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5月6日のギリシャ総選挙後における連立政府組織の試み(憲法にもとづき、第1党から第3党までが順次連立工作をする)は14日までにことごとく失敗に終わり、今度はパプリアス大統領の呼びかけによる「国民統一政府」樹立のための全政党(極右政党をのぞく)の代表 による最終協議が15日午後2時(日本時間午後8時)から始まった。しかし、これは議会開会日(17日)までの“最後の努力”という形式的なものとなる可能性が大きく、おそらくこの協議もまとまらずに再選挙となる(投票日は6月17日が有力)ことはほぼ確実である(ロイターは15日22:35に、この連立協議が不調に終わったとの大統領報道官の発表を伝えた)。
では、その再選挙の結果はどのようになるのだろうか。総選挙後の世論調査によると、総選挙で第2党となった緊縮政策反対の急進左翼連合(SYRIZA、得票率16.8%、獲得議席数52)が支持率23.8%でトップとなった。総選挙で第1党(得票率18.9%)だった新民主主義党(ND)は20.3%で第2位にとどまった。しかも、「浮動票を除外し、実際の選挙結果と比較可能な数字にした場合、SYRIZAは再選挙で27.7%の票を得て勝利することになる」(ロイター、11日)。ところが他方で、調査会社カバ・リサーチの世論調査によると、回答者の78%はギリシャのユーロ圏残留を支持している(Bloomberg、12日)。
すなわち、ギリシャ国民の多数は一方で緊縮政策(対ギリシャ援助に際してのEUなどによる条件)に反対しつつ、他方で同国のユーロ圏残留を希望していることになる。これは明らかに矛盾した要求である。
私は前回の当「診断録」(5月11日号)で次のように予想した。すなわち、再選挙が行われた場合には、「総選挙で単純に緊縮政策推進の旧連立与党に鉄槌を下したギリシャ国民も、その結果起き得ることの重大さ(対ギリシャ援助の中止、ギリシャの国家破産の現実化、ギリシャのユーロ圏からの離脱)を冷静に考えて、5月総選挙とは異なる投票行動をとる可能性がある」と。だが、上記のような世論調査結果を見ると、私の予想は甘かったかも知れない。つまり、どうやら多数のギリシャ国民は、緊縮政策に反対する党が中心となる連立政府が成立しても、なおかつギリシャはユーロ圏にとどまり得ると考えているようなのだ。
New York Times も次のように報じている。「ギリシャ国民の多くは次のように主張している―ユーロ圏に留まることと、過酷な財政均衡化措置(ヨーロッパがギリシャの支払い能力維持のために供与する資金の代償として要求している)を拒否することは両立し得ると」(同紙Web版、13日)。
こうした“両立可能路線”は急進左翼連合SYRIZAの主張で、同党は「ギリシャがユーロ圏に留まることと、賃金の引き上げ、公的部門での解雇の中止、ギリシャ債務返済の履行拒否などを約束している」(New York Times 同上)。そのような主張によって、同党は総選挙後には国民の支持を一層広げているわけだ。
そのような考えを支持する国民の一人、Giorgos Liatos は次のように語っている。「彼ら(EUの当局者ー引用者加筆)はこけおどしをかけている(bluffing)。もしわれわれがユーロ圏から出れば、それがどれだけヨーロッパに高価につくかを知るべきだ」。またVasilis Nikolopoulos(56才のタクシー運転手)は、「破産した国(ギリシャのことー加筆)から、ヨーロッパはどれだけのカネを取り戻し得るのか。彼らはその要求をゆるめざるを得ないだろう」と主張している(同上)。要するに、これらのギリシャ国民は、“ヨーロッパはギリシャを破産させることはできないし、したがって救援せざるを得ないだろう”と読んでいるのである。
たしかに、ユーロ圏指導者の中にも対ギリシャ援助の条件を緩和してもよいとの発言をする者があり、そうしたこともギリシャ内反緊縮政策派を勢いづけている可能性がある。例えばユーロ圏財務相会議のユンケル議長(ルクセンブルグ首相)は、「ギリシャの財政・経済改革の期限を1年延ばすなど、1740億ユーロの対ギリシャ援助の条件について議論することは排除しない」と語っている(Financial Times Web版、14日)。
しかし、14日に開かれたEU財務相会議は、「ギリシャがEUなどの支援の前提である財政赤字削減や構造改革を履行する必要があるとの認識を確認」、ユンケル議長も会議後の記者会見で、「ギリシャのユーロ離脱を会合では議論していないと強調し、ユーロ圏にとどまって財政再建策を実行するようギリシャに求めた」(日経ほか、15日夕刊)。要するに、緊縮政策による財政再建と、それによるギリシャのユ−ロ圏残留というユーロ圏とEUの基本方針には変わりはないのだ。
