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本題に入る前に、個人的な事情の話をさせていただきます。昨17日(土)にある会合で友人のM氏に会った時、「いまの『診断録』が掲載されたのは11日(日)で、その後しばらく次の記事が出ないので、またカゼでも引いたのではないかとと心配していた」と言われました。同じ疑問を持たれた人も他におられることと思います。実際には、私は先週はカゼを引き直したわけではなく(もっとも、今度のカゼはしつこくて治るのに3週間以上かかりましたが)、パソコンとプリンタの問題に時間をとられたことが影響しました。それと、しばらくヨーロッパの情勢展開を見守っていたためでもあります。
パソコンは内蔵ハードディスク(HDD)がいっぱい近くになり、処理速度が落ちてきたので、外付けHDD(1TB)をつけました。ところが、このHDDにはバックアップ・ユーティリティなどいくつかのソフトがついているのです。それも便利かと思って買ったのですが、実はそれがなかなか厄介なもので、うまく作動しなかったり、パソコンのほかの動作を邪魔したりするのですね。結局、そうしたソフトは動作停止として外さざるをえませんでした。それと、プリンタが機能不全になり買い替えることにしたので、その購入と入れ替えに時間をとられました。そういうわけで、「診断録」の更新が遅れた次第です。
◇さて、ユーロ圏のソブリン危機の抜本策として、EU諸国が12月8,9日の首脳会議で域内諸国の財政規律の抜本的強化と、そのためのEU条約改定につき合意(ただし英国はこれに反対)してから1週間が過ぎた。私は、この1週間(及びそれ以降)には 、この政策合意が市場の不安を沈静させるか、あるいは逆に市場がそうした政策合意に満足しないかをめぐり、「市場と…ヨーロッパの政策当局との闘いは壮烈なものになる可能性がある」(当「診断録」12月11日号)と予想したが、実際には状況は予想外に平穏だった(小さな波乱は見られたが)。
この間のユーロ圏にとってのマイナス要因の第一は、大手格付け会社によるベルギーなどの国債及び欧米の民間銀行の格下げだった。すなわち、S&P(スタンダード&プアーズ)は15日に、バンキアなどスペインの銀行10行の格付けを引き下げるとともに、「スペイン国債の格付け見直しに合わせて一段の格下げもあり得る」との見解を発表(ロイター、15日)、またフィッチ・レーティングスは16日に、フランスのAAA格を据え置く一方で、見通しを従来の「安定的」から「ネガティブ」に修正(ロイター、17日)、ムーディーズは同日にベルギーの国債格付けを従来の「Aa1」から「Aa3」に2段階引き下げた(ロイター、同上)。
しかし、5日にS&Pが「EU首脳会議の結果によっては独仏を含むユーロ圏15ヵ国の格付けを引き下げる方向で見直す」(「診断録」12月7日)と脅していたにも拘わらず、不気味?にもその点ではS&Pは沈黙していた。あるいは、市場がS&Pの期待?に反して予想外に静かだったからかも知れない。
また、ドイツの政策当局者がECB(欧州中央銀行)による重債務国国債の買い上げに対してあらためて否定的な発言をしたことも、市場に不安をもたらした。
すなわち、ECBの政策委員会メンバーでドイツ連邦銀行(中央銀行)総裁のバイトマン氏は14日に、ECBの国債購入プログラムである証券市場プログラム(SMP)について、ECB政策委員会内の「SMPの信奉者も懐疑的になりつつある」と述べ、13日には 「イタリアは必要ならば7%の金利で何年も生き延びられる」と発言した(Bloomberg、15日)。そしてメルケル独首相は14日に議会で「ECBの国債買い入れ拡大に反対する姿勢をあらためて示した」(ロイター、15日)。
以上のような市場が嫌うニュースの影響で、ユーロの対ドル相場は16日(金)までの1週間で2.6%下落し、今年9月11日以来の大幅値下がりとなった(ロイター、16日)。
しかし、以上のような動きの半面、ユーロ圏にとっての良いニュースも伝えられた。
その一つは、重債務国の一つであるスペインの国債入札が好調だったことだ。まず、13日に行われた12ヵ月ものと18ヵ月ものの入札では、応募額は目標上限(42億5000万ユーロ)を上回る49億4000万ユーロに達した。落札平均利回りは、12ヵ月ものの場合は4.05%で、11月15日入札の5.022%を下回り、18ヵ月ものは4.226%と11月の5.159%から低下した(ロイター、13日)。また15日に行われた中・長期国債(2016,2020,2021年償還)の入札では、調達額は目標額の35億ユーロを大幅に上回る60億ユーロに達した(ロイター、15日)。
この結果を見ると、S&Pが15日にスペイン国債の格下げの可能性について言及したこと(上述)の間抜けさが際立つ。
ユーロ圏にとっての好ましいもう一つの動きは、ユーロ圏以外の国(日本を含む)がユーロ圏への資金供与を決定、ないしその計画を発表をしたことだ。
その一つはロシアで、ドボルコビッチ大統領補佐官は15日に、ロシアがユーロ圏向けとして最大200億ユーロをIMFに融資すると述べ、またメドベージェフ大統領はやはり15日に、ユーロ圏支援に関し、IMFを通じた融資以外にも支援策を検討する用意があると言明した(ロイター、16日)。
