文太郎の日記帳

景気、財政赤字、国際経済、政治・政局、世界情勢、日米関係など現代の諸問題を広い視野で解明します。

現代短評

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 野田首相と枝野経済産業相ら原発関係3閣僚が4月13日に協議し、関西電力大飯(おおい)発電所(福井県)3,4号機を再稼働させることが妥当との判断を下した。この方針にもとづき枝野経産相が14日に福井県庁で西川一誠同県知事や時岡忍同県おおい町長らと会談、再稼働への同意を要請した(各紙、14日、15日)。これに対し西川知事は、県原子力安全専門委員会、県議会、おおい町などの意見を聞いて県としての考え方を伝えると回答、併せて「近畿の知事らから再稼働への反対意見が出ていることを受けて、『政府がぶれることなく、電力消費地から理解が得られるよう責任を持って対応することが必要』と求めた」(讀賣、15日)。なお、福井県とおおい町は結局はこの稼働要請に応ずるとみられている。

 このような政府の方針に対しては、その電力大消費地である大阪市(関西電力の筆頭株主でもある)の橋下市長が猛烈に反対、「民主党政権を倒すしかない、次の(衆院)選挙の時に(政権を)代ってもらう」と語り、激しい対決姿勢を鮮明にした(讀賣、14日)。また大飯原発所在地の隣接県である京都府の山田啓二知事、滋賀県の嘉田由紀子知事が17日にこの問題での「共同提言」を発表し、政府に一層の安全確保策を求めた(京都新聞Online、17日)。
 この橋下市長の「倒閣宣言」に対しては輿石民主党幹事長が「受けて立つ」と反撃、こうして大飯原発再稼働の是非をめぐる意見対立は一挙に政治の中心問題に浮上した感がある。

 すでによく知られているように、現在わが国の原発(全54基)のうち稼働中のものは北海道電力泊発電所3号機だけであるが、その泊原発も5月5日に定期検査入りで運転を停止する。その結果、同6日からは日本での稼働原発はゼロになるわけで、大飯原発以下の定期検査中の原発が再稼働しなければ日本は電力不足に陥る可能性があるといわれ、とくに産業界はその現実化を恐れている。
 他方で、昨年の福島原発の重大事故とその大きな被害を経験した国民、とくに原発所在地と周辺地域の住民は、“ノーモア福島”、“ノー・モア原発”の思いを深くしている。国民の中のラディカルな原発反対派はこのまま原発ゼロの状態を続けて原発廃炉に持ち込むべきだと主張するが、より穏健な脱原発派は、原発の安全性を最大限に確保した上でなら、原発に代わる新エネルギー源の開発を進める過渡期には原発の利用もやむを得ないと考えている(ただし、原発所在地の国民の同意を条件に)。

 政府が国民経済と国民生活に責任を持ってとり得る現実的な政策としては、そのような漸進的「脱原発」路線(同時にその間に新エネルギーの開発を思い切って進める革新的政策)であろうと私は思う。ドイツも昨年、福島事故の教訓を受け止め、原発を2022年までに(即時ではなく)廃止する方針を決めている。
 付言すると、ドイツはもともとチェルノブイリ事故(1986年)の教訓から、2002年にシュレーダー政権(社会民主党と「みどりの党・同盟」の連立政権、首相は社民党)が2022年までに原発を全廃する方針を決定していたが、第2次メルケル政権(2009年〜現在。キリスト教民主・社会同盟と自由民主党の連立、首相はキリスト教社会・民主同盟)は原発全廃期限をいったん2034年までに延長した。それを、福島事故のあと、昨年あらためて2022年に短縮した(戻した)のである。

 これに対し、野田政権は脱原発の基本方針と工程表をまだ策定できていない上、運転継続中の原発(全廃までの期間はそれを認めるとして)の安全性をどのように、またどこまで確保するかについての方針が杜撰(ずさん)であり、ひたすらに休止中の原発の再稼働を急いでいるようである。
 菅前内閣は昨年7月に原発再稼働の条件として「ストレステスト」(注)の導入を宣言した。その際には、「地震や津波などの災害に対する安全性の余裕」を評価するテストの1次評価と、「想定を超える事故(過酷事故)が起きた場合の対策の有効性を確認」する2次評価の両方が考えられていた。しかし、その実施計画の作成に当たった経産省原子力安全・保安院の検討を経て、1次評価という簡易テストだけが再稼働の条件となった(一刻も早い原発再稼働を目指すため)。
 この方針に対し、原子力安全委員会の斑目委員長は今年2月、「1次評価だけでは不十分。2次も合わせて総合評価だと思っています」と反旗を翻した。ところが「その後、安全委は再稼働の議論から外れ、…4月、安全・保安院がわずか3日間で再稼働のための判断基準を作成。その7日後には野田首相らが大飯原発を再稼働しても安全上問題ないと判断した」という(この段落は朝日、4月17日による)。

