文太郎の日記帳

景気、財政赤字、国際経済、政治・政局、世界情勢、日米関係など現代の諸問題を広い視野で解明します。

現代短評

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欧州国債格下げの深層

 サルコジ仏大統領とメルケル独首相が12月5日にパリで会談し、ユーロ圏各国に財政ルールの遵守を強制するルールの制定とそれに必要なEU条約の改正案をEU首脳会議(8、9日)に提案することで合意した(各紙、6日)。 この報を受け、5日の市場はこれを歓迎し、イタリアの10年国債の利回りは10月以降では初めて6%未満に低下、スペインの同種国債利回りも5%近辺に低下した(FT電子版、5日)。
 ところが、同日のヨーロッパ株式市場の引け後に、米国の大手格付け会社S&Pが独仏を含むユーロ圏15ヵ国国債の格付けを引き下げる方向で見直すと発表(各紙、6日夕刊)したため、ユーロ相場はドルに対して0.5%下げ、NY市場(ロンドンーNYの時差は5時間)の株価S&P500は日中1.8%も上げていたのが、終値は約1%まで上げを縮小した(FT、同上)。S&Pの格下げ方針の発表が5日のNYとそれ以後の世界の市場にマイナスの影響を与えたことは明らかだ。

 5日の独仏会談の眼目は、ユーロ圏各国が強制力付きで財政規律を遵守する協定(Fiscal compact)に合意すれば、ECB(欧州中央銀行)はユーロ圏国債からの資金の逃避を止めるためのより積極的な(aggressive)な措置をとるとのドラギECB総裁のヒントをもとにしているという点だ(FT、同上)。すなわち、このfiscal compactが合意されればECBは市場からユーロ圏重債務国の国債を思い切って買い上げる用意があるという意味である。この点は市場がかねて強く要望してきたことであり、独仏首脳はユーロ圏各国による新しい財政協約の提案でドラギ総裁のサジェスチョンに応えたものと言えるだろう。
 なお、この独仏合意に際しメルケル首相は、重債務国に対する今後の支援に関しては(すなわち既定の対ギリシャのケースを除けば)、民間投資家の負担(債権の部分的放棄)を求めない旨を明らかにしている(FT、同上)。

 ところが、S&Pによる格下げ警告は、こうした独仏合意と、それにもとづく来るべきEUサミットの協議の積極的意義を完全に無視したもので、「EUの指導者たちは6日、S&Pのこうした警告のタイミングに怒りの反応を示した」(NYTimes電子版、6日)。
 もっとも、ユーロ圏にはこうしたS&Pの警告を肯定的に評価する意見もある。たとえばメルケル首相与党の予算スポークスマンのバートレ氏は「われわれはすべて、今や事態が極めて深刻であることを認識すべき時である」としてこの警告の意味を認め、またショイブレ独財政相は「ベストの勇気づけ」だと評価した(NYTimes、同上)。おそらくドイツは、このS&Pの警告を、8、9日のEUサミットで独仏合意にもとづく提案(上記)に同意を求めるに当たっての材料に使う意図と思われる。

 それにしても、今回のS&Pによるユーロ圏各国国債の格下げ警告は極めて不自然かつ無神経だ。もっとも、大格付け会社(S&Pに限らず)は過去においても幾多の疑惑の行動をしてきている。
 たとえば、2010年3月にユーロ圏各国がIMFと共同で対ギリシャの資金援助パッケージに合意した後、その援助の条件であるギリシャの追加財政緊縮措置につきギリシャ政府とEU・IMFとの間で具体的協議が4月21日にアテネで始まり、ギリシャ政府が同23日にEU及びIMFに正式に援助申請を提出した直後の27日に、S&Pは突如としてギリシャとポルトガル国債の格下げを発表し、ギリシャ債についてはこれをジャンク債(不良債券、ボロクズ債)扱いとしたのだった(当「診断録」、10年5月9日号参照)。その衝撃で、4月27日以降5月7日に至るまで、世界各地の株、為替、国債の各市場は下落基調に陥ったのである。
 つまり、S&Pはこの時も今回も、当該国あるいは関係機関が問題解決に向け積極的行動(主として財政緊縮)をとるか、そのための措置を決めた時に、それに水をかける格付けを発表する傾向がある。

 さかのぼれば、2007年にいたる米国の住宅バブルに際し、米国の大金融機関がいわゆるサブプライム・ローン(信用度の低い住宅購入者に対して行われた積極的な住宅ローン)や、各種のサブプライム・ローンを組み込んだものを債券化した「仕組み債」を売りまくった際、ムーディーズなどの大手格付け会社は数年間にわたってこれをAAA格の優良債として格付けした。ところが、「2007年に住宅価格が下がり始めると、ムーディーズは2006年にAAA格付を与えていた総額8690億ドル相当の住宅ローン証券を格下げしている」。「格付け会社は住宅価格の下落とそれがローンのデフォルトにつながる可能性の判断を誤ったと批判された」(フォーリン・アフェアーズ日本語版公開論文、フォーリン・アフェアーズ・リポート2011年1月、電子版)。住宅市場の崩壊と、それを引き金とする債券市場の崩壊がリーマン・ショックの導火線になったことはいうまでもない。
 こうした格付け会社の行動につき、米国議会が格付け会社の経営首脳を証人喚問した際、彼らは「格付けは意見表明なのですと逃げ回った」のである(msn産経ニュース、11年2月3日)。

 2010年以降、「格付け各社はギリシャ、ポルトガル、スペインはデフォルトに陥る公算が高いと示唆し、この評価は何ヶ月にもわたって世界の金融市場を混乱させた。一部のアナリストは格付け会社が国債の価格下落に先んじてではなく、トレンドに追随して国債の価格を引き下げ、その結果、さらなる市場の下落を招いている。つまり、格付けが金融市場の変動幅を大きくしていると批判している。
 これを受けてフランスとドイツは、国債がどのように格付けされているのか、格付け会社が『金融危機の増幅』にどのような役割を果たしたか、格付け会社の『金融の安定性に対する衝撃』を調査するように欧州委員会に要請した(フォーリン・アフェアーズ・リポート、同上)。

 今回、11年12月におけるS&Pによるユーロ圏国債の一斉格下げの警告は、上述のような“追随格付け”との批判に応える“先走り格付け”なのか。
 たまたま、11月に欧州委員会が格付け会社に対する規制を強化するとのプランを発表していたので、今回のS&Pによる格下げ案はそのことに対する報復ではないかとの見方もあるが、同委員会のバーニァ金融市場監督官はこうしたS&Pによる報復説を否定した(NYTimes、同上)。
 いずれにせよ、「ヨーロッパでは、ビッグ・スリー(S&P、ムーディ、フィッチの格付け3社−加筆)はアメリカやイギリスの経済を脱線させた金融資本主義に毒されているとする見方もされている」(フォーリン・アフェアーズ・リポート、同上)。
 私には、このビッグ・スリーはむしろ、ユーロ圏各国や関係機関にひたすら重債務国への援助資金(それがあれば民間投資家は資金を回収できる)の拠出を強請し続ける金融資本の代理人ではないかと思われる。(この項 終り)


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