文太郎の日記帳

景気、財政赤字、国際経済、政治・政局、世界情勢、日米関係など現代の諸問題を広い視野で解明します。

エコノミストの時評

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 Fed(米連邦準備制度=中央銀行)が11月3日に決定した「量的緩和政策の第2弾」(いわゆるQE2=quantitative easing 2)を契機に、ドル安・円高が一層進むのではないかと予想されていたのとは逆に、むしろ3日以後は円に対してドル高(円安)が進んだ。
 私は当「診断録」11月4日号で「3日のNY為替市場では、ドルは主要通貨の大半に対して下落」したが、「ドルは対円で0.7%上昇し、1㌦=81円20銭をつけた」と指摘、ブルームバーグの報道では「FRB(Fedの理事会)の政策で高利回り資産の需要が高まるとの思惑が働いたと説明していたが、目下のところ実相は不明である」と書いた。
 その後はドルは円に対してだけではなく、ほぼすべての通貨に対してジリ高傾向をたどっている。この原因について今は私は、FedのQE2で米国のインフレが進むのではないかとの見通しが出てきたことが主因で、中間選挙(3日投票)でFedの政策に批判的な共和党が勝利し、とくに下院で同党が過半数を制するに至ったことが副次因だと考えるに至った。
 
 日経紙は17日に「円高・ドル安転機の兆し」との見出しの下、1面トップで 、G20(主要20ヵ国)首脳会議(11〜12日)などにおける「米国への量的緩和への各国の批判などから追加金融緩和観測が後退、米長期金利の上昇でドル安に歯止めがかかっている…」と報じたが、すくなくとも今の米国は他国の批判で容易にその政策を変えるようなことはしないものだ。それに、米国市場ではドル高への転換は3日から、また長期金利(10年物国債利回り)の上昇は5日から(すなわちG20より前に)始まっている。
 
 FedのQE2の目的は、長期国債の市場からの買い上げにより長期金利を引き下げ、それを景気回復促進に役立てようとするものだった。
 「しかし、Fedが6000億ドルの債券買い上げ計画を3日に発表して以来、逆のことが起きた。月曜日(15日)には債券市場では再び処分売りが見られ、基準(長期金利の−引用者加筆ー)となる10年もの財務省証券の利回りは2.96%に上昇した(4日には2.48%−引用者加筆ー)。この利回りは、Fedにより3ヵ月前に新政策としてのいわゆる量的緩和(QE)がはじめて示唆された時の水準に近い」(NYTimes電子版、15日)。
 まさに元の木阿弥というわけである(17日には2.88%とやや下落)。 
 
 このように、Fedの意図とは逆に金利が上昇した原因については、「数ヶ月前からFedの債券買い上げの予想をもとに市場では金利とドルの下落が進んでいたので、その効果により、今や今後における成長加速の期待が生まれたからだ」とする説もあるようだが、米国景気にまだそれほどの好転は生じてはいないから、やはり「Fedがインフレ・コントロールを失いつつあることへの市場の警報」とする見方(NYTimes、同上)が説得的である。  
 すなわち、インフレが進めば、名目金利が同じでも実質金利が低下するから、同じ実質金利を維持するためには当然に名目金利は上昇する、というわけである。実際には、インフレが進む状況では、確定利付きの債券の保有は敬遠される傾向となり、債券相場の下落すなわち利回りの上昇が生ずる。こうして米国の金利が上昇すれば、日米の金利差は拡大して、日本(円)から米国(ドル)へ投資・投機資金が向い、ドル高・円安傾向が生ずる。
 
