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米国に留学する日本人の数が減っており、代って中国からの留学生が増加中で国別の在米留学生数でトップに立ち、日本はかつての第1位から第6位に“転落した”。そういうニュースが昨年あたりから頻繁にマスコミで報じられ、そして嘆かれ心配されている。
米国際教育研究所(IIE)が2010年11月に発表した米国の大学・大学院の外国人留学生数(2009〜10年。短期の語学研修生を含む)によると、「日本人留学生は約24,800人で、全体の6位。前年より15.1%減り、上位25ヵ国中、最大の減少率だった。…日本人留学生数は94〜98年にかけては世界一だったが、97〜98年の47,000人をピークに減少傾向が続く。一方、今回インドを抜いてトップになったのは中国(127,600人)。前年比30%増だった」(asahi.com《朝日新聞社》、2010年12月6日)。 この結果について、米国留学の窓口となっているフルブライト・ジャパン(日米教育委員会)のサターホワイト事務局長は「経済や人材育成の面で日本の国際競争力の低下が心配だ」とコメントしている(同上)。 また、上記の米国際教育研究所(IIE)は91年から毎年日本で「留学フェア」を開催しているが、日本人留学生減少を受け、参加する米大学は06年の106校から10年には5分の1の21校まで激減した。そのためブルメンソールIIE副理事長は、この留学フェアの「打ち切りを検討している」と明言、「(日米関係にとっても)10年、20年単位で考えると極めて深刻な事態だ」と危惧しているという(読売、2011年1月8日夕刊)。
この記事の中で読売は、「かつては有望な市場だった日本が…見限られ、中国などに『標的』を移行する動きで、日米関係への将来的な影響が懸念されている」(同上)と憂慮している。 ちなみに、文部科学省2010年12月22日の発表によると、08年における日本人の外国への留学生総数は「66,833人で前年から8,323人(11.1%)減と、過去最大の減少数となった。日本人留学生数は04年の82,945人がピーク…08年は国別では米国29,264人、中国16,733人、英国4,465人と続くが、いずれも前年より1〜2割減った」(asahi.com、12月27日)。要するに、なによりもまず、日本人の海外留学生全体が減っているのである。 このような海外留学の減少の理由について、文科省の担当者は「不景気による経済的な負担の重さや学生の『内向き志向』のほか、早期に始まる就職活動への影響を考えて留学が敬遠されている」と話している(asahi.com、同)。 本当に日本の学生が「内向き志向」になっているのかどうかはさておき、ここで、大学進学適齢期(いわゆる社会人入学を別とした)である18歳人口(高校卒業年齢の人口)の推移を確認しておく。
国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口」(2006年12月推計)を基に文科省が作成した統計によると、日本の18歳人口は1966年の249万人をピークに、いったん76年の154万人に減少、その後1992年の205万人へ回復したが、再び漸減して2009年には121万人となったと推定される。つまり、18歳人口の第2のピークだった1992年と比較しても、09年の大学進学適齢人口は41%も減少しているのだ。そして、こうした18歳人口の減少は今後も続く見通しである。ここに私たちは、出生数の減少による日本の人口減の恐るべき結果(人口総数の減少に先立つ若者人口の減)を見る。 とにかく、日本人の留学生総数の減少傾向の前提となっている、大学入学適齢期人口の大幅減少という事実を銘記しておく必要がある。いま日本の各大学が入学志願者の確保に血眼になっている所以(ゆえん)である。 次に、世界全体について留学生の動向を概観しよう。統計数字はOECD(経済協力開発機構)の「教育概観 2010」(Education at a Glance 2010)(数字は2008年時点。2010年9月公表)による。
