文太郎の日記帳

景気、財政赤字、国際経済、政治・政局、世界情勢、日米関係など現代の諸問題を広い視野で解明します。

現代短評

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 ギリシャに対する援助供与側(ユーロ圏とIMF)による80億ユーロの融資実行が10月11日に決まったこと、また12日には欧州金融安定基金(EFSF=European Financial Stability Facility)の機能拡大案がスロバキア議会で承認されて(ユーロ圏加盟各国の議会による承認手続きの最後となった)、この機能拡大の実施が決まったたことで、ユーロ圏のソブリン危機は一つの山を越えた。しかし今後も、ギリシャの債務の実質処理をどう進めるか、ヨーロッパの銀行の自己資本増強をどのように進めるのか、EFSFの新機能をどのように活用するかなど、ユーロ圏諸国およびEU(欧州連合)が解決すべき課題は多い。
 当「診断録」が取り上げるテーマもこのところ続けてユーロ圏の問題になってしまったが、目下の世界経済の焦眉の中心問題がこれであること、それに対してこの問題を伝える日本のマスコミの報道に余りにも誤解やニュースの欠落が多い(注)ことから、今回もこのユーロ圏危機を取り上げたいと思う。
 
 (注)日本のマスコミのそうした誤りなどを詳しく指摘する暇はないので、ここではその最近のひどい例を二つだけ紹介しておく。
 日経(14日)は危機に対するユーロ圏とEUの対応について、「実施が遅れる80億ユーロ融資などギリシャ支援や銀行対策で目立つのは後手後手の対応だ」と批判している。しかし80億ユーロの融資が遅れたのは、改革の遅れなどによりギリシャの財政赤字の見通しが増えたこと、そのため援助側調査団(いわゆるトロイカ)とギリシャ政府の協議がまとまらなかったことの結果である。日経は一貫してそうしたギリシャの対応の遅れ、及びアテネでのトロイカとの交渉の経緯を軽視ないし無視してきた。そもそもギリシャ危機というのにアテネに特派員を派遣していないのだから恐れ入る(他の日本のマスコミも同様)。
 また讀賣(10日)は、スロバキア議会におけるEFSF機能拡大案の表決(その行方が不透明だった)を前にして、「横並びを尊重するあまり機動的に動けないユーロ圏の苦悩が深まっている」と書いた。ユーロ圏は「横並び」を尊重して各国での議決を求めているわけではない。制度としてそうなっているのだ(国際社会として当然)。この讀賣流で言うと、“日本や米国の政治は横並びを尊重するあまり、衆議院(下院)だけではなく参議院(上院)での議決をも求めている”という批判をすることになるであろう。
 
 さて、まずギリシャの国家債務処理のこんごについて述べると、同国に対する第2次資金援助(1090億ユーロ、2012〜14年)が今年7月のユーロ圏首脳会議で決定された際、援助額の21%に相当する額を民間投資家が負担する(実質的に対ギリシャ債権を放棄する、いわゆるヘアカット)こととされたが、この比率を50〜60%に引き上げる案がユーロ圏で検討されている(「診断録」10月10日号)。そうしないと所期のギリシャの財政と経済の再建の見込みが立たないことがわかったからであるが、この問題は23日からのEU首脳会議で議論される見通し(NYTimes電子版、13日) である。
 この会議に先立ち、「ドイツの銀行は今週電話会議を開き、ギリシャ債を50〜60%減免する可能性を協議した。最終的な比率はまだ確定していない」という(Bloomberg、13日)。ドイツ銀行(ドイツ最大級の民間銀行)のCEOで国際金融協会(IIS)会長を兼ねるアッカーマン氏は、7月に民間投資家を代表してユーロ圏当局者と対ギリシャ債権の21%カットにつき交渉したが、今回もこのヘアカット引き上げにつきブリュッセルで当局との交渉に当たる(同上)。
 
