文太郎の日記帳

景気、財政赤字、国際経済、政治・政局、世界情勢、日米関係など現代の諸問題を広い視野で解明します。

現代短評

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G8:米の過激な反独感情

 G8(主要8ヵ国)首脳会議が5月18,19の両日、米国メリーランド州のキャンプ・デービッドで開かれ、世界の経済と政治についての「キャンプ・デービッド宣言」を発表し、経済については「財政健全化と経済成長の両立を追求する方針で一致」(日経、20日)したことは各紙が報じた通りである。これは、これまで主として財政緊縮を重視してきたヨーロッパとくにユーロ圏の最近の経済政策のあり方(中でもドイツの主張)を修正するもので、成長の重視を掲げて5月6日の大統領選挙で当選を果たしたオランド仏新大統領の主張及び11月の大統領選を控えたオバマ米大統領の意向を取り入れたものであることは明らかだ。
 ところが、このG8の内容を伝えたNYTimesの報道(Web版、19日)を見て驚いた。まず大見出しが「世界の指導者、緊縮ではなく成長を促す(urge growth, not austerity)」と伝えて財政緊縮を事実上で否定したことだ。そして、「メルケル独首相の画一的な緊縮強調のアプローチをヨーロッパそしてなおさら米国は容認できないとの主張について、オバマ大統領ははじめて広い支持を得た」として、同紙が言う「緊縮ではなく成長を」という今回のG8の合意がオバマ主導であり、その勝利であったと強調した。これは事実歪曲によるまことに露骨なオバマ選挙キャンペーンだというべきある。

 念のため、キャンプ・デービッド宣言の関連部分を見ておこう(G8情報センター・ホームページによる)。同宣言は「世界経済」の項の冒頭で次のように述べている。
 「われわれの責務は成長と雇用を促進することである。世界経済には回復の見込みはあるが、いちじるしい逆風も続いている。このような背景において、われわれは経済を強化・再活性化し、財政的ストレスと闘う上で必要なあらゆる方策をとることを確約する。ただし適切な方策は各国で同じではないことを認識する。われわれはヨーロッパで行われている議論、すなわち財政の強化(構造的ベースで評価した)を実行するとの固い約束を維持しながらいかに成長を生み出すか、との議論を歓迎する(以下略)」。
 これで見れば、今回のG8は「財政健全化と経済成長の両立」で合意したのであり、NYTimesが報じたように「緊縮ではなく成長を」促したものでないことは明らかだ。 

 このようなNYTimesの報道は、同紙が言及しているオバマ大統領の國際経済担当首席補佐官マイク・フロマン氏の説明にもとづくもののようだが、とくに看過できないのは次のような同紙のコメントである。
 「これ(G8の宣言)は過去2年にわたり行われてきた成長対緊縮の闘いの最終決着ではない。ドイツは次のように主張してきた。すなわち、ヨーロッパの通貨同盟の将来に疑問が投げかけられる中、ヨーロッパ諸国は不況下でも支出の削減により財政問題に対処すべきだと。批判者の言によれば、この政策は失業の増大を引き起こし、ギリシャを破産の瀬戸際に追い込み、スペインとイタリーの危機をより深刻にしたものだ」。ただし、「G8で首脳たちは、国家の財政赤字と取り組むべきだと認めることで、メルケル首相の緊縮堅持の立場をしぶしぶ認めた」。
 このコメントは、ギリシャなどユーロ圏の国々の財政危機とそれへの対策としての緊縮政策の影響の関係を逆にとらえ、ドイツなどの主張・政策がヨーロッパの危機を生み出したと言わんばかりである。

 もちろん、それぞれの政策をどう評価するかは論者の自由だが、上記のようなコメントは、“ギリシャの危機はEUとくにドイツの政策と要求によってもたらされたものだ”と主張しているギリシャの緊縮政策反対派(その代表格は同国の急進左翼連合)に対し、それを鼓舞するような誤ったメッセージを送り、来る6月7日の再選挙での緊縮反対派の立場を強める可能性がある。
 もし、緊縮反対派が再選挙で勝利して、ギリシャへの援助資金(EUとIMFからの)受取の条件となっている同国の緊縮政策を拒否することになれば、援助側は資金提供を打ち切らざるを得ないだろうし、そうなれば、ギリシャは破産してユーロ圏にとどまることが不可能になるであろう。そのことは、「われわれは、ギリシャが同国が行った約束を守りつつユーロ圏にとどまることの利益を確認する」とのキャンプ・デービッド宣言を裏切る結果となるだろう。