また日本政府は、欧州安定基金(EFSF)が13日に発行した3ヵ月債19億7100万ユーロの1割強に当たる2億6000万ユーロを引き受けた。日本はEFSFがこれまでに発行した10年債計160億ユーロのうち2割強を引き受けている(日経、14日夕刊。ロイターによる)。
このようなロシアや日本の行動は、ヨーロッパに対していろいろ批判し、指図はするが、自らはそれを一切援助しようとしない米国(「診断録」、12月1日号)の態度と好対照をなす。
さらに、EUは16日、先の首脳会議で合意した財政規律強化に向けたEU新条約の原案をまとめて加盟27ヵ国に送付したが、それによると、ユーロ圏17ヵ国のうち9ヵ国がこれを批准すれば新条約が発効するとの手続きをその中に盛り込んでいる(日経その他、17日夕刊)。これは、財政規律強化の方針の早期実行を可能にするためのもので、1月中の条約案合意を目指し、来年中に発効する見通しである(日経、同上)。
なお、この新条約に参加しない英国も、同条約合意に向けた会議にはオブザーバーとして参加する(同上)。
このようにユーロ圏各国は、ソブリン危機解決の抜本策としての圏内各国財政の健全化に向けて、体制を整えようとしているようだ。
なお、日本政府によるEFSF債引受けは時宜を得たものであるが、さらに1歩踏み込んで、手持ち外貨準備(主としてドル)を使ってユーロを入手し(買い)、そのユーロ資金でイタリア国債などを取得することを考えるべきだと思う。
すなわち、日本政府保有のドル資金は主に米国債に投資されたいるのだが、これの一部をユーロ圏重債務国国債の保有に切り替えるのである。この過程で行われるドル→ユーロの転換でドル安(その半面はユーロ高)が起きるのを避けるのであれば、新たに日本の短期国債(国庫短期証券)で調達した資金(政府の為替市場介入の際に通常使われる方法)で、直接にユーロを買えば良い。それは、円高を食い止める助けにもなるであろう。
◇ユーロ圏のソブリン危機は、否応なしに、日本の巨大な財政赤字と膨大な政府長期債務残高の問題を国民的関心事に上せることになった。野田内閣は、そのことを視野に、「社会保障と税の一体改革」の原案とりまとめを急ぎつつあるし、マスコミでも、NHKが17日(土)夜にこの問題をめぐって2時間半以上の討論番組(視聴者もスタジオ内外から参加)を組んだ。
日本の財政の現状を過度に危機的だととらえ、それをあたかもユーロ圏重債務国の場合と同様だとして論ずる評論家やマスコミも多い。しかし、私がこれまで繰り返し主張してきたように(「診断録」2010年3月8日号、同5月5日号、2011年1月29日号など)、日本の財政の背景にある経済状態は、対外経常収支が恒常的な黒字国(対外的にはトータルで債権国)であり、国債はその95%が国内投資家(金融機関や家計)によって保有されている(外国の場合は米国やドイツでも約半分は国外投資家が保有)。そのために、さしあたり国債が売りたたかれ、国がデフォルト(支払不能)に陥る恐れはなく、それらの点でほかの重債務国の場合と非常に異なっている。
だが、その半面、日本経済は過去10年ほどはまったく成長ゼロの状態、かつデフレで、そのことが経済の弱点となり、また国の税収を減少させて財政赤字を作り出す最大の要因になってきている。だから、このゼロ成長、デフレの状態を脱却しない限り、下手な財政緊縮策の性急な実施は、むしろ財政状態の悪化を招くことになろう。
野田内閣が取りまとめつつある「税と社会保障の一体改革」案は、その中身の問題はここでは措くとして、そうした経済の基本的な建て直しプランとの関連が希薄で、その点で説得性にかけている。たしかに現在は、大震災からの復興ということで、2011年度第3次補正予算の成立に加えて、第4次補正予算の編成も行われようとしており、こうして財政面から予想外の経済刺激が加えられつつあるために、今明年度は経済が上向くことはほぼ確かであろう。しかし、その先の経済と財政の道筋は明らかになっていない。
17日(土)夜のNHKの討論番組(上述)で、ゲストとして出席していた竹中平蔵慶応大学教授(小泉内閣での経済財政政策担当大臣)は経済成長の回復とデフレからの脱却を財政再建に際しての最優先事項として上げていたが、その点では私は同氏と同意見である。
問題は、いかにしてそのように経済を正常化するかだが、今年度のような大幅な財政出動は今後は望めないから、極めて重要なことは、まずは過度の円高を防ぐことである。そのためには、上述したようなユーロの取得とわが国外貨準備への組み入れ、また、必要な時期における躊躇なきドル買い介入を断行すべきである。その点で、他の国の思惑、批判を過度に気にする必要はない。円が過大評価に陥っており、それが国内デフレの大きな原因であることは論証可能なのだから。
そのような前提の上でなら、財政支出の思い切った節減、増税も容認できる。いずれにせよ、日本の財政赤字を縮減し、政府債務残高を圧縮する必要そのものは明らかだ。しかし、ユーロ圏重債務国の財政緊縮策を見て、わが国もそれに追随すべきであるとするような短絡的な考えは採るべきではない。 (この項 終り)
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