 このようなヘアカットは事実上なし崩しのギリシャのデフォルトであるが、そのことがギリシャ国債の多額保有者すなわち金融機関に債権の大幅減価という打撃を与えることは言うまでもない。このため、ヨーロッパの金融機関の自己資本をいわば強制的に増強する(recapitalization)必要が緊急に必要となった(「診断録」10月6日号)。この点につき、欧州委員会(EUの執行機関)のバローゾ委員長も12日に欧州議会で演説し、その必要性を強調した(日本の各紙、13日)。
 ヨーロッパの金融機関は7月にストレス・テストを受けているが、このテストには今月に破綻したデクシア銀行も合格するという欠点が含まれていた。これには、「銀行のリスク対応能力を示す尺度としての中核資本比率を計算する際、保有する国債は法的にはリスクゼロの資産と位置づけられているため、リスクに応じて評価すべき借方(Aktiva)には算入されていなかった」 ことが影響した(FAZ:フランクフルター・アルゲマイネ紙電子版、7日)。これに対し、こんど銀行の自己資本比率を再検討するに当たっては、「保有するギリシャ及びその他の国の国債は市場における時価を考慮に入れて評価する」旨、EU当局者が匿名で明らかにした(NYTimes電子版、13日)。そしてEUの銀行監督当局は、23日のEU首脳会議に「自己資本比率9%を勧告する」と伝えられる(同上)。
 
 こうした資本増強を実施するに当たって、その手順をどうするか、とくにその際EFSFの資金をどう活用するかについて、フランスとドイツの間にはかなりの相違がある(「診断録」10月10日号)。
 すなわち、民間金融機関の自己資本増強に際して自国政府による資金注入が膨らむこと(それに必要な財政支出の増大)を警戒するフランスは、そうした資金注入にEFSFの資金(総額は4400億ユーロ)を活用する案を考えている。これに対しドイツは、①資本増強は、まず銀行自身が市場で調達する努力を行い、②それが困難な場合(あるいは部分)に当該国の政府資金を投入する、③それでもなお不足する場合にEFSFの資金を活用する、という手順を求めている。
 この点につき、EU委員会はメルケル案(ドイツ案)に基づいて委員会案を作成していると伝えられていたが(「診断録」同上)、12日のバローゾEU委員長の演説では、明確にこのメルケルの3段階案が採用されていた。 EU委員会当局者によると、この資本増強は6ヵ月以内における実行が求められる。すなわち例えば最初の3ヵ月以内に銀行がその資本増強案を作成し、次の3ヵ月以内にその実行を求められる(NYTimes、13日)。
 
 EFSFの新機能に関しては、その融資可能資金量(4400億ユーロ)を事実上でもっと拡大すべきだという主張が行われ、それをめぐる賛否両論が展開されている。EFSFのいわゆるレバレッジ案だ(最初は9月のIMF総会でガイトナー米財務長官によりEU側に提案されたといわれる)。   
 レバレッジ(leverage、梃子)というのは、金融的には自己資本に加えて他人資本を使い、自己資本で出来る以上の事業を可能にすることを指す。EFSFのレバレッジの仕方については人によりまちまちだが、例えばECB(欧州中央銀行)のスマギ専務理事はニューヨークで次のように語った。「EFSFの資産をECBから資金を借り入れる際の担保として活用することにより、より多くの資金が危機対応に利用可能になる」と(ロイター電子版、9月27日)。 フランス財務省筋が10月13日に明らかにしたところによると、フランス政府は「EFSFにレバレッジを持たせるための最も堅実な方法は、この基金(EFSF)の銀行への転換だと考えている」(ロイター・ビジネス・ニュース、14日)。これは、「EFSFの規模を2兆ユーロに拡大するということではなく」、「EFSFの能力に(2兆ユーロまでの−加筆)レバレッジをかけるいうことだ」と(同上)。こうした点にも、銀行資本増強のプランの場合と同様に、EFSFを最大限に利用したいというフランスの願望が表れている。
 