 さらにこのNYTimesの記事は、キャンプ・デービッドでの会議の模様について、「緊張した会合の中で、あたかも世界と対立しているのはメルケル夫人であるかのように時どき見えた」と描写している。また、米国の代表的な総合情報サービス会社のBloombergも、G8で「ドイツは一段と孤立を強めている」と伝えた(20日)。 
 G8の中でドイツが孤立しているように見えるのは、ある意味で当然である。なぜなら、参加8ヵ国のうち多数を占める米英仏伊日の5ヵ国は財政赤字と国家債務累積に陥っており、比較的健全な財政を維持しているのは、ドイツのほかはカナダとロシアだけだからだ。このうちカナダは伝統的に米国寄りであり、ロシアは産油国として、また新興4大国(いわゆるBRICs)の一つとして、ある意味で他のG7(先進国首脳会議のもともとのメンバー)の議論の局外に立っているからだ。 
  
 ドイツの有力紙FAZ(フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング)は今回のG8について次のように報じている。「メルケル首相は次の点を明確に主張した。すなわち、重い債務負担を負っているG8諸国は、2008年の金融危機の時とは異なり、いまや古典的な景気振興策で問題に対処する可能性をまったく持ち合わせていない」(同紙Web版、19日)。 
 ここでいう「古典的な景気振興策」とは、いうまでもなく、ケインズ主義的な赤字財政(国の支出増加と減税など)による景気刺激策のことである。このメルケル首相の主張は、ではその代りに何をするかという点を別とすれば、完全に正しい。現に財政赤字を敢えてしても景気刺激を行っているG8メンバー国は日本だけで、これは大震災・原発災害からの復興という特殊事情と、国債の90%以上が国内で保有されているという日本特有の財政事情によるものだ。

 ユーロ圏内の政策として、財政再建策とともに成長政策を重視すべきだと主張しているオランド新仏大統領も、これまでのところ、この点での説得的な具体的政策を提示していない。オバマ大統領も、G8の「会合参加者からの報告によると、景気に対する人為的な刺激策はないだろうと述べた」(FAZ、同上)。
 では、なぜG8でオバマ氏は「成長と雇用」を強調したのか。それは、米国内向けの選挙用宣伝という側面を別とすれば、結局、“ヨーロッパ諸国は現在のような厳しい財政緊縮政策をゆるめて、それが成長に与えるマイナスをもっと小さくすべきだ”ということにつきるのではないか。そうしたことを実行する余地はあると思うが、そうするとそうしたで、今度はまた米国系の格付け会社や投機的ファンドが“財政悪化懸念”を叫び立てて重債務国に襲いかかる恐れがある。
 結局、「G8の声明は、緊縮、成長の促進、構造的改革の3和音(Dreiklang)を強調したに過ぎない」(同上)。

 フランスの有力紙ル・モンド(Le Monde)は、G8に関しても、独仏の立場の相違とその調整に大きな関心があったようだ。すなわち、「オバマ氏は土曜日(19日)の早くに、片やメルケル独首相、片やマリオ・モンティ伊新代表とオランド仏代表の両者を同時に満足させるように、成長の追求と財政赤字に対する闘いは相伴うべきだと確認した」。
 「しかしメルケル夫人は土曜日の夜にキャンプ・デービッドでオバマ氏と一対一で会った際、この問題についてパリとベルリンの間には対立がないと否定した」(同紙Web版、19日)。

 以上のようなドイツ紙とフランス紙の報道ぶりを比較すると、今回のG8を米国(オバマ大統領)とドイツ(メルケル首相)の対立・闘いの一コマとして、しかもオバマ氏の勝利として書き立てたNYTinesの報道(米政府高官のブリーフィングの影響もあるが)の異常さが際立つ。そこに、米国と明確に異なった経済政策を追求するドイツ(ヨーロッパの経済中心国)に対する米国の強い不満と、いまや世界経済でのリーダーシップをとれなくなった米国自身へのいらだちを見てとることが出来るだろう。(終り)


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