文太郎の日記帳

景気、財政赤字、国際経済、政治・政局、世界情勢、日米関係など現代の諸問題を広い視野で解明します。

現代短評

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ECBめぐる路線対立

 ユーロ圏の国債の利回り上昇が11月16日にはイタリアからスペイン、フランスなどにまで及んだことから、ユーロ圏の内外で、ECB(欧州中央銀行)が市場でこれらの国債を思い切って買い支える(利回りの上昇を抑える)べきだとの主張が勢いを増してきた。
 フランスのバロアン財務相はフランスのビジネス紙「レ・ゼコー」とのインタビューで、ECBを含むヨーロッパの機関は危機への対応に必要な支援を行うべきだと述べ、「ドイツは、歴史的な理由(過去のインフレーションの経験−加筆)から、ECBの直接的な関与のドアを閉ざしている」と同国を批判した。バロアン氏のこのドイツへの言及は、「ECBがユーロ圏経済へ一層のマネーを注入することにより、インフレーションが引き起こされることへのドイツの根強い恐れを指したもの」である(NYTimes電子版、16日)。17日にはスペインのザパテロ首相もECBによる国債の買い上げを強く要求した(NYTimes、17日)。
 外部では、NY大学のルービニ教授が日経紙(18日)とのインタビューで、「市場の不安を鎮めるには『最後の貸し手』が要る。欧州中央銀行は2兆〜3兆ユーロを用意すべきだ」と述べている。
 
 ルービニ氏のように、経済学者であるとしてもユーロの問題の知識があまりない(と考えざるを得ない)者の見解はとにかくとして、ユーロ圏のリーダーであるフランスの財政相やスペインの首相がこのような発言をするのは驚きである。というのは、EU運営条約はECBによるEU加盟国への信用供与、その債務名義の取得を禁止しているからである。
 すなわち、「連合の機関、組織、またはその他の部署、加盟国の中央政府、地方もしくは地域の領域団体またはその他の公法上の団体、その他の公法上の組織または公的企業に対する、欧州中央銀行または加盟国の中央銀行による当座貸し越しまたはその他の信用供与は、欧州中央銀行または加盟国中央銀行によるこれらの機関及び団体等の債務名義の直接的な取得と同様に、禁止される」(第123条。小林勝訳「リスボン条約」、お茶の水書房)。
 実際にはECBはすでにギリシャ、スペイン、イタリアの国債を市場から買い上げているが、まだ少額で、市場の流れを変えるほどのものではなかった。それでも、そうした買いオペに対してもシュタルク同行役員(ドイツ出身)が辞任して抗議したのである(当「診断録」9月11日号参照)。
 
 さすがにFT紙(Fainancial Times、16日。日経紙17日への転載)は、以上のような安易なECB活用論に対して以下の批判を加えている。
 すなわち、「欧州連合の基本条約はECBの域内政府への融資を禁じている。ささいな条文が大惨事を回避する障害になってはならないとの主張もあるが、この規定は欧州統合の中核をなす。貨幣の増発を通じてリスクを移転しないという加盟各国間の合意だ。いったん規定に反すれば、市場は次はどの規定が破られるのかと疑問を持ってしまう。
 ECBが国債を大量に購入した後はどうなるか。効果のない大規模な国債買い入れや、効果を上げてもイタリアなどの経済改革を妨げるような買い入れを実施すれば、ドイツのユーロからの脱退を招きかねない」と。
 実際、メルケル独首相は16日にあらためてこうしたECBによる国債買い上げに反対したし、ドイツ・ブンデスバンク(連邦銀行。ECB傘下のドイツの中央銀行)のワイデマン総裁(同時にECB理事会の有力なメンバーである)は14日に、「ECBを政府の財政問題の解決に使うことは非合法である」と述べた(NYTimes、16日)。当のECB のドラギ新総裁も就任後最初の演説(18日)で、「ECBは物価の安定という中心任務からそれるべきではない」と強調した(NYTimes、18日)。
 
 なお、FT紙は以上のようなECB活用案の代りに「欧州金融安定基金(EFSF)を銀行化すれば支援できる」と、同基金がECBから資金を借り入れて市場で買いオペをする案を主張している。この案は実はEFSFの資金実質拡大についてのフランス財務省の案であった(「診断録」10月14日号)。バロアン財務相ははや自国のこの提案を忘れたらしい。
 それはとにかく、EFSFの資金は、ユーロ圏各国政府の保証によって債券として市場から調達されるものだ。そのEFSFがECBから多額の資金を借り入れることになれば、EFSFの信用が低下し、この基金が市場から調達する資金の金利が上昇してしまうだろう。そうなれば、低利の資金を重債務国に供給するというEFSFの設立目的は達成されなくなる。 
 
