文太郎の日記帳

景気、財政赤字、国際経済、政治・政局、世界情勢、日米関係など現代の諸問題を広い視野で解明します。

現代短評

[ リスト ]

IMF資金導入案が有力

 ユーロ圏のソブリン危機をめぐって23日に開催されたEU首脳会議は、①ギリシャに対する民間投資家の債権放棄率の引き上げ、②欧州の銀行の資本増強策、③ユーロ圏重債務国への援助基金(EFSF=European Financial Stability Facility)の実質融資可能資金の拡大について協議し(当「診断録」10月20日号参照)、②の資本増強必要額については1080億ユーロとすることで合意(FT=Financial Times電子版、23日)、①の債権放棄率については政府側は最大60%を求めたが民間投資家との合意が達成されず、結論は26日(水)の継続首脳会議に持ち越された。
 ③の独仏間で考えの対立が最も厳しかったEFSFの実質規模拡大案については、EFSF資金に外部資金(IMFなど)を加えて新しい援助基金を設立する案、またはEFSFに保険供与(購入した国債に対する)の権限を与える案で26日の首脳会議において決着を図る見通しとなった(以上の②と③は上記FT及びNYTimes電子版、23日による)。
 
 ◇EFSFの実質資金拡大案
 この問題については、EFSFを銀行にするとのフランス案は撤回され、メルケル独首相が主張する二つのモデルが検討されている(NYTimes同上)。
 すなわちその第1案は、EFSF資金と外部からの投資により新基金(new body)を設立し、この基金が重債務国の国債を購入する(当該国政府がその国の経済状態を改善するための重要な改革をすることに同意するとの条件で)というもの。第2案はEFSFが国債保有に伴う損失の一部について保険を提供するというものである(両案の併用もあり得る)。
 EU当局者によると、新基金はIMFの参加により創設されるもので、ラガルドIMF専務理事(EU首脳会議に参加している)はこの案を支持しているという。この案について質問されたスウェーデン(EU加盟国だがユーロは未採用)のラインフェルト首相は、欧州外からの投資を含めて基金を設立する構想は「たしかに現在(検討の)テーブルにのっている」と答えている(NYTimes同上)。
 
 欧州委員会(EUの執行機関)のバロッソ委員長は、「債務危機は真にグローバルなものであることがわかった。われわれはIMFを強化することを望む。IMFは金融問題についての最も重要な世界的な機関であり、したがって大幅対外黒字をあげている国々が共通利益と金融問題での世界的安定のために(IMFを通して−加筆)貢献することは自然なことだ」と語った。「ヨーロッパの指導者たちが、G20の首脳会議を前に、欧州危機の問題を国際化する努力をし、IMF(すでにギリシャに対する資金援助に参加している)からさらなる資金を引き出そうとしていることは明らかだ」(同上)。
 
 このIMF活用の案は当「診断録」子が繰り返し主張してきた(9月28日号、10月14日号)ところだが、去る14,15日に開かれたG20財務相・中央銀行総裁会議でこうした問題提起が行われなかったことは驚きだ(日本の安住財務相、白川日銀総裁もこの点では無言だった−財務省ホームページに公表された記者会見での両者の発言による)。
 たまたま(と見えたが)、23日にはフランスのフィヨン首相 が来日して野田首相と会談し、「原子力の安全強化に向けた共同宣言」に署名した(NHKニュース、23日、ほか)が、そもそも23日という大事な日にフランス首相がヨーロッパを離れたということは、ユーロ圏の救援基金についての日本の支援を要請にきたと考えるのが自然だ。
 なお、メルケル首相とサルコジ仏大統領は、EFSFの資金拡大についての上記の二つの案には「技術的な複雑さが含まれてる」(だから即決できない?−加筆)と述べた(FT、同上)が、むしろ欧州外の国々の同意を取り付けるためではないのか。 
 
 ◇ギリシャ債務の削減率(債券保有者の債権放棄率)の引き上げ問題
 この問題については、ギリシャの財政状況(その改善策を含め)を現地で審査してきている資金援助側(EU、ECB、IMF)の派遣チーム(トロイカ)がユーロ圏財務相会議(21日)を前に提出した報告書が、ユーロ圏とEUの議論に決定的な影響を与えた(以下報告書の内容は、FT紙電子版、17,20,21日による)。
 この報告書によると、ギリシャの財政見通しはリセッションと改革の実行における政府の失敗の影響で悪化している。ギリシャのリセッションは予想よりも深く、また長期化している。経済成長率は2011年はー5.5%、12年はー2.5%と予想され、2008年からの累計のマイナス成長率は14%に達する見込みである。またFT紙の調査によると、ギリシャ政府による増税と支出削減の影響で、2011年におけるギリシャ家計の平均収入額(手取り)は5600ユーロ(1ユーロ=105円の換算で58万8000円)、14%減少する見込みだ。これは、ポルトガルとアイルランドで実施された緊縮政策が家計に与えた影響の2倍、スペインの場合の3倍に当たる厳しさである。
 
 以上のようなギリシャ経済のいちじるしい悪化を前提とすると、債権の大幅なヘアカットに同意しなければ、援助国側は2020年末までに2520億ユーロの援助資金(11年7月に決定した第2次援助資金1090億ユーロの2倍以上)を提供する必要に迫られる。さらに、トロイカに参加しているエコノミストによるテストによると、ギリシャへの必要援助額は4440億ユーロにまで跳ね上がる可能性さえある。
 したがって、もし援助額を7月決定時の1090億ユーロに抑えようとするなら、ギリシャ債保有者は60%の債権放棄をする必要がある。もし、ヘアカット率を50%に抑える(多分政治家たちが考えているカット率)と、第2次援助の必要額は1140億ユーロ(現行予定額の50億ユーロ増)に増えるだろう。
 このトロイカ報告書によると、ギリシャは2020年まで外部資金の援助に依存し続けなければならない。
 
