月の参院選後の初の国政選挙)で民主党候補は自民党候補(町村信孝氏)に大差で敗れている。
  
 上述の日経世論調査における菅内閣不支持の理由(複数回答)は、「指導力がない」が56%、「政府や党の運営の仕方が悪い」が41%、「国際感覚がない」が31%であった。
 また産経調査における菅首相の指導力についての評価は、「評価しない」が77.3%、うち「外交・安全保障政策」についてが71.8%、「政治とカネの問題」についてが71.0%などであった。
 いずれの場合も、要するに菅首相に指導力がないという点が不支持の最大の理由で、同首相にとってはまことに不面目なことだ。
 「政治とカネ」については、かつて小沢氏自身が検察審査会から起訴の議決を受けた際の10月7日に、「国会で決めた決定に私は何時でもしたがう」と語っていた(各紙、10月8日)のだから、首相が指導力を発揮して国会の政治倫理審査会などで招致を決議してもらえばよいのである。それを、岡田幹事長に小沢氏の政倫審への出席を働きかけさせるだけなのだから、問題を無用に長引かせるだけになっている。
 
  尖閣問題での中国の不合理な対日高姿勢や、ロシアの北方領土問題での最近の強引な対日態度については、マスコミなどは「外交の基軸である日米同盟を民主党政権がないがしろにしてきたこと」(読売、11月2日)が中露の対日強硬外交の根本原因だと主張している。
 しかし、日米同盟に忠実だった自民党政権下でも、鳩山一郎内閣による「日ソ国交回復に関する共同宣言」(1956年)、田中角栄内閣の「日中共同声明 (71年)以後は、政府はこの両国と平和条約を結ぶ(領土問題の解決を含む)交渉を行うと約束しながら何も解決してこなかったのだから、むしろ菅内閣は今そのツケを払わされているというべきだろう。
 ただし、菅内閣にも自らの明確な対中露外交の方針が欠如していることについての責任がある。
 
 振り返ると、09年9月に発足した民主党の鳩山由起夫内閣は、日本の対米対等化、対中、対露関係の正常化と友好促進という旗を掲げた。ただし、鳩山前首相には理念があってもそれを具体化する政策が欠けていたために、普天間問題で迷走し、また日中、日露交渉も具体的に進めることがなかった。
 しかし、鳩山前首相の姿勢は中国、ロシア両国に日本への大きな期待を抱かせたことは否定できない。菅内閣はその鳩山内閣を継承したが、中身では「脱鳩山、脱小沢」が最大の特徴で、とくに脱小沢の点が世論の大きな支持を得たのだった。だが、そうした脱鳩山・小沢路線は、中露両国からは対中露外交方針の大きな修正、かつての自民党路線への復帰と受け取られたのであろう。
 
 そうした外交姿勢の転換を含め、菅内閣からは昨年9月に発足した際の民主党政権の理念・特徴が大幅に消え失せたのではないか。
 したがって、昨年8月の総選挙で民主党を大勝させた国民も、今ではその多くが民主党支持ではなくなりつつあると見ていいだろう。
 だからといって、かつての民主党支持者の多くが自民党支持に回帰することはないだろう。昨年の民主党の大勝は、長年の自民党政権の支配にノーを突きつけた点に歴史的な意味があった。その自民党の単純な政権復帰は考えにくい。日本ではまだ二大政党制は定着していないと思う。
 したがって、次の総選挙に際しては、あるいはそれに先だって、新しい政権を目指しての政治理念及び政界の再編成が不可避ではないか。おそらく、しばらくは一種の“政界戦国時代”の到来を覚悟した方がよさそうである。 (この項 終り)

 

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