文太郎の日記帳

景気、財政赤字、国際経済、政治・政局、世界情勢、日米関係など現代の諸問題を広い視野で解明します。

現代短評

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独仏は何に合意したか

 メルケル独首相とサルコジ仏大統領は10月9日にベルリンで会談し、ギリシャ国債デフォルトの公算の増大で経営が不安定化しているユーロ圏の銀行の資本増強方針などについて協議した。その結果、両首脳は「10月末までにユーロ圏安定化の方策の包括的なパッケージ(ヨーロッパの銀行の資本強化策を含む)について合意する」こととしたが、その詳細を公表することは拒否した。サルコジ氏によれば、このパッケージは11月はじめにフランス・カンヌで開催されるG20(主要20ヵ国)首脳会議の前までに公表される(FT=Financial Times電子版、9日)。
 だが、「資本増強策の実行に必要な資金は各国の財政資金でまかなわれるのか、あるいはユーロ圏の救済基金であるEFSF(European Financial Stability Facility )の4400億ユーロから支出されるのかについての両国の見解の相違が解決されたのかどうかについては、何も明らかにされなかった」(同上)。
 実際には、ギリシャ債務の一層大きなヘアカット(刈り込み−事実上の削減)を条件に、EFSFの資金をかなり弾力的に利用することで両国が合意した可能性がある。 
 
 そもそも、銀行の自己資本の増強についての仏独両国の考え方の相違はどのようなものか。NYTimes(電子版、7日)はこの点につき次のように伝えている。「フランスは銀行資本を再建強化するためにヨーロッパの救済資金(EFSF)の資金を引き出すことを望み、ドイツは自国の政府がまず必要な措置を講ずべきだと考えている。メルケル首相は7日、『もし一国が自国だけで銀行資本増強の課題を解決できないない場合に、EFSFが利用されるべきだ』と述べた」。
 しかし、とNYTimesは続ける、「銀行保有の国債による損失の金額は3000億ユーロに上るとの推計があるほどだから、(そうした国債保有によって被るフランスの銀行の損失により−加筆)フランス(国債)が受けている最高級の格付けが危うくなる。そうなると、それは来年5月の大統領選挙を控えているサルコジ氏にとって大きな政治的障害となるだろう」。 
 
 ところで、この問題についてのドイツ案とは次のようなものである。すなわち「EU委員会は同委員会が次週(10日に始まる週)に銀行資本増強についての同委員会案を提案することを7日に明らかにした」が、その際、「EFSFの役割をどう考えるかについては、同委員会スポークスマンはメルケル独首相が用いた次の方式を繰り返した。すなわち、資本不足に陥った金融機関は①まず市場での資本調達を図る、②それが困難な場合に当該国による資本増強策の出動を求める、さらに③それも困難な場合に初めてEFSFによる援助が考慮される。しかしEFSF資金が投入される場合も、今年7月のユーロ圏首脳会議で決まったように、当該金融機関が属する国への信用供与を通じて当該機関の資本に組み入れられるべきである」(FAZ=Frankfurter Allegemeine Zeitung電子版、7日)。 
 
 ドイツ自身は、銀行資本増強の必要に備え、2008年に政府が設置し、10年末に一応その役割を終え、新規資金援助を停止した「Soffin」(Sonderfonds Finanzmarktstabilisierung 、金融市場安定化特別基金)の活動復活を考えている(同上)。ドイツには、このSoffin のほかに、11年に発足した「リストラクチャリング基金」(Restrukturierungsfonds)があり、これはシステム上重要な銀行が困難に陥った場合にその事業の再構築と再編成を援助することを目的としている。同基金の資金は金融機関に対して課される課金でまかなわれ、財政からは支出されない(FMSA=連邦金融市場安定機構のホームページ)。 
 ドイツとしては、起こり得る銀行危機に対して、このように比較的早くからそれへの対応を準備していたようである。 
 
 サルコジ大統領は9日の独仏首脳会談の結果について、「メルケル首相とは完全に一致している。EFSFについても意見の対立はない」と語っている(FAZ電子版、9日)。これは、今月末に向けての両者の意見調整についての自信を示したものともとれるが、9日の会談で基本的な了解に達した可能性をも示している。
 この点につき、「ATHENS NEWS」(電子版、9日)はロイターを引用して、「日曜(9日)のドイツ紙によると、もしパリがギリシャの債務のより大きなヘアカットに同意すれば、ベルリンはEFSFの柔軟な活用を認める用意があるようだ」と報じた。 
 
 そのギリシャ債務問題について、9日の首脳会談後に別個に記者会見したショイブレ独財務相は、「ギリシャに対する新しい救済計画(第2次救済資金−加筆)において決めた民間債権者の負担の分担割合については、ギリシャ政府の全債務を軽減するために改訂(民間負担の割合の引き上げ−加筆)が必要だ」と述べている(FT,9日)。つまり、ギリシャ債務のより大きなヘアカット(今年7月に第2次資金援助を決めた際には21%のヘアカットを予定)が必要というわけである。
 また、「ドイツの報道機関のDPAによると、ユーロ圏諸国の上級財務担当者の間では、ギリシャ国債の額面価値の60%のヘアカット案が検討されている」(同上)。
 