ツィプラス急進左翼連合党首などの“ギリシャは緊縮政策を拒否するがユーロ圏に残留する”という考え方は、EU(具体的にはユーロ圏とIMF)は対ギリシャ援助を無条件かつ無制限に続けられる、との空想的仮定にもとづいている。だがそうした資金援助は、被援助国がその財政を再建して自力で必要な資金を市場で調達できる見込みがある場合にのみ実行可能であることは常識である。また、資金を提供するのはユーロ圏の個々の国(最大の資金提供国はドイツ)あるいはIMF加盟の有力国(対ギリシャ援助での最大の資金提供国は日本)であり、そうした援助資金の供与は供与国の負担となること、したがってそれには限度があることも自明の理である。
ドイツのショイブレ財務相は、14日のユーロ圏財務相会議の前に、「ギリシャ国民が何十年にもわたる怠慢(neglect)の結果に苦しみ耐え(suffer)なければならないことには議論の余地がない」と突き放している(Financial Times 同上)。
また、あけすけな発言で知られるオーストリーのマリア・フェクター財務相は、「ギリシャはおそらくEUから脱退しなければならないだろう。なぜなら法的にはEUから脱退することなしにはユーロ圏を離脱できないからだ。そして、将来あらためてEUとユーロ圏への再加盟を希望すべきなのだ。その際にはわれわれはギリシャがそもそもメンバー国となり得るかどうかをもっと厳密に(同国が当初加盟した時と比べて)審査すべきだろう」と述べている(同上)。
以上のような状況なので、ギリシャが16日までに連立政府を組織できずに再選挙(6月中旬)へ突入し、その選挙で最近の世論調査通りに急進左翼連合が第1党となり、ツィプラス同党党首を首班とする反緊縮政策推進の連立政府が成立すれば、その結果は次のように進まざるを得ないだろう。 すなわち、ギリシャ新政府による緊縮政策の大幅修正→EUとINFによる資金援助の中止→ギリシャ政府の資金難と政府による各種支出・支払(国債償還を含む)の延期さらには停止→ギリシャ政府による自前の通貨発行が必要に→法貨(法定貨幣)としてのユーロの放棄と自国通貨(例えばユーロ導入時までと同様のドラクマ)の発行(為替レートは大幅切り下げを伴う)であろう。
このような過程は、おそらくギリシャ国民にいまの緊縮政策下よりもさらに大きい苦難をもたらす可能性があるし、政治的混乱をもたらすことだろう。
通貨の切り替えは、過去における多くの国での同様の経験(第2次大戦後、激化するインフレへの対策として実施された1946年2月における日本の旧円から新円への切り替えもその一例)と同じように、複雑な手続きと対策を必要とする。また、為替レートの切り下げと輸入物価の高騰(逆に輸出は促進されるが)はインフレを招く可能性をも孕む。
これに関し、ドイツの有力誌「シュピーゲル」は、「ギリシャにとってユーロからの離脱が最善の選択肢かも知れない」と論じている(ロイター、14日)。すなわち同誌論説は次のように述べている。「我が社のエディターはこれまで、ギリシャのユーロ残留を支持してきた。しかし、先の総選挙以降は意見を変えた。…ギリシャは通貨統合に参加できるほど成熟しておらず、…改革を通じて財政を健全化する試みは失敗した。…ユーロからの離脱だけが、長期的に自立するチャンスを彼らに与えることになる」と(同上)。 要するに、ユーロから離脱した時に、苦難はあっても、ギリシャはようやく自らの足で立つようになるだろう、というわけである。
私も結論としてはこのシュピーゲル誌の所論に賛成である。むしろ、ギリシャは危機の深化を待たずに、もっと早くにユーロからの離脱、独自通貨への復帰と自前の金融・為替政策の回復を図るべきだったと考える。今となっても、ギリシャはギリギリ追い込まれる前に、できるだけ早くそれを決断すべきだと思う(実際には難しそうだが)
では、ギリシャのユーロからの離脱はユーロの崩壊をもたらすかといえば、過渡的な混乱はあるとしても、それはむしろユーロ圏の病根の一つを除去することによって、長期的にはその安定化に資すると考える(「診断録」5月7日号)。また、ギリシャのユーロからの離脱は、ソブリン危機に悩む他のユーロ加盟国のユーロ離脱を誘発するのではないか、との見方もあるようだが、それらの国の国民は、むしろギリシャを他山の石としてユーロ圏残留に向けて努力するだろうと思う。そうはならずに、仮にユーロ圏離脱の国が増えても、それでユーロ圏とユーロが崩壊するわけではない。
ユーロ圏の国の信用危機は、ユーロの為替相場の下落(円の対ユーロ高)を通じて日本経済にも苦痛をもたらすが、ユーロの下落はユーロ圏に貿易改善効果をもたらすことで、それら諸国の財政緊縮策がもたらすデフレ効果をわずかでも緩和する。そう考えて、ユーロ圏以外の国は、ユーロ安の下でも経済成長を確保できる政策を用意、推進すべきであろう。(終り)
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