 他方では、一層の金融の量的緩和により、過剰なドル資金が内外の市場に行き渡り、それが株式、不動産などの資産価格の上昇を促進してバブルを発生させる可能性も大きい。G20の場などで中国その他の新興国やドイツがFedの政策を厳しく批判したのはそのためである。
 この側面から見ると、Fedの量的緩和政策は株式相場など資産価格を上昇させる傾向を持つ。しかし、日々発表される米国の景気指標に今なお見られる弱さ、欧州での債務危機の再燃、中国をはじめ新興諸国で強化されているインフレ抑制策などの影響で、このところ現実には相場の上昇が抑えられてきた。
 これに対して、日本の株式市場と相場は長らく停滞してきた結果、むしろ株価は国際比較で割安感が出てきている。そうしたことと、デフレ的な日本経済にはインフレの恐れはないこと、それに円高の頭打ちとが相まって、目下のところ株式市場はむしろ活気を取り戻しているようである(18日には日経平均は6月22日以来の1万円台を回復)。
 
 そう見ると、本稿初めに再録したドル高・円安の原因についての推察、「FRBの政策で高利回り資産の需要が高まるとの思惑が働いた」(ブルームバーグ)との説が当たっていたと言えるのではないか。
 すなわち、インフレ見通しから、株式などの資産への需要の高まり→債券(固定金利)への需要の減退→債券相場(米国での)の下落(すなわち利回りの上昇)→日米金利差の拡大→ドル安・円高の逆転という論理である。
 しかし、他方で、もし日本の資産市場へのドル資金の流入がこんご増加すれば、それがドル安・円高の新たな要因となることも想定できる。
 
 以上に加えて、米国で金利が上昇したことの原因については、本稿初めに触れたように、その副次的な要因として米国中間選挙の結果としての共和党躍進の影響をも見ておく必要がある。
 共和党の議員は中間選挙前からFedによる量的金融緩和に批判的であったが、16日にはマイク・ペンス下院議員を代表発起人とする共和党上下両院の重鎮議員数名がバーナンキFRB(連邦準備制度理事会)議長に書簡を送り、Fedが現に背負っている「物価の安定と雇用の最大化」という二重の政策目的を改め、「今こそ連邦準備は単一の使命、すなわち米国ドルの基本的な強さと完全さ(integrity)を守るという使命に帰る時である」と主張した(NYTimes電子版、16日)。
 しかし、ペンス議員の記者会見における発言によると、実際には「最近のFedによる量的緩和という債券買い上げの行動は、ドルの価値を弱め、さらに世界的な金融システムを混乱させる以外の何ものでもない」(同上)。
 
 Fedは独立性を持つ機関(中央銀行)であるが、議会多数派(さしあたり下院の)の意見を無視することはできないのではないか。そうしたことから、Fedは今回の措置以上の(QE2以上の)金融緩和を実行することはできないばかりでなく、QE2における6000億ドルの国債買い上げの計画も完遂困難ではないか、との見方も出てきている(FRB当局者はそうした見方を否定)。
 現にその影響で、17日の米国債券市場ではQE2への「批判を背景に先行き不透明感が高まり、相場を圧迫」、国債利回りの上昇をもたらした(ロイター電子版、17日)という。  
 ただし、そうなると、金融の量的緩和がインフレ警戒から金利の上昇をもたらすという見方と、量的緩和へのブレーキが金利の上昇をもたらすとの見方が交錯することになり、いったい市場の大勢はどちらを向いているのかが不透明になる。実際には、市場自身が両様の見方が交錯する中で方向を模索しているのであろう。 
 
 もちろん、米国の金利は金融政策や政治の影響だけによって動くわけではなく、弱い景気指標が出れば金利は下がり(債券相場は上昇)、その逆であれば金利は上昇する傾向がある。
 したがって、今後の米国金利については、そうした実体経済の動きと政策の影響の総合的な結果で決まるわけで、単純に方向を見通すことはできないが、すくなくとも“Fedの金融緩和で米国金利は低下”という単純な公式が当てはまらなくなったことは確実である。その意味で、外部世界(米国の)が危惧した“Fedの金融緩和政策によるドル安の推進”という推論も、その通りには当てはまらないと言えるであろう。
 
 円相場についても、その今後は円安持続と単純に見通すことはできないが、すくなくとも、米国の金融緩和と低金利の政策の影響によるドル安・円高の進行に絶えずおびやかされる、といった状態からは脱却できるのではないかと思う。          (この項 終り)

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