 たしかに銀行なら、自己資本と預金とを合わせた金額のその何倍もの融資能力を持つ。しかしEFSFはその資金を債券の市場での発行(ユーロ圏加盟国の保証による)で調達するが、調達金利と融資金利を低水準に抑える必要から、発行に際して最高の格付け(AAA)を得なければならない。
 ところが、例えば2兆ユーロのように大きなレバレッジをかけると、市場から調達したEFSF資金の返済可能性への信頼が低下する、すなわち信用格付けが低下するであろう。このため、「EFSFをECB資金の注入口にする(could tap)フランスの提案は直ちにECBとドイツの当局者によって否定されてしまった」 し、EFSFの当局者は「EFSFの信用格付けを脅かすようなレバレッジの採用には反対だ」と語った(FT=Financial Times電子版、14日)。
 なお、「ユーロ圏関係筋」は「こうしたこと(EFSFにレバレッジを持たせる)は通常、EUの首脳の間で決定される」とし、もし検討されるとしてもEU首脳会議においてであるとの見通しを示した(ロイター電子版、9月30日)。恐らくこのレバレッジは実現されないと思われる。
 
 ここで興味深いのは、ユーロ圏に対して資金を供給する新しい計画として、新興諸国(ブラジルや中国など)がIMFへの資金供与を通じて、ユーロ圏の重債務国(イタリーやスペインなど)への援助資金、あるいは銀行の資本増強などのための資金を提供する案が検討されているということだ。こうした計画は、「金融市場への“バズーカ砲”的な巨額の介入と並んで、11月のG20(主要20ヵ国)首脳会議での「信用醸成を狙った声明」に盛り込むことを目的に検討されている(FT、14日)。  
 この案による資金は、IMFが運営する特別目的機関(SPV=special purpose vehicle)への出資、あるいはIMF発行の特別債の購入によって、新興諸国などが拠出するというもの。これは、ユーロ圏への資金供与を圏内の資金だけでまかなうことには限界があり、それを拡充するためには世界的な資金、すなわちIMF資金を活用するしかないからだ。この案にすでに中国とブラジルが興味を示していると伝えられる(同上)。
 
 実は2010年春にギリシャの債務危機が表面化し、それにどのように資金援助をすべきかが日程に上った時、ドイツはそれを国際金融の公的機関であるIMFを通じて実行すべきだと主張した(「診断録」2010年3月22日号)。それに対して、フランスやECBは、IMF資金への依存は“ヨーロッパへの外部(端的にいえば米国)からの干渉を招く”として反対、結局、妥協としてユーロ圏及びIMFの両者による資金提供の方法に落ち着いたのだった。
 今回の新興諸国によるIMFを通しての対ユーロ圏資金援助案に対しては、「米国は資金供給することが困難」(FT、同上)であるし、現に米国はこれまで自らによるヨーロッパへの資金供給を口にしたこともなかった。
 
 付言すると、当「診断録」子は今年9月28日号で次のように主張した。「もし、かりに本気でギリシャあるいはイタリー、スペインに対して思い切って援助資金を投入すべきだと考えるのならば、それをなにもユーロ圏諸国に任せるだけではなく、米国、日本、中国などのユーロ圏外の有力国も共同で参加するように呼びかけるべきだ」と。 ギリシャなどがユーロ圏に属する国家だからといって、その救済をユーロ圏の国だけによって行うべきだと考える発想がそもそも間違っているのだ(ちなみに、EUの運営条約では、圏内の国が他の国に対して信用を供与することは、一般的には認められていない)。
  それに、ユーロ圏側の援助決定機関である財務相会議は金融機関ではないから、審査・決定能力で優れているとは言えない。そうした能力と経験の点からいっても、専門金融機関であるIMFをもっと活用すべきなのである。(この項 終り)

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