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このところ日本の株価(日経平均)はギリシャの政治危機を主な材料に低下傾向をたどっており、週末5月18日の日経平均終値は8611.31円で、前日比−265.28円(−2.99%)という本年最大の下落を演じ、年初来高値(3月27日、10,255.15円)から16.0%の下落となった。ところが、他方で、5月17日発表の2012年1〜3月のGDP速報によると、この期のGDPの実質成長率(季節調整済、前期比)は+1.0%、年率換算で+4.1%という高い増加率で、これでGDPは2011年7〜9月期以来、3四半期連続のプラスとなった。これを同じ1〜3月期の年率換算成長率が米国は2%、ユーロ圏は0.1%だったのに比べると、日本経済のパーフォーマンスの良さが目立つ。
日本の高い成長率は、主として3.11大震災・原発災害からの復興需要にもとづく日本独自の成長要因によるもので、いわば世界的な成長鈍化の趨勢に“抗して”実現されたものである。これに対して株価の低落は、欧州の信用不安と世界的な成長鈍化に対する世界市場の反応をほぼそのまま、というよりむしろ過剰に写したもので、そこに日本独自の成長傾向はほとんど反映されていない。
日本の1〜3月期(2012年Q1=第1四半期)のGDP実質成長率1.0%(年率換算前)に対し、GDP構成の各項目の動向を見ると、民間最終支出は+1.1%、政府消費は+0.7%、公的固定資本形成(政府投資)は+5.4で、民間消費と政府支出(固定投資と消費)がGDPの伸びを主導したことは明らかだ。これに対し、民間住宅建設は−1.6%、民間企業設備投資は−1.6%で、これらはGDPの足を引っ張った。また、いわゆる外需すなわち純輸出(輸出ー輸入)は+0.1%でほぼ横ばいだった。
2012年Q1のGDPが判明した結果、2011年度(11年4月〜12年3月)の年間GDPが明らかになったが、それによると11年度の実質成長率はマイナス0.0%とほぼ横ばいで、10年度の+3.2%から大きく落ち込んだ。これはいうまでもなく大震災と原発災害(電力不足化を含む)とタイ大洪水の影響を強く受けたためである。しかし、四半期の推移では、11年1〜3月期の−2.0%(年率換算前)、4〜6月期の−0.3%から、上述のように7〜9月期以降はプラスに転じた。
なお、11年度の名目成長率(時価による計算)は−1.9で実質の1.0%(同) を下回るデフレ状態だったのに対し、12年Q1は一期だけではあるが実質、名目ともにGDP成長率は+1.0%だった。
世界的な信用不安とその影響を受けた成長の鈍化(新興国を含む)の中で日本がいわば独り景気回復を遂げてきた結果、日本の輸出は減少し(世界需要の鈍化による)、輸入は増加した(日本の景気回復による)。2011年度(11年4月〜12年3月)の輸出は前年比−3.7%(10年度は+14.9%)、輸入は+11.6%(同+16.0%)だった。
これに対し、リーマン・ショックの影響を強く受けた2009年度には、輸出は−17.1%、輸入は−25.2%で輸出入共に大幅に減少したのだった(輸出は08年度にも−16.4%)。これは、世界同時不況に日本も巻き込まれたためで、それと2011年度の輸出入動向とは根本的に異なっている。
その結果、11年度の貿易収支は4兆4101億円の赤字で、10年度の5兆3321億円の黒字から10兆円近くも悪化した。こうした貿易収支の赤字に日本経済が耐えられたのは、日本が巨額の外貨準備を保有している(2010年度末には1兆1160億ドル、11年度末には1兆2887億ドル)(注)からであり、かつての高度成長期には貿易赤字に対して引き締め政策で対処しなければならなかったことと根本的に異なる。
(注)2011年度の貿易収支が大幅赤字だったのにもかかわらず、年度間を通じて外貨準備が増えたのは、主として、異常な円高に対して政府(財務省)による円高阻止のためのドル買いの介入操作が行われたためである。
11年度の輸出入の動向を主要地域別に見ると次の通りであった。まず輸出。対米国は−0.8%(10年度は+11.3%)、対EUは−3.6%(同+9.5%)、対アジアは−5.4%(+17.1%)、そのうち対中国は−6.9%(+18.5%)だった。最近の日本の最大の輸出市場である中国及び同国を含むアジア向けの輸出が最大の落ち込みを示したことにとくに注目したい。これは、中国そしてアジアがヨーロッパの信用不安と景気悪化の影響を受けたこと、及び中国などでのインフレ対策により成長が鈍化したことの結果である。
それにしても、このような激しい対中国、対アジアの輸出減少に日本経済が耐えられたことは驚きであると言っても過言ではないだろう。
次に輸入の主要地域別動向を見よう。対米国は+2.3%(10年度は+5.3%)、対EUは+10.8%(+5.0%)、対アジアは+9.0%(+18.2%)、対中国は+6.8% (+17.4%)で、どの地域からも輸入は増えているが、とくに対EUでは同地域からの輸入増加率が前年度より高まっていることが注目される。
対EUの輸入増加率が11年度に高まったのには、ユーロ相場の下落の影響(為替下落によるEU側の競争力の改善)が含まれていると推定できる。逆に、対米国、対アジアの輸入の伸びが鈍化したことには、ドル相場下落による円ベース輸入額の減少が影響したものと推定する(暫定的な仮説)。
11年度の輸出入を品目別に見ると、輸出では金属加工機械の増加率(27.0%)と半導体等電子部品(−14.7%)及び自動車(−14.7%)の減少率が目立つ。
輸入では、原粗油(+21.9%)、液化天然ガス(52.2%)、石油製品(+37.3%)の高い増加率が特徴。これは、いうまでもなく、原発の停止に伴う電力供給減を補うためと、国際的な原油高の影響である。
品目別輸入の主要地域別を見ると、米国からの穀物類(+19.3%)及び石炭(+90.6%)、EUからの医薬品(+21.9%)及び自動車(+24.8%)、アジアからの石油製品(+68.8%)及び原粗油(+124.7%)、中国からの通信機(+32.3%)、電算機類(+8.2%)、衣類・同付属品(+5.5%)などの増加が主なところだ。
以上のように、大震災・原発災害以後の日本は、それからの復興需要を主要な成長要因として経済を回復させ、成長を鈍化させた欧州、米国、アジア(中国を含む)への輸出を減らし、それら地域からの輸入を増やすことで、世界経済を下支えする役割を果たしたと言える。しかし、そのことは、日本経済への相対的評価の高まりによる円高をもたらして、その面から、あり得たはずのより高い成長を相殺することにもなった。
このような最近の世界経済における日本の役割は、かならずしも国際的には認識されていないし、日本の株式市場によっても評価されていない。もっとも、はじめに述べたように、どの国の株式相場もかなりストレートに世界の株式市場の動きを写しやすいが、その上、日本の市場関係者の思考法が多分に単なる世界市場追随型で、日本の市場としての独自判断を十分には出来ないことも影響していると思われる。
こんご2012年度中にも日本経済が11年度以降の回復と成長を持続できるかどうかは、世界経済の動向とその影響及び電力供給の動向にもよるが、やはり政府支出が引き続き増加するかどうかに大きく依存するだろう。その点で、公債特例法案が今国会中に成立して、2012年度の政府予算(予算としては成立済み)が執行できるかどうかが極めて重要である。この予算には公共事業関係費が復興費を含めて5兆3022億円(前年度比3279億円、6.6%の増加)計上されており、この執行が復興を主な要因とする12年度の日本経済を大きく左右することは確かである。
その意味でも、政局の帰趨いかんが重要である。(終り)
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