 もちろん私も、真に緊急の際にはECBが市場に介入することは必要だろうと考える。しかし、こうした介入を常態化すればそれは明白な条約違反であるから、ドイツがユーロ圏を脱退することにもなりかねない。 
 現に、共通通貨ユーロの導入を含むマーストリヒト条約(1992年、欧州共同体の欧州連合への発展を規定)の調印に際し、ドイツがユーロを導入することはドイツの憲法(基本法)に違反するとの学者の提訴を受けて行われたドイツ憲法裁判所の判決(マーストリヒト判決、1993年)は、その中で、ドイツによるユーロの導入を合憲としつつも、「欧州中央銀行はドイツ連銀の伝統を受け継いで通貨の安定性を保証すべきであり、この安定性の基礎がなくなればドイツ政府はドイツのEU通貨同盟からの離脱を決定することも可能である」と述べている(blog.goo.ne.jp/princeofwales1941、2006年11月22日による。11年11月18日アクセス。なお判決原文を参照することは出来なかったが、その内容には記憶がある)。
 また、ドイツにおける最近の世論調査(独シュテルン誌の委託で調査機関フォルザが9月28〜29日に1001人を対象に実施)によると、回答者の54%が旧通貨ドイツ・マルクの復活を望んでいる(ロイター、10月6日)。
 
 実際にはドイツ政府がユーロからの脱退を決定することはないと思うが(現行条約上ではユーロ脱退はEUからの脱退で可能になる。しかしドイツが欧州統合から離脱することは考えられない)、それだけECBのあり方についてのドイツ政府、同連銀並びにドイツ国民の要求は厳しいと見る必要がある。
 したがって、ECBによる重債務国国債の市場からの大規模買い上げは実現困難と見るべきだ。残された救済資金増強の道は、IMF資金などによるEFSF資金の補完によるその実質的拡大であろう(「診断録」10月24日号その他)。ところが、このようなEFSFの実質拡大案については、10月26日のEU首脳会議で、その規模を4〜5倍とする案が検討されたが、具体的金額も実施の細目も今後の詰めに委ねられた(同上、10月28日号)ままで、その後における進展がない。これは関係者(IMFを含む)の間の話合いが進まないためか、あるいはギリシャのデフォルトが当面回避されたことや、ギリシャとイタリアで新内閣(緊縮政策の実行を公約している)が発足したことに伴う関係者の緊張感の低下によるものか、定かではない。
 
 今後どのように、またどの程度に重債務国向けの救済資金が用意できるのかは不明だが、とにかく、救援を求める国が増えるのにしたがって、それらの要求に次々とどこまでも応ずることなど到底不可能なことだ。したがって、支払危機に直面した国は、得られる範囲の国際的な資金援助で時間を稼ぎつつも、自国の財政立て直しという当然の正道を真正面から追求するほかはない。
 それを、最近のフランスやスペインの重要閣僚が発言したように、いち早く国際資金(この場合は中央銀行資金でもあるECB資金)の援助を求めるようでは、かえってそれらの国の改革努力への疑問を強めることになるであろう。
 
 もっとも、ユーロ圏の国々の間で、国債残高の累積がもたらす国債相場下落(利回りは上昇)を中央銀行による国債買い上げで防ごうという非伝統的政策路線(米国・日本流の)を求めるフランス、スペインのような国と、そうした路線に反対する伝統派のドイツ、オランダなどの国との対立は予想以上に根強いかも知れない。
 そうした対立が克服困難となれば、その時には、ユーロ圏からの脱退組(非伝統派)と残留組(伝統派)への分裂も起き得るであろう(ただしフランスがユーロ圏とEUから離脱することは考えにくいが)。その場合、脱退組は、個別にかグループによってか新しい通貨を採用(あるいはユーロ前の旧通貨へ復帰)して、為替相場の対ユーロ切り下げを実現するであろう。それはそれで、ユーロ圏危機という問題の一解決方法であるが、その場合の問題は、脱退組通貨の切り下げが、世界的な為替切り下げ競争を誘発する恐れである。
 他方で、脱退組が出ることによるユーロ圏の縮小は、ある意味ではユーロ圏の純化をもたらすとも言え、ユーロに特別の問題を引き起こすことはないであろう。むしろ、重債務国のユーロ圏残留のために下手に救済資金の規模拡大などで四苦八苦するよりは、この方が問題の早い解決法だとも言える。(この項 終り)

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現行EU制度の下で債務諸事情の異なる諸国が同床することの無理が分かりました。経済評論はこのようにありたいものです。
これはいずれ現実の問題となるのではないでしょうか。

2011/11/23(水) 午後 0:07 [ drk**276 ]


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