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5月6日にフランスとギリシャでそれぞれ行われた大統領選挙の決選投票(仏)と総選挙(ギ)の結果、フランスではサルコジ現大統領が敗北し、ギリシャでは連立与党の2大政党が大幅に議席を減らして議会での過半数を辛うじて保持したか、もしくはそれを失った(最終結果未確定)。これは、仏ギ両国において、これまでの緊縮政策に反対する国民の意思が反映したものであることは言うまでもないが、選挙結果がもたらす今後の政治・経済の展開はこの両国で大きく異なるだろうと予想する。
現時点で判断すると(状況の詳細は未確認だが)、オランド仏新大統領は「緊縮政策オンリーには反対で、併せて経済成長策を推進する」と主張しているが、すでに決定ずみの緊縮政策そのものを大きく修正する意思は示していない点が重要だ。
これに対してギリシャの場合には、緊縮政策推進の従来の連立与党が新連立政府へ移行できれば(ただし、この場合には首相は従来の非政党人のパパデモス氏からおそらく新民主主義党《ND》のサマラス党首へ替わる)、政権に不安定さは伴うとしても、従来の緊縮政策を大筋で継続するだろうが、そうした政策継続型の新政府が組織できず、従来の野党を含む連立が組織される場合や、連立政府の組織そのものが不可能になって再度の総選挙が行われる(後述)ようだと、同国は大きな混乱に陥る可能性がある。
オランド仏新大統領(5月15日に就任)がこれまで主張してきた政策は、企業と高所得者へのより高い税率の賦課(それによる所得格差の是正)、退職年齢(年金支給年齢。現政権により60才から62才に引き上げられた)の一部見直し、投資の促進などであるが、明確かつ新鮮な成長促進策(それによって財政赤字を減らし得ると主張)は見当たらない。にもかかわらず、2017年までにフランス財政を均衡させると公約している。
また、すでにEU諸国で合意した財政健全化協定を見直すと主張しているが、この協定そのものを廃止せよと主張しているわけではなく、これと併せて成長促進条項を加えるべきだと言っているに過ぎない。もしオランド氏の主張がこの範囲に留まるならば、それはメルケル独首相からも大きな抵抗を受けないだろう(オランド氏は大統領就任後直ちにベルリンでメルケル首相と会談する予定と伝えられる)。
要するに、オランド氏は緊縮政策に反対する国民の気持ちを吸い上げ、利用して政権を勝ち取ったのだが、自らが約束する成長政策には具体的内容、裏付けはほとんどないように思われる。
もし、オランド大統領がこれまでの主張を超える成長策(例えば従来型政策である追加財政支出)を打ち出したり、ECB(欧州中央銀行)に財政支援の金融政策(ソブリン危機に陥っている国の国債の思い切った買い上げなど)を求めたりすると、市場からの不信とフランス国債の暴落(利回りの急上昇)を招くだろうし(財政支出追加の場合)、またECB自体とドイツなどECB構成国の強い抵抗(財政支援の金融政策の場合。なお市場はルーズな金融政策は支持)を受けるだろう。
フランスでは来る6月10日と17日に議会選挙があるので、それまでに新政権の政策はほぼ明確になると思われる。
ギリシャの場合は、事態ははるかに深刻だ。今回の総選挙で大躍進した従来の野党(そのうち急進左翼連合《Syriza》は15.9%の得票率で第2位の政党に躍進、逆に従来の第1党の全ギリシャ社会主義運動《PASOK》は第3党に転落)は、EU(欧州連合)とIMFが対ギリシャ援助の条件として課した緊縮政策そのものに反対で、かつユーロ圏からの離脱を主張している。新しい連立政府にそうした従来の野党が参加したり、またどの政党も新連立政府を組織できずに再度の総選挙が行われるようになった場合(注)には、政治は混乱し、最悪の場合には対ギリシャ援助(EUとIMFによる)の支出が凍結されることにもなるだろう。
もしそうしたことになれば、「ギリシャは公務員給与や年金の支払いから日々の政府支出に至るまで困難となり、すでに不安定な政情の火に油が注がれることになるだろう」(Financial Times Web版、5月6日)。
(注)ギリシャ憲法の規定によると、まず第1党(今回はND)が連立協議を進めて組閣を目指す。それが不調に終われば第2党(Syriza)が組閣を試み、それが成功しなければ第3党(PASOK)が組閣協議を進める。それでも連立政府が組織できなければ再選挙となる(朝日、7日夕刊)。
ギリシャが政治的・経済的に混乱に陥れば、その帰結の一つはギリシャのユーロ圏からの離脱であろうが、それはむしろ他のユーロ圏諸国の望むところであろうと思われる。それによって、ユーロそのものが崩壊するわけではなく、むしろそのいわば“病根”が除去されるだろうからだ。
対して、フランスの場合には、自らがユーロ制度創設の中心国だっただけに、また欧州統合の推進国であるだけに、かりにオランド大統領の成長路線が市場から不信任をこうむっても、ユーロ圏からの離脱という選択肢はほとんど問題にはなり得ないだろう。万一なにかのはずみで仮にそうしたことが起きた場合には、フランスは欧州統合の主役の位置から滑り落ちるし、ユーロ圏は実質的にますます“新ドイツ・マルク圏”の色彩を強める。“誇り高き”フランスはおそらくそうした屈辱には耐えられないはずだ。結論として、フランスのオランド新政権が選挙で大上段に掲げた成長路線はほとんど不発に終り、従来のサルコジ路線を微修正するだけに留まるのではないか。(終り)
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