 (注)stress test とは、もともと「ランニング・マシーンなどを使ってストレスがかかる運動を意識的に行い、その運動の前、途中、後における心臓の働きを心電計で見るテスト」(Merriam-Webster's Online Dictionary)のことで、米国の学校生徒などの定期健康診査に普通使われているもの。最近では銀行の資産内容の審査などにも使われている。

 橋下大阪市長は野田内閣の大飯原発再稼働容認の方針に激しく反対したが、その理由について、「原子力安全委員会に大飯原発が安全なのかどうか、コメントを出させないといけない。(安全委は)ストレステストの1次評価を了承したが、安全だと一言も言っていない」(讀賣、同上)と述べているのも、上述のような経過を念頭に置いているからであろう。
 実際、「時間をかけて安全性をより詳しく調べる2次評価は、文字通り二の次(にのつぎー引用者加筆)にされた。関西電力をはじめ、電力各社は『再稼働とは関係ない』とばかりに、提出するそぶりさえ見せていない」(朝日、同上)。

 ところで、野田内閣のエネルギー政策を主導してきたのは仙谷民主党政調会長代行だと伝えられるが(日経、読売、15日)、その仙谷氏は16日に名古屋での講演で、「原発を一切動かさないということであれば、ある意味、日本が集団自殺するようなものになる」と述べている(朝日、17日)。これは、直接には大飯原発再稼働による電力供給の必要性を強調するするための一種の“脅迫”であろうが、もし大飯が再稼働しなかった場合、この夏に関西電力管内でどの程度の電力不足が起きるかについても議論が分かれている。 
 そのため、上述の山田京都府、嘉田滋賀県両知事による「共同提言」(全7項目)(注)も、その第1項で「今夏の電力需給状況は事業者の資料だけで判断せず、第三者委員会で公平に点検する」と提案している。要するに、九州電力の「やらせメール」問題をはじめとする例をたくさん見せつけられて、国民は電力会社のいうことをあまり信用していないのだ。

 (注)両知事の共同提言のこのほかの6項目は次の通りである。▽福島原発事故の事故原因を徹底究明し情報を公開する。▽大飯原発の免震事務棟、防潮壁など恒久対策ができていない段階での安全性を説明する。▽中長期的な電力確保策を示し、国民に節電の協力を求める。▽使用済み核燃料の最終処理体制の確立に取り組み、工程を示す。▽福島原発事故を踏まえた事故発生時の対策を構築する。▽福井県による原発の安全確保の努力に感謝し、経済面で国の配慮を求める。 
 この共同提案のうちの免震事務棟(福島第一原発事故で復旧拠点となった建物)の建設、事故発生時の対策などは、まさにストレステスト2次評価に関わる安全対策である。
 なお山田・嘉田両知事はこの共同提言発表に際しての記者会見で、「提言は反対のための反対、賛成のための賛成をするためのものではない。今回の要求にどう答えるかを見て(再稼働について)判断する」(山田)、「政府が今後再稼働に理解を求めてくるなら、7項目について見通しと道筋を示してほしい」(嘉田)と述べている(京都新聞、同上)。この発言は、明らかに橋下大阪市長の“政治的”発言と一線を画そうとするものであろう。
 
 このように見ると、大飯原発の再稼働を急ぐ野田内閣の前途はまことにきびしいと言うべきだ。そうした再稼働(電力供給)優先の方針では、地元住民(原発立地の隣接県を含む)の同意を得ることは困難であろうし、与党の民主党は国民の支持をさらに失うことになるであろう。
 ただ、政争という点から見ると、主要野党の自民党、公明党はもともと原発推進派なので原発再稼働問題では野田内閣を攻めにくいと思われるし、現に国会でもこの問題を取り上げていないので、現実には緊迫した政治問題にはなっていない。みんなの党は昨年6月に渡辺代表が記者会見で、再稼働については「草の根の住民レベルの議論を踏まえ方向を決める」(共同通信、2011年6月24日)と述べる程度の曖昧な態度だ。
 それでは橋下大阪市長が率いる維新の会は、脱原発という点でどの政党と組んで次の総選挙で野田内閣を打倒するつもりなのだろうか?どうも橋下氏の発言には、いたずらに耳目を驚かすための思いつきが多いように思える。(終り)


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