 50%とか60%のヘアカットといえば、これはデフォルト後に債務者が債権者と交渉する債務再編成の内容と異なるところがなく、それは事実上のデフォルトにほかならない。そのような見通しが明確になってきたので、ギリシャ債を多額に抱える銀行の危機(デクシアはその最初の例)が表面化し、また銀行の資本増強が日程に上ったわけである。
 では、なぜ今年7月に決めたばかりのヘアカット率を引き上げなければならないのか。それほどにギリシャの財政改善が進んでいないためとも言えるが、また、資金供与側がギリシャ債務の実体の把握とその改善見通しにおいて甘かったからでもある。ショイブレ独財務相が9日のFTZ日曜版で述べたところによると、「恐らくわれわれはギリシャ債務削減の必要なパーセンテージを7月には過小評価していた」(FTZ電子版、10日)。
 
 従来フランスは、このヘアカット率を引き上げることに反対だったとみられる。それを認めれば、そのことは直ちにギリシャ債を多額に保有するフランスの銀行の経営危機に直結すると恐れたからであろう。
 しかし、銀行危機に備えて資本の増強を進める際、そのために必要な資金のEFSFへの依存を高めて自国財政への負担を軽減することが出来れば、より大きなヘアカットにも耐えられるとフランス政府が判断した可能性がある。その点について、9日の独仏首脳会談で大筋の合意が出来たのではないか。
 
 その肝腎のギリシャの財政再建の進展状況と、それについてのEU,ECB、IMF3機関の専門家チーム(トロイカ)の審査の状況だが、IMFチームのトムセン団長が9日に述べたところによると、「ギリシャは十字路に立っている」。すなわち、「当局がわれわれがこれまで見てきたのよりはずっと厳しい構造的改革の方策をとらなければ、既定のプログラムは効果を上げないだろう」という(ATHENS NEWS電子版、9日)。要するにトロイカとしては結論はまったく未定ということなのだ。
 トムセン氏はまた、「緊縮措置に対する反乱がギリシャほど激しい例を見たことはない。これも私の仕事の不快な面だ」と語っている。 
 
 また、他の報道によると、「トロイカはギリシャ政府に対して『協約自主権』(Tarifautonomie、労使間交渉において国家の介入を許さない制度−加筆)の廃止を要求している。それが通れば、民間企業の賃金を下げ、ギリシャ経済の競争力を強めることが出来る」。しかし「ギリシャ政府はこの要求を拒否した」。その他のことを含め、「トロイカとギリシャ政府の間の対立が先鋭化している」(FAZ電子版、9日)。
 ギリシャ政府とすれば、国民の激しい抵抗にあい、たじろがざるをえないということであろう。このような矛盾・摩擦・衝突を見ていると、交渉のどちら側が悪いのかという問題の次元を超えて、この交渉自体に大きな無理があることを物語っていると思える。
 
 結局、資金供給側の諸国とギリシャとの合意が達成されるのかどうか、その見通しについては悲観的とならざるを得ない。
 独仏首脳は9日、「10月末までにユーロ圏安定化の方策の包括的なパッケージについて合意する」 と約束したが、果たして「ユーロ圏安定化の包括的方策」とはいかなるものなのか。私見では、問題の抜本的な解決とは、早急にギリシャのデフォルトを認めて当面その債務を棚上げし、返済可能な債務額とその返済期間について債権・債務両者が方策を考える債務再編成以外にはないと思う。
 そして、ユーロ圏安定化の努力の重点を、ギリシャ以外の国への危機の波及を避けることに向けるべきだろう。EFSFはそもそもそうした危機波及を防ぐために設立されたものなのである(この基金の機能強化発効のためには、まだマルタとスロバキアでの議会承認手続きが残っている)。いま着手されようとしている銀行資本の増強もそのことに役立つはずだ。
 
 俗論によれば、ギリシャがデフォルトすれば、そのことは即、他の重債務国への危機の伝播をもたらすというが、そもそも重債務国のすべてを含めて一挙に問題を解決するような手(手品というべきだ)はないのだ。問題をひとつひとつ着実に片付けるしか解決の道はないであろう。
 市場やユーロ圏外の国(米国など)の政府の中には、莫大な資金を用意してそれを一挙に投入することがユーロ圏危機の“抜本的解決”であるかのような主張をする者がいるが、そのような資金は出てこないし、かりにそのような資金を投入しても、現存するソブリン危機自体は引き延ばされて解決されないであろう。そもそも今はどの国も自国の景気振興その他、必要な方途に向ける資金さえ調達できないで困っている状況ではないか。
 
 メルケル、サルコジ両首脳は9日、ユーロ圏安定化措置の包括的パッケージとともに、あるいはその一環として、「ユーロ圏の一層密接な統合のための提案を、今月中に開かれるEUとユーロ圏それぞれのサミット会合で行う。これらはEU条約の改定をも意味する」(FT、9日)と語った。しかし、いたずらに俗論に迎合するような理想を掲げるよりは、足許のギリシャ債務処理をキッチリと行い、各国銀行の資本増強策などのデフォルト対応策を速やかに実行すべきであろう。      (この項 終り)

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