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注目のギリシャ再選挙(6月17日)を控えた最近の同国民対象の世論調査で、緊縮政策の堅持を掲げた新民主主義党(ND)がようやく第1位を獲得した。他方、ギリシャ、ドイツ、フランス、イタリア、スペインの各国国民に対して行われた世論調査では、その約6割が自国のユーロ圏残留を望んでいるとの結果が出ている。このようなユーロ圏諸国民の世論動向を見ると、共通通貨ユーロの存続を期待する民衆世論が強いこと、言いかえればユーロの基盤が弱くないことがうかがえる。
まずギリシャの再選挙についての最近の世論調査結果を見よう(ATHENS NEWS Web版、5月27日による)。5月6日の総選挙後、同25日までに発表された世論調査では、緊縮政策に反対する急進左派連合(Syriza)が首位ないし僅差の2位を占めていたが、前週末26日公表の5つの世論調査では、そのすべてでNDが支持率25.6%〜27.7%で第1位となり、Syrizaの支持率は20.1%〜26%で第2位に後退した。また、うち2つの調査によると、緊縮政策継続を主張するNDと全ギリシャ社会主義運動(Pasok)の両党で議会(議席数300)の過半数を得ることが可能だというのが現瞬間における世論のようだ。
これらの調査は、「Eleftheros Typos/Pulse」、「Proto Thema/Alco」、「Real News/MRB」、「To Vima/Kapa」、「Ethnos/MARC」の5機関によりそれぞれ実施されたもの。このうちPulseとMRBの調査では、NDとPaskoは合わせると議会過半数を11〜16上回る議席を獲得する計算になる。
しかし評論家のJohn Loulis氏は、今回の調査でのNDの優位は不安定なもので、その今回における1位獲得は、有権者がこれまでの世論調査で示されたSyriza優勢との結果に恐れをなしたためだろうとコメントしている。
以上の世論調査結果は、サマラスND党首が、Syrizaは「ユーロ圏からの離脱なしにギリシャは国際援助(EUとIMFによる)の履行条件を拒否することができるという(災厄を招く)誤った考えをもてあそんでいる」と攻撃した後に公表された。サマラス党首は26日にNDの集会で、「もしギリシャが国際援助に伴う条件(財政緊縮)を一方的に破棄すれば、ギリシャは何年間も国際的に孤立することになり、食料、薬、燃料を入手できず、また永続的な電力不足の下で暮らさざるを得なくなるだろう」と警告した。このサマラス氏の批判に対し、Syrizaは国際援助の条件への反対を繰り返し、「国際援助条件の受入れは新たな賃金と年金のカット、公共部門での新たな解雇、失業と店舗閉店の急増をもたらす」との声明を公表した。
Pulseの調査では、Syrizaへの支持率は高率の失業に悩む若者の間で高く、それとは対照的にNDの支持者には60歳超の高年者が多い。
Ethnos/MARC調査の回答者の65%は、ギリシャは援助条件の改善に付き援助国側と再交渉すべきだと答えた。
援助条件に反対している有権者を説得するため、サマラスND党首は26日に、「ギリシャには緊縮策実行のためにもっと長い期間(既定の2年間よりも)が認められるべきだ」と述べた。Real Newsによると、同党首は支出の新たな削減は4年間をかけて実行すべきだと語ったという。
他方の、調査会社のIpsosが5月24日に発表したユーロ圏5ヵ国(ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、ギリシャ)の国民を対象とした世論調査によると、自国がユーロ圏に留まることを望む人の比率(5ヵ国平均では上述のように約6割)はギリシャとフランスで約4分の3と高く、ドイツとイタリアでは57%と比較的低かった(ロイター、25日)。
全体として5ヵ国の回答者の過半数がユーロを支持したのは、ユーロ圏という広大な市場にわたって同一通貨が通用する(また域内では各国間で為替変動に悩むこともない)ことの利便性、及び共通通貨を使用することで実感するヨーロッパとしての一体性などによるものであろうと思う。こうしたヨーロッパとしての一体感の価値は、域外の国、とくに米国や日本で理解されないようだ(アジアでは過去の欧米の植民地分割支配の影響で概してアジアとしての一体感が薄いが、とくに日本では歴史的にそれが弱い)。 いまギリシャ国民が国際援助に伴う厳しい緊縮措置に反発しつつも、ユーロからの離脱には反対していることも、そうしたヨーロッパへの執着なしには考えられないであろう。
ドイツでユーロへの執着が他国ほど強くないのは、私見では、ドイツ国民の間で戦後Dマルク(ドイッチェ・マルク)への愛着・信頼が深かったことと、ユーロ加盟のルールを守らない他の圏内の国への失望、及びそうした国を援助しなければならないことへの嫌気が強まったためだろう。
実際、第2次大戦後のIMF体制の中で、諸通貨のうちでもっとも安定的で強い通貨はDマルクだった(日本の円はそれに次いだ)。したがってドイツ国民の間には、かりにユーロが消滅してもドイツはDマルクに復帰して十分にやっていけるとの自信があるようなのだ。
これに対して、戦後のフランス・フランは動揺と価値下落が頻繁で、ユーロの発足でフランス国民はようやく安定通貨を手に入れたとの思いがあるのだと思う。類似の思いは、他のユーロ採用国の多くでも見られる。
イタリア国民の間でユーロへの執着が比較的弱い理由は正直言って理解できない。ヒョッとして、“どうでもいい”と思っているのかも知れない。
ユーロはいま、圏内の国々のソブリン危機の影響で売りたたかれ、対域外の為替相場が下落しており、ドイツ国民などはそれによる輸入物価の上昇(とくに海外旅行コストの上昇)に不満を唱えている。しかし、その結果ユーロ圏企業の対外競争力が強まり、そのことが圏内の不況色をいくらかでも緩和する役割を果たしつつあることも否定できない。それは何ごとにも見られる物ごとの二面性だと思う。(終り)
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