 ところで、問題になっているヘアカットは民間投資家の自主的な債権放棄とされている(7月のユーロ圏首脳会議での合意事項)ため、この21日からのユーロ圏財務相会議から23日のEU首脳会議にかけて、政府側が民間投資家代表(IIF=Institute of International Finance のダラーラ専務理事ら)に対してヘアカット率の60%への引き上げを要請したが、ダラーラ氏は、政府側との「交渉の妥結には程遠い」と語っている(NYTimes電子版、22日)。  
 この交渉は26日の首脳会議まで継続されるが、交渉が難航しているのは、IIFがその構成員から明確な交渉委託を受けていないことによる。しかし、銀行側は原則的に50%規模のカットを覚悟している(sich einstellen)のではと見られている(FAZ=フランクフルター・アルゲマイネ紙電子版、23日)。
 その上での問題は、この債権放棄があくまで自主的なものに止まるのか、強制されるのかという点にある。メルケル首相はその点は未決定だと述べているが、ユーロ圏財務相会議議長のユンケル・ルクセンブルグ首相は「銀行側が自主的な解決を容認しないならば、義務による解決が必要になるだろう」 と述べている。これに対し、サルコジ大統領は債権放棄への関与は自由意志にもとづくべきだと語っている(FAZ、同上)。
 
 ◇EU首脳会議でのその他の問題
 この会議での一つの重要な舞台裏でのテーマは、イタリーの財政悪化と同国への資金援助に関するものであった。独仏など対イタリー援助国は、ベルルスコーニ伊首相に対して、援助継続はイタリーが財政の厳しい改革を実施することが条件だと一致してプレッシャーをかけた。
 ドイツの当局者は、ベルルスコーニ首相の行動について、「彼はECBがイタリー国債を買い上げる前の8月には改革を法律化すると約束しながら、ECBが実際に市場に介入(イタリー国債の買い上げ−加筆)したあとでは改革計画を水で薄めてしまった(water down)」と怒っている(NYTimes電子版、23日)。
 メルケル首相は、ベルルスコーニ首相へのコメントとして意識しつつ、「ギリシャに対する新しい援助パッケージからは信用(trust)は生まれない。信用はそれぞれが各自の宿題(財政改革−加筆)を実行した時に生まれる」と語った。サルコジ大統領も、「自分もメルケル首相も、ユーロ圏の当初の参加基準を満たさない国をユーロ圏の国と認めることに責任は持てない」と批判した(同上)。  
 
 ◇今後の展望
 おそらく26日のEU継続首脳会議では、23日の首脳会議では積み残された、ギリシャ債務のヘアカット率の引き上げ、EFSFの実質資金量強化の方法についても合意されるであろう。そして、EU側はそれについて11月初旬のG20首脳会議(カンヌ、フランス)で説明して、構成国(米国、日本、中国、インドなどを含む)の了承と、協力を求めることと思われる。 その結果、IMFの協力などを含めて、ユーロ圏の信用危機への対処策が出そろうことになるだろう。では、それでユーロ圏のソブリン危機とその波及の恐れに終止符が打たれるだろうか。私はそれは難しいと思う。
 一つには、ヘアカット、資本増強、EFSFの資金強化の結果はこれからだということだ。それに、なによりも問題なのは、ギリシャ経済の惨憺たる現状とその将来を考えると、その債務の50〜60%のカットを行っても、同国の財政と経済の再建は不可能に近いと考えられる点だ。経済が縮小していく中で、財政の再建が進むわけがない。おそらく、財政緊縮→経済収縮→財政悪化という悪循環がさらに進行するであろう。それに、経済の続く悪化は、ギリシャの政治的崩壊をもたらす可能性もある。
 
 この意味で、ユーロ圏諸国(及びEU)とIMFが追求しているギリシャ財政再建策は、同国の成長への復帰の計画という重要前提を欠いた、もっぱら財務省的な単純発想にもとづくものだ。
 債務危機に陥った企業の場合でも、その債務再編とあわせて積極的な企業再建(売り上げ増に始まる)の計画と見通しなしには自立再起は出来ない。もちろん、当該国の経済と財政の再建計画の実施を重視しないで、主として援助資金の投入を求める考え方(最近の市場に多い)が通らないことも言うまでもない。
 したがって、IIF(国際金融協会)が対ギリシャ債権の放棄に関して次のように要求したことは正当である。すなわち、「ギリシャ経済が成長に復帰し、同国がヨーロッパの納税者と民間部門(の投資家−加筆)の損失への依存を減らし得るような信頼できる計画が示された時にのみ、IIFは政府側と合意する用意がある」と(FT、22日)。 
 
 そうした積極的な再建計画は、外からの強制によってではなく、ギリシャ自身が構想・立案 したものでなければ無理であろう。そのためには、ギリシャは自主的な金融政策(現在は基本的な事項はECBによって決定される)と為替政策を持つ必要がある。その条件の下においてのみ、国際的な債権者側と債務再編について生産的な協議ができるはずだ。それには、ギリシャが一時的であるにせよユーロ圏を離脱することが条件となるであろう。
 事態は、否応なしに、その方向に向かうのではないか。(この項 終り)

閉じる コメント(1)

顔アイコン

どの邦字新聞よりよくわかる貴重なブログです。
ギリシャの一時的ユーロ圏離脱が必要だろうとは常識的に考えていましたが、その長・難、現実性について説明していただければ有難い。

2011/10/25(火) 午前 11:25 [ drk**276 ]


よしもとブログランキング

もっと見る

プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事