まず、国ごとの留学生数を多い順に並べると以下の通り(総数3万人以上)。①中国(510、842)、②インド(184,801)、③韓国(115,464)、④ドイツ(94,408)、⑤トルコ(65,459)、⑥フランス(63,081)、⑦日本(52,849)、⑧米国(52,328)、⑨カナダ(45,157)、⑩イタリー(42,443)、⑪イラン(39,983)、⑫ポーランド(38,641)、⑬インドネシア(36,786)、⑭香港(34,970)。日本は全体の7位、新興国(中国、インドなど)と新工業国(韓国)を別とすると、先進国中では独仏に次ぐ3位である。逆に、留学生は新興国や新工業国の出身者が断然多いことがわかる。とくに、韓国の留学生の多さは興味深い。 この点を、以上の諸国について、さらに各国別の留学生数をそれぞれの国の人口10万人あたりで比較すると、香港、韓国、カナダ、ドイツ、フランス、ポーランド、イタリー、トルコ、日本、中国の順となり、人口あたりで見た韓国留学生の多さと中国の留学生数がまだ人口比では少ないことが目立つ。 こんどは、留学生を受け入れている国について 、それら各国の受入れ留学生数の世界全体の留学生に占める比率(2008年の各国のマーケット・シェア)を高い順に並べ(シェア1%以上の国)、それぞれの2000年におけるシェアと比較すると次の通り(%、カッコ内が2000年のシェア。上記OECDの統計)。
①米国 18.7(24.1)、②英国10.0(11.3)、③ドイツ7.3(9.5)、④フランス7.3(7.0)、⑤オーストラリア6.9(5.4)、⑥カナダ5.5(4.8)、⑦ロシア4.3(2.1)、⑧日本3.8(3.4)、⑨イタリー2.0(1.3)、⑩スペイン1.9(1.3)、⑪ニュージーランド1.8(0.4)、⑫スイス1.4(1.3)、⑬オランダ1.2(0.7)、⑭韓国1.2(0.2)、⑮スエーデン1.0(1.3)。 これで見ると、米英独の上位3ヵ国がマーケット・シェアを落としていること、とくに米国の大幅なシェア低下が注目される。逆に仏、豪、加、露、日、伊、西、新西、瑞西、和、韓がシェアを上げている。つまり、留学先といえば米国と英国(両国で2000年には全体の3分の1以上を占めた)という時代は終わったのであり、オーストラリア、ニュージーランド、ロシアなど、留学先として魅力ある新しい国が注目されだしたのである。 なお、世界の留学生総数は、上記の2000年から2008年にかけて、1,970,518人から3,343,092人へ69.7%も増えているのである。同じ統計で、日本への留学生数は66,607人から126,568人へ90%の増加、米国への留学生数は、475,169人から624,474人へ31.4%の増加だった。
ちなみに、2008年における米国への留学生数で多い国は、①中国(110,246)、②インド(94,664)、③韓国(69,198)、④日本(34,010)、カナダ(29,082)で、ヨーロッパの先進国からの留学生は極めて少ない。欧州人にとっては、文化の先進国は米国ではなくヨーロッパだという感覚であろう。 ドイツから米国への留学生は8,917人に過ぎない。ドイツの留学生が向う主な留学先はオーストリー(17,464)、オランダ(16,554)、英国(13,625)で、断然ヨーロッパが中心である。 では、なぜ米国の受入れ留学生シェアが最近になって急速に低下したのだろうか。それは、第一に研究機関、教育機関としての米国の大学の優位が相対的に低下しているからだ。例えば、経済学では1950年代から70年代頃までは非マルクス系の経済学では断然米国のレベルが高かったが、今日では米国のそういう優位性はなくなった。
また経営学では、米国の経営系大学院(ビジネス・スクール)で取得するMBA(Master of Business Administration 、経営学修士)が米国だけではなく日本でも高く評価され、日本の多くの大企業でその社員を米国のビジネス・スクールに派遣することが流行った。しかし、リーマン危機を招いたような米国の金融関連企業の経営や、破綻したGM(ゼネラル・モーターズ)の経営などが、往々にしてそうしたMBA保持の経営者たちによるものだったことから、MBAの権威は失墜した。 自然科学分野でも、例えば日本人のノーベル賞自然科学部門の受賞者15人のうち、米国を拠点に研究した人は2010年の根岸英一氏など4人であり、日本でも世界最高レベルの研究ができることが明らかになっている。 そのほか、今日では、ほとんどどの国にいても学術研究の国際交流が極めて容易になっていること、また異文化体験という点に限っても、いまでは日本の企業に就職した者の多くが外国勤務をするようになっていることからも、外国への留学の魅力が減っていることは否定できない。
