文太郎の日記帳

景気、財政赤字、国際経済、政治・政局、世界情勢、日米関係など現代の諸問題を広い視野で解明します。

現代短評

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ギ債権50%放棄の思惑

 26日に続開されたEU首脳会議は、27日払暁になってようやく終了した。その結果は、①論議の中心問題だった民間投資家による対ギリシャ債権50%放棄の案が、民間投資家代表(IIF=Institute of international Finance 国際金融協会)の合意を得て決着(関連してギリシャ援助を増額)、②銀行などヨーロッパの民間金融機関の経営を支えるための資本増強策(中核資本比率を9%に引き上げる)は23日の首脳会議ですでにほぼ合意したことを確認、③ソブリン危機の波及を防ぐためのユーロ圏金融安定基金(EFSF)の実質資金量拡大案については、欧州外からの資金を加えて新特別目的会社を設立する案及び重債務国国債の購入資金の一部にEFSFが保証を与える案について、引き続きその細目を詰めること、以上が合意された。
 つまり、27日の首脳会議は、23日の会議での合意(当「診断録」10月24日号参照)で積み残された上記の①と③のうち、①の50%カットについての結論が出たことだけが主な内容で、③のEFSEの実質拡大案については、その規模を4〜5倍とする案が検討されているが、具体的金額も実施の細目も、なおこんごの詰めに委ねられたままである。もちろん、ユーロ圏として一歩前進には違いないが、肝腎のギリシャ危機が解決されたわけではないし、イタリア危機が緩和されたわけでもない。
 他方で、眼目の50%カット案をめぐる交渉と合意に関しては、いろいろの新事実や思惑が明らかになってきた。
 
 ◇ギリシャへの第2次援助額の増額とヘアカットへの“甘味料”
 この第2次援助(2012〜14年)の額は、今年7月のユーロ圏首脳会議で1090億ユーロと決定されていた。それが、今回1300億ユーロと210億ユーロ増額された(FT=Financial Times電子版、27日)。これは、ギリシャの財政状況を審査した調査団「トロイカ」の報告(「診断録」同上)において、ヘアカット率を60%とした場合には、第2次支援額は当初の1090億ユーロで足りるが、それを50%に縮小した場合には援助側は50億ユーロを追加する必要が生ずると指摘されたことに対応するものだと推定される。それにしては210億ユーロの増額は大きいのではないか。
 
 ところが、改定された第2次支援額1300億ユーロのうちには300億ユーロの債権放棄の「甘味料=鼻薬?」(sweteners)が含まれている。これは、債券スワップ(30年債など長期の債券への交換)に対して明年1月までに交付されるという(FT同上)。
 そして、そもそも1090億ユーロの当初の2次支援額にも、IIF(国際金融協会)との取り決めにより、350億ユーロ程度のこうした「信用補完」(credit enhancement)が含まれていた。この取り決めでは、この資金は債券保有者が現に保有する債券と交換で取得するトリプルAの新長期債券の信用を保証するために使用される (FT同上)。
 要するに、こうしたスイートナーやクレジット・エンハンスメントにより、借り換えや債券スワップを通しての民間投資家のヘアカットに対して、そのリスクに保険が提供されるわけである。
 なお、30年債との債券スワップは、7月にIIFによって提案されたものである(ロイター電子版、7月21日)。
 
 ◇当初の21%カット案なら多くの民間投資家は利益を出せた
 23日からのEU首脳会議と並行してEU当局者が民間投資家代表(IIFのダラーラ専務理事ら)と行っていた債権カット率引き上げの交渉が、難航したもののなぜ妥結したかについては、カット率を50%以上に引き上げなければ「ギリシャが完全な支払不能に陥るシナリオに向う」とのEU首脳の脅しにIIF側が屈したためとされる(Bloomberg27日)。しかし、このカットを受け入れたのには、それなりの投資家側の計算があったようだ。 
 というのは、現実にはギリシャ国債は額面の40%で取引されている(NYTimes電子版、26日)からだ。すなわち、もし銀行などのギリシャ債保有者がそれを市場で売却すれば、得られる金額は40%(つまり債権喪失は60%)であり、完全なデフォルトになれば100%の損失となるのに対して、当局が提案した50%カットはむしろベターな案ということになるのだ。
 「27日の欧州株式市場で銀行株が大幅高」となったのも、単に「債務危機への影響が和らいだ」(Bloomberg、27日)からだけではないはずだ。 
 
 さらに驚くべきは、ギリシャ債券のスワップに応ずるつもりの民間投資家の30%は、その債券を7月21日以降に(つまり対ギリシャ第2次支援額が決まり、民間投資家の債権ヘアカット21%が決まって以後に)、額面の36%程度で購入したのだと言われることだ(NYTimes電子版、9月28日)。そうした投資家は、長期債とのスワップに応ずれば、ヘアカット率21%なら、元の債券の額面70%以上に相当する債券を手にすることが出来、その結果、投資額の2倍の資産を手に入れることが出来る計算になる(同上)。つまり、ギリシャ債で儲けられるのだ。このような投資家はヘアカット50%でも利益が出る計算である。
 そのような投資家はもともとの債券保有者ではないが、その大部分はヨーロッパの大銀行、ただし、ギリシャ債の相場急落で利益を上げようという投機的な投資家たちである(同上)。
 
 ドイツ政府が10月はじめにヘアカット率の大幅引き上げを示唆し出したのに対し、ドイツ銀行(ドイツ最大級の民間銀行)のCEO兼IIF会長のヨーゼフ・アッカーマン氏は直ちに反対を表明した(ATHENS NEWS電子版、10月2日)。同氏は7月にはIIF会長として、つまり民間投資家の代表としてユーロ圏首脳とのヘアカット交渉をまとめていた。
  そのドイツ銀行は、この交渉妥結の5日後に、「ギリシャとイタリア、スペイン、ポルトガル、アイルランド関連のリスク資産を1ー6月(上期)に70%減らし、イタリアについては80億1000万ユーロから9億9600万ユーロに大幅にエクスポージャー(関与)を圧縮したことを明らかにした。イタリア国債は財政赤字の手当が困難になるとの観測でその後急落したが、ドイツ銀行はリスク資産を減らす決定のおかげで損失を免れた」(Bloomberg、8月9日)。
 なお、そのアッカーマン氏が会長を務めるIIFは、10月のEU首脳との交渉に際してはアッカーマン氏ではなくダラーラ専務理事(上述)を主代表として送ったのである。
 
 以上の考察によって私が言いたいことは、ギリシャ債権の大幅放棄によって銀行など民間投資家は大きな打撃を受け、それが世界的な金融危機の引き金になると盛んに言われているけれども、金融機関が実際にどの程度の損失と経営への打撃を受けるのかははっきりしない、ということだ。
 実際には、7月21日以後の額面の半値以下でギリシャ債を買った投資家も多いし、いち早くギリシャ債その他の重債務国国債を手放した機関も少なくない。日本の大手金融機関(銀行、生損保)9社についてみると、ギリシャ債はこの全社が保有していないし、イタリアやスペインなど他の重債務国の国債は数千億円で、「影響は全体的に限定的」で、「各金融機関はその後も残高の削減に動いている」(日経電子版、10月14日)。
 
 要するに、ギリシャのソブリン危機が表面化し始めてすでに1年半あまりになる。その間における金融機関やファンドの対応はさまざまであり得たわけで、そうした実態を無視して、いたずらに金融危機を声高に叫び、救済資金(重債務国へ及びそれを通して金融機関へ)の増額ばかりを求める(市場や多くのマスコミの)愚は避けるべきなのだ。(この項 終り)
 

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