それに比べると、敗戦から年月が余り経っていない時期には、食料を始め米国の生活水準が日本より断然高く、そうしたことを含めて米国の生活と文化が日本人を惹きつけた。もちろん、いまでも米国の学術・芸術・文化に独特の高さと魅力があることは明らかだが、“米国での生活”自体が日本人を惹きつける時代は去ったと言えるだろう。 逆に、米国での治安の悪化は日本人の米国留学を躊躇させる重要な原因になっていると推定される。 それでは、中国や韓国からの米国への留学が増えているのはなぜだろうか。この理由は極めて明白だ。もちろん、これらの国の人にとって、以上であげたような米国の魅力(出身国と比べての)があるのに加えて、中国人の場合には米国では研究と発表の自由があることが決定的だ。実際、中国の国内にとどまっていては、とくに社会科学分野では、研究と発表の自由は大幅に制限される。これは、学問の研究にとっては致命的なことである。
韓国人の場合には、研究の自由という点ではやはりある程度の制約があるほか、朝鮮半島における政治不安ということが外国留学を志す場合の極めて大きい要因になっていると考えられる。端的に言えば、韓国では戦争(内戦)になる危険が極めて大きいのだ。そういうリスクを避けて勉学・研究をしたいと思うのは極めて自然である。 さらに、中国人や韓国人の場合には、米国での留学を終えたあと、米国で就職することの魅力が日本人の場合よりもずっと大きいようである。 それやこれやを考え合わせると、日本人の留学生総数が減り(そこでは18歳人口の減少の影響は極めて大きい)、その中でとくに米国への留学が減ることはよく納得できることである。
一般に、企業にとって自社への商品・サービスの需要が減った時には、企業すなわち供給者のほうに問題(競争力上の)があることが多い。それを、上記で見た米国のフルブライト委員会やIIEの役員のように、米国への日本からの留学生が減っていること(米国大学にとっての需要の減少)を、日本の需要者のほうに問題があるかのように言うのは、市場の原理を無視するものである。 これに対して日本の大学では、18歳人口の減少という未曾有の危機の中で、国公私立を問わず、どの大学も志願者の確保とそれによる大学の生き残りをかけて、大学の魅力作りに懸命になっている。もちろん、その際、外国の大学は重要な競争相手として意識している。 とにかく、日本の留学生とくに米国への留学生の減少についての、日本のマスコミによる調査抜きの見当外れの批判にはあきれるほかない。とくに、米国への留学生の減少を日米関係の危機として論ずるような人たちは相当重篤な“米国への追従病”にかかっていると言うべきだろう。
そのような愚かな心配をするよりは、マスコミも政党も軽視しがちな、日本の人口減(それは留学生数の減少にもつながっている)という根源的な問題をもっと真剣に考え、論ずべきだ。(この項 終り) |
エコノミストの時評
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はじめまして。大変有意義な記事ありがとうございます。
最近、日本は、留学生が来るのも、出るのも少なく、国際社会への、順応に問題が有るとの記事が多く見受けられ、果たして本当にそれほど重篤なのか知りたいと思っていたところです。
日本の学生は、海外に無理して出かけなくても、技術も教育も世界に通用するだけのものが得られますし、就職率も海外の新卒採用に比べればまだまだ高い状況ですから、以前に比べ海外へ行くメリットを感じないのは当然ですよね。ただ、外国の方の受入をもっと容易にした方がいいとは思います。その点はいかがでしょうか?
2011/7/26(火) 午後 5:20 [ ふ〜ち ]